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Heavy Rain Estimates in TRMM/PR Standard Product Version 7

2012, Doboku gakkai ronbunshu

2 非会員 Ph.D (独)情報通信研究機構 (〒184-8795 東京都小金井市貫井北町4-2-1) 3 正会員 修士(工学) 東京大学生産技術研究所 (〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1) 4 正会員 博士(工学) 東京大学生産技術研究所 (〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1) The latest version of the TRMM (Tropical Rainfall Measuring Mission)/PR (Precipitation Radar) standard product (Version 7; V7) was recently released. This study focuses on heavy rain rate estimated in V7, which are more frequent than in the previous version (Version 6; V6). Surface reference technique is crucial for attenuation correction particularly of heavy rainfall, and becomes more reliable in V7, mainly because of ensemble of multiple SRT methods. Though the accuracy of clutter detection and the validity of Z-R relations are carefully examined, there are still possible rain estimates with extremely heavy rate of more than 300 mm/h. As hourly rain rate, 300 mm/h should be unexceptional, but the time scale of PR measurement may be shorter than 1 hour and these extremely heavy rain rate estimates should be investigated considering the time scale. Relations between heavy rain rates and surface temperature are analyzed with V7 and surface measurements. 99% rain rates in V7 generally increase with the increase of daily surface temperature, though daily rain amount by gauges tends to decrease when daily surface temperature becomes higher than 25 o C, which implies different time scales between PR and gauge measurements.

土木学会論文集B1(水工学) Vol.68, No.4, I̲373-I̲378, 2012. 水工学論文集,第56巻,2012年2月 TRMM/PRバージョン7プロダクトの強い雨 HEAVY RAIN ESTIMATES IN TRMM/PR STANDARD PRODUCT VERSION 7 瀬戸心太1・井口俊夫2・内海信幸3・沖大幹4 Shinta SETO, Toshio IGUCHI, Nobuyuki UTSUMI, and Taikan OKI 1正会員 2非会員 博士(工学) 東京大学生産技術研究所 Ph.D (独)情報通信研究機構 (〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1) (〒184-8795 東京都小金井市貫井北町4-2-1) 3正会員 修士(工学) 東京大学生産技術研究所 (〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1) 4正会員 博士(工学) 東京大学生産技術研究所 (〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1) The latest version of the TRMM (Tropical Rainfall Measuring Mission)/PR (Precipitation Radar) standard product (Version 7; V7) was recently released. This study focuses on heavy rain rate estimated in V7, which are more frequent than in the previous version (Version 6; V6). Surface reference technique is crucial for attenuation correction particularly of heavy rainfall, and becomes more reliable in V7, mainly because of ensemble of multiple