(前回はこちら→「新型コロナ下で『個食のグルメ』はアリですか?」)
2021年2月17日、日本でもファイザー/ビオンテックの新型コロナワクチンが医療関係者を対象に接種が開始されました。言ってみれば、この日とこれからのために『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』を出していただいたわけですが、いよいよ。
峰:はい、いよいよですね。
峰先生は1月23日に、米国でモデルナのワクチンを接種しています。実は、この本を作っていた時点では、このワクチンをはじめとする新型ワクチン(mRNAワクチン、DNAワクチン)、すなわち「核酸ワクチン」について、かなり慎重な姿勢を取られていましたよね。本を読んだ方に、改めてご説明いただけますでしょうか。
峰:そうですね。昨年春から夏にかけてYさんのインタビューに答えていたころは、核酸ワクチンについてのヒトでの大規模な実証データはなかったので、かなり慎重に考えていました。核酸ワクチンは理論や理屈としてはもちろんちゃんとしているのですが、何より大規模にヒトに接種するのが初めてで、実地の情報については何もない状況でしたよね。そんな状況下で「安心して打ちましょう」と言うのは、無理です。実証データがないのに「大丈夫」「安全だ」と言う、それはどう考えても無責任でしょう。
そして、本の校了(最終の締め切り)を迎えた11月に入って、ファイザー/ビオンテックやモデルナなどが、「第3相試験」と呼ばれる大規模な試験の最終結果を続々と公開し始めました。本が出るぎりぎりのタイミングで、最後まで「どのくらい肯定的に見ることができるのか」を巡って、やりとりをさせていただいた記憶があります。
峰:試験の結果は極めて良好でしたが、今後も情報の公開が進み、実際に接種が始まった国の様子を見ることができるならば、それを踏まえて「これなら大丈夫」と言いたいと思いました。本では春・夏のインタビューよりはずっと肯定的な表現になりましたが、「人類史上初の試みであり、大規模な社会的人体実験である」という指摘などはそのまま残しています。実際、第3相試験では検出されなかったアナフィラキシーは実際の使用許可後の投与で明らかになっていますし、実際どういう規模でどういう実証がされているのか、これはリアルワールドでは非常に重要です。
社会的人体実験…かなりキツい言い方ではありました。事実はそのとおりですが。
峰:はい。そして現時点での新型コロナのワクチンに対する自分の評価は、本を書いた時点よりずっとずっとポジティブになっています。自分で接種に踏み切ったのもそのためです。
ですが、「だからあなたも受けなくてはなりません」とは私は申し上げません。情報を基にどういう判断をするのかはあくまでその人、個人個人が行うべき行為だと思いますので。
現時点での新型コロナワクチンへの峰先生の評価を、シートにしていただきました。
新型コロナに感染するリスクと、ワクチンの副反応のリスク、打つベネフィットと打たないベネフィットを比較して、峰先生は打つほうを選ばれたと言うことですね。先日のウェビナー(アーカイブがご覧になれます、ご登録はこちら)で聞かせていただきましたが、接種に踏み切る大きな要因となったのは、YouTubeなどで公開されている、ワクチンについての公聴会で、専門家による真摯で深い議論が行われていたことも大きかったと。
峰:はい。「ここまで考えたのか、調べたのか」と驚くようなことがいくつかありました。実際の試験の実施方法や結果の確からしさ、解釈への審査だけでなく、将来の倫理的観点や承認プロセスそのものへの言及なども含め、とにかく透明性も高く、網羅性も高い議論がなされていた。投票の内容もすべて見えて、これはすごいなと思いましたね。
検証の徹底と議論の透明性の高さが、確信につながったと。
峰:そういうことです。
先日のウェビナーでは、妊婦さんが接種すべきかどうかについての質問もありました。日本産婦人科感染症学会の発表(こちら)で説明されていますが、国によっても考え方や試験結果の解釈などが分かれていて、最終的に「安全」と考えるかどうかは、最後は個人の判断にならざるを得ない。
峰:はい。そのための材料としての情報を提供するのが自分の役割ですし、誰かに選択や決断を強制するものではないと思います。その意味では、疑問や不安の吐露、慎重な意見は大歓迎なんです。その上で「接種しない」という判断をされるならば、もちろん尊重されるべきです。
ですが、とにかく不安を煽ろうとするメディアの姿勢、これはいただけません。
……「ワクチン接種後に死亡0.003% 米国内で1170件」のアレですね。「CDC『関連があるとは認められないが、引き続き調査』」という言葉が、批判が相次いだためでしょうか、あとからメイン見出しにくっついています。テレビ放映時には「ワクチン接種後に死亡0.003% 米国内で1170件」だけが、どんと右上に出ていました。
