Konifar's WIP

親方!空からどらえもんが!

執行役員になって1年くらい経ちました

これは Kyash Advent Calendar 2024 1日目の記事です。

2022年1月から VP of Engineering という役割でKyashの開発組織全体のマネジメントを始め*1、2024年1月から 執行役員 VP of Engineering になり1年くらい経ちました*2

当初は「今までどおりいいプロダクトを作っていけるように行動していくだけだし大きくは変わらん」と思っていたのですが、想像以上に変化もあったので備忘として残しておきます。

ここに書ききれないこともたくさんあります。「1年近くやってこんな抽象的なことしか書けないのか」と感じられるかもしれませんが、まああまり背伸びせず反省も込めて今のスナップショットをそのまま書くことにします。

結果として事業はよくなっている

Kyash のようなカード発行型の決済サービスというのは、決済単体の収益性で見ればいわゆる "薄利多売" の世界です。他社の事業者も、BNPLサービスの手数料や付帯サービスのサブスクといった収益源を模索しています。

この1年、Kyashは決済ユーザー数を伸ばしながら、事業全体の収益性も改善する取り組みを地道に進めてきました。結果としてかなり改善しており、ユーザーにより価値を届けられるプロダクトを作っていくベースが整ってきました。

1月にはB2B領域である 法人送金サービス を立ち上げられたのもよかったです。すでに多くの会社に利用されているKyashアプリへの即時送金に加えて、銀行への振込も実現できるようになりました。手前味噌ながら、エンドユーザー / パートナー / Kyash の三方よしで、「価値移動のインフラを創る」というミッションを前に進める素晴らしいサービスだと思います。この立ち上げと拡大には、@k_omotani をはじめ、oleh、@sh_kitayama といったエンジニアやBizのメンバーが尽力してくれました。間違いなく「ワシが作った」と言っていい成果だと思います。

事業成長に貢献できている感覚は少ない

こうした改善の計画を立てるところに直接関わっていたものの、最終的に意思決定をしているのは同僚の事業部長やCEOでした。また、実際に形にしたのはプロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニアのメンバーです。

PCI DSS v4.0 の監査も10月に無事クリアしましたが、これも情報セキュリティチームとSREチームのマネージャーの入念な準備の賜物です。自分も監査に入ってはいましたが、成果を出したのは彼らです。

「自分は何をすべきで、事業の成長にどう貢献できるのか」と考えることが増えました。経営会議にも参加して、プロダクト単体の数字に加えて会社全体の収益やコスト構造も少しずつ理解してきました。しかし、戦略を決める際に議論を前に進めるような立ち振る舞いはできていないと感じる期間が長く続きました。プロダクト開発では振り返りをリードしたりしながら前に進められるのに、経営チームではこんなに何もできないのかと自分自身に落胆したような感覚です。こういった悩みは、もしかしたら他社のCTOの方も一度は感じたことがあるのかもしれません。

限られた人員の中で、インシデント発生時の対応や会計関連のやりとりなど広く全般的にKyashを支えてきた自覚はあります。一方で、それは役割を設計して委譲できていない裏返しでもあります。自分が手を動かす仕事なのかと考えることも多くなりました。執行役員になった時には「名前が少し変わるだけでやることは大きく変わらん」と思っていましたが、実際に役割を持つとそれに応じた成果を意識するようになるのだなと思いました。

見られ方が変わる

ある問題の解決にあたっていた時、他部署のメンバーから 「それは執行役員としての意見ですか?」 と言われたことがありました。自分は結構驚いてしまって、返事をするのに少し時間がかかりました。

これまで自分は "開発に詳しいいちメンバー" として問題を解決することだけを考えて動いていて、立場でどうこうというのはあまり考えたことがなかったのでした。役割が明確になると自分の意識とともにまわりからの期待も自然と変わってくると聞いたことがあります。とはいえ、ここまでド直球に意識させられたのは初めてで、正直に言うと一線を引かれたようでちょっと寂しい気持ちにもなりました。

少し戸惑いましたが、しばらく咀嚼してこの言葉は自分にとってとてもよいフィードバックになりました。これ以降、自分の発言がどう捉えられるかを今まで以上に意識するようになりましたし、伝え方の引き出しも増えました。余談ですが、そのメンバーとオフィスで雑談した時に直接感謝を伝えたところ、実はよく覚えていないと言っていたのも面白かったです。そんなもんですよね。

何を変えられたかを意識する

印象に残った言葉で言えば、とある飲み会中にメンバーに 「konifarさんが執行役員になって何か変わりましたっけ?」 と言われたことがありました。飲みの席の会話の流れでそこまで深刻なトーンではなかったのですが、自分にとってはかなり芯を突かれたような感覚でしばらくずっと頭の中でぐるぐると再生されていました。

毎日やることは山のようにあり実際に色々とやってはいるものの、何かを動かして成果を出した実感はなかったところに「やはりそう感じるよなあ」という感じでズバリと言い当てられた感覚でした。正直に言えばしばらく凹んでしまったのですが、そこから 「自分が何を変えられたか」 を強く意識するようになりました。