SRT methods. Though the accuracy of clutter detection and the validity of Z-R relations are carefully examined, there are still possible rain estimates with extremely heavy rate of more than 300 mm/h. As hourly rain rate, 300 mm/h should be unexceptional, but the time scale of PR measurement may be shorter than 1 hour and these extremely heavy rain rate estimates should be investigated considering the time scale. Relations between heavy rain rates and surface temperature are analyzed with V7 and surface measurements. 99% rain rates in V7 generally increase with the increase of daily surface temperature, though daily rain amount by gauges tends to decrease when daily surface temperature becomes higher than 25 oC, which implies different time scales between PR and gauge measurements. Key Words : heavy rain, time scale, precipitation radar (PR), surface reference technique, C-C relation 分のオーダーとみられる.ただし,PRと雨量計の観測 範囲が異なるため(PRは直径約5km,一般的な雨量計は 直径20cm),PRの観測範囲内における雨の非一様性を考 慮する必要がある.単一の積雲の代表的な大きさはPR 2011年7月,熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載された の観測範囲と同オーダーで,その寿命は1時間程度であ 降雨レーダ(PR)の標準アルゴリズムがバージョン7(V7) ることを考えると,PRの降水強度推定の時間スケール に更新された1).1997年12月の観測開始以来のプロダク は1時間を超えないと考えられる. トもV7で再処理され公開済である.PRの観測期間は間 近年,社会的影響の大きい都市型水害においては,強 もなく14年に達し(原稿執筆時点),2013年に運用開始予 2) い雨の発生から河川・下水道の増水までの時間が短い. 定の後継センサである二周波降水レーダ(DPR) による観 短い時間スケールの降水強度の情報が得られるというこ 測期間に切れ目なくつながることも十分期待できる.将 とは,雨量計観測に対する衛星降水観測の利点であると 来的には,河川計画のための水文統計解析や気候変動影 言える.長期間データを蓄積することで,短時間降水強 響評価など長期的なデータを要する実務・研究において 度の極値についての情報を得ることも可能となる. も,衛星観測が大きな役割を果たすことが期待される. 本論文では,PR V7を上記のような目的に活用するた そのためには,観測精度のさらなる向上と,衛星観測の めに重要となる,短い時間スケールにおける強い雨の推 特性を活かした利用法の検討が重要と考える. 定精度について検討する.なお本論文では,下水道の整 降水強度について,PRによる推定値を雨量計による 備目標としてよく用いられる50mm/hを超える雨を「強 観測値と比較する際には,時間スケールに注意する必要 い雨」として扱う.以下の2章では,V7の概要を説明し, がある.PRの鉛直分解能は250mであり,雨滴の代表的 な落下速度を1~5 m/秒とすると,PRで観測された雨は, 3章ではアルゴリズムの妥当性という視点から,V7の強 およそ1~5分程度かけて雨量計に蓄積されることになる. い雨を検証する.4章では,V7を用いた強い雨の特性に ついての解析の一例を示す. このことから,PRの降水強度推定の時間スケールは数 1.はじめに I_373 2.V7における降水強度推定 (1)概要 PRの標準アルゴリズム3)は,図-1に示すように,レー ダ反射因子の減衰補正と,降水強度への変換の二つから なる.減衰補正前のレーダ反射因子をZm,減衰補正後の レーダ反射因子をZeと書く.減衰補正には,表面参照法 4) とHitschfeld-Bordan(HB)法5)を組み合わせたハイブリッ ド法が採用されている.表面参照法は,降雨によるパス 積算減衰量(PIA)の第一推定値として,降雨のあるピク セルと降雨のないピクセル群の地表面後方散乱断面積の 差(0)を計算する.HB法は,減衰係数kとZeの関係を, 式(1)のべき乗則で与えることで,ZmからZeを解析的に得 る. k=0Ze    ここで,0およびは,降水タイプ等に応じてあらかじ め決められている6).は鉛直一定な定数であり,HB法 では固定値(=1)だが,ハイブリッド法においては表面参 照法の情報を加えて修正される.式(1)で得られたkをパ ス全体で積分するとPIAの最終推定値が得られる.表面 参照法の信頼度が高い場合には,PIAの最終推定値は, 表面参照法による第一推定値に近くなる.一般に強い雨 の場合,表面参照法の信頼度は高い. 降水強度Rへの変換には,式(2)の関係が用いられる. R=aZeb (2) 係数a,b は,降水タイプ等に依存するが 6) ,式(1)の =0,と整合性を持つように修正される7).