峰:この数字は、CDC(米国疾病予防管理センター)が出した公のものですが、日本のメディアの扱い方がひどくて、大きな不安を呼ぶものになっています。この見出し、こうつながると「ワクチンを接種したことが原因として亡くなった」と読めてしまうこともあるでしょう。実際には、寿命が来て亡くなられた方なども「ワクチン接種後に死亡」されているわけですが。
「ワクチン接種後」という前後関係と、「ワクチンを受けたことによる」という因果関係のあるなしがごっちゃにされている、ってことですか。
峰:そうです。そして残念ですが、これから日本でワクチンの接種が始まると、こういう意図的……かどうかは分かりませんけれど、「不安を煽る」「印象付ける」「かき回す」ことを目的とした記事やツイートが次々と現れるでしょう。これは間違いありません。
ネタ元のCDCのページを翻訳機能で読んでみよう
そもそも、この「接種後に米国内で1170件」というのはどこから来た数字なんでしょうか。
峰:はい。CDCのこちらのページを見てください。「Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccination」。
私は英語はからっきしなので、Chromeで翻訳してみました。興味深いのでそのまま転載します。ちょっと長くなりますが、非常に歯切れがよくて分かりやすいので、ぜひご覧ください。
◆Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccination
COVID-19ワクチン接種後に報告された選択された有害事象
●What you need to know
あなたが知る必要があること
・COVID-19 vaccines are safe and effective.
COVID-19ワクチンは安全で効果的です。
・Millions of people in the United States have received COVID-19 vaccines, and these vaccines will undergo the most intensive safety monitoring in U.S. history
米国では何百万人もの人々がCOVID-19ワクチンを接種しており、これらのワクチンは米国史上最も集中的な安全性監視を受けます。
・CDC recommends you get a COVID-19 vaccine as soon as you are eligible.
CDCは、資格が得られたらすぐにCOVID-19ワクチンを接種することをお勧めします。
・Adverse events described on this page have been reported to the Vaccine Adverse Event Reporting System (VAERS)
このページで説明されている有害事象は、ワクチン有害事象報告システム(VAERS)に報告されています。
・VAERS accepts reports of any adverse event following vaccination, even if it is not clear the vaccine caused the problem.
・VAERSは、ワクチンが問題を引き起こしたことが明らかでない場合でも、ワクチン接種後の有害事象の報告を受け入れます。
・CDC, FDA, and other federal partners will continue to monitor the safety of the COVID-19 vaccines.
CDC、FDA、およびその他の連邦パートナーは、COVID-19ワクチンの安全性を引き続き監視します。
●Reports of anaphylaxis and death
アナフィラキシーと死亡の報告
・Anaphylaxis after COVID-19 vaccination is rare. If this occurs, vaccination providers can effectively and immediately treat the reaction.
COVID-19ワクチン接種後のアナフィラキシーはまれです。これが発生した場合、予防接種提供者は効果的かつ即座に対応し(※chromeの訳では「反応し」)、治療することができます。
・To date, VAERS has not detected patterns in cause of death that would indicate a safety problem with COVID-19 vaccines.
現在まで、VAERSは、COVID-19ワクチンの安全性の問題を示す死因のパターンを検出していません。
●Reports of death after COVID-19 vaccination
COVID-19ワクチン接種後のアナフィラキシー
・Severe allergic reactions, including anaphylaxis, can occur after any vaccination.
