特集 B
3章
誤り訂正技術Ⅰ 〜基礎編〜
リード・ソロモン符号とその復号法
松 嶋 敏 泰†
キーワード:リード・ソロモン符号,ユークリッド復号法,誤り訂正符号,最大距離分離符号,限界距離復号法,有限体フーリエ変換
語または情報系列に復号される.各シンボルは q 元情報で
1.まえがき
mi, wi, yi ∈{0, 1, ···, q – 1} として説明をすすめる.
リード・ソロモン符号(Reed-Solomon Code)は,ランダ
通信路符号化定理では,符号長 n を充分大きくした時,復
ム誤りやバースト誤り訂正用ブロック符号としての単体で
号の誤り確率を漸近的に 0 にするという条件のもとで,達成
の利用のみならず,この符号を外符号に畳み込み符号を内
可能な符号化レートk/nの上限を示している.その上限が通
符号にした連接符号としての利用等々,放送や通信のさま
信路の確率構造から決まる通信路容量であり,それを達成
ざまな分野で重要な役割を担っている.このように重用さ
する符号化関数と復号関数の存在をこの定理で証明してい
れる理由は,優れた性能や,符号化と復号の効率的アルゴ
る.この定理* 3 は存在定理と呼ばれるもので,この二つの
リズムを有しているからであるが,それらはリード・ソロ
関数の具体的な構成法を示したものではない.また,復号
モン符号のもつ数理的に美しい構造によって支えられてい
誤り確率を最小にする復号は,受信語を与えられたもとで
符号語の事後確率 P (w|y) を最大にする符号語を選ぶことと
ると言える.
符号理論が専門でない研究者の方々もリード・ソロモン
符号についてはある程度はご存知と思われるが,理論的な
なり,一般に符号語の全数探索となるため,符号長nの指数
オーダの計算量が必要で実用的でない.
部分にさらに一歩踏み込んでその構造を理解することは有
このような経緯から,符号としては線形な符号化関数を
限体の知識が必要である等,それほど容易なことではない
用いる線形符号を,復号法としては n の多項式オーダの計
と思われる.本稿では,理論的に半歩だけ踏み込んで,優
算量の限界距離復号法を中心に考える代数的符号理論の研
れた性能が生まれる数理的しくみや,効率良い復号法の巧
究が発展し,リード・ソロモン符号はその代表的な成果と
みなアイデアについて,議論の厳密さはある程度おさえて
して登場してくる.
も,わかり易い解説を試みるつもりである.
2.通信路符号化定理と代数的符号
3.線形符号と限界距離復号
線形符号の表現法としては,k × n の生成行列 G が良く
まずリード・ソロモン符号が登場してくる背景について
用いられ,w = mG として符号化が行われる.生成行列 G
述べていく.符号理論研究者の目指す一つの大きな目標は,
によって生成される符号語全体の集合* 4 は G によって張ら
シャノンの通信路符号化定理で示される通信路容量の達成
れる線形部分空間となっている.また,GH⊤ = 0 を満たす
である.この定理では通信路符号化復号システムを次のよ
検査行列 H を用いると,任意の符号語は wH⊤ = 0 となるこ
うに数理モデル化している.情報源から発生する k シンボ
とも明らかであろう.
ルの情報系列 m = (m0, m1, ···, mk – 1)
*1
は,符号器(符号化
ある対称性をもつ通信路では受信語が与えられたもとで
関数)で n シンボルの符号語 w = (w0, w1, ···, wn–1) に変換さ
事後確率最大の符号語を探索することは,受信語 y に対し
れ,通信路を通して伝送される.通信路では雑音等の影響
てハミング距離 d(w, y) を最小にする符号語 w を探索する
で符号語が確率的
*2
に変化した n シンボルの受信語 y = (y0,
y1, ···, yn – 1) として受信され,復号器(復号関数)により符号
ことと同等になるが,これも符号長 n の指数オーダの計算
量が必要となってしまう.そこで受信語 y から距離 t 以内
の範囲で符号語 w が見つかったらその w に復号する限界距
* 1 符号理論ではベクトルを横ベクトルで表す慣例があり,本稿でも
それに従う.
* 2 通信路の確率構造は条件付き確率 P (y|w) 等で表現される.
†早稲田大学
"Reed-Solomon Code and Its Decoding Method" by Toshiyasu
Matsushima (Waseda University, Tokyo)
映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4, pp. 571 〜 575(2016)
離復号法と呼ばれる方法をとることにした.これは,各符
* 3 この定理の証明では,符号化関数としてランダムな写像のクラスを
考えると,そのクラスの中に少なくとも一つは通信路容量を達成す
る符号が存在するというような間接的なロジックを用いている.
