2024年11月22日、「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2024」が開催された。今回はNTTグループ、ドコモグループの新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」との合同開催となり、合計51ブースが出展。大盛況となった会場の様子を取材し、“まだ見ぬ景色”の共創に奮闘する関係者たちの意気込みに迫った。

“人に近い”音声生成AIから業務ロボまで期待株が集結

 NTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)が支援するスタートアップ、NTTグループの新事業、docomo STARTUPが三位一体となって開催されたNTT DOCOMO VENTURES DAY 2024(以下、DVD2024)。会場となった東京・京橋の「TODA HALL & CONFERENCE TOKYO」には総勢51のブースが並び、ひっきりなしに来場者が足を運んだ。今回はDVD2024の出展ブースの中から、注目スタートアップ4社、NTTグループによる2事業をピックアップ。まずは4社のスタートアップから紹介していこう。

●Eleven Labs, Inc

 Eleven Labs, Incは、AIによる音声生成ツール「Eleven Labs」を提供している。最大の特徴は自然で人間らしい声を忠実に再現できる点で、アウトプットにロボット音声のようなむず痒さがない。現段階で日本語を含む32言語に対応しており、文字入力なら無料で500字まで音声を生成できる。

Eleven LabsのText to Speech入力画面。左にはあらかじめ男性や女性のキャラクターが用意され、いろんなパターンの音声表現を選ぶことができる。

 有料版では自分の音声を吹き込んで変換できる機能も備えており、手軽に音声クローンを生成可能。声のキャラクターを保ったまま、活字をオーディオブックにしたり、ポッドキャストやラジオで流したり、英語のニュース映像を翻訳して各国対応の言語で配信したりと、さまざまな用途で利用されている。高精度なクローン技術は声を失った人たちの「声の再生」にも適用できることから、医療・福祉での展開も視野に入れる。

 次世代音声ソリューションに可能性を感じたNDVは、同社に対して積極的な支援を行なっている。英国ロンドン発のスタートアップだが、最近では日本オフィスを開設。NDVのバックアップを得て日本市場の開拓にも力を注ぐ。具体的にはエンターテインメント業界や、コールセンター業務をはじめとするビジネスへの応用を予定している。

(左)カルレス・レイナ氏、(中)ソフィア・ノエル氏、(右)ホン・サンウォン氏

 日本を統括するホン・サンウォン氏は「アニメというキラーコンテンツがある日本は重要なマーケット。オリジナルの声優の声が感情豊かに翻訳されて世界に広がれば、もっとジャパニメーションは人気を獲得するに違いない。Eleven Labsなら、円滑な音声生成を効率的にサポートできる。ぜひ検討してほしい」と意欲を見せた。

●ジョーシス

 コロナ禍以降、リモートワークの普及に伴って急速に進んだクラウドサービス。そこで問題になっているのがITデバイスやSaaSの管理である。ただでさえリソース不足に悩む情報システム部門担当者が、各所に分散したIT資産を従来のフローで管理するのは難しい。さらにアカウント削除やデバイス回収の漏れ、シャドーITの見逃しはセキュリティリスクに直結するだけに、ガバナンス強化の面からも早急な対策が迫られている。

使用しているSaaSアプリやデバイスを可視化して一元管理するジョーシスのダッシュボード

 ジョーシスが提供する統合管理クラウドの「ジョーシス」は、こうしたニーズを捉えて急成長した。従業員に紐づけてITデバイスとSaaSを可視化し、見やすいダッシュボードで一元管理できるのが特徴だ。Google WorkspaceやSmartHRなどをマスタにして最新の人事情報と組み合わせることも可能。設立は2022年と若いが、すでに700社以上の導入実績があり、資金調達の総額は300億円以上と乗りに乗っている。

ジョーシス チャネル営業統括部 副統括部長 城戸大輝氏

 2023年9月にはNDVが出資を行ない、ほぼ同タイミングでNTTコミュニケーションズが販売代理店基本契約を結んだ。副統括部長を務める城戸大輝氏は「NTTコミュニケーションズのような販売パートナーの存在は大きい。お客様に信頼していただけるアドバンテージを感じている。中小企業からエンタープライズに至るまでお互いの強みを持ち寄ってシナジーを生み出していければ」と期待を寄せる。またジョーシス自体が米国、インド、日本、シンガポール、ベトナムに従業員を擁する多国籍組織だけに、「今後はNDVやNTTグループと協力しながらグローバル進出をさらに加速させていきたい」とも語った。

●ugo

 ugoはロボティクスのスタートアップ。主力製品「ugo Pro」は手と顔を備えた親しみやすい人型を採用し、ビル内の立哨(警備)や巡回などで活躍している。2024年10月には、設備点検に役立つ小型・軽量の見回り専門ロボット「ugo mini」の受注を開始した。

 “業務DXロボット”をうたうだけあり、人と協調して業務効率化や労働力不足解消を実現するのが目的。執行役員COOの中川健太氏は「オフィスビル、空港、大学、工場、倉庫など各方面で導入実績がある。現場作業の省力化に貢献する点が高く評価されている」と話す。