すなわち, 減衰補正の際にが変化すると,a,bも変化する.対流性 で0℃の液体降水の場合,以下のようになる. log10(a)=-1.43+0.86×log10()-1.12×{log10()}2 (3) 2 log10(b)=-0.19+0.098×log10()+0.19×{log10()} (4) が通常取りうる範囲では,a,bは,の単調増加関数と なる.すなわち,同じZeに対してが大きくなるほどRも 大きくなる.また,Zeが10dB増えると,Rは10b倍になる (=1の場合,約4.4倍). 図-1 標準アルゴリズムの概略図 では土地被覆が大きく異なるピクセルを比較することに よりPIAを極端に過大評価する場合があること13)が指摘 されている. V7での表面参照法は,空間参照法(Forward処理),同 (Backward処理),時間参照法の3つがあり,それぞれの 信頼度の重みをつけた平均によりPIAの第一推定値を求 めている.前述の問題を軽減するため,空間参照法では 一定以上距離の離れたピクセルは参照しないようにして, さらに,参照ピクセルを直前の観測から探すForward処 理だけでなく直後の観測から探すBackward処理を加えた. 土壌水分効果については,V7の表面参照法でも十分説 明できていないと予想されたため,PIAの第一推定値に 一律0.5dBを加えるという対策が行われている. V7では,表面参照法以外にも,ピクセル内の非一様 性の導入,固体降水・融解層における減衰量特性の鉛直 プロファイルの修正などが行われている. 3.V7における強い雨 この章では,V7のプロダクトにおける強い雨につい て,V6のプロダクトとの比較により,アルゴリズムの 改良の効果を検証する.本論文の主な関心は陸上にある が,参考のために,表面参照法の精度が高いと考えられ (2)V7における変更点 る海上での結果も示す. V7の一つ前のバージョン6(V6)8)は2004年に公開されて 9) なお,本章の結果は,V7の公開前検証において行わ 以来,広く使われており,様々な検証が行われてきた . れたものであり,2000年1年間を対象に,V7については 陸上では,降水量を過小評価しているという指摘が多く 10) OAT(Operational Algorithm Test)プロダクトを用いている. あり ,V7でのアルゴリズム改良に反映された.特に, OATと公開されている標準プロダクトの差異は,非常に 表面参照法について,大きな変更が加えられた. 小さい.結果の一部は速報されているが14),本論文では, 表面参照法は,地表面状態に依存するため,陸上と海 100mm/hを超える非常に強い雨も含めて解析した結果を 上で異なる手法が用いられている.以下,陸上の場合を 示す.入射角依存性の問題については,速報を参照され 説明する.V6では,空間参照法(Forward処理)と時間参 たい. 照法の2種類の表面参照法があり,ピクセルごとに信頼 度の高い手法を選ぶ11).特に時間参照法では,降水によ (1)強い雨の寄与 る表層土壌水分量増加の影響(土壌水分効果と呼ぶ)を考 降水強度の累積分布を,陸上および海上,V6および 慮せずPIAを過小評価していること12),また空間参照法 I_374 V7について,それぞれ示す(図-2).横軸の降水強度以下 の雨のみから算出された平均降水量を縦軸に示している. なお,降水強度推定値の上限は300mm/hである.計算結 果が300mm/hを超える場合は300mm/hに修正されている. 陸上の場合,総降水量(300mm/hまでの累積値)では, V7の方がV6より高いが,50mm/hまでの累積値では,V7 とV6はほぼ等しい.したがって,V7では,50mm/hを超 える強い雨の寄与が大きい.一方,海上では,総降水量 だけでなく50mm/hまでの累積値でもV7がV6より高い. 50mm/hを超える強い雨の寄与分について,V7とV6の差 の陸上での地域的分布を図-3に示す.もともと降水量の 多い熱帯域を中心にV6よりV7で高くなっている.ただ し,島嶼部・沿岸部ではV6の方が高い地点も見られる. (2)強い雨の要因 2(1)での説明から分かるように,強い雨には,Zeが高 い,および,が高い,の2つの要因が考えられる. 図-4に,50mm/h~300mm/hまでの強い雨について, 10mm/hごとのビンに分類し,地表面付近のZe(dB)の平均 値を示す.が一定とすれば,Ze(dB)の変化は,logRの変 化に比例することから,横軸は対数軸とした.図中の斜 めの直線は,代表的な変化率(Zeが10dB増えるとRは4.4 倍になる)に相当する.陸上・海上ともに,V6に比べて V7の方の変化率が高く,V7では代表的な変化率に近い. V7では,強い雨の要因は高いZeにあると言える. 図-5には,図-4と同様の方法で,について示す.V6 では,強い雨ほどが高い傾向が見られるが,V7では, 降水強度との間に明確な相関は見られない.V6での強 い雨の要因はZeだけでなくにもある. (3)強い雨の減衰補正 V7での強い雨の要因であるZeの妥当性,すなわち減衰 補正の妥当性について検討する.V7での強い雨につい て,3種類の表面参照法による0を図-6に示す.少な くとも150mm/h付近までは,3種類の0に大きな差は見 られない.図-7には,この3種類の0から作成された PIAの第一推定値(青実線)とハイブリッド法の結果であ るPIAの最終推定値(青鎖線)を示す.最終推定値は,第 一推定値よりやや低くなる傾向にある.これは,HB法 で仮定するk-Z関係(=1)が必ずしも強い雨には適切でな いことを示唆している. 図-7には,比較のために,V6におけるPIAの第一推定 値(赤実線)と最終推定値(赤鎖線)も示してある.ただし, 図の横軸はV7における降水強度推定値である.すなわ ち,V6とV7をピクセルごとにマッチアップして,V7の 降水強度が50mm/h以上であったピクセルでのV6の推定 値について示している.