ベネズエラ、1世紀以上経て隣国ガイアナ領土の7割は「自国領」…経済苦境で原油権益狙いか
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南米隣国 紛争再燃
独裁色を強める南米ベネズエラが、隣国ガイアナの領土の約7割を自国領だと一方的に主張し、長年の領土紛争を再燃させている。米国の制裁などで経済苦境に陥ったベネズエラは、ガイアナで最近確認された原油権益を狙っているとみられる。国境付近で大規模な軍事演習を行うなど緊張が続いている。(ジョージタウン 大月美佳、写真も)
「無効」主張
焦点となっているのは、ガイアナ西部のエセキボ地域だ。面積約16万平方キロ・メートルで大半が密林に覆われ、原油や金、天然ガスなどの資源に恵まれる。1899年のパリ仲裁裁定で当時英領のガイアナに併合され、この国境を最終決定として独立したが、ベネズエラは裁定を「無効」と主張していた。
裁定から1世紀以上を経て、ベネズエラはかつてない強硬策に出る。ガイアナの意向を無視したまま、昨年12月3日にエセキボ併合の是非を問う国民投票を行い、賛成票が95%だったと発表した。「これが私たちが愛する地図だ」。ニコラス・マドゥロ大統領はエセキボを自国領に含めた新たな地図を公表した。エセキボの住民に対する身分証の発行も始めた。これに対し、ガイアナのイルファーン・アリ大統領は「エセキボは隅から隅まで我々のものだ」と猛反発している。
鉱脈渇望
ベネズエラが一方的な主張を強めた背景には、2015年以降に相次いだ油田の発見がある。米石油大手エクソンモービルがガイアナ沖で発見して以降、30以上の油田が確認され、埋蔵原油量は110億バレルを超えるとされる。南米最貧国とされたガイアナの22年の経済成長率は世界最大の62・3%に上る一方、経済苦境に陥るベネズエラにとってエセキボ沖で開発が進む鉱脈は、喉から手が出る存在だったようだ。
両国の大統領は昨年12月14日、対立を懸念したブラジルやカリブ諸国の仲介で会談し、武力行使や威嚇をしないことで合意した。しかし、年末に旧宗主国の英国が哨戒艇をガイアナ沖に派遣すると、ベネズエラは「敵対的挑発行為だ」と再び反発し、国境付近に5000人以上を動員して軍事演習を行った。年明けに米政府高官が防衛協力強化のためガイアナを訪問したことも刺激し、ベネズエラ軍司令官はエセキボに続く道路の整備を進めていると明らかにした。
支持集め
ベネズエラの一連の行動は、今年後半に予定される大統領選を見据えたマドゥロ氏の支持集めの一環との見方が強い。経済危機の中で兵士の士気は低く、戦闘態勢は整っていないとも指摘されるが、ベネズエラ政治に詳しいジェトロ・アジア経済研究所の坂口安紀主任調査研究員は「大統領選を延期する口実にするため、国境付近で衝突に発展するリスクはゼロではない」と分析する。
米英などがガイアナを支持する一方、中国は対立する両国いずれとも良好な関係にあるため、様子見を決め込む。住民投票でウクライナの4州を一方的に併合したロシアのプーチン大統領はマドゥロ氏との電話会談で、ベネズエラに対し「主権強化への支持」を表明した。
ガイアナ建設ラッシュ「新しいドバイ」…オイルマネー潤沢
オイルマネーで財政が潤沢になった人口約80万人のガイアナは、今や「新しいドバイ」と呼ばれる。首都ジョージタウンの高速道路脇には富裕層向けの高級住宅が並び、建設ラッシュに沸く。地元メディアによると、今後数年間でホテル大手ハイアットやヒルトンなど少なくとも八つのホテルが完成するという。中国やインド、豪州などが積極的に融資している。
一方、街中では、ガイアナ国旗や「エセキボは私たちのものだ」と公用語の英語などで書かれた看板が目立つ。ベネズエラに対する国民の反発は強い。
エネルギー関連事業者向けの商工会議所は、2017年に設立された。従業員のファイズル・カーンさん(66)は「ベネズエラは私たちの発展がねたましいのだろうが、エセキボを諦めることはない」と語った。
車とフェリーを乗り継いで到着したエセキボでも、電柱や民家に国旗がなびく。フェリー発着所から約60キロ・メートル北の都市チャリティーから先は密林だ。道路が整備されていないため、移動は小舟を利用するしかない。経済苦境のベネズエラから避難した人は21万人を超え、川沿いでも大勢が野宿していた。「スペイン語を話す人たち」と呼ばれていた。
武器購入などでベネズエラと関係が深いロシアがウクライナを侵略したことも住民を不安にさせる。農業を営むローズ・ベンさん(58)は貴重品をリュックサックに入れ、いつでも避難できるようにしている。「ただ平和に暮らしたいだけです」と話していた。
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