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3. Reed-Solomon Code and Its Decoding Method

2016, The Journal of The Institute of Image Information and Television Engineers

特集 B 3章 誤り訂正技術Ⅰ 〜基礎編〜 リード・ソロモン符号とその復号法 松 嶋 敏 泰† キーワード:リード・ソロモン符号,ユークリッド復号法,誤り訂正符号,最大距離分離符号,限界距離復号法,有限体フーリエ変換 語または情報系列に復号される.各シンボルは q 元情報で 1.まえがき mi, wi, yi ∈{0, 1, ···, q – 1} として説明をすすめる. リード・ソロモン符号(Reed-Solomon Code)は,ランダ 通信路符号化定理では,符号長 n を充分大きくした時,復 ム誤りやバースト誤り訂正用ブロック符号としての単体で 号の誤り確率を漸近的に 0 にするという条件のもとで,達成 の利用のみならず,この符号を外符号に畳み込み符号を内 可能な符号化レートk/nの上限を示している.その上限が通 符号にした連接符号としての利用等々,放送や通信のさま 信路の確率構造から決まる通信路容量であり,それを達成 ざまな分野で重要な役割を担っている.このように重用さ する符号化関数と復号関数の存在をこの定理で証明してい れる理由は,優れた性能や,符号化と復号の効率的アルゴ る.この定理* 3 は存在定理と呼ばれるもので,この二つの リズムを有しているからであるが,それらはリード・ソロ 関数の具体的な構成法を示したものではない.また,復号 モン符号のもつ数理的に美しい構造によって支えられてい 誤り確率を最小にする復号は,受信語を与えられたもとで 符号語の事後確率 P (w|y) を最大にする符号語を選ぶことと ると言える. 符号理論が専門でない研究者の方々もリード・ソロモン 符号についてはある程度はご存知と思われるが,理論的な なり,一般に符号語の全数探索となるため,符号長nの指数 オーダの計算量が必要で実用的でない. 部分にさらに一歩踏み込んでその構造を理解することは有 このような経緯から,符号としては線形な符号化関数を 限体の知識が必要である等,それほど容易なことではない 用いる線形符号を,復号法としては n の多項式オーダの計 と思われる.本稿では,理論的に半歩だけ踏み込んで,優 算量の限界距離復号法を中心に考える代数的符号理論の研 れた性能が生まれる数理的しくみや,効率良い復号法の巧 究が発展し,リード・ソロモン符号はその代表的な成果と みなアイデアについて,議論の厳密さはある程度おさえて して登場してくる. も,わかり易い解説を試みるつもりである. 2.通信路符号化定理と代数的符号 3.線形符号と限界距離復号 線形符号の表現法としては,k × n の生成行列 G が良く まずリード・ソロモン符号が登場してくる背景について 用いられ,w = mG として符号化が行われる.生成行列 G 述べていく.符号理論研究者の目指す一つの大きな目標は, によって生成される符号語全体の集合* 4 は G によって張ら シャノンの通信路符号化定理で示される通信路容量の達成 れる線形部分空間となっている.また,GH⊤ = 0 を満たす である.この定理では通信路符号化復号システムを次のよ 検査行列 H を用いると,任意の符号語は wH⊤ = 0 となるこ うに数理モデル化している.情報源から発生する k シンボ とも明らかであろう. ルの情報系列 m = (m0, m1, ···, mk – 1) *1 は,符号器(符号化 ある対称性をもつ通信路では受信語が与えられたもとで 関数)で n シンボルの符号語 w = (w0, w1, ···, wn–1) に変換さ 事後確率最大の符号語を探索することは,受信語 y に対し れ,通信路を通して伝送される.通信路では雑音等の影響 てハミング距離 d(w, y) を最小にする符号語 w を探索する で符号語が確率的 *2 に変化した n シンボルの受信語 y = (y0, y1, ···, yn – 1) として受信され,復号器(復号関数)により符号 ことと同等になるが,これも符号長 n の指数オーダの計算 量が必要となってしまう.そこで受信語 y から距離 t 以内 の範囲で符号語 w が見つかったらその w に復号する限界距 * 1 符号理論ではベクトルを横ベクトルで表す慣例があり,本稿でも それに従う. * 2 通信路の確率構造は条件付き確率 P (y|w) 等で表現される. †早稲田大学 "Reed-Solomon Code and Its Decoding Method" by Toshiyasu Matsushima (Waseda University, Tokyo) 映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4, pp. 571 〜 575(2016) 離復号法と呼ばれる方法をとることにした.