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Indegnità e diseredazione: Profili storico-giuridici

2019

italianoIl saggio e uno studio sull’evoluzione storico-giuridica dell’indegnita e della diseredita. Le autrici evidenziano gli elementi di continuita e discontinuita attraverso l’analisi delle leggi e della giurisprudenza, prestando attenzione al cambiamento di mentalita della dottrina e dei giudici. EnglishThe essay is a study about of the historical-juridical evolution of unworthiness and of disinheritance. The authors highlight the elements of continuity and discontinuity through the analysis of laws and Jurisprudence, paying attention to change of mentality from doctrine and the judges.

土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. 2019年9月台風15号による 神奈川・千葉・茨城の高波被害および 東京湾の波浪追算 高木 1正会員 泰士1・Md Rezuanul ISLAM2・Le Tuan ANH3・ 高橋 篤平4・杉生 高行5・古川 郁貴6 東京工業大学准教授 環境・社会理工学院(〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1) E-mail: [email protected] 2東京工業大学 環境・社会理工学院博士課程(〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1) E-mail: [email protected] 3東京工業大学 環境・社会理工学院博士課程(〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1) E-mail: [email protected] 4東京工業大学 環境・社会理工学院修士課程(〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1) E-mail: [email protected] 5東京工業大学 環境・社会理工学院修士課程(〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1) E-mail: [email protected] 6東京工業大学 環境・社会理工学院修士課程(〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1) E-mail: [email protected] 2019年9月9日に東京湾を直撃した台風15号の調査結果を速報する.神奈川では相模湾側で大きな高波被 害は生じていなかったが,東京湾では直立護岸を乗り越える越波で被害が生じていた.千葉では九十九里 浜ビーチ内の施設が被害を受けていた以外,目立った高波被害はなかった.一方,強風被害は激甚で,屋 根の飛散や電柱の折損など各地で被害が生じていた.茨城でも高波被害は見かけなかったが,防波堤が堅 固であることや,震災後の堤防改修が強靭化に寄与している.波浪追算の結果,ピーク波高は横浜で3.4m, 東京や千葉で2.6mと推算された.湾内で急速に発達した高波が1m以下の高潮と相まって局地的な被害を もたらした.関東に上陸した過去の台風との比較では,今次台風はゆっくりと進んだ小型で強い台風と特 徴づけられた. Key Words : 2019 Typhoon Faxai, field survey, Kanto, Tokyo Bay, high wave impacts, wave hindcast, typhoon characteristics 1. はじめに この台風により,関東一円で約930,900戸の停電が発生 し,千葉県では10日後においても 約31,000戸で停電が続 いている.