61
農 業 機 械 学 会 誌54:61〜67,1992
キ ウ ィ ラ ル ー ツ の 貯 蔵 お よ び 追 熟 に 関 す る研 究(第1報)*
澤田
達 也**・ 瀬 尾
芋生
憲 司***・川越
康 久**・ 森 嶋
博**
義則**
要
旨
キ ウイ フル ー ツ"ヘ イ ワー ド"の貯 蔵 ・
追 熟 加 工 の 自動 化 の た め の基 礎 研 究 と して,最 適 可
食 状 態 を 明 らか に し,貯 蔵 試 験 を 行 った 。 そ の結 果,果 実 硬 度 と累 積 炭 酸 ガス 放 出 量 との
間 に非 常 に高 い相 関 が あ る こ とが 分 か った 。 キ ウイ フル ー ツは 収 穫 後1ヵ 月 ほ どの 間 に急
激 に糖 度 を増 し,追 熟 に よ り酸 度 の 低下 と果 肉 の軟 化 が起 こ り可 食 とな る こ とが分 か っ た。
Studies on Storage and Ripening of Kiwifruit
(Part
Tatsuya
1)*
SAWADA**, Yasuhisa SEO**, Hiroshi MORISHIMA**
Kenii IMOU***, Yoshinori KAWAGOE**
Abstract
For
investigation
operation
5•Ž
of
and
that
the
first
were
at
was
a
caused
of
by
quality
after
storage
correlation
and
the
高 く,ま
kiwifruit
quality
during
evaluated.
flesh
Sugar
content
decrease
of
storage,
CO2
evolution,
ripening,
The
firmness
rapidly
titratable
and
automatic
the
storage
results
and
indicated
CO2
increased
acid
evolution
during
and
at
fruit
the
softening
chinensis
non-destructive
testing,
hardness
味 に よ り今 後 とも消 費 拡 大 が 望 め る果 実 で あ る。
論
キ ウイ フル ー ツは,カ
Planch)
日本 を 中 心 に 各 地 で 栽 培 が 盛 ん に な っ て
ビ タ ミ ンCや
was
between
年 温 州 ミ カ ン か らの 転 換 作 物 と し て 注 目 を
き て い る1)。
ripened
fruit
ripening.
kiwifruit,
キ ウ イ フ ル ー ツ(Actinidia
集 め,西
of
ripening,
kiwifruit.
storage
Ⅰ緒
は,近
best
close
of
weeks
(Keyword]
15•Ž
very
respiration
4
the
kiwifruit
ripening
there
in
of
artificial
ンキ ツ類 な ど他 の果 実 と
は 異 な り,可 食 状 態 にす るた め に は 収穫 後 一 定 期
間 貯 蔵 した後,エ
チ レ ン処 理 また は 加 温処 理 に よ
り追 熟 させ な け れ ば な らな い 。栽 培 条 件 は も と よ
ク ロ ロフ ィル の 含 量 が
り,収 穫 後 の 貯 蔵 ・追 熟 条 件 に よっ て大 き く品 質
た他 の果 実 に は な いそ の独 特 の色 彩 と風
が左 右 され る とい わ れ る。 しか もキ ウイ フル ー ツ
*平 成2年8月 農業機械学会 関東支部会(神奈川県全 農
農業技術センター)に て講 演
**東 京大学農学部(〒113東 京都文京 区弥生1‑1‑1
03-3812--2111
ext 5362) Faculty of Agriculture, The University
of Tokyo, Tokyo, 113
Japan
***現 宇都宮大学農学部
は個 体 差 が 大 き く,ま た 成熟 に 伴 う外 観 上 の変 化
が な い た め追 熟 中 の品 質 を予 測 す る こ と が 難 し
い 。 しか し,出 荷 時 に適 切 な熟 度 の果 実 を 得 る こ
とは,キ
ウイ フ ル ー ツ の今 後 の 消 費拡 大 の上 か ら
も極 め て重 要 な こ と と考 え られ る。
62
農 業 機 械 学 会 誌 第54巻
第3号(1992)
国 内 外 で キ ウ イ フ ル ー ツ に関 す る研 究 例 が み ら
れ る 。Arpaia2)〜4)はCA貯
よびC2H4濃
蔵 中 のCO2,O2お
度 が キ ウイ フ ル ー ツ の貯 蔵性 に与 え
る影 響 を評 価 して い る。Crisosto5)は 栽 培 条 件 お
よび 収 穫 時 の 熟 度 が 貯 蔵性 に与 え る影 響 につ いて
報 告 して い る 。 真 子6)お よび 山下7)〜10)が 日本 産
の キ ウイ フル ー ツ の収 穫 適 期,最 適 貯 蔵条 件 お よ
び 貯 蔵 中 の 果 実 成 分 の変 化 に つ い て 報 告 し て い
る。
一 般 に 現 在 の青 果 物 の等 級 選 別 は 形 や 外 観 とい
った 物 理 的 性 状 に よ って の み行 わ れ て お り,内 部
品 質 まで に は十 分 な考 慮 が な され て い な い。 内部
品 質 を 評 価 す る場 合 は,抜
き取 りに よる破 壊 検 査
が 行 わ れ る。 貯 蔵 ・追 熟 の後,キ
選 別 ・出 荷 され るが,現 在 キ ウイ フ ル ー ツ の出 荷
時 の 品 質 チ ェ ッ クは,主
図1計
ウイフルーツは
Fig.
