ティードラス【TDRS】
TDRS
名称:追尾・データ中継衛星「TDRS」/Tracking and Data Relay Satellite
小分類:通信放送衛星
開発機関・会社:アメリカ航空宇宙局(NASA)
製造会社:TRW
運用機関・会社:アメリカ航空宇宙局(NASA)/ゴダード宇宙飛行センター
打ち上げ年月日:1983年4月4日(1号)/1986年1月28日(チャレンジャー号とともに爆発・2号)/1988年9月29日(3号)/1989年3月13日(4号)/1991年8月2日(5号)/1993年1月13日(6号)/1995年7月13日(F7号)
打ち上げ国名・機関:アメリカ/アメリカ航空宇宙局(NASA)
打ち上げロケット:スペースシャトル/IUS(慣性上段ロケット)
打ち上げ場所:ケープカナベラル空軍基地
国際標識番号:1983026B(1号)、1988091B(3号)、1989021B(4号)、1991054B(5号)1993003B(6号)、1995035B(F7号)
地球の軌道に打ち上げられた衛星や、惑星間空間を旅する探査機は、地上の管制センターからの指令を受け取り、また、観測データを送らなければなりません。このうち月や惑星に向けた探査機との連絡には、ジェット推進研究所(JPL)を本拠地とする深宇宙(ディープ・スペース)ネットワークが、軌道上の衛星用には、ゴダード宇宙飛行センターが管理する宇宙追尾データ・ネットワーク(STDN)が使われてきました。
しかし、STDNの場合は、軌道上の衛星、特に低軌道から中軌道にかけての衛星を管理するためには、その衛星を直進する電波の視界でとらえるための通信局を、世界中に14カ所も設置する必要がありました。しかも、14もの基地を使っても、衛星と連絡がとれるのは軌道公転時間の15%どまりでした。おまけに、この地上局とメリーランド州にあるゴダード宇宙飛行センターの管制局との間でさらに地上の通信線や通信衛星を使って、データをやりとりしなければなりません。
こうした二重手間、三重手間をなんとか省けないかということで考え出されたのがTDRS(追尾・データ中継衛星)システムでした。
現在、TDRSシステムは6つの衛星と、ニューメキシコ州ホワイトサンズの受信施設、そして、ゴダード宇宙飛行センターの管制本部で構成されています。
6つの衛星はいずれも、地球と同じ速度で公転しているため、地上からは静止しているように見える、高度地球静止軌道に置かれ、うち3つが運用状態に、3つがバックアップ体制にあります。
TDRSは、高い軌道位置にあるため、3基を使えば1,200から5,000kmの高度の軌道になる、つまり、TDRSからは見下ろす位置にある人工衛星やスペースシャトルとは、ほとんどいつでも交信することができます(実際には軌道公転時間の85%から100%の間)。15%という従来の数字に比べれば、これは驚異的な性能です。
そこで、多数の人工衛星を統合的に、しかも、ほぼリアル・タイムで管理するために配備されたのが、TDRシステムでした。
1.どんな形をして、どんな性能を持っているの?
軌道定置時の重量は2,120kg、発射時の重量は2,270kgです。アンテナや太陽電池パネルを展した際には、17.4m×14mもの大きさになります。3軸安定で、太陽電池パネルから得られる1,800Wの電力で、5つのアンテナを運用します。システム全体では、24もの衛星や宇宙船の現状を追尾、これを管理する仲介役をつとめるとともに、観測データなどを地上に送る役割もはたします。
6つの衛星のうち、3つが運用状態にあり、残り3つはバックアップするという体制がとられ、ホワイト・サンズの地上局も隣接して2つ設けられています。
2.どんな目的に使用されるの?
