「DX戦略の一環として導入したCRMがどうも機能しない」
A社の社長の最近の悩みだ。CRM(Customer Relationship Management)とは、日本語では「顧客関係性マネジメント」と呼ばれる。顧客との関係を管理しながら、その関係を長期的に深めていく手法だ。昨今、デジタル化の波を受けて導入が進んでいる。
A社はオフィス向けセキュリティーシステムを販売している会社だ。ビジネスの性格上、一度納入すると5年程度使用し、納入のたびに新しい機器と切り替える。従ってA社の販売活動は、新たに顧客を獲得する新規開拓と、一度納入した顧客を維持する既存顧客対応の2つに分かれる。
後者は安定した収益を確保してくれるため、A社ではこれまでも重視してきた。そして、既存顧客をより大切にしていこうと、クラウド型のCRMツールを導入した。
ところが、導入してみたもののなかなか機能しない。導入当初は、「時間がたてば社員も慣れてきて、情報も蓄積されていき、有効になるだろう」と楽観視していたが、そうはいかなかった。社長の性善説的な視点が仇(あだ)となったのだ。
A社がCRMツールを導入する際に考えていた基本戦術は3つある。1つは、1カ月に1度のメール配信。毎月、定期的に顧客へ情報を発信し、顧客との接点を維持する。この中には3カ月に1度の「最新情報を提供するオンラインセミナー」開催による、顧客への情報提供を含む。
2つ目は、「最新情報を掲載したホワイトペーパー」をホームページ上に用意してメールで案内し、ダウンロードしてもらうというものだ。ホワイトペーパーとは、商品・サービスに関する専門的な情報・ソリューション(課題解決)例などを詳細に記載したツール。ダウンロード時には、自社サービスへの登録などが必要になる。
そして3つ目は、これらへの関心度合いを顧客ごとに計測し、接点の強さとともに可視化することだ。これらの相乗効果により、機器更新時の対応を今まで以上にスムーズに実施する作戦だった。
これらの戦術は3つとも、顧客との関係性をしっかりと維持し、更新率を高めるための仕組みだ。A社では、CRMツール導入前は1つ目の中に含まれる、3カ月に1度のセミナー開催のみ実施していた。残りは今回のツール導入で初めて実施している。
そこに「開発情報」は含まれているか
なぜうまくいかなかったのか。1つは、セミナー以外は初めて導入する仕組みのため、社員が慣れていなかったというもの。ただ、本質的な理由は、ホワイトペーパーの中身と、それを基にしたメールが顧客に刺さらなかったことだ。
「カメラを使った遠隔サポートサービスの事例を紹介したホワイトペーパー」の例を見てみよう。この資料では、「カメラ、モニター、カメラ内蔵スピーカーを使い、遠隔で無人店舗をサポートするシステム構成」を紹介している。しかし、「なぜ無人店舗運営の役に立つのか」「現状、一般的な無人店舗がどんな方法を採用して、どんな課題があり、それに対してこの方法がどういったメリットを提供するのか」が明示されていなかった。
つまり、「どういったシステムか」は書いてあるけれど、「なぜこれを使うといいのか」が書かれていないのだ。顧客が知りたいのは「人手不足対策に役立つ」「接客対応を効率化する」といった情報だ。
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