と して硬 さ の 検 査 で あ
本 研 究 で は,現 在 の この よ うな キ ウイ フ ル ー ツ
の 出 荷 時 の 品 質 評 価 を果 実 内部 の 品質 と よ り相 関
測 ・制 御 シ ス テ ム の概 略 図
Schematic
diagram
of
measurement
system
for
ripening
り,選 果 ラ イ ンで キ ウイ フル ー ツを 手 の触 感 で 判
定 し,軟 化 しす ぎ た果 実 を除 去 す るだ け で あ る。
1
the
control
storage
and
and
experiment
制 御 を 行 った 。
2.測
定 シス テ ム
の 高 い か た ち で,し か も非 破 壊 的 に評 価 で きる方
炭 酸 ガ ス濃度 お よび チ ャ ンバ 内温 度 を 自動 測 定
・記 録 す るた め に構 成 した装 置 を図1に 示 した 。
法 を 検 討 し,最 適 出荷 時期 の精 度 よい判 定 方 法 を
6つ の チ ャ ンバ 内 炭 酸 ガ ス濃 度 を1台 の赤 外 線 式
見 出 す こ とを 目的 とす る 。本 報 で は,1989年 か ら
1990年 にか け て16週 間 に わ た って行 っ た貯 蔵 ・追
ガ ス分 析 計(島 津 製URA‑3B)で
熟 実 験 中 の キ ウイ フル ー ツの 内部 品質 の変 化 に つ
い て追 跡 調 査 した結 果 を報 告 す る 。
ガ ス は測 定 のた め に ガス分 析 計 内 のサ ンプ リン グ
用 ポ ン プ に よ り電 磁 弁 を 通 って 吸 引 され,測 定 が
終 わ る と再 び チ ャ ンバ 内 に 戻 した 。測 定 に際 して
実 験 装 置 Ⅱ
1.貯
は,チ
蔵 ・追 熟 装 置
ャ ンバ 内 に取 り付 け られ た フ ァ ンに よ り十
分 に チ ャ ンバ 内雰 囲 気 を攪 拌 し,均 一 化 を は か っ
貯 蔵 お よび追 熟 を行 うた め に6個 の チ ャ ンバ を
用 い た 。 チ ャ ンバ 本 体 は450mm×450rnm×450
mmの 塩 化 ビニ ール 板 製 で あ る。 チ ャ ンバ 下 部 は
た 。測 定 は1日4回,6時
ャ ンバ 内に取 り付 け られ た
温 度 測 定 用 熱 電 対(T型)お
よび ガス サ ン プ リン
られ
た デ ー タ は記 録 計 を 介 して パ ソ コ ンに と り こ ん
Ⅲ実 験 方 法
テ ン トで 覆 い,そ の 裾 を 水 中 に 浸 す こ とに よ り外
部 空 気 とチ ャ ンバ 内 ガ ス とを 遮 断 しチ ャ ンバ の 気
間 お きに行 い,得
だ。
水 槽 に な って お り,チ ャ ンバ を 塩 化 ビニ ール 製 の
密 を 保 った 。 また,チ
測 定 す る た め,
パ ソ コ ンを 用 いて 電磁 弁 を制 御 した 。 チ ャ ンバ 内
1.供
試材料
本実 験 に用 いた キ ウ イ フル ー ツは.,東 京 大 学 農
グ用 チ ュ ー ブは,こ の 水 槽 中 を 通 って チ ャ ンバ 外
学 部 附 属二 宮 果 樹 園 にお い て10年 生 お よび9年 生
ヘ イ ワー ド樹 よ り1989年11月19日 に 収穫 した もの
部 に 引 き出 され て お り,チ ャ ンバ 雰 囲 気 を 開放 す
で あ る 。約150kgを
る こ とな く測 定 が 可 能 で あ る。 冷 蔵 庫 内 に貯 蔵 室
大 きさ を揃 え る た め に手 で選 果 を 行 い,そ の うち
と追 熟 室 を 設 け,貯 蔵 室 には4個,追
の約90kg,1試
熟 室 に は2
収 穫 し,傷 害 果 を取 り除 き,
験 区 当た り約15kgを