全壊や半壊の住家被害は1,173戸に上ってお 2019年9月5日に発生した台風15号(Faxai)(以降,15 号と呼称)は,9月7日に強い勢力で小笠原諸島を北進し, り2),この件数は近年関東に影響したその他の強い台風 9月8日夜には非常に強い台風に発達して,伊豆大島に接 と比較しても著しく多い3)(表-1).一方,床上浸水の 近した.勢力を保ったまま,9月9日午前3時前には三浦 件数は相対的に少なく,今回の台風は大雨による被害よ 半島付近を通過し,およそ時速25kmの速度で東京湾上 り,強風による被害が甚大であったことがうかがわれる. を北北東に進んだ .勢力を若干弱めながらも強い台風 東京湾に面した横浜市金沢区の臨海部では高波で大規模 のまま早朝5時頃に千葉市周辺に上陸した.その後,成 な浸水が発生し,工業団地で少なくとも399社で製造機 田市や行方市周辺を進み,鹿嶋市辺りで太平洋に抜けて 械などに被害が生じている4).横浜市鶴見区の大黒ふ頭 いる(図-1). や中区の本牧ふ頭など港湾区域においても高波被害が 1) 12 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. けて示し,目視で判断した被害レベルを3段階で分類し た. (1) 神奈川県 神奈川では台風通過10~11日後に,横浜から真鶴の範 囲で調査を実施した.明らかな高波被害が東京湾に面し た横浜市中区や金沢区の港湾区域で確認された.本牧ふ 頭(図-2のKG-1)や横浜ベイサイドマリーナ近く(KG2)では,越波により護岸上のフェンスが倒れていた. KG-1地点では広い範囲でフェンスが倒れていたが,KG2では被害は護岸隅角部1か所のみであった.KG-2地点 の護岸高さは,海面上2.7m(計測日時9/19 12:30)であっ た.横浜市金沢区で浸水が発生し始めたのは,9月9日午 前2時頃と推測される5). 同時刻の横浜新港検潮所(海 上保安庁所管)の観測潮位T.P.+0.51mを基準に潮位補正 図-1 気象庁ベストトラックデータに基づく2019年台風15号の を施すと,観測潮位上1.95m,すなわちT.P.+2.46mまで少 中心経路,中心気圧,最大風速および暴風域1).赤,青, なくとも波が達したと推定される. 灰色の塗潰し円は中心気圧の違いで,各々955, 960, 970 金沢区福浦地区では,東側の護岸の一部が決壊し,越 hPaを示す. 波・越流により背後の工場地区で大規模な浸水被害が発 表-1 台風番号 生した.このため休業状態の工場が数多く見受けられた. 関東に影響した近年の代表的な台風2),3) 台風名 死者/行方 不明者 KG-3地点ではパラペットが倒壊し,その背後の公衆ト 住家被害 (全壊+ 負傷者 イレで地面より約4mの高さの窓ガラスが破損していた. 床上浸水 半壊) 強風が原因の可能性も否定できないが,陸側すなわち風 200003 Kirogi - 8 3 425 200115 Danas 8 48 13 112 200221 Higos 4 108 76 307 れていた状況より判断すると,波による可能性が高いと 201721 Lan 8 245 498 2794 考えられる.国土地理院の数値標高モデルによると周囲 201915 Faxai 1 145 1173 74 の標高は+3m前後であるため,越波による水塊が護岸背 下側の壁部分の窓ガラスを含めて,何枚ものガラスが割 後でT.P.+7mくらいまで到達したと予想される.浸水発 発生した.フローティングドックの橋桁への衝突や係留 生時の潮位偏差は0.7m程度であり,極端に高かったわけ 中の旅客船の漂流,貨物船の走錨など船舶の被害も生じ ではない.このため大規模な浸水の主要因は,高波やウ ている. ェーブセットアップで打ち上がった海水がパラペット倒 町中の建物や都市インフラなどと比べると,海岸は人 壊部より大量に流れ込んだことによるものと考えられる. 目につきにくく,情報も少ないため,研究者が調査をま 八景島寄りの福浦地区南側の護岸・パラペットには目 とめない限り被害の全体像が把握しにくい.そこで本稿 立った被害は見られなかったが,その前面の消波ブロッ では,15号の直後に,筆者らが神奈川,千葉,茨城の海 クの一部で破損が確認された(KG-4).また,パラペ 岸線を踏査した結果にもとづき,各地の状況を速報的に ット背後約5mの歩道沿いには,緑地を保護する法尻ブ 報告する.また,東京湾の一部の場所で高波被害が発生 ロック(0.9m×0.3m×0.15m)が多数飛散していた.越波 したため,波浪推算モデルを使用して湾内で発生した波 浪を追算した.