アナフィラキシーを含む重度のアレルギー反応は、ワクチン接種後に発生する可能性があります。
・Anaphylaxis after COVID-19 vaccination is rare. If this occurs, vaccination providers can effectively and immediately treat the reaction.
COVID-19ワクチン接種後のアナフィラキシーはまれです。これが発生した場合、予防接種提供者は効果的かつ即座に治療(※原訳では「反応」)することができます。
・CDC and FDA scientists have evaluated reports from people who experienced a type of severe allergic reaction-anaphylaxis-after getting a COVID-19 vaccine. Anaphylaxis after COVID-19 vaccination is rare and occurred in approximately 2 to 5 people per million vaccinated in the United States based on events reported to VAERS. This kind of allergic reaction almost always occurs within 30 minutes after vaccination. Fortunately, vaccination providers have medicines available to effectively and immediately treat patients who experience anaphylaxis following vaccination. Learn more about COVID-19 vaccines and allergic reactions.
CDCとFDAの科学者は、COVID-19ワクチンを接種した後、ある種の重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)を経験した人々からの報告を評価しました。COVID-19ワクチン接種後のアナフィラキシーはまれであり、VAERSに報告されたイベントに基づいて、米国でワクチン接種された100万人あたり約2~5人で発生しました。この種のアレルギー反応は、ほとんどの場合、ワクチン接種後30分以内に発生します。幸いなことに、予防接種提供者は、予防接種後にアナフィラキシーを経験した患者を効果的かつ即座に治療するために利用できる薬を持っています。COVID-19ワクチンとアレルギー反応の詳細をご覧ください。
●Reports of death after COVID-19 vaccination
COVID-19ワクチン接種後の死亡報告
・FDA requires vaccination providers to report any death after COVID-19 vaccination to VAERS.
FDAは、ワクチン提供者に対して、COVID-19ワクチン接種後の死亡をVAERSに報告するよう要求しています。
・Reports of death to VAERS following vaccination do not necessarily mean the vaccine caused the death.
ワクチン接種後のVAERSへの死亡の報告は、必ずしもワクチンが死亡を引き起こしたことを意味するわけではありません。
・CDC follows up on any report of death to request additional information and learn more about what occurred and to determine whether the death was a result of the vaccine or unrelated.
CDCは、死亡の報告をフォローアップして、追加情報を要求し、何が起こったかについてさらに学び、死亡がワクチンの結果であるか無関係であるか(※編注、これがいわゆる因果関係)を判断します。
・To date, VAERS has not detected patterns in cause of death that would indicate a safety problem with COVID-19 vaccines.
現在まで、VAERSは、COVID-19ワクチンの安全性の問題を示す死因のパターンを検出していません。
・CDC, FDA, and other federal partners will continue to monitor the safety of COVID-19 vaccines.
CDC、FDA、およびその他の連邦パートナーは、COVID-19ワクチンの安全性を引き続き監視します。
・Over 41 million doses of COVID-19 vaccines were administered in the United States from December 14, 2020, through February 7, 2021. During this time, VAERS received 1,170 reports of death (0.003%) among people who received a COVID-19 vaccine. CDC and FDA physicians review each case report of death as soon as notified and CDC requests medical records to further assess reports. A review of available clinical information including death certificates, autopsy, and medical records findings revealed no link with vaccination. CDC and FDA will continue to investigate reports of adverse events, including deaths, reported to VAERS.