これは,各符 * 3 この定理の証明では,符号化関数としてランダムな写像のクラスを 考えると,そのクラスの中に少なくとも一つは通信路容量を達成す る符号が存在するというような間接的なロジックを用いている. * 4 符号語全体の集合を符号と呼んでいる. (55) 571 特集 B 誤り訂正技術Ⅰ 〜基礎編〜 号語 w がそれぞれ復号領域 R (w) = {x|d (x, w) ≤ t, x ∈{0, 1, 号は数少ない最大距離分離符号の一つのクラスで,そのよ ···, q – 1} } をもっていて,その領域内に受信語 y が入ってき うな意味で理想的な符号であることがわかる. n た時にその中心の符号語 w に復号すると捉えることもでき 二つ目の目標である計算量が少ない限界距離復号のアル る.ただし,どの符号語の復号領域にも受信語 y が含まれ ゴリズムについては,リード・ソロモン符号を含む BCH ないときもあり,その場合は復号失敗となる.また,逆に 符号(Bose-Chaudhuri-Hocquenghem code)のクラスには 二つ以上の符号語の復号領域が重なっていては困るので, いくつかのすぐれた復号アルゴリズムが提案されている. 二つの異なる符号語間のハミング距離の最小値である最小 最初に提案されたものは Peterson 法で n 3 のオーダの計算 ハミング距離を dmin とした場合, 量で限界距離復号が可能である.さらに後の節で述べる ユークリッド復号法(杉山−平澤−笠原−滑川法)は n 2 の  d −1  t =  min  2  オーダの計算量の効率の良い復号法として知られている. 以上より,リード・ソロモン符号とその復号法が代数的 符号がめざす初期の目標を達成した優れた符号であること と復号領域の半径 t は設定されている. 4.代数的符号がめざす目標とリード・ソロモ ン符号 線形符号と限界距離復号の組合せで通信路符号化復号シ ステムを考えていく場合,最終目標である通信路符号化定 理の手前の実用的中間目標として次の二つが考えられる. (1)最小ハミング距離が大きな線形符号を構成する. (2)復号領域内の受信語を正しく復号する効率的な復号 アルゴリズムを構成する. がご理解いただけたであろう.その詳細について次の節か ら述べていく. 5.リード・ソロモン符号の概要としくみ リード・ソロモン符号は q 元のシンボル{0, 1, ···, q – 1} を 用いた,つまり位数 q の有限体 F q * 7 上の,ブロック線形 符号で巡回符号* 8 でもある. 以降では,情報系列m,符号語w,受信語yにおいてmi, wi, yi ∈Fq とし,典型的なパラメータ設定である,符号長n = q – 1 まずはじめの目標で,最小ハミング距離はどこまで大きく のリード・ソロモン符号を考える.まず,生成行列 G と検 できるのであろうか.これはq元符号の場合,n次元空間を構 査行列 H は,ある原始元を α とすると,以下のように表現 成するq 個の点の中のq 個の点に,互いの距離をなるべく離 される. n k して符号語を割り振る問題を考えることになる.情報系列長 kで符号長nを固定したもとでの最小ハミング距離の重要な一 つの限界として以下のシングルトン限界が知られている. dmin ≤ n − k + 1. (1) この限界の直感的な解釈を試みる.まず,線形符号の性 質として,任意の符号語から見た他のすべての符号語の距 離構造と,全シンボルが 0 の符号語から見た他のすべての 符号語の距離構造は同じとなる.そのため,最小ハミング 距離は,全ゼロの符号語以外で非ゼロのシンボルが一番少 ない符号語の非ゼロシンボルの数と等しく,これを最小ハ  1 1 1 1   n−1  1 α ⋯ α   ( ) 2 2 n − 1 G = 1 α  ⋯ α   ⋮ ⋮  1   ( k−1)( n−1)  k−1 ⋯ α  1 α 1 α ⋯ α n−1     1 α 2 ⋯ α 2( n−1)   H=  1 ⋮ ⋮    1 α n− k ⋯ α ( n− k)( n−1)  ミング重みと呼んでいる.組織符号* 5 を考えると,k シン 先に述べたように生成行列 G により符号化の計算を表現 ボルの情報部分の 1 シンボルだけが非ゼロの時,冗長部の すると w = mG となる.