他の台風との比較も行い,今次台風の特 による被害と考えられる.パラペットの天端高は計測時 点(9/19 14:00)で海面上+4.1mであった.前述と同じ方 異性について検証を試みる. 法で潮位補正を行うと,T.P.+3.83m(観測潮位上3.32m) となり,波は最低でもその高さを乗り越えたことになる. 2. 各地の被害状況 このように,福浦地区では東側(KG-3)でパラペッ 本節では,神奈川,千葉,茨城の各海岸を現地踏査し トの倒壊が生じていたが,南側(KG-4)では生じてい なかった.Google Earthの衛星画像で確認すると,南側の た結果に基づき,筆者らが確認した範囲で被害の概要を 護岸は約半分の区間で消波工が設置されているが,東側 示す.台風が強い勢力で接近したものの,ほぼ無被害な は消波工が配置されていない.波当たりの違いの他,消 場所も多かったため,そのような状況も併せて報告する. 波工の有無がパラペットの被害や越流に関係していた可 各地の状況を図-2(神奈川),図-3(千葉,茨城)に分 能性も否定できない.ただし,南側の消波工もパラペッ 13 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. トが露出した不完全消波であった.このような条件では 護岸前面を完全に消波工で被覆した条件と比較すると, 越波量や波力が大きくなることが実験により明らかにな っている6). 実際に,過去にはむつ小川原港の防波堤や 宇部空港の護岸が高波により大きな被害を受けたが,不 完全な状態の消波マウンド上で強大な衝撃波力が作用し た結果と考えられている6),7). 相模湾に面する横須賀市秋谷港(KG-5)は,2017年 台風21号(Lan,以下2017年21号)では防波堤のパラペ ットの一部区間が倒壊する被害を受けていたが7),15号 では被害は生じていなかった.ただし,港内の物揚げ場 で越波が生じたためか,海面上約1mの場所に枝木が飛 散していた.付近にいた漁師からも高波によるうち上が りであることを聞いた.2017年21号により甚大な越波被 害を受けた江の島においても8),今回は目立った被害は 確認されなかった(KG-6). 茅ヶ崎漁港西隣の海岸では流木,枝木がほぼ一直線上 に漂着していた(KG-7).ハンディー光波(TruPulse 360; Laser Technology, Inc.)で計測したところ,その位置は 汀線からおよそ37mの位置,海面上1.7mであった(計測 日時9/20 9:20).近隣の小田原地点の天文潮位より推定 すると,標高 T.P.+2.05mに相当する.台風時の観測最高 潮位(気象庁小田原検潮所)は,9月9日午前1時10分の T.P.+1.74mであったため,漂流物はピーク水位に近いと ころに滞留したことになる. 大磯港(KG-8)やそれ以西では高波の痕跡は確認さ れなかった.2007 年台風 9 号(Fitow)や 2017 年 21 号, 2019年台風21号(Hagibis)の際に一部区間が崩壊した西 湘バイパスも,15 号では目立った被害は生じていない. また,伊豆半島の真鶴港や熱海(静岡県)でも明確な高 波被害は確認されなかった. (2) 千葉県 千葉では台風通過 4 日後に,銚子から南房総までの九 十九里浜・外房の範囲,館山から金谷までの南房総・内 房の範囲で調査を実施した.ただし,行程の都合上,千 葉市など東京湾奥は調査できなかった.房総半島の南端 に向かうにつれて屋根瓦の飛散や電柱の倒壊が多く見受 けられるようになり,海岸に近い場所では屋根自体が吹 図-2 神奈川県における調査地点の状況 き飛んでいた建物もあった.台風接近・通過時の強風の すさまじさを物語っており,このように千葉では広い範 九十九里浜や外房,南房総,内房の海岸では,流木の 囲で強風による被害が特に顕著であった. 漂着・打ち上がりを確認したが,海岸堤防や防潮堤など 銚子漁港,片貝漁港(図-3 CB-1),勝浦漁港,小戸 インフラに大きな被害は見られなかった.今回の調査で 漁港,金谷港などを踏査したが,筆者らが確認した範囲 は,九十九里浜ビーチの管理施設の扉が打ち破られてい では護岸や防波堤など外郭施設で目立った被害は見られ る状況(CB-2)を目撃したが,これが千葉において確 なかった.房総半島の先に位置する相浜漁港の港内では, 認できた高波被害の唯一の事例であった.ハンディー光 明らかに風による建物損壊も確認したが,この被害に高 波を用いて計測を行った結果では,この施設は汀線から 波が影響したかは不明であった(CB-3). およそ104mの位置にあり,破損した窓ガラスの中央の 14 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. 