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ヤン・エルスター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヤン・エルスター
講義風景(2010年)
人物情報
生誕 (1940-02-22) 1940年2月22日(84歳)
 ノルウェー
オスロ
居住 フランスの旗 フランス
市民権  ノルウェー
出身校 ソルボンヌ大学
両親 父:トロルフ・エルスター英語版(ジャーナリスト)
母:マリ・エルスター英語版(著作家)
学問
学派 分析的マルクス主義
研究分野 社会学
政治学
合理的選択理論
研究機関 オスロ大学
シカゴ大学
コロンビア大学
コレージュ・ド・フランス
博士課程指導教員 レイモン・アロン
学位 博士号(パリ第5大学・1972年)
称号 名誉博士(ノルウェー科学技術大学ストックホルム大学ほか)
主要な作品 『社会科学の道具箱』
『Political Psychology』
『Deliberative Democracy』
ほか
学会 ノルウェー科学・人文学アカデミー英語版
アメリカ芸術科学アカデミー
ヨーロッパ・アカデミー英語版
主な受賞歴 ジャン・ニコ賞(1997年)
ヨハン・スクデ政治学賞(2016年)
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ヤン・エルスター[ˈɛlstər], ノルウェー語: Jon Elster1940年2月22日 - )は、ノルウェーの社会理論家、政治学者。社会科学の哲学や合理的選択理論についての著作がある。分析的マルクス主義者の代表格でもある。新古典派経済学や公共選択論を、行動主義的・心理学的な理由にもとづいて批判している。

経歴

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1940年、オスロ生まれ。エルスターはカール・マルクスについての学位論文によって、パリソルボンヌ大学から博士号を取得した[1] 。指導教員はレイモン・アロンである。エルスターはセプテンバー・グループに長年所属していたが、1990年代初頭に脱退した。オスロ大学歴史学部で教鞭をとった後、シカゴ大学の哲学部と政治学部にて寄付講座教授を務めた。現在、コロンビア大学ロバート・K・マートン社会科学教授(政治学・哲学)ならびにコレージュ・ド・フランス終身教授である。

エルスターはノルウェー科学・人文学アカデミー英語版の会員である[2]。また、アメリカ芸術科学アカデミーアメリカ哲学会、Academia Europaeaにも所属しており、ブリティッシュ・アカデミーの客員フェローも務める。

世界各地のいくつもの大学から名誉博士号を得ている(バレンシア大学ストックホルム大学トロンハイム大学ルーヴァン・カトリック大学トルクァト・ディ・テラ大学コロンビア国立大学)。また、重慶大学の客員教授でもある。

受賞・栄典

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家族・親族

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哲学

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エルスターの著作の特徴は、合理的選択理論に代表される分析的手法によって、文学や歴史から数多くの事例を引きつつ、哲学的・倫理学的な考察を行っていることである。ダニエル・リトルはある書評にて次のように述べている。「エルスターは様々な学問領域における重要な貢献を果たした。彼の書物が扱うテーマの幅広さと深さは、学問の専門分化が著しい現在、稀に見るものである。政治学者だけでなく、経済学者や哲学者も彼を読み、議論している。彼の著作の要点を一言でまとめることは難しい。というのも、経済学、政治学、歴史学、哲学、そして心理学といった広範な分野における深い理解のもと、彼の著作は書かれているからだ。」[3]

エルスターは社会科学の哲学者としての側面をもつ(『技術革新の説明』でのテーマ)。社会科学的説明は、方法論的個人主義(個人のみを行為主体として認め、「組織」や「社会」のように、個人を超える実体を行為者とみなさない、という考え)とミクロ的基礎(社会的スケールでの変化を、個人の行為の観点から説明すること)に基づいて行われねばならない、と彼は強く主張している。マルクス主義者や他の社会科学者は、機能主義(制度が存在するのは、それが社会に対してもつ効果によってである、という考え)に陥っているとエルスターは批判する。彼は機能主義に代わり、マルクス主義に対してゲーム理論による基礎づけを与えようとした。

