昨今では教育上の観点からということで、「桃太郎」や「さるかに合戦」の結末すら非暴力的なものに改変されているそうですが、ユーリー・マムレーエフによるこの稀代の怪作を世の良心的な紳士淑女が読んだ暁には、怒り心頭になるか卒倒するかに相違ないので、あまりこの小説が日本で広まらないよう密かにお祈りするばかりです(万人受けする作品ではないと思うので、そんなの杞憂かと思いますが……)。 白水社ミノタウロスシリーズの前作『幸福なモスクワ』ではエンジニアや医師といったエッセンシャルワーカーたちが主役級で描かれるのに対し、本作の主要人物たちは漏れなく不要不急(好き)。ウォートカ片手にヒステリックに哄笑したり、彼岸まで思考を巡らせつつ「狂気を!狂気を!」と喘いだり、ソ連すでに成熟期とはいえどんな有閑階級やねん!と思いましたが、まあ社会主義であったからこそ、最低限の生活はできていたのですね。 グノーシスという通奏