焼き物職人の間で広まった「瀬戸焼きそば」
秋田の「横手やきそば」や群馬の「上州太田焼そば」、静岡の「富士宮やきそば」など全国区のご当地焼そば。愛知県瀬戸市にも超個性的な焼そばがあるのをご存じだろうか?
ってことで、瀬戸市へ。瀬戸市は「せともの」の語源にもなるほど陶器の町として全国的に有名。焼そばも地場産業である製陶業の発展とともに生まれ、市民の間に広まっていったらしい。
その名も「瀬戸焼そば」。
えっ? 名前だけでは特徴が伝わりにくいって? では、「瀬戸焼そば」でまちおこしに取り組む「瀬戸焼そばアカデミー」の会長、鈴木忠さんに解説していただこう。
「昭和30年代、瀬戸市は“尾張の小江戸”と呼ばれ、製陶業は隆盛をきわめていました。当時、焼き物の生産に携わる多くの職人達は月に2回しか休みが取れませんでした。深川神社周辺には多くの飲食店が並んでいて、なかでも豚肉を醤油で甘辛く煮たタレで味付けした焼きそばは、昼夜通した窯火の番で失った塩分を求める職人に人気だったのです」(鈴木会長)
▲深川神社
「瀬戸焼そばアカデミー」の定義する「瀬戸焼そば」とは以下の通り。
- 麺は、蒸し麺を使用
- 味付けは、豚の煮汁や醤油ベースのタレを使用
- 具材は、豚肉とキャベツが主体
- せともの(瀬戸焼)の器を使用。ただしお持ち帰りは除く
スーパーなどで見かける焼そばの麺の多くは黄色だが、「瀬戸焼そば」に使う蒸し麺は茶色。これは、しっかりと蒸すことで「かん水」が焦げて茶色になるという。水分をよく吸収し、独特の食感があるのも特徴だ。
「瀬戸焼そば」はソースではなく、豚肉を醤油で甘辛く煮たタレが味のベースなのだ。鈴木さんによると、当時はソースが高価で、身近にあった醤油を代用したという説もあるという。
また、当時は深川神社の参道で売られていたため、「宮前の焼そば」と呼ばれていたそうだ。
ここが深川神社の参道にある「宮前地下街」。思いっきり地上にあるのだが、隣接する宮前公園の高さから見て、下にあるためにその名が付けられたそうだ。そんなことから、「瀬戸焼そば」を「地下街の焼そば」と呼ぶ人もいる。
「瀬戸焼そば」の発祥店は定かではないが、「宮前地下街」の一角にのれんを掲げていた「福助」というお店がルーツという説がある。しかし、店主が亡くなったことから、瀬戸市民に惜しまれながら'02年に閉店。今ではそれを確かめる術もなくなった。
麺に豚のうま味が染み込んで……
今は亡き「福助」の味を再現していると評判なのが、深川神社からほど近い末広町商店街にあるスーパー「サンワフード 末広店」。
社長の猪塚雅直さんは、「福助」の店主夫妻と親交があり、レシピを教わったという。
そこで猪塚社長にさっそく作っていただいた。
熱々の鉄板の上にキャベツを敷きつめて、その上に麺をのせる。キャベツの水分を麺に吸わせるためだ。
そして、鰹だしなどと合わせた醤油で豚肉を煮込んだタレをかけて、手際よく焼き上げる。
「いかにして麺にタレを吸わせながら焼くのかがポイント。水分が多いとベチャベチャになるから、それを見極めることだよ」と、猪塚さん。
で、完成。
「サンワフード 末広店」の「瀬戸焼そば」は1パック 324円と激安!
それよりも驚いたのは、味。醤油味なのでさっぱりしている上に、麺の一本一本に豚肉のうま味がしっかりと染み込んでいるのだ。
このうまさ、スーパーの惣菜レベルを完全に超えている!
お店情報
サンワフード 末広店
住所:愛知県瀬戸市末広町3-7
電話番号:0561-21-8614
営業時間:9:30~19:00
定休日:無休
洋食シェフのはまたひと味違う!
「瀬戸焼そばアカデミー」には、専門店のほか、喫茶店や中華料理店、居酒屋など10店舗以上が会員登録している。なかでも、異彩を放っているのが東寺山町にある「Cafe de BROTHER SHIP」だ。
店主の石谷正則さんは、名古屋市内の外資系ホテルの洋食部門で10年間働いた後、'05年に独立して「Cafe de BROTHER SHIP」を開店させた。
ホテル時代に培った経験を生かして、サラダやスクランブルエッグなど常時6品以上が食べ放題の「朝食バイキング」(550円・1ドリンク付き)や、メインに肉か魚を選ぶ手作りの「シェフお任せランチ」(850円※平日限定)は人気を呼び、またたく間に評判店となった。
「『瀬戸焼そばアカデミー』が発足したと聞いて、昔食べた宮前焼そばを思い出しました。そして、自分のお店でも提供したいと思って'12年に入会しました」(石谷さん)
石谷さんは味の記憶を辿り寄せつつ、家族にも意見を聞きながら試作を繰り返した。そして、完成したのが「瀬戸焼そば」(500円)。
「洋食出身の自分ならではの焼そばができないかと考えて、隠し味に赤ワインやザラメ、ハチミツを使っています。そのため、味に深みが出て、より美味しくなります」(石谷さん)
ソース焼そばと比べて、醤油味の瀬戸焼そばはさっぱりしているが、ココのはさらにさっぱりとした口当たり。とはいえ、タレに溶け込んだ豚肉のコクがスッと消えるのではなく、いつまでも楽しめる感じ。
もう、メチャクチャうまい。
プラス200円でご飯と赤だし、またはドリンクが付くセットに。プラス350円でご飯と赤だし、ドリンクが付くのもウレシイ。
お店情報
【閉店】Cafe de BROTHER SHIP
住所:愛知県瀬戸市寺山町15
電話番号:0561-85-5524
営業時間:7:00~19:00
定休日:火曜日
※このお店は現在閉店しています。
※飲食店の掲載情報について。
B-1グランプリで知名度UPを
ところで、地元では知らない人はいないほど有名な「瀬戸焼そば」だが、全国はおろか、県内でもまだまだ知名度は低い。そこで「瀬戸焼そばアカデミー」は、'13年にご当地グルメによるまちおこしの祭典「B-1グランプリ」を主催するご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会、通称“愛Bリーグ”に加盟。2015年10月には青森県十和田市で開催された「B-1グランプリ in 十和田」に出展した。
また、2016年12月3日(土)、4日(日)には東京・臨海副都心で開催される「B-1グランプリ スペシャル in 東京・臨海副都心」に、2017年2月には静岡県富士市で開催される「B-1グランプリ 東海北陸支部大会」へ出展予定とか。
「『瀬戸焼そばアカデミー』が発足して6年目になりますが、まだまだ結果を出せていないと思っています。アカデミーのメンバーは、私も含めて皆、ボランティアで活動しています。一人一人の努力が報われることを願ってやみません!」(瀬戸焼そばアカデミー 鈴木会長)
一度食べたら絶対にハマる「瀬戸焼そば」。話題・知名度ともに全国区になる日も近い!?
取材協力:瀬戸焼そばアカデミー http://www.setoyakisoba-ac.com/
書いた人:永谷正樹
名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。