1号はIUSがうまく作動せず、軌道制御用ロケットで静止軌道へたどりつきはしたものの、限定的に使用され、現在はコンプトン・ガンマ線観測衛星(GRO)との交信用に使われています。また、2号はチャレンジャー号の爆発事故によって失われました。7号はこの事故による損失をカバーするための衛星です。
他6つのTDRSは計画どおりの成果をあげ、現在もNASAのみならず、世界各国、また民間の衛星の運用に役立てられています。
3.宇宙でどんなことをし、今はどうなっているの?
現在、TDRSシステムを使って運用されている衛星は、スペースシャトルやハッブル宇宙望遠鏡、ランドサットなど多数あり、日本も参加するISS国際宇宙ステーションでも利用されることが決まっています。
4.このほかに、同じシリーズでどんな機種があるの?
TDRSには、その役割を受けつぐ、より高性能のATDRS(発展型TDRS)の配備が予定されています。新しい衛星では、中継する電波もS/Kuの2帯域にKa帯域が追加され、太陽電池パネルを含む全体の大きさも21m×14mへと拡充され、その出力も2040Wに増大、燃料を除く全重量は2,910kgに及ぶことになります。
5.どのように地球を回るの?
いずれも、高度35,888kmの地球静止軌道。新しい衛星の打上げにともない、衛星の位置は何度か移されています。現在の位置は、1号が西経49度の南米上空に、3号は東経85度のインド洋上に、4号は西経41度のアフリカ沖合に、5号は西経174度、7号は西経141度のともに太平洋上に、6号は西経47度の大西洋上に定置されています。
TDRS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/10 07:49 UTC 版)
TDRS (Tracking and Data Relay Satellite、追跡・データ中継衛星) は、NASAおよびアメリカ合衆国政府機関によって、スペースシャトルや国際宇宙ステーション (ISS)、人工衛星 (ハッブル宇宙望遠鏡、ランドサット、TRMM、EOS、NASAの多数の天体観測衛星など)との通信に使用されるデータ中継衛星のシリーズであり、またその衛星を使ったネットワークである。
スペースシャトルの退役に伴い、一時的にTDRSの通信需要は減少したが、欧州補給機(ATV)、日本の宇宙ステーション補給機(HTV)、米国の商業補給船ドラゴン、シグナスとの通信にも使われているほか、ISSの実験活動拡大に伴い通信容量拡大の要求は増加している。
概要
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システムはNASAの運用する全ての有人宇宙ミッションにおける通信をおこなう地上局による既存のネットワークを置換できるよう設計されている。その第一の目標は、宇宙機が地上と交信できる時間を増加させ、転送できるデータ量を改善することにある。第3世代のTDRSは以下のサービスを提供する。[1]
- Sバンドマルチプルアクセス(S-band Multiple Access)
- 機体側面に搭載されたフェーズドアレイアンテナにより、一度に5つの衛星からのデータ受信と1つの衛星への送信を行う。第2世代までの衛星よりも通信速度は上昇している。
- Sバンドシングルアクセス(S-band Single Access)
- 2つの直径15フィートの高利得アンテナにより、ISSやハッブル宇宙望遠鏡といった人工衛星のデータ転送を行う。
- Kuバンドシングルアクセス(Ku-band Single Access)
- 2つの高利得アンテナは、より周波数の高いKuバンドを使用して双方向の動画配信や、データサイズの大きい人工衛星のサイエンスデータを送信できる。
- Kaバンドシングルアクセス(Ka-band Single Access)
- 同様に、2つの高利得アンテナはさらに周波数の高いKaバンドを使用して800Mbpsという高い通信速度を実現している。これにより、より大容量のデータを転送することが可能である。Kaバンドの周波数については、日本およびヨーロッパのデータ中継衛星との互換性が維持されている。
初期の7つの衛星はTRW社によって開発された。それ以降の機体はボーイング・サテライト・システムズによる。合計11機が打ち上げられており、うち8機が現在稼働中である。