エルスターは、合理的選択理論を用いて様々な社会現象を説明しようと試み、数多くの著作を著している。彼は次のように言う。「合理的選択理論は、人間の行動を説明するための技術的手段にはとどまらない。それは、われわれ自身を統合的に理解するための方法でもある。われわれはいかなる行為をすべきか、という問いだけではなく、われわれは一体何者なのか、を問うためにも、それは用いられるのだ。」[4] 彼は合理的選択理論を幅広い分野に応用している。すなわち、政治学(『政治的心理学』)、バイアスと制約を受けた選好(『酸っぱいブドウ』)、感情(『心の錬金術』)、自制(『オデュッセウスとセイレーン』)、マルクス主義(『マルクスを理解する』)などである。

彼は数多くの複雑な問題を、合理的選択理論における単純な概念を用いて解明してきた。例えば次のようなものだ。内因的選好形成(今日なした特定の行為は明日の選好を変化させる。そのようなとき、人は自分の選好をどのようにして決めるのか?)、履歴効果(同じ質問を異なった仕方で提示されると、人はそれに応じて異なった選好を示す)、不完全な合理性(意志の弱さ、感情、衝動、習慣、自己欺瞞)、それらへの適応、時間選好、これらである。

しかし次第に、エルスターは合理的選択理論に対する態度を変えてきている。1991年にロンドン・レビュー・オブ・ブックスに掲載されたある書評では、エルスターについて次のように書かれている。「エルスターには迷いが生じている。あるいはそこまで言わずとも、不信感を抱き始めたことに違いはない。自ら、「最新著には、理性の力に対する私の強い幻滅が投影されている」と述べているほどだ。」[5]500ページもある大著『社会的行動の説明』には、自身の見解を撤回するような以下の文言が登場する。

合理的選択理論には私が以前考えていたほどの説明力はない、と今では考えている。というのも、現実に生きる人々は、最新の学術論文に見られる数式だらけのページを計算した上で行動しているわけではないからだ。合理性をシミュレートしたり模倣したりする、非意図的な一般メカニズムなど、ありはしないのだ。また、経験的な証拠というのはたいてい、極めて脆弱である。これはもちろん雑駁な感想でしかない。私はただ、優秀な学者たちの間で広範な意見の不一致があること、つまり、いわゆる「なになに学派」の間には、根本的で根強い対立が存していることを指摘したい。論争がピタリと止む収束点など、決して存在しないのである。[6]

同著でエルスターは合理的行動だけでなく不合理的な行動についても議論している。後者は、「広く、またしばしば見られ、避けることができないものである。われわれは合理的でありたいという欲求をもつものだ。」[7]最新作『公平無私』(『ホモ・エコノミクス批判論集』プロジェクトの一巻)では、これらの洞察をさらに展開し、私欲を離れた行為の可能性が探求されている[8]