高さは海面上4.1mであった(計測日時9/13 9:30).窓ガ 平行に北進した珍しい台風で,発生波浪も相当に大きか ラスより1.5mほど上の室内天井には,砂が全面に付着し ったはずである.このように直近の2つの強い台風でと ていた.高波が扉を打ち破り,砂を大量に巻き込んだ海 もに大きな被害が生じていなかった状況を考えると,茨 水が建物内に充満したことが原因と推察された. 城の海岸は神奈川県や千葉県と比べても高波への備えが 筆者らは関東広域で大きな被害をもたらした2017年21 進んでいるといえる.これは前述したように冬季の高波 号の直後にも千葉・房総で調査を行っているが ,2つの に対する防護水準が高いことのほか,震災復興で防波堤 台風を比較すると,千葉の高波被害については2017年の や海岸堤防の改修が進んでいるためと考えられる. 8) ときの方が明らかに甚大であった.例えば,2017年21号 では高波により被害を受けて金谷港の護岸が大きく陥没 していたが,今回は同じ場所で目立った被害は見られな かった(CB-4).ただし,15号直後も強風による建物 被害は金谷港において生じていた.また,2017年21号の 際には,房総半島南端の岩礁海岸で約80m波が遡上し, 標高約6mの丘陵上のレストランが高波被害を受けてい たが8),今回は同じ場所で高波被害は見られなかった. 建物の外壁に損傷を被っていたが,これは強風被害と判 断された. (3) 茨城県 茨城県では台風通過3日後に県北の日立から調査を始 めて,利根川河口に位置する神栖市波崎までの範囲を踏 査した.台風は千葉市に上陸した後,茨城県・鹿嶋市辺 りを通過し,太平洋に抜けている.強い勢力を保ったま まであったため,千葉ほど激甚な強風被害ではなかった ものの,茨城でも所々で立木が倒れているような状況を 見かけた. 日立港や大洗漁港(図-3 IB-1),鹿島港(IB-3)など 太平洋に面する港を確認して回ったが,港内より目視で 確認できる範囲で高波や高潮による明瞭な被害は見られ なかった.いずれも大きな港で,冬季波浪に耐えるため, もともと防波堤の設計波が大きく設定されており,今回 の台風が引き起こした高波にも難なく耐えられたものと 予想される. 波崎漁港(IB-4)では,港内の岸壁に魚が打ちあがっ ていた.この地域は風が強いことで有名で,筆者らの踏 査時も晴天であったが風は非常に強く,港内で30~ 50cmほどの波が立っていた.15号の通過時にはかなり の波が港内で発達していたはずで,岸壁に越波が生じて いたのではないかと推測される. 大洗ビーチの砂浜海岸でも特段大きな被害は見られな かった(IB-2).この海岸では,東日本大震災後に標高 約4mの非常に緩やかな丘陵状の傾斜堤防が築かれてい る.前面の砂浜も非常に広く,この堤防を乗り越えるよ うな越波が生じていたとは考えにくい. なお,筆者らは2018年台風13号(Shanshan)の直後に も,茨城の海岸を調査しているが,このときも港や海岸 で大きな被害は確認されなかった.この台風は,最終的 図-3 に上陸はしなかったものの,茨城の至近をほぼ海岸線に 15 千葉県および茨城県における調査地点の状況 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. 3. 東京湾の波浪追算 以上の調査より,高波被害は特に東京湾に集中してい ることがわかった.そこで,本節では 15 号が東京湾に 接近し,湾内を縦断するタイミングに着目して,波浪追 算を行う. (1) 台風場 台風場の追算には,筆者らがこれまで使用してきたパ ラメトリック台風モデルを利用する.国内外で発生した 数々の高潮・高波災害の検証に使われており,簡便であ りながら推算精度が高いことを確認している 9),10),11),12). 図-4 気圧推定には以下の Myers モデルを使用している. 𝑝𝑝(𝑟𝑟) = 𝑝𝑝0 + ∆𝑝𝑝 ⋅ exp �− 𝑟𝑟𝑚𝑚 � 𝑟𝑟 台風周辺気圧の解析値と観測値の比較(𝑟𝑟𝑚𝑚 = 28km) (1) ここに,𝑝𝑝(𝑟𝑟)は台風中心から𝑟𝑟の距離における気圧,𝑝𝑝0 は台風の中心気圧,∆p は気圧低下量,𝑟𝑟𝑚𝑚 は最大風速半 径である.中心気圧は気象庁ベストトラック確定値 1)を 引用し,2 時間毎や 3 時間毎の数値については 1 時間毎 に線形補完して使用した. 一方,最大風速半径については,気圧や暴風域半径と 相関があるが,台風ごとにばらつきが大きいことが指摘 されている 13), 14).