『大正大学綜合仏教研究所年報』第41号 (Annual of the Institute for Comprehensive Studies of Buddhism, Taisho University, Vol. 41), 2019
しばしば 略して「サンヴァラ」とも呼ばれる。 saqivara とは、一義的には「最勝楽」(sa1p.vara、 para1p. sukha1p.) を意味するとタントラ本文が述べる(下記)。 ... more しばしば 略して「サンヴァラ」とも呼ばれる。 saqivara とは、一義的には「最勝楽」(sa1p.vara、 para1p. sukha1p.) を意味するとタントラ本文が述べる(下記)。 不空三蔵 (705-774) はこの題名を「 ー 切佛集會祭吉尼戒網喩伽」と訳す。 本 書がいわゆる広本金剛頂経の第九会に相当することは、 『 金剛頂経喩伽十八会 指帰』を読み解いた酒井真典、 福田亮成、 田中公明によって突き止められた。 そしてこの題目の語義は、本稿で扱う第1章において明かされる。 同書は、 インド中期密教と後期密教とをつなぐ過渡期に位骰づけられている 密教聖典であり、 インド密教とくにヨ ー ギニ ー・ タントラの展開を知るための ひとつの鍵となるテクストである。 田中によると、「母タントラの起源を解明 するためには、 その最初期の文献である『サマ ー ヨ ー ガ』に遡って、研究を進 められなければならない」とされる 1 。し かしこれまで、チベット訳の形でしか その完本が知られておらず、 とりわけ本書は韻文テクストであるため、そのチ ベット語の訳文は難解を極め、現代語への訳注研究は保留されてきた。 そのよ うな状況にあって、近年、 梵文原典が確認されたことにより、 とくに注目を集 めている。 Szanto & Griffiths 2017 に従うと、 同梵文写本の概要は次のごと くである。 l 田中 2006: 17 参照。 (64) 事実、 『 理趣広経』(特に「真言分」)の内容は本書と密接に関連しており、 共通 するイ局も少なからず確認されている 4 。さらに田中、苫米地、サントらに指摘さ れるように、 本書は、 『 理趣広経』 系の『金剛場荘厳タントラ』と多くの平行 {易を有し\『トリサマャラ ー ジャ』との平行侶なども存在する 6 。これらのテクス トは、基本的には本書に先行するものと予想されている 7 。このように 『 理趣広 経』 の延長上に本書が成立したとの理解は、 田中が指摘するように、『十八会 指帰』における該当会の配列順序とも軌を ー にする。 またサンダ ー ソン 8 は、 本魯がヨ ー ガ・タントラの伝統に基づきっつもヨ ー ギニ ー ・タントラヘの展開の端緒を開くものだという。 具体的には、 ヘ ー ルカ 信仰を全面に打ち出し、 ガナ•マンダラを導入し尺テクストに全文韻文からな る様式を採用したとする。 そしてこれらの点は、 密教の伝統がヴィドヤ ー ピ ー タ ー 系のシャ ー クタ・シヴァ派の性質を濃縮していったことを示すという。 本書が後代へ与えた影響については、『ラグサンヴァラ』を始めとする9世 紀以降に成立したヨ ー ギニ ー ・タントラ系テクスト、 および8-9世紀以降の学 匠らであるヴィラ ー サヴァジュラ、 ジュニャ ー ナパ ー ダ、 ア ー リヤデ ー ヴァな どによって著された密教論典が、 本書から{局を借用・引用する点が夙に指摘さ れてきており、田中、サントらはその代表的な例を挙げる JO 。ま た本書の地理的 な拡がりを示す資料としては、 インドネシアにおいて本書に基づくブロンズ像 のセットが存在する点、 松長恵史によって報告されている凡 3 根本タントラか続タントラか 本書の題名は、 上記の現存する梵文写本2本において各章毎の末尾に付され る奥付によると、 Sar vabuddhas amayoga<;lakinijalas arrzvar aと呼ばれている。 この題名の語義については後述する。 4 第 1 章 24 偶、 第 6 章 15-16 イ局、 第 9 章 160 偽前半など、 田中
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