* 4 符号語全体の集合を符号と呼んでいる.
(55) 571
特集 B 誤り訂正技術Ⅰ 〜基礎編〜
号語 w がそれぞれ復号領域 R (w) = {x|d (x, w) ≤ t, x ∈{0, 1,
号は数少ない最大距離分離符号の一つのクラスで,そのよ
···, q – 1} } をもっていて,その領域内に受信語 y が入ってき
うな意味で理想的な符号であることがわかる.
n
た時にその中心の符号語 w に復号すると捉えることもでき
二つ目の目標である計算量が少ない限界距離復号のアル
る.ただし,どの符号語の復号領域にも受信語 y が含まれ
ゴリズムについては,リード・ソロモン符号を含む BCH
ないときもあり,その場合は復号失敗となる.また,逆に
符号(Bose-Chaudhuri-Hocquenghem code)のクラスには
二つ以上の符号語の復号領域が重なっていては困るので,
いくつかのすぐれた復号アルゴリズムが提案されている.
二つの異なる符号語間のハミング距離の最小値である最小
最初に提案されたものは Peterson 法で n 3 のオーダの計算
ハミング距離を dmin とした場合,
量で限界距離復号が可能である.さらに後の節で述べる
ユークリッド復号法(杉山−平澤−笠原−滑川法)は n 2 の
d −1
t = min
2
オーダの計算量の効率の良い復号法として知られている.
以上より,リード・ソロモン符号とその復号法が代数的
符号がめざす初期の目標を達成した優れた符号であること
と復号領域の半径 t は設定されている.
4.代数的符号がめざす目標とリード・ソロモ
ン符号
線形符号と限界距離復号の組合せで通信路符号化復号シ
ステムを考えていく場合,最終目標である通信路符号化定
理の手前の実用的中間目標として次の二つが考えられる.
(1)最小ハミング距離が大きな線形符号を構成する.
(2)復号領域内の受信語を正しく復号する効率的な復号
アルゴリズムを構成する.
がご理解いただけたであろう.その詳細について次の節か
ら述べていく.
5.リード・ソロモン符号の概要としくみ
リード・ソロモン符号は q 元のシンボル{0, 1, ···, q – 1} を
用いた,つまり位数 q の有限体 F q * 7 上の,ブロック線形
符号で巡回符号* 8 でもある.
以降では,情報系列m,符号語w,受信語yにおいてmi, wi,
yi ∈Fq とし,典型的なパラメータ設定である,符号長n = q – 1
まずはじめの目標で,最小ハミング距離はどこまで大きく
のリード・ソロモン符号を考える.まず,生成行列 G と検
できるのであろうか.これはq元符号の場合,n次元空間を構
査行列 H は,ある原始元を α とすると,以下のように表現
成するq 個の点の中のq 個の点に,互いの距離をなるべく離
される.
n
k
して符号語を割り振る問題を考えることになる.情報系列長
kで符号長nを固定したもとでの最小ハミング距離の重要な一
つの限界として以下のシングルトン限界が知られている.
dmin ≤ n − k + 1.
(1)
この限界の直感的な解釈を試みる.まず,線形符号の性
質として,任意の符号語から見た他のすべての符号語の距
離構造と,全シンボルが 0 の符号語から見た他のすべての
符号語の距離構造は同じとなる.そのため,最小ハミング
距離は,全ゼロの符号語以外で非ゼロのシンボルが一番少
ない符号語の非ゼロシンボルの数と等しく,これを最小ハ
1
1
1
1
n−1
1 α
⋯
α
(
)
2
2
n
−
1
G = 1 α
⋯ α
⋮
⋮
1
( k−1)( n−1)
k−1
⋯ α
1 α
1
α
⋯
α n−1
1 α 2 ⋯ α 2( n−1)
H=
1
⋮
⋮
1 α n− k ⋯ α ( n− k)( n−1)
ミング重みと呼んでいる.組織符号* 5 を考えると,k シン
先に述べたように生成行列 G により符号化の計算を表現
ボルの情報部分の 1 シンボルだけが非ゼロの時,冗長部の
すると w = mG となる.別の角度からこの符号化計算と生
n – k シンボルがすべて非ゼロであっても符号語のハミング
成された符号の性質を見るために,ベクトルの多項式表現
重みは n – k + 1 となり,これより大きくできないので,シ
についてまず説明する.
