エアコンや扇風機、そして工事のノイズが大好きだ。学生時代は、エアコンが付いていないときの無音が苦痛で仕方なく、エアコンが稼働しはじめると嬉しくてしょうがなかった。
理由は、慢性鼻炎かつ軽度の過敏性腸症候群によって恥ずかしい音を発してしまうから。小学生のころは音についてまったく気にしていなかったが、中学になってから鼻炎のせいで「鼻息が荒い」とか「寝てるといびきかいてうるさい」など指摘されて気になるようなった。そして、過敏性腸症候群のせいでお腹がよくごろごろ鳴るようになってからは、病的なくらいに音を気になるようになってしまった。
だから、教室に鳴りひびくエアコンのゴゴゴゴゴという稼働音は私にとっての救世主のようなものだった。教室にエアコンのスイッチがあったので勝手に付けていた。みんなはエアコンがうるさいといっていたが、私はエアコンがうるさいときほど私立に通えたことを感謝にしたときはない。
で、一昨年に実家を出て一人暮らしを始めた。悲しいことにアパートの壁はコンドーム並みに薄かった。レオパレスの都市伝説がまったく笑えないくらいに。
隣人は常識人だったのが、それでも壁が薄すぎたせいで騒音によるストレスがたまりまくった。そして、そのせいで、パニック発作を始めとするいろいろな不安障害を起こした。私は自分が出す音にも敏感であるが、他人が出す音にも敏感なのだ。大きい物音がするとかなり動悸がして、寝るときにちょっとでも騒音がするとアホみたいに目が覚める。あるとき、騒音が酷くて部屋のなかでパニック発作を起こしてからは、特に敏感になってしまった。
もちろん、対策をした上でだ。耳栓、ノイズキャンセラーは必須。そもそも起きているときは常に音楽を聞きつづけている。音楽に関して言えば、騒音に対抗するために出会ったのがシューゲイザー。最高のノイズである。ノイズミュージックはうるさいからやだ。
それと、エアコンや扇風機の音はなぜか気にならないから、季節に関係なく一年中ずっと稼働させている。最近では消音をウリにした扇風機やエアコンがあるが、一部の人間にとってはうるさいからこその価値があるのだ。
そうして対策したところで、ほんとちょっとした音が相当なストレスになってしまう。対策しているからこそ気になってしまうという理由もあるが、対策しないともっと気になるのでどうしようもない。
はじめて精神科を訪れるくらいに騒音に苦しんでいたあるとき(正確には騒音ではない)、近所で工事が始まった。一軒家の取り壊しと、空き地でのマンションの建設が同時に開始されたのだ。これが福音だった。工事音が苦手なら不幸でしかないのだろうけど、私にしてみれば騒音よりノイズが増えたので本当に助かった。正直、この工事がなければうつ病になっていたかもしれない。いやもっと最悪のシナリオだってありえた。
現在はというと、ほとんど騒音がない部屋に住んでいる。家賃はそれなりに高いが、それでも日々を安心して過ごすためになら仕方ない。
騒音はこわいがノイズが好きな私にとって、これから先の日本は消音先進国になってますます生きづらくなっていくんだろう。せつない。
そして今日、私が住んでいる部屋の真下に誰かが引っ越してきた。それだけでもう胃が痛い。騒音はまじでこわい。