第一推定値は,V6とV7の間で ほとんど変わらないが,最終推定値は,V6ではV7より も低くなっている.この理由として,V7では3種類の 0を用いることにより,それらがよく一致する場合に I_375 図-2 図-3 降水強度の累積分布.青実線はV7陸上,青点線はV7 海上,赤実線はV6陸上,赤点線はV6海上. 50mm/h以上の強い雨による寄与分の変化(V7-V6). 図-4 50mm/h以上の強い雨における地表面付近のZe(dB). 横軸は降水強度を対数軸で示す(右端は300mm/h).青 実線はV7陸上,青点線はV7海上,赤実線はV6陸上, 赤点線はV6海上. 図-5 50mm/h以上の強い雨における.横軸は降水強度を対 数軸で示す(右端は300mm/h).青実線はV7陸上,青点 線はV7海上,赤実線はV6陸上,赤点線はV6海上. 図-6 V7の強い雨に対する,各表面参照法による0.時 間参照法を×印,空間参照法(Forward処理)を■印, 空間参照法(Backward処理)を□印で示す. 図-8 V6の強い雨に対する,各表面参照法による0.時 間参照法を×印,空間参照法(Forward処理)を■印, 空間参照法(Backward処理)を□印で示す. 図-7 V7の強い雨に対するPIA推定値.V7第一推定値を青実 線,V7最終推定値を青鎖線,V6第一推定値を赤実 線,V6最終推定値を赤鎖線で示す. 図-9 V6の強い雨に対するPIA推定値.V7第一推定値を青実 線,V7最終推定値を青鎖線,V6第一推定値を赤実 線,V6最終推定値を赤鎖線で示す. は,表面参照法の信頼度を高く設定できるようになった ためと説明できる. 次に,V6での強い雨について,同様の解析を図-8, 図-9に示す.V6でも使われている空間参照法(Forward処 理)が,他の2種類の手法に比べて高い0を示している. V6では,第一推定値は,空間参照法(Forward処理)の0 に強く依存しており,V7での第一推定値より高くなっ ている.この差が,PIAの最終推定値および降水強度推 定値にも影響しているとみられる. 図-3に示した沿岸域で強い雨がV6>V7となる現象は,こ れと似ており,表面参照法および最終的なPIA推定値も V6>V7となっている.沿岸域では,V6での時間参照法 においてデータベースが海陸の影響を十分区別できてい ない問題があり,V7ではこれが改良された効果もある とみられる. 以上のことから,強い雨における減衰補正の妥当性に 関する考察をまとめると,V6での強い雨は,1種類の表 面参照法に強く依存しており,過大評価されている可能 性がある.一方,V7での強い雨は,3種類の表面参照法 で推定されているという点で,V6より信頼できる. (4)300mm/hの雨 先に述べたように,標準プロダクトでは300mm/hを降 水強度の上限としている.これは,データサイズの都合 であるが,はたして300mm/h以上の強い雨は観測されな いのだろうか.1時間降水量の世界最大値は401mm/h, 日本最大値は187mm/hと報告されており15),300mm/hを 超えることは極めて稀と言える.しかし,1章で述べた ように,PRで観測される降水強度の時間スケールは1時 間より短いと考えられる.例えば,1分降水量の世界最 大値は38mm/minであり,300mm/hに相当する5mm/min をはるかに超えている. I_376 図-10 V7において,300mm/hを推定した地点を黒×・青●・赤●で示す.そのうち,青●・赤●は,クラッタ・減衰補正に よる過大評価がないとみられるもの.赤●は,Z=200R V7で,2000年の1年間に,300mm/hが推定された場所 を図-10に示す.全部で154回あり,そのうち陸上が151 回,海上が3 回であった.これに対して,V6 では 300mm/hの推定値は陸上・海上ともにゼロであった. V7で強い雨が増えている一般的な理由は,3章で説明 したが,特に強い雨の場合は,クラッタの誤判定が影響 している可能性がある.V7では,地表面によるクラッ タを降雨によるエコーから区別するための手法が変更さ れたが,より地表面近くまで雨をとらえられるように なったことの見返りに,クラッタを降雨エコーと誤判定 することがV6よりも増えていることが指摘されている16). そこで,V6とV7のマッチアップにより,V6では降雨が 観測されていないケース,および,V7でクラッタの推 定位置がV6より地表面に近くなっているケースを除外 した.その結果,92(陸上89,海上3)回の300mm/h推定値 が残った. 次に,減衰補正による過大評価の可能性があると疑わ れるケースをできるだけ除外する.表面参照法が3種類 揃っていないケース,および,3種類の表面参照法の 0の最小値よりもPIAの最終推定値が大きいケースを 除外した結果,19(陸上16,海上3)回の300mm/hの推定値 が残った.この19回については,特定の場所に集中する などの不自然な傾向は認められない. 最後に,Z-R関係の妥当性についての検証が必要だが, 容易ではない.で修正されたZ-R関係を使わずに,一般 的なZ=200R1.6を用いるならば,R=300mm/hはZe=62.6dB に相当する.地表面付近のZeがこの値を超えているのは, 6回(いずれも陸上)であった. 1.6 の関係式を用いても,300mm/hを超えるもの. 降水強度の増加割合が,飽和水蒸気圧の増加割合 (Clausius-Clapeyronの関係)とよく一致する例も報告され ている17).その一方で地域性も強く18),熱帯域などでは, 気温の増加に対して,99%降水強度は減少することも報 告されている19).