別の角度からこの符号化計算と生 n – k シンボルがすべて非ゼロであっても符号語のハミング 成された符号の性質を見るために,ベクトルの多項式表現 重みは n – k + 1 となり,これより大きくできないので,シ についてまず説明する. ングルトン限界が直感的に導かれる. このシングルトン限界を達成する符号があれば,最小ハ 符号理論では情報系列を Fq 上のベクトル m = (m0, m1, ···, * 7 大変大雑把ではあるが,有限体(ガロア体)も実数体や複素数体と ミング距離の意味で理想的な符号であり,それを満たす符 同様に四則演算が可能な代数であり,有限の集合の元に対して四 号は最大距離分離符号* 6 と呼ばれる.リード・ソロモン符 則演算が定義され閉じている体系と考えていただければよい.有 * 5 符号語 w の k シンボルが情報系列 m と一致し,残りの n – k シンボ のべき乗のみで 0 元以外のすべての元が表現可能という点である. ルが冗長部となるような符号は組織符号と呼ばれている.例えば, 生成行列 G の右 k × k が単位行列の場合がそれに対応する. * 6 最大距離分離符号は,その他いくつかの点でも理論的に優れた性 質を持っている.例えば,符号のハミング重みの分布を正確に知 ることができる. 572 (56) 限体に関する本稿で用いる重要な性質は,原始元と呼ばれる元 α つまり Fq の場合,{1, α, α 2, ···, α q–1} で 0 以外の q – 1 個のすべての元 が表現できる.ここで α 0 = 1 である.この節以降の演算は Fq 上の 演算であることに注意されたい. * 8 符号語を巡回シフトさせた系列もまた符号語になるという性質を 持つ線形符号の部分クラスの符号. 映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4(2016) 3.リード・ソロモン符号とその復号法 mk – 1) で表現する以外に Fq 上の多項式* 9 による以下の表現 号語に対して s = 0 となっている.この計算も注意深く見て も多く用いられる. みると,情報系列を拡張したベクトル m + をフーリエ変換 して得られた符号 w を逆フーリエ変換して * 10 k 次から m( x) = m0 + m1 x + w2 x 2 + ⋯ + mk−1 x k−1. n – 1 次の係数 mk, ···, mn – 1 のみを復元していると解釈する 同様に符号語 w = (w0, w1, ···, wn – 1) も以下のように多項式 で表現される. ことができる.つまり, s0 = w(α ) = w(α − ( n−1) ) = nmn−1 , w( x) = w0 + w1 x + w2 x 2 + ⋯ + wn−1 x n−1. s1 = w(α 2 ) = w(α − ( n−2) ) = nmn−2 , それでは,リード・ソロモン符号の構造や仕組みを付録 A の有限体上のフーリエ変換の視点から眺めてみよう.情報 系列の後ろに n – kシンボルの 0を連接して m+ = (m0, m1, ···, mk – 1, 0, ···, 0) とすることで,形式的にn次元ベクトルとする ことができる.符号化計算 w = mG をよく眺めてみると,こ の拡張された n 次元ベクトルの情報系列 m+ をフーリエ変換 ⋮ ⋮ sn− k−1 = w(α n− k ) = w(α − k ) = nmk . mk, = ··· = mn – 1 = 0 とおいていたので,逆フーリエ変換で 計算された s0 から sn – k – 1 はもちろんすべて 0 となる. 6.リード・ソロモン符号の復号 前節で,リード・ソロモン符号が最大距離分離符号に したものが符号語wとなっていることがわかる. この n 次元ベクトル m に対応する多項式は,k 次から なっていることを示した.つまり,リード・ソロモン符号 n – 1 次の係数 mk = ··· = mn – 1 = 0 の多項式であり,やはり先 が,復号に限界距離復号法を用いた場合に,最も性能の良 ほどの k – 1 次の多項式 m (x)として表現されるので,情報 い符号であることを示したことになる. + 系列から符号語 w へのフーリエ変換は以下のようにも表現 次は,そのシングルトン限界に達する最小ハミング距離 dmin = n – k + 1 に対して, できる. w = (m(1), m(α ),⋯, m(α n−1 )). (2) さて,このように符号語は情報系列の有限体上のフーリ  d −1  n − k =  t =  min  2   2  エ変換として構成されるという視点から,リード・ソロモ の誤りまで訂正可能で,計算量が実用的な限界距離復号の ン符号の最小ハミング距離(最小ハミング重み)について考 構成法について説明していく.具体的にはユークリッド復 察してみよう.