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【コラム】金子達仁

インドネシア監督更迭は自国の切り捨て 後任にクライファート氏が就任

[ 2025年1月10日 10:00 ]

24年1月、FIFA表彰式に夫人と出席したクライファート氏(AP)
Photo By AP

 スポーツは国境を越える。いがみあっている国同士が、同じ競技に熱狂するのは、決して珍しいことではない。

 ただ、個人の人気が国境を越えるのはもう少し難しい。過去、日本のスポーツ界は数多(あまた)の国民的英雄を生み出してきたが、その知名度、人気は、あくまでも日本に限ってのものだった。

 それだけに、いま台湾で起きている現象は興味深い。

 台北市における人気観光スポットのひとつでもある超高層ビル「台北101」の89階展示場では、「夢想高飛特展」なるイベントが開催されている。MLBで活躍した台湾選手のユニホームやサインボールが展示されている中、物々しい警備のもと、行列の最終目的地となっていたのが大谷翔平の50号ホームラン記念球だった。

 記念球を巡る争奪戦は日本でも話題になったが、最終的に、台湾の企業が6億円超の金額で落札し、台北で展示しているのだという。

 確かに台湾は親日で知られてはいる。ただ、自国民ではない選手のために企業が大金を払い、かつ、そのことが集客力のあるイベントとして成立しているという事実には、驚かされた。前々日、わたしも足を運んだのだが、日本からの観光客は明らかに少数派で、中国語、韓国語を話す人たちの方が圧倒的に多数派だった。改めて大谷翔平の別格ぶり、それもとてつもない別格ぶりを思い知らされた気分だった。

 よく、隣の芝生は青く見える、といわれるが、隣からの視線の方が、自分たちよりも的確にとらえている、ということもあるのかもしれない。新年早々、インドネシアから飛び込んできたニュースに接しての感想である。

 W杯予選中断中、中東や東南アジアでは、W杯とは直接関係のない、しかし伝統ある地域選手権が開催されていた。W杯予選を戦っているチームと、すでに敗退しているチームとでは明らかにモチベーションの差がある大会ではあるのだが、そこでの早期敗退を理由に、インドネシア協会は韓国人の申台竜(シンテヨン)監督の更迭を発表したのである。

 思いもよらぬ発表に韓国メディアは激怒しているようだが、正直、わたしも驚いた。W杯予選におけるインドネシアは十分健闘しているし、五輪予選でも申台竜監督の指揮下、韓国を破るなど大躍進を見せた。内容的にも、バーレーンや中国よりははるかに可能性を感じさせるサッカーをやっていた印象がある。

 しかも、後任としてバルサなどでプレーしていたクライファート氏の就任が発表された。ビッグネームではあるが、監督としての実績は乏しく、インドネシア、さらにはアジアに対する知識が豊富とは思えない人物を、最終予選の正念場にもってきたわけだ。

 もちろん、主力のほとんどがオランダからの国籍変更選手という実情を考えれば、多くの選手と通訳を介さずに会話できる人物の抜擢(ばってき)は理に適(かな)っているのかもしれない。ただ、これは同時に自国でプレーしている選手の全面的な切り捨てを意味しないか。自国リーグから代表への道を断絶させることを意味しないか。インドネシア語を理解しない人物に率いられた、インドネシア語を理解しない選手による代表チームを常態化させることにつながらないか。

 全世界から才能をかき集め、強くはあったがまるで中国らしさを感じさせなかった金満チームは、あっさりと消滅した。根のない草は枯れる、と隣の人間としては思うのだが。(金子達仁=スポーツライター)

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