「『安全保障上の懸念』というのは見事な言葉だ。かなり拡大解釈されてしまう」――。米国政治に詳しい、上智大学の前嶋和弘教授はこう話す。
バイデン米大統領は1月3日、「米国の安全保障を損なう恐れがあると信じるに足る証拠がある」として日本製鉄によるUSスチール買収を中止するよう命じた。国家安全保障の観点から買収を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)が審査を進める中、かねて買収に反対する姿勢を示してきたバイデン氏が意見を覆すことはなかった。
買収中止命令は「不適法」
日鉄とUSスチールは同日「不適法な買収禁止命令」として共同声明を発表。バイデン氏の決定が「バイデン大統領の政治的な思惑のためになされたもの」と断じ、「法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する」と米政府に対する法的措置をとると示唆している。
USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)も「彼(バイデン氏)は、当社の未来と労働者、国家安全保障を害する一方で、組合員とは無縁の労組のボスに政治的な見返りを与えた」と非難。大統領の判断は「恥ずべきで、腐敗している」とコメントした。
日鉄が経営不振にあえぐUSスチールの買収を発表したのは2023年12月18日。米鉄鋼大手のクリーブランド・クリフスによる約73億ドル(約1兆円)の買収提案を拒否していたUSスチールを、その約2倍に当たる141億ドル(約2兆円)で手に入れる計画をぶち上げた。日本国内の鋼材需要がしぼむ中で、米国での成長を加速させようと繰り出した攻めの一手だった。
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