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ピーター・ドラッカー(25)教室はプール

デミングと授業担当 インテル創業者を手助け

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日本へ品質管理(QC)の考えを持ち込んだエドワード・デミング。ニューヨーク大学(NYU)では同じ場所で教えた。市内のプールだ。

1949年にNYUでマネジメント(経営)科を新設したのはいいが、教室がない。NYUに近いウォール街周辺で適当な場所を探すしかなかった。当時は市の規制で週に一度はプールの水を抜き、48時間は乾燥させなければならなかった。そのため、月曜日になるとプールは空っぽで、教室として使えた。

デミングは午後3時から飛び込み台に座り、プールの中の学生に向かって話をする。5時半に彼と入れ替わって私が登場し、夕食をはさんで夜10時まで授業。彼とは基本的に、毎週月曜日にプールで入れ替わる際にあいさつするだけの関係だった。妻を亡くしてから人付き合いを好まなくなったようだ。

彼と知り合ったのは第2次世界大戦中。陸軍省のコンサルタントとして、軍需品の生産を手がける企業を立て直す仕事をしていた時だ。

大量生産全盛の当時、生産現場の管理者は有能な軍曹になれる素質を備えていた。そのため、どんどん戦争へ駆り出され、現場での品質管理は悪化の一途。これを食い止めるのに役立つ男はいないかと探し回っていると、政府で働いていたデミングに行き着き、手伝ってもらったのだ。

NYU時代には、仕事と離れた世界で知り合い、後に有名になった人物もいる。世界最大の半導体メーカー、インテルの共同創業者アンドリュー・グローブだ。1968年の同社誕生前の話である。

グローブは1956年、旧ソ連の軍事介入を招いたハンガリー動乱に絡んで米国へ逃れている。実は、彼については米国へ来る前から知っていたし、彼が米国へ来た後も就職の世話をしている。

ハンガリー動乱時、故郷ウィーンはハンガリー難民であふれていた。彼らは藁にもすがる思いで国際救助委員会(IRC)の事務所に駆け込んだ。グローブもその中の1人。IRCはナチスドイツの迫害から逃れる人たちを救うため、物理学者アルバート・アインシュタインの提唱で設けられた非営利組織だ。

IRCを率いていたのは、1991年まで40年間会長を続けたレオ・チャーン。彼は私の友人であり、私自身もナチスの圧迫を逃れて米国へ来た人間だ。難民へのビザの発給や仕事の紹介で協力するのは当然であり、グローブが米国へ脱出する際にも、ハイテク企業へ就職する際にも力を貸した。

グローブは私から学ぶことが多いと公言している。私が西海岸へ移住すると、インテルを共に創業したゴードン・ムーアらと一緒に私を訪ねてきたことも何度かある。だが、1つ指摘しておきたい。彼にはコンサルタントは必要ないということだ。

1960年代に入ると、『創造する経営者』や『経営者の条件』などのマネジメント本に加え、『断絶の時代』が思わぬところで評価されてベストセラーになった。この本で使った私の造語「民営化」が英国保守党の基本政策に織り込まれたからだ。これは後に、サッチャー政権で実行に移された。

この時代にはほかにもうれしいことがあった。多くの水墨画を生み出した国であり、『会社という概念』で示した考えをいち早く受け入れた国。そう、日本と深いかかわりを持つようになったのである。

 この連載は、2005年2月に日本経済新聞に連載した「私の履歴書」を再掲したものです。

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