供 試 した 。
個 のチ ャ ンバ を 設 置 した 。 各 室 内温 度 を 制 御 す る
2.貯
蔵 お よび 追 熟 条 件
こ とに よっ て キ ウイ フ ル ー ツ の貯 蔵 ・追 熟 温 度 の
収 穫 した キ ウイ フル ー ツ の貯 蔵 お よび 追熟 に は
澤 田 ・瀬 尾 ・森 嶋 ・芋 生 ・川 越:キ
ウ イ フル ー ツの 貯 蔵 お よび追 熟 に 関す る研 究(第1報)63
を 非 破 壊 的 に測 定 し,こ れ と他 の 内部 品 質 とを 相
関 づ け る こ とを 目的 と して い る 。硬 さ の測 定 に は
HITカ
ウ ン タ(栄 信工 業 製)を 用 いた 。HITカ
ウ
ンタは,青 果 物 の硬 さを非 破 壊 的 に測 定 す るた め
に生 研 機 構 で 開 発 され た一 種 の果 実 硬 度 計 で あ
る。 こ の装 置 は 果 実 に損 傷 を生 じな い弾 性 範 囲 内
で硬 さを 測 定 ・評 価 す る こ とが で きる のが 特 徴 で
あ る11)。これ に よ り追熟 終 了 ま で 同一 サ ン プル の
図2試
Fig.2
Days
of storage
kiwifruit
in each
験区
and
硬 さ の追 跡 調 査 が 可能 で あ った 。HITカ
ripening
experirnental
of
run
開 始 荷 重2009,終
前 述 の装 置 を 用 い て行 った 。 温度 条 件 は,貯 蔵 で
5℃,追
熟 で15℃ で あ った 。 実 験 の際,キ
ウ ンタ の
測 定 条 件 と し て は,プ ラ ン ジ ャ径8mmφ,測
ウイフ
了荷 重5009,プ
速 度10mm/min,最
定
ラ ンジ ャ移 動
大歪 量1.0mmと
した 。 こ
れ らの条 件 下 で は1カ ウ ン ト値 が 歪 量 と して0.003
ル ー ツは 実 際 に行 わ れ て い る貯 蔵 と同様 に段 ボ ー
mmに
ル箱 に詰 め て チ ャ ンバ に 入 れ た 。 各 試 験 区 の キ ウ
カ ウ ン ト値 は 大 き くな る 。測 定 は1サ
イ フ ル ー ツ の貯 蔵 お よび 追 熟 期 間 を 図2に
き赤 道 部2ヵ 所 に つ い て 行 い,そ の平 均 値 を とっ
示 し
相 当 す る。 測 定対 象 物 が 軟 らか い ほ どHIT
ンプル につ
た 。 追 熟 は キ ウ イ フル ー ツを5℃ の チ ャ ンバ か ら
た 。測 定 時 に か か る荷 重 に よる影 響 を考 慮 して,
15℃ の チ ャ ンバ へ 移 動 して行 った 。 また,チ
プ ラ ンジ ャの 接 触 した場 所 に は 印 をつ け 同一 場 所
バ 内空 気 の炭 酸 ガ ス濃 度 が5%前
ャン
後に達す ること
に チ ャ ンバ を覆 っ て い る テ ン トを 全 開 して 換気 を
行 った 。
3.測
を測 定 しない よ うに した 。1試 験 区 当 た り10果 を
硬 さ測 定 用 と して 追 跡調 査 した 。
(5)酸 度 ・糖 度
定項 目
測 定 に 当 た って は,試 料 とな
る キ ウイ フル ー ツの 果 皮 を剥 き,両 端 を 切 り落 と
測 定 項 目 と しては 果 実 生 理 の 指 標 で あ る炭 酸 ガ
ス放 出量,エ チ レン生 成 量 お よび 重 量 変 化 を,品
を 用 いた 。 酸 度 測 定 は,こ
の 果 汁1ccを
質 を 表 す 指 標 で あ る酸 度,糖 度 お よび 果 肉 色 と し
2倍 に希 釈 し,濃 度1%の
フ ェノ ー ル フ タ レ イ ン
た。 一 方,非 破 壊 測 定 で 経 時 的 に 同 一 サ ン プル の