式(2)で表現したように wj = m(α ) となる 号法(杉山−平澤−笠原−滑川法)と呼ばれる n 2 のオーダ ので,w j = 0 となる場合は α が情報系列多項式の方程式 の計算量の効率の良い復号法について説明する.この復号 m(x) = 0 の根となっていることになる.m(x) は k–1 次の多 法は,その仕組みがわかり易く,実用的にも広く利用され 項式であったので,その根は{1, α, ···, α ている.この節では 2 t = n – k として以降述べていく. j j } の中の高々 k–1 n–1 個である.よって w j = 0 となる符号語のシンボルは高々 符号語 w (x) は通信路を通して伝送され,受信語 y (x) = y0 k–1 個となるため,n シンボルの符号語の非ゼロ w i ≠ 0 の + y 1 x + y 2 x 2 + ··· + y n–1 x n–1 として受信されるが,いくつか シンボルの数,つまり最小ハミング距離(最小ハミング重 のシンボルで誤りが起こっているかもしれない.その誤り み)は dmin ≥ n–k+1 となることがわかる.この結果と式(1) の起こり方を以下のFq 上の多項式を用いて表すことにする. のシングルトン限界 dmin ≤ n–k+1 から,リード・ソロモン 1 符号の最小ハミング距離は dmin = n − k + 1 j (3) j j e( x) = e j x 1 + e j x 2 + ⋯ + e j x l . 2 ( 4) l この多項式は l 個の誤りが第 j1+1 番目,第 j2+1 番目,…, 第 j l +1 番目のシンボルに起こったことを表現している. となり,リード・ソロモン符号は最大距離分離符号になっ この l 箇所の誤り位置のインデックスの集合を ε を以下のよ ていることが示される.このようにリード・ソロモン符号 うに定義する. はハミング距離から構造を見た場合,大変望ましい性質を 有していることがわかる. ε = { j1 , j2 ,⋯, jl }. 次に,リード・ソロモン符号の検査行列 H を符号語に乗 限界距離復号はこの誤りの個数 l ≤ t である場合に正しい復 じて得られる s = wH⊤ を考えてみよう.この n – k 次元ベク 号が可能であり,以降はその条件を満たしているとして説 トル s = (s0, s1, ···, sn – k – 1) は,すでに述べたように任意の符 明を行っていく. この多項式 e (x)を用いて受信語 y (x)は以下のように表現 * 9 係数が Fq の元である多項式で,演算としては整数環と同様な性質 を持ち,大まかに言えば和差積について閉じている代数系であり, される. Fq 上の多項式環と呼ばれる.符号はこの多項式環の部分代数系で あるイデアルともみなせる. * 10 正確には逆フーリエ変換の定数倍していることになる. (57) 573 特集 B 誤り訂正技術Ⅰ 〜基礎編〜 この多項式 η (x) は,誤り位置が求まった後,誤りの数値を y( x) = w( x) + e( x). 求めるために利用されるので,誤り数値多項式と呼ばれる. つまり,符号語の中で j ∉ε の位置のシンボルは誤りなく これらの二つの多項式 σ (x) と η (x) の性質について考えて 受信されているが,j ∈ε の位置の受信語シンボルは以下の みる.多項式 σ (x) の次数は誤りの個数なので l となり, ように符号語から変化して誤って受信されていることを表 η (x) の次数は l – 1 となり,互いに素であることも容易にわ している. かる.これらをまとめると次のような性質となる. (1)deg (σ (x)) ≤ t, deg (η (x)) ≤ t – 1. y j = w j + e j ( j ∈ε.) (2)σ (x)と η (x)は互いに素. さて,受信語に検査行列を乗じて計算される 2t 次元ベク トル s = yH⊤ はシンドロームと呼ばれている.受信語に誤 (3)σ (0) = 1. また逆に,与えられたシンドローム s (x) に対してこのよ りが生じていなければ,それは符号語そのままであるので, うな性質を満たす二つの多項式 σ (x)と η (x) は一意に決定で 先に述べたようにシンドローム s = 0 となっている.誤りが きることも示される.したがって,式(8)から多項式 σ (x)と 生じた場合は s ≠ 0 となり,検査行列を乗じることがフーリ η (x) を求める効率的アルゴリズムを構成できるかが次の課 エ逆変換に対応することに注意するとシンドローム s は以 題となる.そのためにはまず,mod x2t に注意して式(8)を 下のように表される. 以下のように書換える. si = y(α i+1 ) = e(α i+1 ) (i = 0,⋯, 2t − 1) σ ( x) s( x) + φ ( x) x 2t = η( x). (10) このシンドローム s も以下のように多項式表現でき,シン この式の σ (x)と η (x) は,付録 B の多項式環のユークリッド ドローム多項式と呼ばれている.