後で詳しく説明するように,15 号は強 風範囲が小さく,平均的な傾向を示すこれらの推定式で は誤差が大きく計算される可能性がある.そこで本検討 では,15 号が東京湾に進入した 9 月 9 日午前 3 時時点の 観測気圧(海面値)に着目して,観測値と推算値の一致 度が全般的に高くなる最大風速半径を見つけ出して,そ の半径を全計算時間を通じて使用した.台風中心が東京 湾の真上を通過したため,西側と東側に位置する横浜と 館山の気象庁観測所データを同時に比較できる.最大風 速半径を 2km ごとに変えて予備計算を行った結果,図-4 に示すように半径𝑟𝑟𝑚𝑚 = 28km で気圧最低値の一致度が 特に高く計算されたため,この値を本計算で使用した. 最大風速範囲は気圧等に応じて変化するため,本来こ のように便宜的に半径を固定してしまう方法は好ましく ない.ただし,図-1 が示すように,午前 0 時から 6 時ま で中心気圧は 960 hPa と一定であり,気圧より推定して も台風が通過する間の最大風速半径は一定と計算される. このようにして求まる気圧分布を傾度風速の式に代入 して風速場を計算する.この際,海面近くで傾度風より も風が強まっている状態,すなわち超傾度風についても 考慮する.さらに台風の移動に伴う場の風をベクトル合 成することで,図-5 に示す風速の空間分布が得られる. 中心がはっきりとしたコンパクトな台風で,東京湾のほ ぼ真上を縦断したことが確認できる. 図-5 16 風速分布の推算結果(矢印は風向) 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. (2) 波浪推算モデルの概要 ており,その最大値は 3 m弱である.一方,図-6 c) は相 上記の台風場の計算結果を使い,第 3 世代波浪推算モ 模湾の平塚沖波高計(神奈川県・東京大学共同管理)で デル SWAN (Simulating WAves Nearshore)15) により台風が東 観測された波高との比較を示している.推算値が観測値 京湾を通過した際の波浪追算を行った. よりもピークを過小評価しているが,外洋からのうねり の再現精度が低いことが主要因と考えられる.ただし, SWANでは様々なオプションを選択できる.最も重要 な風波の発達については,台風への適用性が高いと評価 波高の立ち上がりや低下の傾向についてはよく似ている. されている Komenモデルを使用し 16),浅海で重要になる 特に午前 2 時から 3 時にかけて波高が急低下する特徴が 3 波浪成分間の非線形相互作用についても考慮した.砕 解析においても再現できている.図-5 より明らかなよう 波モデルには Battjes and Janssen モデルを選択したが,自 に,この時間帯では南向きの風が卓越しており,波を沖 然海岸がほとんど残されていない東京湾で大規模に砕波 に押し戻すような作用が働いたと考えられる. が生じて波高が低減するとは考えにくい. 一方,浅海 図-7 は横浜,東京,千葉における推算波高の時間変化 においては波による振動流で減衰が現れてくるため, である.横浜については金沢区沖を出力地点としている. JONSWAP モデルと呼ばれる経験的な摩擦抵抗式を選択 波高のピーク値は,各々3.4 m,2.6 m,2.6 m である.東 した.また,白波によるエネルギー散逸は Komen モデ 京,千葉に比べて横浜の波高が 3 割程度高い.また,ピ ルを適用した. ーク出現時間も横浜が一番早い.東京と千葉では波高は 解析は球面座標系で行い,約 500m メッシュで G 空間 同程度であるが,東京の方が 3 時間早くピークが現れて 情報センター提供の水深を割り当てた.なお,ラディエ いる.台風中心が東京湾上を進行しているうちは,西向 ーションストレスも計算されるが,このように格子が粗 きの風により北西岸で波が高くなる.一方,上陸後には い場合セットアップ効果はほとんど結果に反映されない. 風向が急激に東向きに転じて,北東岸で波浪が高くなる 波浪場に影響を及ぼす水位と流速については,Delft 3D ためである.図-8 は東京湾を含む広域エリアの波高分布 FLOW により解析を行い,SWAN の計算条件を 1 時間ご および平均波向ベクトルを示している.浦賀水道で最大 とに更新した. Delft3D FLOW では 2 次元および 3 次元の 8 m の高波が生じているが,富津岬の防波堤効果で東京 解析を行うことができるが,今回は 2 次元解析とした. 湾内では波高が大きく低減している.それでも横須賀か この場合,津波や高潮の解析で一般的に用いられる非線 ら横浜にかけて 3m 以上の波高が生じている.台風は午 形長波方程式モデルと同等である . 