ングルトン限界が直感的に導かれる.
このシングルトン限界を達成する符号があれば,最小ハ
符号理論では情報系列を Fq 上のベクトル m = (m0, m1, ···,
* 7 大変大雑把ではあるが,有限体(ガロア体)も実数体や複素数体と
ミング距離の意味で理想的な符号であり,それを満たす符
同様に四則演算が可能な代数であり,有限の集合の元に対して四
号は最大距離分離符号* 6 と呼ばれる.リード・ソロモン符
則演算が定義され閉じている体系と考えていただければよい.有
* 5 符号語 w の k シンボルが情報系列 m と一致し,残りの n – k シンボ
のべき乗のみで 0 元以外のすべての元が表現可能という点である.
ルが冗長部となるような符号は組織符号と呼ばれている.例えば,
生成行列 G の右 k × k が単位行列の場合がそれに対応する.
* 6 最大距離分離符号は,その他いくつかの点でも理論的に優れた性
質を持っている.例えば,符号のハミング重みの分布を正確に知
ることができる.
572 (56)
限体に関する本稿で用いる重要な性質は,原始元と呼ばれる元 α
つまり Fq の場合,{1, α, α 2, ···, α q–1} で 0 以外の q – 1 個のすべての元
が表現できる.ここで α 0 = 1 である.この節以降の演算は Fq 上の
演算であることに注意されたい.
* 8 符号語を巡回シフトさせた系列もまた符号語になるという性質を
持つ線形符号の部分クラスの符号.
映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4(2016)
3.リード・ソロモン符号とその復号法
mk – 1) で表現する以外に Fq 上の多項式* 9 による以下の表現
号語に対して s = 0 となっている.この計算も注意深く見て
も多く用いられる.
みると,情報系列を拡張したベクトル m + をフーリエ変換
して得られた符号 w を逆フーリエ変換して * 10 k 次から
m( x) = m0 + m1 x + w2 x 2 + ⋯ + mk−1 x k−1.
n – 1 次の係数 mk, ···, mn – 1 のみを復元していると解釈する
同様に符号語 w = (w0, w1, ···, wn – 1) も以下のように多項式
で表現される.
ことができる.つまり,
s0 = w(α ) = w(α − ( n−1) ) = nmn−1 ,
w( x) = w0 + w1 x + w2 x 2 + ⋯ + wn−1 x n−1.
s1 = w(α 2 ) = w(α − ( n−2) ) = nmn−2 ,
それでは,リード・ソロモン符号の構造や仕組みを付録 A
の有限体上のフーリエ変換の視点から眺めてみよう.情報
系列の後ろに n – kシンボルの 0を連接して m+ = (m0, m1, ···,
mk – 1, 0, ···, 0) とすることで,形式的にn次元ベクトルとする
ことができる.符号化計算 w = mG をよく眺めてみると,こ
の拡張された n 次元ベクトルの情報系列 m+ をフーリエ変換
⋮ ⋮
sn− k−1 = w(α n− k ) = w(α − k ) = nmk .
mk, = ··· = mn – 1 = 0 とおいていたので,逆フーリエ変換で
計算された s0 から sn – k – 1 はもちろんすべて 0 となる.
6.リード・ソロモン符号の復号
前節で,リード・ソロモン符号が最大距離分離符号に
したものが符号語wとなっていることがわかる.
この n 次元ベクトル m に対応する多項式は,k 次から
なっていることを示した.つまり,リード・ソロモン符号
n – 1 次の係数 mk = ··· = mn – 1 = 0 の多項式であり,やはり先
が,復号に限界距離復号法を用いた場合に,最も性能の良
ほどの k – 1 次の多項式 m (x)として表現されるので,情報
い符号であることを示したことになる.
+
系列から符号語 w へのフーリエ変換は以下のようにも表現
次は,そのシングルトン限界に達する最小ハミング距離
dmin = n – k + 1 に対して,
できる.
w = (m(1), m(α ),⋯, m(α n−1 )).