2020年12月14日から2021年2月7日まで、米国では4,100万回以上のCOVID-19ワクチンが投与されました。この間、VAERSはCOVID-19ワクチンを接種した人々の中で1,170件の死亡報告(0.003%)を受け取りました。CDCとFDAの医師は、通知されるとすぐに死亡の各症例報告を確認し、CDCは報告をさらに評価するために医療記録を要求します。死亡診断書、病理解剖(※部検)、および医療記録の調査結果を含む利用可能な臨床情報のレビューでは、ワクチン接種との関連は(※を)明らかではありません(※にしません)でした。CDCとFDAは、VAERSに報告された死亡を含む有害事象の報告を引き続き調査します。
この最後の段落が報じられたわけですね。しかし、自動翻訳でも日本語としてとても分かりやすいです。メッセージがとても整理されていて、すがすがしいくらいですね。「言いたいことはこれなんだ、誤解させないぞ」という意思を感じます。グーグル翻訳の性能、そして、もともと言語として英語がそういう性格を持つこともあるのでしょうけれど、前歯にも奥歯にも何も挟まっていないというか。
「誰でも有害事象を登録できる」仕組みがあるワケ
峰:日本の一部大手メディアが取り上げたのは最後の部分ですね。接種後の死亡例を調べたけれど、ワクチン接種との関連は明らかになっていなかった、ということが主題なのに、そこはさらっと「引き続き調査中」として、「1,170件の死亡報告(0.003%)」だけをクローズアップしました。
その死亡報告などが寄せられるのが「VAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System)」、Chromeの翻訳によれば「ワクチン有害事象報告システム」なんですね。
峰:はい、VAERSは、ワクチンで生じたあらゆる有害事象をリポートできるシステムです。今回の新型コロナワクチンはもちろん、あらゆるワクチンが対象になります。
ここには誰がリポートするんでしょう。お医者さんですか。
峰:お医者さんもできますし、一般人も、誰でもできるんです。
え、誰でも?
峰:そうです。ワクチンを接種した後で、発熱でも眠気がするでも身体の痛みでも、なんでもいいんですけれど、何か今までにない異常が起きたらここに報告できるんです。一定割合・数以上のイベント、有害事象が発生しているということが分かったら、調査が行われる。いわば、ワクチンの副反応への国家的な早期警戒システムなんです。
へええ。しかし、誰でも、って、それでいいんでしょうか。
峰:つまり、このシステムは「ワクチンが原因であるかどうか」は問題にしていないんですよ。「不自然な現象がたくさん起こっていないか」ということをいち早くつかまえるのが目的なんですね。
ワクチンとの因果関係は関係なく、何か普段と違う異常が起きたらリポートする。
峰:ここで重要なのが「有害事象」と「副反応」の区別です。
峰:因果関係の有無が問われない事象、よく使われる例ですが「ワクチンを打ったあと雷に打たれた」でも、有害事象になります。一方、医薬品や医療的措置との因果関係が明らかな事象は「副作用」、その中でワクチンを打った場合の副作用を「副反応」と呼びます。
つまり、自然死も、事故も、人とケンカした、でもなんでも、普段と違う異常があれば「有害事象」ということに。
峰:はい、なります。それらを全部ひっくるめて、米国で4100万回以上ワクチンを打った中で、1170人の人が死亡しているようだ、という報告が、VAERSに上げられた、という話です。
これまでの死亡率とか、亡くなった方の年齢や病歴とかが分からないとなんとも言いようがないですね。しかも数字自体が誰でも自己申告で登録できる、という。
峰:はい。
ということは、あの記事を書いた人は。
峰:そもそもこのVAERSが何のためのものなのか知らないまま、目に付いた数字に飛びついたのではないか、と思えます。
でも、そこでちょっと不思議にも思うんです。いかにもデマのネタ元にされそうな、数字が一人歩きしそうなこういうシステムがなぜ必要なんでしょうか。というか、そもそも「有害事象」って、いったい何のために用意された概念、考え方なんでしょう。
「自分たちが気づけない因果関係があるかもしれない」
峰:根本には「我々にまだ見えていない因果関係があるかもしれない」という医療関係者の認識、「自分自身を疑う」という、科学者が持つべき視点があるんです。そして、異常が生じるならば、それを一刻も早く見つけることが重要である、ということですよね。
「もしかしたら見逃していることがあるかもしれない。なんとしても早く気付かねばならない」と。
峰:「有害事象」についてはいろいろな説明ができるんですが、基本としては、あえて因果関係を無視しておかないと、「これは関係がある」「ない」という判断自体に、判断する我々の意図というか、既成概念による縛りができてしまう。すべて公平に認定していくことは現実的に不可能です。
因果関係を認定することに、すでにバイアスがかかる恐れがある。