多くの研究17)では,日単位の雨量デー タを用いているが,アメダス10分データを用いて行った 研究19)では,南西諸島において,日降水量の99%降水強 度は気温が約25℃を超えると減少するが,10分降水量や 時間降水量では99%降水強度の減少は見られなかった. このことは,降水量データの時間スケールによる特性の 違いを示している. GHCN(Global Historical Climatology Network)による日 降水量・日平均気温(日最高気温と日最低気温の平均)の 観測データがある緯度1°×経度1°グリッドについて, V7の降水強度推定値の日最大値および日平均値を抽出 した.また,GHCNの降水・気温データについては,グ リッドに観測点が複数ある場合,その平均を用いる.こ のようにして準備したデータを,GHCNの日平均気温に よりビン(平均して2℃幅,ただしビンごとのサンプル数 が一定となるようにする)に分類し,ビンごとにV7の降 水強度およびGHCNの日降水量の99%値を求めた.デー タが利用可能な陸上の全域に対する結果を図-11に示す. GHCNの日降水量は,25℃付近をピークとして,それよ り気温が高い場合には減少しているが,V7の降水強度 には,そのような減少傾向は見られない.これらのこと は,観測の時間スケールの違いを反映している. 5.まとめ 4.V7を用いた強い雨の特性に関する解析例 衛星観測される降水強度は,雨量計で観測される降水 量と異なった特性を持っている.PRで推定される降水 強度の時間スケールは,数分から長くても1時間程度と 本論文の最後に,V7を用いた強い雨の特性に関する 解析例として,地表面気温との関係について示す.近年, 考えられる.一般的に利用可能な雨量計のデータよりも, 短い時間スケールの降水強度情報を広域で利用できるこ 地球温暖化への関心を背景として,地表面気温と強い雨 とが,衛星観測の利点である. の関係に関する考察が多く行われている17).強い雨の指 PRの最新の標準プロダクトV7では,陸上において強 標として,地表面気温ビンごとの99%(上位1%)降水強度 い雨が頻繁に推定されている.これらの強い雨は,Zeが を用いることが多い.地表面気温の増加に対して,99% I_377 5) Hitschfeld, W., and J. Bordan: Errors inherent in the radar measurement of rainfall at attenuating wavelengths. J. Meteor., Vol. 11, pp58-67, 1954. 6) Kozu, T., T. Iguchi, T. Shimomai, N. Kashiwagi: Raindrop size distribution modeling from a statistical rain parameter relation and its application to the TRMM Precipitation Radar rain retrieval algorithm, J. Appl. Meteorol. Clim., Vol. 48, pp716-724, 2009. 7) Kozu, T., T. Iguchi, T. Kubota, N. Yoshida, S. Seto, J. Kwiatkowski, Y. N. Takayabu: Feasibility of raindrop size distribution parameter estimation with TRMM Precipitation Radar, J. Meteor. Soc. Japan, Vol. 87A, pp53-66, 2009. 8) Iguchi, T., T. Kozu, J. Kwiatkowski, R. Meneghini, J. Awaka, and K. Okamoto: Uncertainties in the Rain Profiling Algorithm for the TRMM Precipitation Radar, J. Meteor. Soc. Japan, Vol. 87A, pp130, 2009. 9) Shige, S., H. Sasaki, K. Okamoto, and T. Iguchi: Validation of rainfall estimates from the TRMM precipitation radar and microwave imager using a radiative transfer model: 1. Comparison of the version-5 and -6 products, Geo. Res. Let., Vol. 33 doi:10.1029/2006GL02630, 2006. 10) Kawamoto, N., R. Oki, S. Shimizu: Comparison between 図-11 地表面気温と99%降水強度の関係.TRMMの1°グリッ TRMM/PR and AMeDAS rain gauge network in terms of annual ド最大値を青●,同平均値を青○,雨量計日降水量 rainfall, IGARSS, Vancouver, July 2011. を黒●で示す. 11) Meneghini, R., J. A. Jones, T. Iguchi, K. Okamoto, and J. Kwiatkowski: A hybrid surface reference technique and its 高いことが主な要因であることが確認された.表面参照 application to the TRMM Precipitation Radar, J. Atmos. Ocean. 法がV6に比べて大きく改善されており,減衰補正も妥 Technol., Vol. 21, pp1645-1658, 2004. 