ァ ル コール 溶 液 を 指示 薬 と し,果 汁 酸 度 計(ア
果 実 の硬 さ を測 定 し,上 述 測 定 項 目 との相 関 を調
べ た。 ま た,チ ャ ンバ 内 温 度 を 測 定 し温度 制 御 の
ゴ製FS‑1サ
確 認 を 行 った 。
(1)温 度
貯 蔵 お よび 追 熟 に 大 きな 影 響 を 与 え
る チ ャ ンバ 内雰 囲気 の温 度 を 前 述 の シス テ ムに よ
した 後 す りお ろ し,こ れ を濾 過 して得 られ た 果 汁
純水で
ン フル ー)を 用 いて0.2規
タ
定水酸
化 ナ トリウ ム水 溶 液 で 中 和滴 定 した 。糖 度 測 定 に
は糖 度 計(ア タ ゴ製PR‑1)を
用 いた 。 供 試 果
実 は1試 験 区 ・1分 析 に つ き3果 と した。
(6)果 肉 色
貯 蔵 お よび 追熟 中 の果 肉 色 の変 化
り測 定 した 。
を色 差 直 読 デ ジ タル 測 色 色差 計(日 本 電 色 工 業 製
② 炭 酸 ガ ス濃 度 貯 蔵 お よび 追熟 中 の チ ャ ン
バ 内炭 酸 ガ ス濃度 を前 述 の シ ス テ ムに よ り測 定 し
Z‑1001DP)を
た 。 こ の測 定 値 よ り単 位 重 量 当 た りの 累 積炭 酸 ガ
た キ ウイ フ ル ー ツの果 肉 色 を 測 定 した 。測 定 結 果
ス放 出量 を計 算 して求 め た 。 炭 酸 ガス濃 度 の 測 定
はL,a,bで
値 は体 積%で 表 示 され る ので,こ れ に チ ャ ンバ 内
用 いて 測 定 した 。30mmφ
台 を用 い,軸 に 平 行 に 中 心 か ら3cm付
⑦
の試 料
近 を切 っ
得 られ る 。
エ チ レ ン生 成 量
貯 蔵 お よび追 熟 中 に キ ウ
空 気 量 を乗 じチ 壷 ン ー内炭 酸 ガ スの 体 積 を 求 め,
イ フ ル ー ツが 生 成 す るニ チ レ ンの濃 度 を 測 定 し
質 量 に換 算 した 。
た 。測 定 に は ガ ス ク ロマ トグ ラ フ ィ(島 津 製 作 所
用 と して追 跡 調 査 した 。貯 蔵 お よび 追 熟 中 の重 量
(3)重 量 変 化1試
製GG14A)を
用 いFIDに
よ り 測 定 した。 サ
ン プル ガ ス は,炭 酸 ガ ス測 定 用 チ ュ ーブ よ りサ ン
変 化 を2週 間 毎 に測 定 した。
プ リン グバ ッグ に採 取 した 。測 定 は2週 間 毎 に,
(4)硬
さ
験 区 当た り20果 を 重 量測 定
前 述 の よ うに 本実 験 で は果 実 の硬 さ
酸度 ・糖 度 測 定 用 のサ ンプル を取 る た め に チ ャ ン
64
農 業 機 械 学 会 誌 第54巻
第3号(1992)
バ を 開 放 す る直 前 に行 っ た。
(8)軟
腐症果発生率
キ ウイ フ ル ー ツ の貯 蔵 ・
追熟 中 に,果 肉 の軟 化 と共 に 直 径mm〜
数cm
ほ ど の水 浸 状 の くぼ み が発 生 す る こ とが あ る 。 こ
れ が軟 腐 症 で,収 穫 前 に付 着 した カ ビの一 種 で あ
るBotryosphaeria属
お よびPhomopsis属
菌が
原 因 で あ る と され て い る12)。軟 腐 症 のひ ど い果 実
は,独 特 の 腐 敗 臭 が す るた め商 品 価 値 の低 下 を 招
く。 また,病 斑 部 よ り盛 ん に エ チ レンを 発 生 す る
た め,周 囲 の 果 実 は次 々 に追 熟 を 開 始 し貯 蔵性 が
低 下 して し ま う。 本 実 験 で は,換 気 時 に 目視 に よ
って軟 腐 症 の 発 生 の有 無 を 調 べ,感 染 果 を 適 宜 取
り除 い た 。
図4累
Fig.