峰:そうそう。だったらもう、「悪いイベント(事象)は全部収集して比べるというほうがよっぽど公平公正というか、“まずは捉える”ためには正しい方法だ」となるわけですよ。
うーん、理屈では分かるんですがいまひとつピンときません。すみません。
峰:本で紹介(115ページ「核酸ワクチンへの期待と不安」など)した、新型ワクチンの「第3相試験」って覚えていますか。
はい、数万人単位の、普段通りの日常を送るグループを2つ作って、片方にワクチン、片方にプラセボ(偽薬)を打って、効果を比較するという。
※以下は死亡率についての「頭の体操」。東京都の昨年末の発表(こちら)によると、都全体の2019年(1年間)の死亡率(人口千対)は9.0。1000人あたり9人の方がお亡くなりになっている。これを%に直すと、9÷1000=0.009、すなわち0.9%となる。VAERSの「0.003%」は2カ月間なので単純に6倍して年換算すると0.018%だ。ちなみに同時期の日本全国の死亡率は11.2
峰:あれはワクチンの有効性を確認するために行ったわけです。個々の人の生活環境にはそれぞれ差がありますが、ものすごく多くの人を対象にすることで、試験管の中や病院など限られた環境では分からなかった、ワクチンの効果や問題点が見えてくる。それと似ています。日常の中で、自然死や交通事故などはランダムに起こりますが、大量のサンプルを用意すれば、その中での異常な事象が見えてきます。
具体的な例で教えていただけますか?
峰:まったくの架空例ですが、たとえばあるエリアで、交通事故が普段より多く起こっている、という事象があったとします。事故を起こした人の中に、食事の後にある新薬を飲んだ人がかなりの確率でいることが分かった。繰り返しますが架空のお話ですよ。そこから「どうやら薬と、このエリアの名物料理の組み合わせで、急激な眠気が起きることがあるらしい」という仮説ができたりする、かもしれません。
なるほど。これは病院で管理された食事をしていては分からない。
峰:VAERSにはそういう「思いもしなかった因果関係を見つけよう」という意味、狙いがあるわけです。だから、有害事象は誰でもなんでも報告できるようにして、リポートの敷居をぐっと下げている。それこそTwitterのつぶやきと同じで、誰かが何か言ったらそれが全部登録するよ、という話になってるわけです。その数字をそのまま引っ張ってくることに、何か意味があるの、といったら、まあ、ないですよね。
今後も妙な数字を見かけたら、バックデータを当たることをお勧めします。VAERSがもし出てきたら、そういうことか、と理解してください。ちなみにこういう、早期警戒を目的で作られたサービスはVAERSだけではありません。いくつもあります。
英→日ならChromeの翻訳が相当イケていることもよく分かりました。英語が読めないというのは、誤読の言いわけにはもうなりませんね。
峰:そういうことです(笑)。
専守防衛でいいのか? と思ってしまう
こうして経緯を聞けば誤解も解けて納得してもらえると思います。でも、このニュースの「ワクチン接種後に死亡0.003% 米国内で1170件」という見出しだけ見て「怖い」と思った人に「こういう話なんですよ」と聞いてもらえるチャンスがどれだけあるか。暗然としますね。
峰:はい、一番難しいのは、しっかり内容を捉えていただいて考えていただき、理解してもらうこと。これは本当に大変なことです。そして、安心感を培うのは大変なのに比べ、不安をまき散らすのは実に簡単なんです。
そして、不安をまき散らす人に「それは危険なことですよ、やめましょうよ」と言っても。
峰:そう、翻意してもらうのはとてもとても難しい。
攻撃側が圧倒的に有利なわけですよね。峰先生、先ほどのCDCのページを見て思ったんですが、米国の政府機関は日本よりもずっと明確に、はっきりと「ワクチン打つべし」と訴えています。ここまで言われたら、安心感、信頼感がぐっと増すと思います。日本の公式情報は「情報はこれです、あとはご判断ください」という姿勢で、それはそれで立派だと思うんです、が。
峰:はい、日本の公的機関もデマ情報への「防御壁」として頑張っていると思いますけれど、英米の公的機関は積極的に攻めています。「myth busters」というコーナーを設けて、いわゆる都市伝説の類をやっつけていたりもしますよね(こちら)。
きれいなイラストで見せ方がうまいし、ダウンロードして拡散できるようにしています。
峰:あえていうと日本は、正しい側が「専守防衛」なんですよ。「強制してはいけない、印象操作してはいけない」と、キャンペーン的なことをポジティブに捉えることが難しい。ワクチン接種は自己判断だと思いますし、ならば自制すべき点もあるでしょうけれど、あきらかに有害なほうがやりたい放題なので、なんだかなと思います。
殴られっぱなしでいいんだろうか。
峰:良心的なだけでは駄目だと。もう公的機関も今後は多少主観を入れてですね、レコメンドするとか、はっきりと「正しい情報はこれです」と言ってデマを潰しに行くとか。
専守防衛を若干拡大しても……、って、先生、本気でおっしゃってます?