(2)
さて,このように符号語は情報系列の有限体上のフーリ
d −1 n − k
=
t = min
2 2
エ変換として構成されるという視点から,リード・ソロモ
の誤りまで訂正可能で,計算量が実用的な限界距離復号の
ン符号の最小ハミング距離(最小ハミング重み)について考
構成法について説明していく.具体的にはユークリッド復
察してみよう.式(2)で表現したように wj = m(α ) となる
号法(杉山−平澤−笠原−滑川法)と呼ばれる n 2 のオーダ
ので,w j = 0 となる場合は α が情報系列多項式の方程式
の計算量の効率の良い復号法について説明する.この復号
m(x) = 0 の根となっていることになる.m(x) は k–1 次の多
法は,その仕組みがわかり易く,実用的にも広く利用され
項式であったので,その根は{1, α, ···, α
ている.この節では 2 t = n – k として以降述べていく.
j
j
} の中の高々 k–1
n–1
個である.よって w j = 0 となる符号語のシンボルは高々
符号語 w (x) は通信路を通して伝送され,受信語 y (x) = y0
k–1 個となるため,n シンボルの符号語の非ゼロ w i ≠ 0 の
+ y 1 x + y 2 x 2 + ··· + y n–1 x n–1 として受信されるが,いくつか
シンボルの数,つまり最小ハミング距離(最小ハミング重
のシンボルで誤りが起こっているかもしれない.その誤り
み)は dmin ≥ n–k+1 となることがわかる.この結果と式(1)
の起こり方を以下のFq 上の多項式を用いて表すことにする.
のシングルトン限界 dmin ≤ n–k+1 から,リード・ソロモン
1
符号の最小ハミング距離は
dmin = n − k + 1
j
(3)
j
j
e( x) = e j x 1 + e j x 2 + ⋯ + e j x l .
2
( 4)
l
この多項式は l 個の誤りが第 j1+1 番目,第 j2+1 番目,…,
第 j l +1 番目のシンボルに起こったことを表現している.
となり,リード・ソロモン符号は最大距離分離符号になっ
この l 箇所の誤り位置のインデックスの集合を ε を以下のよ
ていることが示される.このようにリード・ソロモン符号
うに定義する.
はハミング距離から構造を見た場合,大変望ましい性質を
有していることがわかる.
ε = { j1 , j2 ,⋯, jl }.
次に,リード・ソロモン符号の検査行列 H を符号語に乗
限界距離復号はこの誤りの個数 l ≤ t である場合に正しい復
じて得られる s = wH⊤ を考えてみよう.この n – k 次元ベク
号が可能であり,以降はその条件を満たしているとして説
トル s = (s0, s1, ···, sn – k – 1) は,すでに述べたように任意の符
明を行っていく.
この多項式 e (x)を用いて受信語 y (x)は以下のように表現
* 9 係数が Fq の元である多項式で,演算としては整数環と同様な性質
を持ち,大まかに言えば和差積について閉じている代数系であり,
される.
Fq 上の多項式環と呼ばれる.符号はこの多項式環の部分代数系で
あるイデアルともみなせる.
* 10 正確には逆フーリエ変換の定数倍していることになる.
(57) 573
特集 B 誤り訂正技術Ⅰ 〜基礎編〜
この多項式 η (x) は,誤り位置が求まった後,誤りの数値を
y( x) = w( x) + e( x).
求めるために利用されるので,誤り数値多項式と呼ばれる.
つまり,符号語の中で j ∉ε の位置のシンボルは誤りなく
これらの二つの多項式 σ (x) と η (x) の性質について考えて
受信されているが,j ∈ε の位置の受信語シンボルは以下の
みる.多項式 σ (x) の次数は誤りの個数なので l となり,
ように符号語から変化して誤って受信されていることを表
η (x) の次数は l – 1 となり,互いに素であることも容易にわ
している.
かる.これらをまとめると次のような性質となる.
(1)deg (σ (x)) ≤ t, deg (η (x)) ≤ t – 1.
y j = w j + e j ( j ∈ε.)
(2)σ (x)と η (x)は互いに素.
さて,受信語に検査行列を乗じて計算される 2t 次元ベク
トル s = yH⊤ はシンドロームと呼ばれている.受信語に誤
(3)σ (0) = 1.
また逆に,与えられたシンドローム s (x) に対してこのよ
りが生じていなければ,それは符号語そのままであるので,
うな性質を満たす二つの多項式 σ (x)と η (x) は一意に決定で
先に述べたようにシンドローム s = 0 となっている.誤りが
きることも示される.したがって,式(8)から多項式 σ (x)と
生じた場合は s ≠ 0 となり,検査行列を乗じることがフーリ
η (x) を求める効率的アルゴリズムを構成できるかが次の課
エ逆変換に対応することに注意するとシンドローム s は以
題となる.そのためにはまず,mod x2t に注意して式(8)を
下のように表される.