前 3 時頃東京湾内に進入しているが,このとき横浜周辺 (3) 波浪追算結果 これに対応して西に向かう波が発生している(図-8). 17) では秒速 35m を超す西向きの強風が吹いており(図-5), 解析の妥当性を検証するため,東京湾内外の 3 地点の 観測値と比較を行った.東京湾口第二海堡の NOWPHAS 波浪観測値(オンライン版)と比較した結果を図-6 a) に 示す.1991年の観測開始以来,第二海堡の既往最高値は 2011 年台風 15 号(Roke)時の 2.78mである 18).図-6 a) は 超音波式波高計と水圧式波高計による波高速報値で,欠 測も多いため確定的なことはいえないが,15 号でもそ れに匹敵する高波が発生したことは間違いない.午前 3 時の推算値は 3.14 m で,超音波式による観測値の 2.71m と水圧式波高計による 4.22 m(午前 2 時 40 分)の中間的 な波高を示している. 一方,台風が伊豆諸島を進んでいた午前 0 時以前では, 解析が過大評価している.計算領域が狭く,外洋を含め て台風半径を固定した影響もあり,外洋からの波浪を十 分に再現できていない可能性がある.今回の推算は速報 的に実施しているため,このように種々の課題は残って いるが,湾内で発達した波浪に限れば,ある程度追算の 信頼性は高いと考える. 図-6 b) は,東京都港湾局所管の波高計による観測値と 図-6 東京湾内外 3 地点における有義波高の解析と観測の比較 a) 第二海堡,b) 東京,c)平塚 推算値の比較であるが,両者は同様な時間変化を示して いる.波高のピークは午前 3 時から 4 時にかけて発生し 17 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. 図-7 東京湾内各地点の波浪推算値の時間推移 東京では,午前 2 時から 4 時頃にかけて吹いた西向き の強風で 3 m 近い波が発生している.千葉では横浜や東 京より遅い午前 6 時ごろに波高のピークが現れている. これは台風中心が過ぎ去った後の吹き返しの強風で発達 した波である.このように台風が東京湾の真上を通過す る場合,湾の西側と東側で高波の発現時刻に数時間の差 異が生じることがわかる.いずれにしても,波の主成分 は外洋からのうねりではなく,強風により湾内で急速に 発達した風波と考える必要がある. 一方,外房や相模湾の沿岸でも 5m ほどの波が生じて いる.十分に大きな波であるが,外洋に面した場所にあ っては極端に大きな波とまでは言い切れない. 4. 考察 ― 台風の特徴や高潮・強風の影響 2017 年 21 号の際には,相模湾から房総半島の広域で 高波被害が発生している 8).これと比較すると,今回の 高波被害は横浜の港湾区域に集中しており,かなり局所 性が高いといえる.表-2 は過去 40 年間に発生し,関東 に強い勢力で上陸した代表的な台風 3)と今回の台風の比 較を示している.上陸時の 風速と中心気圧を見る限り, 15 号は平均よりも強い台風であるが,想定外といえる ほど強いわけではない. 一方,風速 25m/s 以上の範囲を示す暴風域半径は平均 の約半分と非常にコンパクトな台風であった.これに対 して 2017 年 21 号は平均サイズの 2 倍もの超大型台風で あった.このように,2 つの台風で大きさが明らかに違 っていたことが,被害の集中するエリアが分かれた主因 と考えられる.さらに,15 号は上陸速度が平均的な台 風より著しく遅く,湾の真上をゆっくりと進んだ台風で あった.このため強風の吹送時間が長くなり,湾内で波 浪が発達しやすい条件にあったと考えられる. 図-8 有義波高分布の推算結果(矢印は平均波向) 図-9 は横須賀,横浜,東京の各検潮所の台風上陸前後 の潮位を示している.台風が通過したのは,満潮より下 件にあった.このとき先に説明した護岸パラペット(図- げ潮に転じた時間帯であったが,高潮偏差も加わり各地 2 KG-4)の高さは水面上+3.3m程度と推測され,波高 3.4 m 点の潮位は T.P.+0.8 m~+1 m に達し,越波を誘発する条 であれば十分に越波が生じる条件である. 18 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. 