峰:冗談です(笑)。でも、正しければそれでいい、という牧歌的な考え方では医療関係者としての使命は果たせない状況だとは思います。もちろん、有効な反撃材料も出ていますよ。2月15日に厚生労働省が出した「ワクチンの副反応に対する考え方及び評価について」は、とてもいい資料です。特に15~17ページは必読です。
転載してしまいましょう。
峰:自分もひとつの試みとして、こういう取り組みに参加させていただきました。
いいタイミングでのオープンですね。個人的には、科学的に正しいのは当たり前として、センスがあって分かりやすく、面白く、前向きに、なんなら笑ってもらえるコンテンツを作っていくことが、メディアに関わる自分ができる唯一のことだと思っております。
峰:いいですね。明るく、前向きに、開かれたコンテンツ。大事だと思います。こびナビ(COV-Nav)もまさにそういう雰囲気を目指してます。
ワクチンの実際の接種が始まったことで、ここからまた不安を煽るような報道もどんどん出てくると思います。一部のことを大げさに書いたり、印象を操作したり。こういったものを1つひとつ抑えることは実際不可能です。たとえ多くの情報のほとんどはまっとうなものであっても、一部に印象を操作するようなものがあると、影響がとても大きいですね。
できるだけ丁寧に正確な情報を繰り返し発信することも重要ですし、やはりポジティブな形で情報を出せるようにすることがとても大事だと思っています。
ポジティブに、っていうのは大事ですよね。そこで意気投合する峰先生と私が作った『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』、レビュー欄をご覧いただくと、とにかく読みやすさ、明るさ、面白さは、ありがたいことに多くの方から褒めていただいています。偉そうなところが全然ないのも自慢です。そのせいか「この著者はただの若手研究者じゃないか」というご評価も頂戴しました。
峰:「論理を信じよ、人や権威を信じるな」も、この本の言いたいことの1つですからそれでいいのです(笑)。読んで、情報との付き合い方を体得していただける方が、少しでも多くいてくださると、新型コロナと戦うためにもありがたいですね。
「著名な方」のご著書とも併せて、ぜひご一読くださいませ。
打つ前に知っておくべき
これだけの真実
ワクチンのメリットとリスク
新型コロナの致死率はインフルエンザ並み、なのか?
「核酸ワクチン」は去年までは「遠い未来に実現するワクチン」だった
ワクチンの「効く」「効かない」はどこで見る?
「高齢者だけ厳密に」はなぜ非現実的か
新型コロナを巡る数々の話題を、専門家の峰宗太郎先生と、ド素人代表の編集Yの対談形式でまとめた日経ビジネス電子版で大好評の連載が、大幅加筆を経て新書になりました。
「自分の頭で考える」ために必要な知識に絞り、専門家ではない方でも、ネットやメディアが伝える情報の吟味ができるようになる本です。ワクチンの仕組みやそのメリット、リスクをしっかり理解していないと、最悪の場合「日本だけが新型コロナワクチンを打てない国」になってしまうこともあり得ます。無用な不安にさよならして、誰かの話に簡単に流されたりもしなくなる。新型コロナとインフォデミックを遠ざけ、たんたんと勝ち抜くために必要な知識を凝縮しました。是非ご一覧ください。
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