以下のように書換える.
si = y(α i+1 ) = e(α i+1 ) (i = 0,⋯, 2t − 1)
σ ( x) s( x) + φ ( x) x 2t = η( x).
(10)
このシンドローム s も以下のように多項式表現でき,シン
この式の σ (x)と η (x) は,付録 B の多項式環のユークリッド
ドローム多項式と呼ばれている.さらに si が e (x)のフーリ
互除法を用い,初期値を a0 (x) = x2 t, a1 (x) = s (x) とおき,再
エ逆変換であることを用いると最右辺のように書ける.
帰的な計算により求めることができる.このことからこの
復号法はユークリッド復号法と呼ばれている.
s( x) = s0 + s1 x + s2 x 2 + ⋯ + s2t−1 x 2t−1
2t
=
∑ε e ∑ α
ij i−1
x
j
(5)
.
i=1
j∈
るためにすべての根を求めたい.シンプルな方法としては,
* 11
また,s (x) は以下のようにも書換えられる
s( x) =
e jα
∑ε 1 − α
j∈
.
σ (x)に j = 0 から n – 1 の α – j を順番に代入し,σ (α –j) = 0 とな
j
j
このアルゴリズムによって誤り位置多項式 σ (x) が得られ
たので,次のステップは誤り位置のインデックスを特定す
x
mod x 2t .
(6)
これから述べる限界距離復号法の基本方針は,このシンド
る j をすべて求めれば誤り位置が特定される.この方法は
Chien 探索と呼ばれている.
次は,その位置に対応する誤り数値 ej (j ∈ε) を求めたい.
ロームの情報を用いて,誤り位置集合 ε をまず特定し,次に
そこで,式(7)を用い σ (x) の形式的な微分 σ ′(x) を求めて
それぞれの誤り値 ej (j ∈ε) を求め,その値を受信語 y(x) から
みると以下となる.
減ずることにより復号を行うことをめざす.
まず誤りの位置を特定するため,以下のような多項式を
考える.
σ ( x) =
σ ′( x) = −
∑ε α ∏ ε (1 − α
j
j∈
h
x).
(11)
h≠ j , h∈
この式と誤り数値多項式 η (x) を用いることで,誤りの数
∏ (1 − α
j
x).
(7)
値 e j (j ∈ε) は以下ですべて求めることができる.この方法
は Forney アルゴリズムと呼ばれている.
j ∈ε
この多項式を用いた方程式 σ (x) = 0 は α (j ∈ε) すべてを
–j
の位置のインデックス j ∈ε を特定できる.この多項式は誤
η(α − j )
( j ∈ε )
(12)
σ ′(α − j )
この誤り数値 ej ∈ε を受信語 y (x) から減ずることにより復号
り位置多項式と呼ばれている.
は完了する.
根とする方程式なので,この根を求めれば,すべての誤り
この式(7)と式(6)との両辺をそれぞれ乗じると以下の
式が得られる.
σ ( x) s( x) = η( x) mod x 2t ,
(8)
7.むすび
リード・ソロモン符号のしくみについて有限体上のフー
リエ解析の視点から説明し,効率的な限界距離復号法であ
るユークリッド復号法について,多項式環の拡張ユーク
ここで
η( x) =
ej =
∑ε e α ∏ ε (1 − α
j
j
j∈
h
x).
(9)
h≠ j , h∈
* 11 直感的には式(5)を等比級数と見なすことで,このような書換え
が可能であることが理解されよう.
574 (58)
リッド互除法より解説を行った.紙面の都合で説明が粗く
なってしまった部分もあったかもしれないが,数理的に美
しい符号の構造と巧みな復号法の一端を感じていただけた
ら幸いである.
(2016 年 4 月 9 日受付)
映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4(2016)
3.リード・ソロモン符号とその復号法
〔文
献〕
1)今井秀樹,符号理論,信学会(1990)
2)平沢茂一,西島利尚,符号理論入門,培風館(1999)
3)J. Justesen and T. Hohold: "A Course in Error-Correcting Codes",
European Mathematical Society Publishing House(2004)
4)S. Lin and D.J. Costello: "Error Control Cod-ing", Prentice Hall(1983)
5)W.W. Peterson, E.J. Weldon: "Error-Correcting Codes", The MIT
Press(1972)
基本的な計算は,ai (x) を ai+1 (x) で割った商多項式 qi+1 (x)
と剰余多項式 ai+2 (x) が deg ai+1 (x) < deg ai+2 (x) の条件の下
で唯一に決まることに基づいている,次のステップでは,
ai+1 (x) を ai+2 (x) で割り,同様の計算を再帰的に実行してい
くことになる.