表-2 過去 40 年間に関東に上陸した強い台風の一覧 1),5) 台風番号 台風名 上陸速度 上陸時風速 上陸時中心 暴風域半径 (km/h) (kt) 気圧 (hPa) (海里) 197920 Tip 75 70 965 200 198115 Thad 71 65 965 N/A 198506 Irma 69 65 968 125 199011 Winona 25 55 980 30 199707 Opal 38 55 975 90 199805 Stella 47 60 965 60 200115 Danas 24 55 970 30 200221 Higos 62 70 965 100 200511 Mawar 27 65 975 60 200709 Fitow 23 65 970 90 200918 Melor 58 70 955 120 201115 Roke 46 80 955 120 201217 Jelawat 50 70 970 120 201418 Phanfone 61 65 965 100 201609 Mindulle 20 65 975 40 201721 Lan 54 80 950 210 Faxai 25 80 960 50 46 67 966 97 201915 平均 図-9 台風通過前後の東京湾内の潮位 東京港周辺では横浜港のような大きな被害は生じなか ったが,これは波高が 3 割ほど低かったことの他,台風 が湾奥を通過した午前 4 時から 6 時にかけて,比較的潮 位の低い時間帯であったことが幸いしたと考えられる. なお,東京の最大潮位偏差は 1 m 程度であるため,気圧 降下(約 50 hPa)による吸い上げが偏差の半分をもたら しており,残りは吹き寄せやウェーブセットアップによ る影響と考えられる. 図-10 千葉・館山における風速・風向の観測値と解析値 本稿は高波被害の状況報告が主目的であるが,最後に 5. 結語 強風の状況についても簡単に述べておく.特に千葉にお いては強風が大きな被害をもたらしたことが今回の台風 の特徴の一つであった.筆者らも千葉を調査した際,各 2019年15号の直後に神奈川,千葉,茨城の海岸を調査 地で屋根瓦の飛散や電柱の折損の状況を数多く目撃した. した結果,相模湾や内房,外房,その他太平洋に面した 外房を南に進むにつれて被害の程度が大きくなっていき, 海岸では大きな高波被害は生じていなかった.一方,東 建物の外壁が脱落している状況(図-3 CB-3)や家屋の 京湾に面する横浜では直立護岸を乗り越える越波やフェ 屋根が完全に吹き飛んでいる状況など,激甚な被害を目 ンスを押し倒す高波被害が生じていた.被害が確認され の当たりにした.図-10 は台風通過前後に館山において 発生した強風の風速と風向きを示している.式(1)の気 た場所は,2017年21号の際とは明らかに対照的であった. 21号が超大型台風であったのに対して,15号は小型台風 圧推定値より超傾度風速を求めた解析値は,おおむね気 という暴風域範囲の差異が左右したものと考えられる. 象庁・館山観測所で観測された 10 分間平均風速と最大 また,15号は東京湾上をゆっくりと進んだ強い台風であ 瞬間風速の間に収まっており,瞬間値と平均値の中間的 り,湾内で生じた高波の主因は,外洋からのうねり性の な値を示している.風向きについては,9 月 9 日午前 1 時から 4 時の間に,北西から北東向きに時計回りに急変 波ではなく,強風により湾内で急速に発達した風波と考 えられる.東京湾の短軸方向の距離は10~15 kmである. する状況が解析,観測値ともに見て取れる.特に,午前 この程度の吹送距離であっても強風時に波浪が3 m以上 2 時から 3 時にかけて非常に強い北向きの風が東京湾口 に発達することは,理論的には説明が付くが,これが実 に吹き込んでおり,これにより浦賀水道周辺で 8m 近い 高波が発生している(図-8).たとえ吹送時間が1,2時 例をもって明らかになった. 15号は非常に強い台風で東京湾に進入したが,その後 間と短くても,風速と風向きによっては,このような高 若干勢力を弱めて強い台風に変わり千葉市付近に上陸し 波浪に発達することがわかる. ている19).万が一,非常に強い勢力を保ったまま上陸し 19 土木学会論文集B3(海洋開発), Vol. 76, No. 1, 12‐21, 2020. ていたならば,今回被害が比較的小さかった東京湾奥に おいても波高は3 mを優に超えていたであろう.その場 合,京浜工業地帯が広がる湾奥の被害はさらに大きくな っていた可能性がある.東京湾は高潮災害への備えは 9) 着々と進んできたと思われるが,半閉鎖性海域のためか, 高波災害とは無縁と考えられてきたふしがある.しかし, 2018年21号では同じく閉鎖性の瀬戸内海で甚大な高波被 害が発生しており9), 20),今次の台風において横浜で大き 10) な高波被害が発生したことも偶然とは考えにくい. このように,半閉鎖性海域であっても決して高波被害 と無縁でないが,逆に台風が来ない限り常時は静穏であ 11) るため,臨海部の工業化の過程で高波への備えがどこか 軽視されてきたように思われる.