本書の魅力、それはなによりも、デリダならではの絵画読解の実践をきわめて濃密なテクスト経験を通して満喫できる点にある。絵画という視覚芸術に盲者を描き込むという行為はきわめて特異な他者経験である。あらゆる他者経験と同じく、だが独特な形で、そこにはある還元不可能な暴力が含まれている。なぜなら、盲者は描かれたおのれの姿をけっして見ることができず、まったく無防備のまま他者の視線に引き渡されるからである。ここには一見どんな対称性もありえず、盲者は絶対的な受動性に固定されているようにみえる。だが、このような暴力を行使しつつ、西洋の多くの画家たちが、とりわけ素描画家が、これほど多くの盲者の姿を描いてきたのはなぜなのか? そこには差別的な見せ物趣味と区別されるどんな欲望が働いていたのか? 盲者が見るのではない限り、すくなくとも彼あるいは彼女の涙が見るのでない限りおよそいかなる愛もありえない……。本書には、素