Ⅳ実 験 結 果 お よ び 考 察
1.温
during
度
追熟 用 チ ャ ンバ は15±1℃
積炭酸 ガス放 出量 の変化
Changes
evolved
実 験 期 間 を 通 じて 貯 蔵用 チ ャ ンバ は5±0.5℃,
2.累
4
に保 たれ て い た。
炭 酸 ガ ス 放 出 速 度 の一 例 と して試 験 区6を 図3
に示 した 。貯 蔵 中 の 炭 酸 ガス 放 出 速 度 に つ い て
は,貯 蔵 開始 直 後 には 比 較 的 炭 酸 ガ ス放 出 が 盛 ん
で あ った が,貯 蔵 期 間 が 長 くな る につ れ 鈍 っ て き
cumulative
storage
quantity
respiration
and
of
of kiwifruit
ripening
た 。 一定 期 間貯 蔵 した後 に追 熟 させ た 試 験 区3〜
6の 増 加 程 度 は,収 穫 直後 に追 熟 を 行 った 試 験 区
1,2の
積 炭 酸 ガス 放 出量
in
CO2 by
もの とほ ぼ 同 じで あ った こ とか ら,貯 蔵
期 間 の長 短 が 追熟 の呼 吸作 用 に及 ぼ す 影 響 は 少 な
い と考 え られ る。
3.重
量変 化
収 穫 直 後 の 重 量 を100%と
した とき の重 量 変 化
て い る 。 貯 蔵 後,温 度 を 上 げ 追 熟 を 開 始 す る と同
を 図5に 示 した 、 貯 蔵 中 ・追 熟 中 とも重 量 変 化 は
時 に 炭 酸 ガ ス放 出速 度 は急 激 に増 加 して い る。 各
ほ ぼ 同 じで 大 きな違 い は な い 。 しか し,貯 蔵 を 行
試 験 区 の 累 積 炭 酸 ガ ス放 出量 の変 化 を 図4に 示 し
って い た もの を 追熟 させ る と,追 熟 開 始 と同時 に
た 。 追 熟 中 の累 積 炭 酸 ガ ス放 出量 につ い て は,追
累 積 炭 酸 ガ ス放 出 量 の 変 化 と同様 な傾 向で 急 激 な
熟 開 始 か ら終 了 ま で の増 加 程 度 は ほ ぼ一 定 で あ っ
重 量 減 少 が み られ た 。 また青 果 物 の貯 蔵限 界 は,
図3炭
Fig.
3
Change
kiwifruit
図5重
酸 ガ ス放 出量 の変 化
in
CO2 evolution
during
storage
rate
and
of
ripening
Fig.
