CCCが今年4月に設立した人材戦略会社CCCキャスティングの副社長に抜擢された高橋誉則氏。
「企業が強くなるには社員一人ひとりが元気になるしかない」と語る

 相次ぐM&A(企業の合併・買収)で事業規模や人員数が急拡大しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、人材戦略会社CCCキャスティング(東京・渋谷)を設立した。2~3年後をめどに、社内公募制度や社内FA(フリーエージェント)制度のような、社員がCCCグループ内で自立的にキャリアアップを図りやすい仕組みを確立させる。CCCキャスティング社長には、CCC社長の増田宗昭氏が就任した。

 新会社の副社長に抜擢された高橋誉則氏は、「この1年でグループ社員数は1600人から3000人に急拡大した。現時点ではまだ仕事が過多という段階なので、すぐには人の異動を自由にできない。だが2~3年以内に、『CCCグループにはこれだけ多様な仕事があり、キャリアアップのチャンスがたくさんある』ということを全社に周知し、各事業会社のトップと意識合わせもした後、公募やFAのような仕組みを入れたい」と語る。高橋氏はまだ30代前半だが取締役を任され、「自分で起業するほどはリスクが高くなく、これだけの地位を若くして任せてもらえる。これをCCCグループの売りにしたい」と意気に燃える。

 高橋副社長は、「企業が強くなるには社員一人ひとりが元気になるしかない」という信念を持つ。そして社員が元気になるには、「いい仕事、いい仲間、いい報酬、いい環境の4つのバランスが大切。だから、仕事の機会を明示して社員が自由に応募できる仕組みを作りたい」と考えているのだ。CCCキャスティングという社名には、「良い映画には良いシナリオと良いキャスティングがある。CCCの中期経営計画をシナリオに見立て、良い作品(業績)を作るための良いキャスティング(人材配置)を実現できる会社にしたい」という思いを込めた。

 新会社は、「TSUTAYA」で有名なCCCの創業者である増田社長の危機感から誕生した。「(創業から20年が経過した)CCCグループが今後も成長し続けるには、外部から人材を引き抜かれるぐらいの集団にならないとだめだ。もっと個人商店的な色彩を強めなくてはいけない」と増田社長はいう。

 個人商店的、つまり、経営意識の高い優秀なミドルマネジャーを多数育てたい。そのために、「社員がグループ内で自立的にキャリアプランを描ける状態にしなければならない」と考えた。そして、社員がグループ各社に自分を売り込みやすくするために、交渉の代理人(エージェント)を果たす人材戦略会社を今年4月に設立したのである。

 さらにCCCキャスティングを設立した背景には、「世の中の人材の流動化は今後さらに進んでいく。だから、キャリアデザインを個人が描ける仕組みを整えないと、優秀な人材が外部に流出しかねない」(高橋副社長)という危機感もある。増田社長は、「この会社で学ぶことがなくなったら出ていってもいい。もちろん、私はそうならないようにがんばる」と社内に公言しているという。

 持ち株会社であるCCCは昨年から積極的にM&Aを重ねており、グループに多種多様な企業が存在する状態となっている。CDやDVDのレンタルと販売で最大手のTSUTAYA(東京・渋谷)を筆頭に、いまやクレジットカード事業も手がけるTカード&マーケティング(同)、国内最大級の品ぞろえを誇るCD・DVDの販売店ヴァージン・メガストア・ジャパン(同)、レンタル店向けの映像ソフト貸与事業を手がけるレントラックジャパン(同)、CD・DVD・本の卸大手MPD(同)、コンテンツ制作者養成学校を運営するデジタルハリウッド(東京・千代田)などがその一例である。
 
 CCCは、エージェント機能の導入に先駆けて、買収した企業との人材交流を積極化させ始めている。例えば昨年3月に買収したヴァージン・メガストアから十数人が直営店運営会社TSUTAYA STORES(東京・渋谷)に出向中だ。

 池袋店店長などヴァージンで十数年勤務した後、今年2月にTSUTAYA三軒茶屋店に出向した清水英行TR(CD・DVD販売)担当もそんな1人。アルバイト店員を含め17人の部下を持つ清水氏の周囲からは、「商品棚からみっともない歯抜け(空きスペース)が見られなくなったし、お客様とすれ違うごとにみんなきちんと挨拶するようになった」と評判だ。

 もっとも清水氏は、「出向して最初にできることが整理整頓や挨拶だっただけ」と謙遜する。ヴァージンでの商品知識やマネジメント経験を生かし、お客様に「そのタイトルならAさんの作品ですよ」と即答したり、部下の趣味や好みを拾い上げて商品にPOP(手書き宣伝)をつけさせるなどの活躍ぶり。今年7月の売上高はTSUTAYA直営店約80店の中で5位から4位に浮上した。
 
 学生時代にバンドを組むほど音楽好きの清水氏は、いずれ自分の店を持ちたいと願うが、今は「CCCグループの中でいろんな経験を積めばキャリアの可能性が広がる」と燃えている。