ai ( x) = ai+1 ( x) qi+1 ( x) + ai+2 ( x),
ai+1 ( x) = ai+2 ( x) qi+2 ( x) + ai+3 ( x),
⋮ ⋮
<付録 A >
有限体上のフーリエ変換
この復号法では多項式 σ (x)と η (x) を求めるために,初期
値を a0 (x) = x2t, a1 (x) = s (x) として上記の再帰計算を実行
なじみのある複素数体上の(離散)フーリエ変換と同様な
し,剰余多項式の次数がはじめて t – 1 以下となった時に停
変換が,有限体上でも定義可能である.Fq 上の n 次元ベク
止する* 13.その時の剰余多項式を aI (x) とする.求めたい
トル m = (m0, m1, ···, mn – 1) を考える.ここで,n は q を割り
式(10)を満たす多項式 σ (x)と η (x) は以下で計算される.γ
切る数とし,α ∈Fq を位数 n の元
* 12
とする.この n 次元ベ
クトル m から以下で定義する n 次元ベクトル w = (w0, w1,
···, wn – 1) への写像をフーリエ変換と呼ぶ.
n−1
wj =
∑
は σ (0) = 1 とするための定数である.
σ ( x) = γ b22 ( x), η( x) = γ aI ( x),
(13)
ここで
miα ij ( j = 0, 1,…, n − 1)
i= 0
b ( x) b ( x)
12
=
11
b21 ( x) b22 ( x)
また,n 次元ベクトル m を以下の多項式
m( x) = m0 + m1 x + m2 x 2 + ⋯ + mn−1 x n−1
で表すと,フーリエ変換 w は以下のようにも表現される.
w = (m(1), m(α ),⋯, m(α
n−1
)).
次に,w から元の n 次元ベクトル m を復元するフーリエ
逆変換は以下で定義される.
m i = n−1
n−1
∑w α
− ij
j
(i = 0, 1,…, n − 1)
j =0
また,w の多項式表現
w( x) = w0 + w1 x + w2 x 2 + ⋯ + wn−1 x n−1
を用いると,逆フーリエ変換も以下のように表現される.
m = n−1 (w(1), w(α −1 ),⋯, w(α − ( n−1) ))
I −1
0
∏ 1
i=1
1
− qI − i
.
( x)
この式で σ (x)と η (x) が求まる仕組みを簡単に説明する.
ユークリッド互除法の 1 ステップが次の行列計算
a ( x) q ( x) 1 a ( x)
i
= i+1
i+1
a ( x) 1
0 ai+2 ( x)
i+1
で表現できることから,I 回のステップを逆にたどってま
とめると以下となる.
a ( x) b ( x) b ( x) a0 ( x)
12
.
I −1 = 11
aI ( x) b21 ( x) b22 (xx) a1 ( x)
これより,
b22 ( x) a1 ( x) + b21 ( x) a0 ( x) = aI ( x)
の関係式が求まり,求めたい式(10)とこの式を見比べる
と,σ (x)と b22 (x) が η (x) と aI (x) がそれぞれ対応すること
より,式(13)で二つの多項式が求まることがわかる.
* 13 最大公約多項式を求めるための通常のユークリッド互除法は剰余
<付録 B >
多項式環上のユークリッド互除法
多項式が 0 となる一つ前で停止する.
まつしま
整数環の二つの数 a0 と a1 の最大公約数を求めるアルゴリ
ズムとしてユークリッド互除法はよく知られている.同様
な方法で多項式環の二つの多項式 a0 (x) と a1 (x) の最大公約
多項式を求めることができる.
* 12 α n = 1 であり,どのような l < n においても α l ≠ 1 である場合,α を
位数 n の元と呼ぶ.
としやす
松嶋 敏泰
1978 年,早稲田大学理工学部工業経
営学科卒業.1980 年,同大大学院修士課程修了.同年,
日本電気(株)入社.1986 年,早稲田大学大学院理工
学研究科博士後期課程入学.1989 年,横浜商科大学講
師.1991 年,同大学助教授.1992 年,早稲田大学理
工学部工業経営学科(現 経営システム工学科)助教授.
1997 年,同大学教授,2007 年,同大学基幹理工学
部・応用数理学科教授,現在に至る.情報理論と学習理論とその応用に関
する研究に従事.2001 年,ハワイ大学客員研究員.2010 年,カリフォル
ニア大学バークレイ校客員教員.工学博士.
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