5
Rate
during
量変化
of weight
storage
loss
and
of kiwifruit
ripening
澤 田 ・瀬 尾 ・森 嶋 ・芋 生 ・川 越:キ
一 般 に 重 量減 少5%程
ウ イ フル ー ツの貯 蔵 お よび追 熟 に
す る研 究(第1報)
65
度 まで といわ れ て お り,重
量減 少 だ け か らみ れ ば本 実 験 の 貯 蔵 条 件 で は約6
ヵ月 間 貯 蔵 可 能 で あ る と考 え られ る 。
4.硬
さ
貯 蔵 時 に お け るHITカ
ウ ン ト値 の変 化 を 累 積
度 数 で表 した もの を 図6に 示 した 。貯 蔵 開 始 時 に
は ほ ぼ 硬 さが揃 って い た もの が,貯 蔵期 間 が 長 く
な るに つ れ て ば らつ きを増 しな が ら軟 らか くな っ
て い く こ とが 分 か る 。HITカ
ウ ン ト値 の平均 値 の
経 時 変 化 を図7に 示 した 。 この グ ラ フで も貯 蔵 後
に追 熟 を行 うと,累 積 炭 酸 ガ ス放 出 量や重 量 の変
図8累
積 炭酸 ガス放 出量 とHITカ
ウ ン ト値
の関係
Fig. S Relationship between cumulative
quantity of evolved CO2 by kiwifruit
and the HIT-count value (hardness)
化 と同様 な傾 向 で軟 化 の度 合 い が促 進 され て い る
こ とが分 か る 。 ま た,貯 蔵 初 期 に は軟 化 は ゆ っ く
りと進 行 して い る が,貯 蔵期 間 ・追 熟期 間 が長 く
な るに つ れ て グ ラ フの傾 きが 増 して い る こ と も分
か っ た 。 す な わ ち,貯 蔵 期間 ・追 熟 期 間 が 長 くな
るに つ れ,キ
図6貯
蔵 中 のHITカ
ウン ト値 の累 積 度 数 分 布
Fig. 6 Distribution of cumulative frequency
of the HIT-count value (hardness) of
kiwifruit during storage
ウイ フル ー ツ の軟 化 が 速 くな る とい
うこ とが分 か る 。呼 吸 に よる炭 酸 ガ スの放 出 は,
青 果 物 の 内部 に生 じて い る生 理 作 用 の 包 括 的 な結
果 で あ る と考 え られ る。 そ こで,累 積炭 酸 ガ ス放
出 量:とそ の 時点 に おけ るHITカ
ウ ン ト値 の 平均 値
との 相 関 を 調 べ た の が図8で あ る。 プ ロ ツ トした
点 を 二 次 で近 似 した とこ ろ非 常 に 高 い相 関関 係 が
得 られ た 。 した が っ て,こ の関 係 を 用 いれ ば,累
積 炭 酸 ガ ス放 出量 を 測 定 す る こ とに よ りHITカ ウ
ン ト値,す なわ ち硬 さを精 度 良 く推 定 す る こ とが
可 能 と考 え られ る。 こ の こ とか ら,貯 蔵 お よび 追
熟 温度 下 で の キ ウイ フ ル ー ツの炭 酸 ガ ス放 出速 度
が分 かれ ば,貯 蔵 ・追 熟 期 間 中 の累 積 炭 酸 ガ ス放
出量 が求 め られ る こ とか ら,キ ウイ フル ー ツ の硬
さを予 測 す る こ とが 可 能 とな る。 また,さ
らに 出
荷 時 の最 適 硬 さを 決 め る こ とが で きれ ば,出 荷 ま
で の期 間 に よ り貯 蔵 ・追 熟 の温 度 条 件 お よび 日数
図7HITカ
Fig. 7
ウ ン ト値 の変 化
Changes in the HIT-count value
(hardness) of kiwifruit
and ripening
during storage
を 計 画 的 に設 定 す る こ とが 可 能 とな り,貯 蔵 ・追
熟 の 自動 制 御 もバ ナ ナ の場 合13)〜15)と同様 に可 能
と考 え られ る。
5.酸
度 ・糖 度
66
農 業 機 械 学 会 誌 第54巻
図9貯
Fig. 9
蔵中の酸度変化
Change
kiwifruit
第3号(1992)
in titratable
during
acidity
図11貯
of
Fig. 11
storage
Change
during
6.果
蔵 中 の糖 度 変 化
in sugar
content
of kiwifruit
storage
肉色
果 肉 色 は 収 穫 直後 にL値(明
れ た が,そ