さらに si が e (x)のフーリ 互除法を用い,初期値を a0 (x) = x2 t, a1 (x) = s (x) とおき,再 エ逆変換であることを用いると最右辺のように書ける. 帰的な計算により求めることができる.このことからこの 復号法はユークリッド復号法と呼ばれている. s( x) = s0 + s1 x + s2 x 2 + ⋯ + s2t−1 x 2t−1 2t = ∑ε e ∑ α ij i−1 x j (5) . i=1 j∈ るためにすべての根を求めたい.シンプルな方法としては, * 11 また,s (x) は以下のようにも書換えられる s( x) = e jα ∑ε 1 − α j∈ . σ (x)に j = 0 から n – 1 の α – j を順番に代入し,σ (α –j) = 0 とな j j このアルゴリズムによって誤り位置多項式 σ (x) が得られ たので,次のステップは誤り位置のインデックスを特定す x mod x 2t . (6) これから述べる限界距離復号法の基本方針は,このシンド る j をすべて求めれば誤り位置が特定される.この方法は Chien 探索と呼ばれている. 次は,その位置に対応する誤り数値 ej (j ∈ε) を求めたい. ロームの情報を用いて,誤り位置集合 ε をまず特定し,次に そこで,式(7)を用い σ (x) の形式的な微分 σ ′(x) を求めて それぞれの誤り値 ej (j ∈ε) を求め,その値を受信語 y(x) から みると以下となる. 減ずることにより復号を行うことをめざす. まず誤りの位置を特定するため,以下のような多項式を 考える. σ ( x) = σ ′( x) = − ∑ε α ∏ ε (1 − α j j∈ h x). (11) h≠ j , h∈ この式と誤り数値多項式 η (x) を用いることで,誤りの数 ∏ (1 − α j x). (7) 値 e j (j ∈ε) は以下ですべて求めることができる.この方法 は Forney アルゴリズムと呼ばれている. j ∈ε この多項式を用いた方程式 σ (x) = 0 は α (j ∈ε) すべてを –j の位置のインデックス j ∈ε を特定できる.この多項式は誤 η(α − j ) ( j ∈ε ) (12) σ ′(α − j ) この誤り数値 ej ∈ε を受信語 y (x) から減ずることにより復号 り位置多項式と呼ばれている. は完了する. 根とする方程式なので,この根を求めれば,すべての誤り この式(7)と式(6)との両辺をそれぞれ乗じると以下の 式が得られる. σ ( x) s( x) = η( x) mod x 2t , (8) 7.むすび リード・ソロモン符号のしくみについて有限体上のフー リエ解析の視点から説明し,効率的な限界距離復号法であ るユークリッド復号法について,多項式環の拡張ユーク ここで η( x) = ej = ∑ε e α ∏ ε (1 − α j j j∈ h x). (9) h≠ j , h∈ * 11 直感的には式(5)を等比級数と見なすことで,このような書換え が可能であることが理解されよう. 574 (58) リッド互除法より解説を行った.紙面の都合で説明が粗く なってしまった部分もあったかもしれないが,数理的に美 しい符号の構造と巧みな復号法の一端を感じていただけた ら幸いである. (2016 年 4 月 9 日受付) 映像情報メディア学会誌 Vol. 70, No. 4(2016) 3.リード・ソロモン符号とその復号法 〔文 献〕 1)今井秀樹,符号理論,信学会(1990) 2)平沢茂一,西島利尚,符号理論入門,培風館(1999) 3)J. Justesen and T. Hohold: "A Course in Error-Correcting Codes", European Mathematical Society Publishing House(2004) 4)S. Lin and D.J. Costello: "Error Control Cod-ing", Prentice Hall(1983) 5)W.W. Peterson, E.J. Weldon: "Error-Correcting Codes", The MIT Press(1972) 基本的な計算は,ai (x) を ai+1 (x) で割った商多項式 qi+1 (x) と剰余多項式 ai+2 (x) が deg ai+1 (x) < deg ai+2 (x) の条件の下 で唯一に決まることに基づいている,次のステップでは, ai+1 (x) を ai+2 (x) で割り,同様の計算を再帰的に実行してい くことになる. ai ( x) = ai+1 ( x) qi+1 ( x) + ai+2 ( x), ai+1 ( x) = ai+2 ( x) qi+2 ( x) + ai+3 ( x), ⋮ ⋮ <付録 A > 有限体上のフーリエ変換 この復号法では多項式 σ (x)と η (x) を求めるために,初期 値を a0 (x) = x2t, a1 (x) = s (x) として上記の再帰計算を実行 なじみのある複素数体上の(離散)フーリエ変換と同様な し,剰余多項式の次数がはじめて t – 1 以下となった時に停 変換が,有限体上でも定義可能である.Fq 上の n 次元ベク 止する* 13.