初号機は1983年にスペースシャトル・チャレンジャーによる最初のミッションであるSTS-6により宇宙に運ばれた。チャレンジャー号の軌道から静止軌道に衛星を運ぶための慣性上段ロケットはボーイング社が開発したが、これが正常に働かなかったため、やむを得ず衛星に搭載されたスラスタを使用した。このため衛星の運用上の寿命が縮まると思われたが、実際には予定運用期間10年の2.5倍にあたる25年を2008年5月に迎えた。TDRS-1は、2009年10月に利用を終え、2010年6月に静止軌道から外され運用を終了した。TDRS-4は2012年5月に運用を終了した。
二号機は1986年にチャレンジャー号の10番目のミッションであるSTS-51-Lで打ち上げられたが、打ち上げ直後の爆発事故により失われた。その後の5機は別のシャトルにより正常に打ち上げられた。残りの3機はアトラスIIAにより2000年と2002年に打ち上げられた。
TDRSの地上局は、ホワイトサンズ複合施設に設置されており、アメリカ大陸の西側と東側上空の静止軌道に位置しているTDRSと通信を行っている。その他、インド洋上空のTDRSとはグアム局を通じて衛星で通信を中継している。これにより、ほぼ軌道1周回の通信をカバーできる。ただし、インド洋上空のTDRSはシャトルミッションなど、優先度の高い運用にしか準備されない。これら2つの地上局の指揮/管理はゴダード宇宙飛行センターで行われている。また、2016年までのシステム更新に伴い、メリーランド州ブロッサムポイントに新たな地上局が設置される予定である。
衛星の種類
- 第1世代TDRS TRW社開発
- 第2世代TDRS ボーイング社開発
- 第3世代TDRS ボーイング社開発
打ち上げ履歴
機種 | 衛星名 | 打ち上げ日 | 打ち上げ機(ミッション名) | 備考 |
---|---|---|---|---|
第1世代 | TDRS-A | 1983年4月4日 | チャレンジャー (STS-6)/IUS | 2009年10月引退、2010年6月停波 |
TDRS-B | 1986年1月28日 | チャレンジャー (STS-51-L)/IUS | 打ち上げ失敗 | |
TDRS-C | 1988年9月29日 | ディスカバリー (STS-26)/IUS | ||
TDRS-D | 1989年3月13日 | ディスカバリー (STS-29)/IUS | 2011年12月引退、2012年5月停波 | |
TDRS-E | 1991年8月2日 | アトランティス (STS-43)/IUS | ||
TDRS-F | 1993年1月13日 | エンデバー (STS-54)/IUS | ||
TDRS-G | 1995年7月13日 | ディスカバリー (STS-70)/IUS | TDRS-Bの代替 | |
第2世代 | TDRS-H | 2000年1月20日 | アトラスIIA | |
TDRS-I | 2002年3月8日 | アトラスIIA | ||
TDRS-J | 2002年12月10日 | アトラスIIA | ||
第3世代 | TDRS-K | 2013年1月31日 | アトラス V | |
TDRS-L | 2014年1月24日 | アトラスV | ||
TDRS-M | 2017年8月3日(予定) | アトラスV | 2011年11月に追加調達を決定[1] |
利用コスト
TDRSは米軍や、米国以外の宇宙機関、商業企業も使用しており、ULA社のアトラスVロケットなどの追跡にも使われている。 TDRSのバンド幅いっぱい(すなわち300Mbps)を1分間使用した場合の費用は$139で、現金での取引ではなく、科学データと引き換えにする場合もある。NASAは現在、1分間当たりのコストで課金するプロセスを廃止しようとしており、使用パーセントに移行する方向。2014年からは軍事使用での経費の支払いは廃止された。これは年間約$70 million から$80 millionに相当する[2]。
注釈
- ^ http://tdrs.gsfc.nasa.gov/assets/files/TDRSKMediaGuide_FINAL.pdf
- ^ “Atlas 5 Delivers NASA’s Newest TDRS Satellite to Geo Transfer Orbit”. SpaceNews. (2014年1月24日) 2014年12月29日閲覧。
外部リンク
固有名詞の分類
- TDRSのページへのリンク