度)の 低 下 が み ら
の後 は 大 きな変 化 は な くほぼ 一 定 で あ
った 。a値,b値
に つ い て も収穫 直 後 に は多 少 の
変 化 が み られ た が,ほ ぼ 一 定 の値 を保 っ て いた 。
キ ウ イ フ ル ー ツは,果 肉 が緑 色 で あ る方 が 商 品 価
値 は高 いが,本 実 験 で の貯 蔵 に よる緑 色 の変 化 は
問題 に な らな い程 度 で あ った 。
7.エ
チ レ ン生 成 量
貯 蔵 中 に は エ チ レ ン の生 成 は 認 め ら れ な か っ
た 。 追熟 後 期 に は0.3〜0.6μ1/kg・hの エ チ レ ン生
成 が み られ た 。
図10累
Fig. 10
8.軟
積 炭 酸 ガス放 出量 と酸 度 の 関 係
Relationship
quantity
between
of evolved
and titratable
腐症 果 発生 率
貯 蔵 お よび追 熟 中 の軟 腐 症 果 の発 生 率 を表1に
cumulative
示 した 。貯 蔵 中 に は抑 えられ て いた 軟 腐 症 は,追
CO2 by kiwifruit
acidity
貯 蔵 中 の 酸 度 の経 時 変 化 を 図9に 示 した 。各 点
熟 前 半 に は ほ とん ど発 生 しな か った が,後 半 に お
い て 急 激 に増 加 した 。 ま た,軟 腐 症 の発 生 した果
は 各 試 験 区 の測 定 値 で あ る 。 曲線 は各 貯 蔵 日数 で
の 平 均 値 を 結 んだ もの で あ る 。貯 蔵 期 間 が長 くな
る につ れ て酸 度 は徐 々 に低 下 して い く こ とが分 か
った 。図10に 累 積 炭 酸 ガス放 出 量 とそ の 時 点 に お
け る酸 度 の平 均 値 との 関 係 を示 した 。炭 酸 ガス放
出量 の増 加 に と もな って,酸 度 は低 下 して い く傾
向 に あ る こ とが分 か った 。 貯 蔵 中 の糖 度 の 経 時 変
化 を 図11に 示 した 。 糖 度 は 貯 蔵 初 期 に 増 加 し,40
日 目ご ろを ピ ー ク と し,そ の後 は次 第 に 減 少 す る
傾 向 に あ る こ とが 分 か った 。 またHITカ
ウン ト
値 と糖 度 との間 に 相 関 は認 め られ なか った 。
表1軟
Table
1
Incidence
kiwifruit
腐症 の発生率
of
during
soft
rot
storage
lesions
and
in
ripening
澤 田 ・瀬 尾 ・森 嶋 ・芋 生 ・川 越:キ
ウ イ フル ー ツの 貯蔵 お よび追 熟 に 関す る研 究(第1報)
実 の周 囲 の果 実 に も軟 腐 症 の発 生 が 多 くみ られ た
こ とか ら,チ ャ ンバ 内 で分 生 胞 子 に よる二 次 感 染
Hort. Sci., 109(6), pp.758-770,
3) Arpaia,
Soc. Hart. Sci., 110(2), pp.200-203,
今 後 は,官 能 検 査 な どに よる 出 荷 時 の最 適硬 さ
貯 蔵 ・追 熟 期 間 の 累 積 炭 酸 ガス放 出 量を
4) Arpaia,
Effects
精 度 良 く求 め るた め の い ろ い ろな 貯 蔵 ・追 熟 温度
5) Crisosto,
Location
れている。
Soc. Hart.
and Quality of 'Hayward'
J. Amer. Soc. Hort. Sci., 109(4),
キ ウイ フル ー ツの貯 蔵 ・追 熟 中 の 内部 品質 の予
測 お よび最 適 出 荷 時 期 の判 定 を 目的 と して,貯 蔵
・追 熟 実 験 を 行 い ,貯 蔵 ・追熟 中 の累 積 炭 酸 ガ ス
放 出 量,硬 さ,酸 度,糖 度,重 量変 化,果 肉 色,
エ チ レ ン生 成 量 の 測 定 を 行 い ,こ れ らの 因子 間 の
相 関 を 検 討 した 。 本 研 究 の 結 果 を要 約 す る と次 の
6)真
子 正 史=キ
蔵 期 間 が 長 くな る につ れ て,硬
7)山
下 純 隆,他:キ
8)山
下 純 隆,他:キ
1報)エ
3.キ
ウ イ フル ー ツは 収 穫 後1ヵ 月 ほ どの 間 に
糖 度 を 増 し,追 熟 に よ り酸 度 の低 下 と軟 化 が起 こ
9)山
して いた だ いた 東 京 大 学 附 属 二 宮 果 樹 園 の 八巻 良
ウ ン タ装 置 の借 用 を快 諾 して下
