フランスのモラリスト・科学者 パスカル 『パンセ』広大な宇宙の中で、人間はどこから来て、なぜここにいて、どこへ行くのかわからないままぽつんと孤立している。パスカルは、それはあたかも目隠しされて連れ去られ、どこかわからぬ無人島に一人置き去りにされたようなものだと語る。ここはどこか、なぜここにいるのかという問いに何も答えぬ宇宙の沈黙に、パスカルは身震いする。研ぎ澄まされた鋭い感性である。人間の日常生活の足下には、このような宇宙の深淵が広がっている。そのことを自覚しつつ、あらためて日々、家族や同僚とともに日常生活を生きる温かみを大事にしたい。時には星空を仰いで不思議の想いにひたり、同時に、その夜空の下で明かりの灯る我が家の安心とやすらぎを味わいたい。非日常的な深淵のうえに、文字通り有り難い日常の日々の生活が成り立っていることを心に留めておこう。そのようなことを描いた小説に、庄野潤三の『浮き灯台』