愛嬌のあるugo Pro。ロボットは珍しいとあってか、たくさんの人が詰めかけた

 ジョーシス同様、ugoもNTTグループとの結びつきが強く、NDVが2023年12月に出資したほか、これまでにNTTデータとの販売パートナー契約、NTT西日本との協業、NTT都市開発が保有する「品川シーズンテラス」への導入など数多くの共創実績がある。「ugo miniの登場で我々のフィールドも広がった。将来的には生成AIやネットワーク分野で関係強化を図りたい」と中川氏。構造的な社会課題解決に挑むugoの姿勢は、NTTグループとの相性が良さそうだ。

ugo 執行役員COO 中川健太氏

●RapidSOS

 緊急通報のDXサービスを提供するRapidSOSは、2022年にNDVから出資を受けた有望株の1つ。米国ニューヨークに拠点を置くが、出資以降はNDVがハブとなってNTTグループとの関係を深めてきた。

 今回の出展では改めてソリューションの内容を訴求した。RapidSOSは緊急時に情報を伝えることが困難な場合でも、各種デジタルデータを組み合わせて正確かつ網羅的な情報を緊急通報の窓口に自動転送できるのがポイント。これにより一刻を争う状況下での時間短縮ができるほか、オペレーターの業務効率化が可能となる。

RapidSOS が展示したブース内容

 2025年には日本進出を予定している。日本でのデータ運用やシステムの実装は以前から協力体制にあるNTTデータが担当するという。すでにいくつかの自治体と実証が始まっており、RapidSOS Global Accounts DirectorのCristian Guzman氏は「グーグルやアップルと連携した高度な位置情報やヘルスケアデータの取得、監視カメラへのアクセスなどをクリアして早期にサービスインしたい」と話してくれた。


内側から変革が起き始めたNTTグループ

 次にNTTグループの事業を紹介する。最初に取り上げるのは「ジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメント」(以下、JNSE)。ドコモを代表企業とする、前田建設工業、SMFLみらいパートナーズ、日本プロサッカーリーグの4社から成るコンソーシアム「国立競技場×Social Well-being グループ」が2024年9月に設立した新会社だ。

 JNSEは2025年4月1日から国立競技場の運営を行なうことが決定した。ドコモではこれまでも5Gのユースケースとしてスタジアムにおける高速通信や仮想体験などをアピールしてきたが、JNSEはスタジアムビジネスそのものなのだから驚きだ。

 国立競技場を「世界トップレベルのナショナルスタジアム」にすることを目指し、グローバル基準のビジネスモデルを導入していくという。JNSE ビジネスデザイン部 渉外広報課 田原圭祐氏は「ホスピタリティエリアの拡充や各種イベントの誘致によってコンテンツの質を高め、そこにIOWNやデジタルサイネージなどを加えてスタジアムの体験価値を向上するのが狙い。テクノロジーに関してはスタートアップとの共創が不可欠なので、DVD2024で交流を深めるつもりだ」と語った。まさに振り切った新規事業への参画だが、国立競技場がどのような変貌を遂げるのかが今から楽しみだ。

JNSE ビジネスデザイン部 渉外広報課 田原圭祐氏。ドコモがスタジアム事業に参入したことに惹かれ、9月に中途入社したばかり

 田原氏も触れたIOWNは、NTTが提唱する次世代のインフラ基盤構想を指す。Innovative Optical and Wireless Networkの略称で、光電融合技術と光通信技術をベースとして大容量、低遅延、低消費電力を実現する。

 DVD2024では遠隔からのリアルタイム生体認証、遠隔医療、リアルタイム遠隔指導といった実証成功例を展示。さらに今後の想定として、圧縮・複合がない4K/8Kの高画質映像伝送、病気の診断前予測、ウェルビーイングなまちづくりなど、領域を問わない夢のあるユースケースが示された。

NTT東日本 経営企画部 IOWN推進室 五十嵐貴大氏

 NTT東日本 経営企画部 IOWN推進室 五十嵐貴大氏は「2024年12月からはNTT東日本、NTT西日本がユーザー拠点間で最大800Gbpsの商用サービスを順次開始する予定。最先端の光技術で豊かな未来を支えていくのが我々の使命だ」とコメント。社会の常識を変えるインフラの実装は、すぐそこまで来ている。

 最後に、docomo STARTUPについて触れておきたい。2023年6月に始まったdocomo STARTUP は、それまで推進してきたドコモグループの新規事業創出プログラムを増強したバージョン。中でも目を引くのは、自らが外部資金を調達することによってスピンアウトする「STARTUPコース」の新設だ。この場合、ドコモの出資は原則15%未満に抑えられ、起業した本人は“一国一城の主”になる。

STARTUPコースを経てスピンアウトしたReCute。ヘアアイロンのシェアリングサービスを提供する

 本プログラムを牽引するNTTドコモ 経営企画部事業開発室 室長の原尚史氏は「開始してから1年が経過したが、想定以上の反響があった。全社を通じて応募があり、世代を超えて『社会に貢献したい』との思いが共通している点がドコモらしい」と語る。事業化検証時には外部ベンチャーキャピタル(VC)によるメンタリングもあるなど、通常の起業プロセスと何ら変わらないステップを踏む。

NTTドコモ 経営企画部事業開発室 室長 原尚史氏

 STARTUPコースからはこの1年で5社がスピンアウトし、それぞれ独立して会社を営んでいる。DVD2024にはその5社に加え、子会社化した5社の合計10社が出展し、変わりつつあるドコモの姿を来場者に強く印象づけた。「docomo STARTUPというプラットフォーム上で、起業に挑戦する文化が醸成され始めたのは収穫。この文化が根づけば、ドコモの未来はきっと変わるだろう」と原氏は結んだ。NDVとともに、docomo STARTUPのスタートアップ支援にも要注目だ。

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