主要著作

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  • Leibniz et la formation de l'esprit capitaliste (Paris, 1975) ISBN 2-7007-0018-X
  • Leibniz and the development of economic rationality (Oslo, 1975)
  • Logic and Society (New York, 1978)
  • Ulysses and the Sirens (Cambridge, 1979)
  • Sour Grapes: Studies in the Subversion of Rationality (Cambridge, 1983)
    • 『酸っぱい葡萄――合理性の転覆について』、玉手慎太郎訳、勁草書房、2018年。
  • Explaining Technical Change : a Case Study in the Philosophy of Science (Oslo, 1983)
  • Making Sense of Marx (Cambridge, 1985)
  • An Introduction to Karl Marx (Cambridge, 1986)
  • The Cement of Society: A study of social order (Cambridge, 1989)
  • Solomonic Judgments: Studies in the limitation of rationality (Cambridge, 1989)
  • Nuts and Bolts for the Social Sciences (Cambridge, UK, 1989)
  • Local Justice: How institutions allocate scarce goods and necessary burdens (Russell Sage, 1992)
  • Political Psychology (Cambridge, 1993)
  • The Ethics of Medical Choice (London, 1994) - with Nicolas Herpin
  • Strong Feelings: Emotion, Addiction, and Human Behavior The Jean Nicod Lectures. (MIT Press, 1999)
  • Alchemies of the Mind: Rationality and the Emotions (Cambridge, 1999)
  • Ulysses Unbound: Studies in Rationality, Precommitment, and Constraints (Cambridge Univ. Press, 2000)
  • Closing the Books: Transitional Justice in Historical Perspective (Cambridge, 2004)
  • Explaining Social Behavior: More Nuts and Bolts for the Social Sciences (Cambridge, 2007)
  • Reason and Rationality (Princeton University Press, 2009)
  • Alexis de Tocqueville: The First Social Scientist (Cambridge University Press, 2009)
  • Le désintéressement (Paris: Seuil 2009)
  • L'irrationalité (Paris: Seuil 2010)
  • Securities Against Misrule. Juries, Assemblies, Elections (Cambridge University Press, 2013) ISBN 9781107649958

共著

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  • Institutional design in post-communist societies: rebuilding the ship at sea, wiht Claus Offe, Ulrich K. Preuss, Frank Boenker, Ulrike Goetting, and Friedbert W. Rueb, Cambridge University Press, 1998.

編著

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  • Foundations of social choice theory, co-edited with Aanund Hylland, Cambridge University Press, 1986.
  • The multiple self, Cambridge University Press, 1986.
  • Rational choice, B. Blackwell, 1986.
  • Karl Marx: a reader, Cambridge University Press, 1986.
  • Constitutionalism and democracy, co-edited with Rune Slagstad, Cambridge University Press, 1988.
  • Alternatives to capitalism, co-edited with Karl Ove Moene, Cambridge University Press, 1989.
  • Interpersonal comparisons of well-being, co-edited with John E. Roemer, Cambridge University Press, 1991.
  • Choice over time, co-edited with George Loewenstein, Russell Sage Foundation, 1992.
  • The ethics of medical choice, co-edited with Nicolas Herpin, Pinter Publishers, 1994.
  • The roundtable talks and the breakdown of communism, University of Chicago Press, 1996.
  • Deliberative democracy, Cambridge University Press, 1998.
  • Addiction: entries and exits, Russell Sage Foundation, 1999,
  • Getting hooked: rationality and addiction, co-edited with Ole-Jørgen Sko , Cambridge University Press, 1999.
  • Retribution and reparation in the transition to democracy, Cambridge University Press, 2006.

脚注

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  1. ^ Yeghiayan, Eddie. “JON ELSTER A Selected Bibliography”. UCI Department of Philosophy. 2000年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年4月18日閲覧。
  2. ^ Gruppe 3: Idéfag” (Norwegian). Norwegian Academy of Science and Letters. 28 October 2009閲覧。
  3. ^ Chapter on Jon Elster by Daniel Little in New Horizons in Economic Thought: Appraisals of Leading Economists, edited by Warren Samuels (Edward Elgar Publishing, 1992) ISBN 1-85278-379-6. Also available as download [1]
  4. ^ Elster, Jon (1993). “Some unresolved problems in the theory of rational behaviour”. Acta Sociologica 36 (3): 179–189 [p. 179]. doi:10.1177/000169939303600303. 
  5. ^ Hollis, Martin, Why Elster is stuck and needs to recover his faith, London Review of Books, 13 January 1991
  6. ^ Explaining Social Behaviour, pp. 5, 25ff
  7. ^ Explaining Social Behaviour, p. 232
  8. ^ Review of Le désintéressement, by Gloria Origgi, The Possibility of Disinterested Action, The Berlin Review of Books, 8 January 2010.

外部リンク

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