当に行われていると言える.Z-R関係の妥当性について 12) Seto, S., and T. Iguchi: Rainfall-induced changes in actual surface はさらなる検討が必要であるが,少なくとも年間数例の backscattering cross sections and effects on rain –rate estimates by spaceborne precipitation radar, J. Atmos. Ocean. Technol., Vol. 24, ケースについては,300mm/hを超える極めて強い雨が観 pp1693-1709, 2007. 測された可能性がある.こうした強い雨について,観測 13) Seto, S., T. Oki, and T. Iguchi: Evaluation and improvement of の時間スケールの定量化とあわせて検討する必要がある. surface reference techniques for the TRMM PR, IGARSS, Boston, DPRではPRと同等の観測を継続するともに,二周波 July 2008. 観測を活かして表面参照法20)およびZ-R関係21)の精度につ 14) Seto, S., and T. Iguchi: Comparison of TRMM PR V6 and V7 focusing heavy rainfall, IGARSS, Vancouver, July 2011. いても向上することが期待できる.継続的なデータの蓄 15) 木口雅司,沖大幹:世界・日本における雨量極値記録,水 積および精度向上により,将来的には,河川計画の基礎 文・水資源学会誌,第23巻,pp231-247,2010. となる計画降水量や,その気候変動影響の評価に,衛星 16) 濱田篤,高薮縁:TRMM V7_2A25データのextreme rain値に 観測が大きな役割を果たす時代が来ること期待している. 対するフィルタの作成,日本気象学会秋季大会,名古屋, 2011. 謝辞:本研究は,科学研究費補助金・若手研究(B)「水分野に 17) Allan, R. P., and B. J. Soden: Atmospheric warming and the おける実利用に適した衛星降水マップの作成(代表:瀬戸心 amplification of precipitation extremes, Science, Vol. 321, pp1481太)」および環境省環境研究総合推進費「温暖化影響評価・適 1484, 2008 応政策に関する総合的研究」(課題番号S-8)の一部である. 18) Lenderink, G., and E. van Meijgaard: Increase in hourly precipitation extremes beyond expectations from temperature 参考文献: changes, Nature Geoscience, Vol. 1, pp511-514, 2008. 19) Utsumi, N., S. Seto, S. Kanae, E. Maeda, T. Oki: Does higher 1) Iguchi, T., R. Meneghini, J. Awaka, T. Kozu, J. Kwiatkowki, N. surface air temperature intensify extreme precipitation?, Geo. Res. Yoshida, S. Seto, and K. Okamato: Version 7 algorithm for the Let., Vol. 38, L16708, doi:10.1029/2011GL048426.. TRMM Precipitation Radar, 35th Conference on Radar 20) Meneghini, R., L. Liao, S. Tanelli, and S. L. Durden: Investigation Meteorology, Pittsburgh, Sep. 2011. 2) 宇宙航空研究開発機構: 宇宙から見た雨2, P109, 2008. of a dual-frequency surface reference technique for estimates of 3) Iguchi, T., T. Kozu, R. Meneghini, J. Awaka, and K Okamoto: path-integrated attenuation, Conference on Radar Meteorology, Rain-profiling algorithm for the TRMM Precipitation Radar, J. Pittsburgh, Sep. 2011. Appl. Meteorol., Vol. 39, pp 2038-2052, 2000. 21) Seto, S., and T. Iguchi: Applicability of the iterative backward 4) Meneghini, R., T. Iguchi, T. Kozu, L. Liao, K. Okamoto, J. A. retrieval method for the GPM Dual-frequency Precipitation Radar, Jones, and J. Kwiatkowski: Use of the surface reference technique IEEE. Trans. Geosci. Remote Sensing, Vol. 49, pp 1827-1838, for path attenuation estimates from the TRMM Precipitation Radar, 2011. J. Appl. Meteorol., Vol. 39, pp 2053-2070, 2000. (2011. 9. 30 受付) I_378