さ っ た生 研 機 構 の鷹 尾 宏 之進 氏 の協 力 を得 た こ と
吸量 及 び 品 質 に 及 ぼ す エ チ レン処
岡県 農 業 総 合 試 験 場 報 告,B‑7,pp.47‑
52,1988
下純隆
他:キ
レ ンの 効果}福
‑58 ,1988
11)鷹
ウ イ フ ル ー ツ の低 温 追 熟 に お け るエ チ
岡 県農 業 総 合 試 験 場 報 告,B‑8,pp.53
尾 宏 之 進:青 果 物 の 軟 らか さ 測定 装 置(HITカ
12)長 谷 川 美 典:キ
症 の影 響,農
‑64 ,1989
13)瀬 尾 康 久,細
ウン
ウ ィフ ル ー ツ エ チ レ ン生 成 に 及 ぼ す 軟腐
産 物 流 通 技 術 研 究 会 報,No.115,pp.61
川
明:バ
ナ ナ の炭 酸 ガ ス放 出量 と果 肉 糖
度 につ い て,農 業 機 械 学 会 誌,44(4),PP.633‑538,
14)瀬 尾 康 久,細
参 考 文 献
1)永 田賢嗣,他:キ ウイフルーツの収穫適期と貯蔵法につ
いて,果 樹試験場報告,E‑5,Pp.9‑18,1984
2) Arpaia, M. L, et al : Effect of Delays in Establishing Controlled Atmospheres
on Kiwifruit SofteStorage,
ウ イフ ル ー ツ の追 熟 に 関 す る研 究(第
実 の硬 度,呼
1983
を付 記 し感 謝 の 意 を表 し ます 。
and Following
岡 県農1業総 合 試 験 場 報 告,B‑6,pp.33
タ),機 械 化 農 業,No.6,PP.26‑28,1990
[謝 辞][本 研 究 に 当 た り,キ ウイ フ ル ー ツを 提 供
ning during
ウ イ フ ル ー ツの 追 熟 に 関 す る研 究(第
下 純 隆,他:キ
り食 べ ごろ と な る こ とが 分 か った 。
和 助 教 授,HITカ
岡 県 農 業 総 合 試験 場 報
チ レ ン濃 度 と追 熟 温 度 が 貯 蔵 期 間 別 果 実 品 質 に
及 ぼ す 影 響,福
‑38
,1987
10)山
関関係を認めた。
ウイ フ ル ー ッ"ヘ イ ワー ド"の 時 期 別
告,B‑5,pp.31‑34,1985.
理 の 影 響,福
2、 硬 さ と累 積 炭 酸 ガス放 出量 との 間 に 高 い相
1984
奈 川 県 園 芸 試 験 場 研 究 報 告,第29
及 び 貯 蔵 中 の果 実 成 分 の変 化,福
2報)果
とが 分 か った 。
Kiwifruit,
pp. 584-587,
ウ イ フル ー ツの 貯 蔵 方 法 と出 庫 後 の 品質 変
化 に 関 す る試 験,神
さの ば ら
つ き の幅 が 広 くな りなが ら軟 らか くな って い く こ
pp. 149
号,PA.15‑28,1982
通 りで あ る。
1.貯
Atmo-
Sci., 111(1),
G. U, et al : The Effect
of Growing
and Harvest Maturity
on the Storage
Performance
要
1985
Stored in Air or Controlled
spheres, J. Amer.
-153 , 1986
の最 終 目的 を 達 成 す るた め の主 な課 題 と して 残 さ
C2Ha on
J. Amer.
M. L, et al : Ethylene
and Temperature
on Softening
and White Core Inclusions
of Kiwifruit
条 件下 で の 炭 酸 ガス放 出速 度 の測 定 な どが 本研 究 、
Ⅴ摘
1984
of 2% 02 and Varying
Concentrations
of CO2 with or without
the Storage Performance
of Kiwifruit,
が お こ って い る と考 え られ る 。
の決定
M. L, et al : Effect
67
J. Amer. Soc.
川
明:追
ナ果 肉硬 度 の 推定,農
熟 温度 ス ケ ジ ュ ール か らの バ ナ
業 機 械 学 会誌,45(2),PP.229‑
234,1983
15)天
野辰 哉,他:果
実 の 追 熟 自動 制 御 装 置 の開 発,農
械 学 会 誌,54(2),pp,99‑104,1992
(原 稿 受 理 平 成3年3月1日
・質 問期 限平 成4年7月31日)
業機