1995年5月5日、地下鉄サリン事件から一月以上たったその日、僕は 紀伊国屋書店から新宿駅東口へ向う途中の 丸の内線の改札近くにあるトイレに入った。 紀伊国屋では研究に必要な本をやっと見つけた。 オウムを語る文章でよく引き合いに出されていた 高橋和巳「邪宗門」と「かもめのジョナサン」の 文庫本も買った。 その夜のニュースで、 僕が入ったその時間、そのトイレに青酸ガス発生装置があった ことを知った。中川智正と林泰男が仕掛けたものだった。 自分も「不特定多数」のうちの一人であることを思い知った。 なにしろあの新宿の地下道は毎日何万人もの 人間が通るところだから、こんな体験は珍しいことではないだろう。 あのころの東京はこういうことが身近であっても決して珍しいことではない。 そんな雰囲気に包まれていた。しかしまだどこかで他人事のようにも思っていた。 この本は地下鉄サリン事件の被害者に約一年をかけて