その時の剰余多項式を aI (x) とする.求めたい トル m = (m0, m1, ···, mn – 1) を考える.ここで,n は q を割り 式(10)を満たす多項式 σ (x)と η (x) は以下で計算される.γ 切る数とし,α ∈Fq を位数 n の元 * 12 とする.この n 次元ベ クトル m から以下で定義する n 次元ベクトル w = (w0, w1, ···, wn – 1) への写像をフーリエ変換と呼ぶ. n−1 wj = ∑ は σ (0) = 1 とするための定数である. σ ( x) = γ b22 ( x), η( x) = γ aI ( x), (13) ここで miα ij ( j = 0, 1,…, n − 1) i= 0  b ( x) b ( x)  12 =  11  b21 ( x) b22 ( x) また,n 次元ベクトル m を以下の多項式 m( x) = m0 + m1 x + m2 x 2 + ⋯ + mn−1 x n−1 で表すと,フーリエ変換 w は以下のようにも表現される. w = (m(1), m(α ),⋯, m(α n−1 )). 次に,w から元の n 次元ベクトル m を復元するフーリエ 逆変換は以下で定義される. m i = n−1 n−1 ∑w α − ij j (i = 0, 1,…, n − 1) j =0 また,w の多項式表現 w( x) = w0 + w1 x + w2 x 2 + ⋯ + wn−1 x n−1 を用いると,逆フーリエ変換も以下のように表現される. m = n−1 (w(1), w(α −1 ),⋯, w(α − ( n−1) )) I −1 0 ∏  1 i=1 1 − qI − i  . ( x) この式で σ (x)と η (x) が求まる仕組みを簡単に説明する. ユークリッド互除法の 1 ステップが次の行列計算  a ( x)   q ( x) 1   a ( x)   i  =  i+1   i+1   a ( x)  1 0  ai+2 ( x) i+1 で表現できることから,I 回のステップを逆にたどってま とめると以下となる.  a ( x)  b ( x) b ( x)   a0 ( x) 12 .  I −1  =  11   aI ( x)   b21 ( x) b22 (xx)  a1 ( x)  これより, b22 ( x) a1 ( x) + b21 ( x) a0 ( x) = aI ( x) の関係式が求まり,求めたい式(10)とこの式を見比べる と,σ (x)と b22 (x) が η (x) と aI (x) がそれぞれ対応すること より,式(13)で二つの多項式が求まることがわかる. * 13 最大公約多項式を求めるための通常のユークリッド互除法は剰余 <付録 B > 多項式環上のユークリッド互除法 多項式が 0 となる一つ前で停止する. まつしま 整数環の二つの数 a0 と a1 の最大公約数を求めるアルゴリ ズムとしてユークリッド互除法はよく知られている.同様 な方法で多項式環の二つの多項式 a0 (x) と a1 (x) の最大公約 多項式を求めることができる. * 12 α n = 1 であり,どのような l < n においても α l ≠ 1 である場合,α を 位数 n の元と呼ぶ. としやす 松嶋 敏泰 1978 年,早稲田大学理工学部工業経 営学科卒業.1980 年,同大大学院修士課程修了.同年, 日本電気(株)入社.1986 年,早稲田大学大学院理工 学研究科博士後期課程入学.1989 年,横浜商科大学講 師.1991 年,同大学助教授.1992 年,早稲田大学理 工学部工業経営学科(現 経営システム工学科)助教授. 1997 年,同大学教授,2007 年,同大学基幹理工学 部・応用数理学科教授,現在に至る.情報理論と学習理論とその応用に関 する研究に従事.2001 年,ハワイ大学客員研究員.2010 年,カリフォル ニア大学バークレイ校客員教員.工学博士. 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