津波や高潮に比べると 高波災害は人的被害こそ小さいが,護岸が決壊するよう な事態になると,港湾や工業地区における生産活動が突 12) 如停止し,そのことによる経済被害は計り知れない.今 回の高波被害を教訓に,今一度東京湾や全国の内湾で高 波対策を見直す機運が高まることに期待したい. 13) 謝辞:本研究は,科学研究費助成事業国際共同研究加速 基金(No. 16KK0121)及び特別研究促進費(19K24677)の支援 14) を受けて行われたことを記す. 15) 参考文献 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 気 象 庁 : 台 風 ベ ス ト ト ラ ッ ク デ ー タ , https://www.jma.go.jp/jma/jma-eng/jma-center/rsmc-hppub-eg/besttrack.html 消防庁:令和元年台風第 15 号による被害及び消防機 関等の対応状況(第 24 報),2019. デジタル台風:http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/ 神奈川新聞:【台風 15 号】10 メートル超に高波到達 横浜・金沢区,2019 年 9 月 18 日(水) オンライン版, 2019. 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In Kanagawa, there was no major damage on the Sagami Bay side, but on the Tokyo Bay side, overtopping over an upright revetment with a height of 3.3 m above the sea occurred. In Chiba, there was no conspicuous high wave damage, except a building in Kujukurihama Beach that was obviously struck by wave run-up and splash. On the other hand, wind disasters were severe, and damage occurred in various places, such as the scattering of building roofs and the collapse of power poles. Wavedamage in Ibaraki was also minor. In Ibaraki, the breakwaters should have been constructed against severe winter storms, and the embankments have been substantially upgraded after the 2011 Earthquake and Tsunami. These structural resilience may have contributed to limiting typhoon impacts. Based on our wave model verified by the observations at three stations inside/outside the bay, the peak wave height during the typhoon was estimated to be 3.4 m off the coast of Yokohama. Compared with other 16 major typhoons that landed in the Kanto region, this typhoon was characterized as a strong small typhoon that slowly moved through Tokyo Bay. The result of the wave hindcast suggests that wind waves were rapidly intensified within the bay, resulting in significant damage in particular coasts, exacerbated by a storm surge of up to 1 m. 21