「大事なのは成果を出すことで、何を変えられたかではなくその先だろう」という意見は当然あると思います。一方で、何か変化を起こさないと状況は変わらず成果にもつながりません。アウトプットがなければアウトカムにもつながらないのと同じように、自分にまず必要なのは成果以前の思考と行動量だと振り切って考えるようになりました。

同じ執行役員で事業部長の Nitesh から 「konifar san、何を待ってるんですか?」 と言われたことも効いています。組織体制を事業部制に移行して、目標を決める時だったと思います。今でも思い出すと悔しくて恥ずかしくてジタバタしてしまうことがありますが、意識に刻み込まれるような言葉を投げかけてくれる人がいるのはとても貴重でありがたいものです。一般的に年齢や入社年次を重ねるとフィードバックをもらいにくくなるとも聞くので、これからもこうしたフィードバックをもらえる状態は維持したいですね。

1年以上先を考えて組織を作る

そんなこんなで長らく足踏みをしてしまいましたが、今は「1年以上先を想像して組織を作っていく」というミッションに集中しています。本来は役員になった瞬間からここに時間と頭を使っていかなければならなかったのだと思います。先人の本や資料でも「未来から逆算する」といった話は見聞きしたことはありましたし頭ではわかった気でいましたが、いつの間にか目の前の経営やプロダクトの課題の解決に集中してしまっていました。知識で知っているのと実際にやるのとは全然違うものですね。

この1年のメンバーのがんばりのおかげで、事業はいい状態に進んできています。一方で、事業上必要な開発の優先順位を高くしつづけた結果、プロダクトも組織も課題が溜まってきています。CSや決済、不正対策、経理のチームと伴走してエンジニアリングで改善していくべき部分がたくさんありますし、開発の生産力を上げるような取り組みも横断的にやっていく必要があります。

こうした状況を経営に正確に伝え、1年以上のスパンで考えてどうしていくか計画を立てて実行しきるのが今の自分の役割だと最近認識しなおしたところです。文字にすると「それはそう。むしろ今まで何してたのか」という話で、ぐうの音も出ないですね。これまでは 経営の議論に必要な事業/組織の理解、自分が短期的にカバーして何とかする領域のキャッチアップ でいっぱいいっぱいになっていたというのが実態です。10ヶ月もかかりました。

半年ほど前に入社したCOO*3と1on1をした際の 「マネジメントはマネジメントにしかできないことをやらないと意味がない」 という言葉にも背中を押されることになりました。「1年以上先を考えて組織を描くこと」、「その実現のために採用活動含めて最前線でリードしていくこと」が今自分がマネジメントとしてやるべきことだと考えています。

腹をくくってやっていっている

この1年色々と試行錯誤しながら悩んだ結果、今はよりいっそう腹をくくってやっていっています。特にエンジニアの採用活動は "今の自分にできることを全部やる" という感じで進めています。腹をくくっているので、経営会議などでも背伸びせずわからないことをわからないと臆せず言えるようになりましたし、うまく聞くための引き出しも増えました。

現在進めている難易度の高い開発のプロジェクトに入りたくなる気持ちを抑えてチームメンバーに任せつつ、採用活動にあてる時間を増やしています。1年後に目指す組織体制を描いて経営会議や取締役会での頭出しを済ませ、本格的にアクセルを踏み始めたところです。

この1年、初めてのことも多かったせいか自分が何もできないように感じて正直に言えば結構しんどかったです。それがまわりにも伝わってしまっていたのか、たまに「大丈夫ですか?」と心配されることもありました。一応ここでも明記しておくと、自分は大丈夫です。マネジメントとして成果を出すには1年やそこらでは難しいので、もともと最低でも2年は踏ん張ってやっていくつもりで執行役員になりました。採用活動なんかは半年以上のリードタイムがかかりますしね。なので、どんなに短くとも2025年末まではフルコミットしてやっていきます。もちろんそこでやめるつもりではなくその先も考えていますが、ある程度の区切りを持って目標を立てて振り返りをする方が自分には向いています。

自己評価としては不甲斐ない1年でしたが、執行役員になっていなかったら気づかなかったこともたくさんあります。経営メンバーが自分にはない考え方を持ってすごいスピードで物事を整理し進めていく姿には日々刺激を受けています。CEOの鷹取は自分から見て少し下手な領域もありますが、常にチャレンジングでどう実現できるかを考えて突っ走れるところを尊敬しています。

自分もエンジニアリングの知識と経験は経営の中では一番あることにある意味自信をもって、どうするべきという意見を固めて "提案" をしていこうと思います。余談ですが、以前自分の書いた "提案"のレベルを上げる - Konifar's ZATSU は、どの立場でも適用できる考え方で便利だなと感じています。

最高のプロダクトと組織を作っていくぞ

振り返ってみると、「1年前にこれをやるべきだった」みたいなことが無数にあります。そう感じるということは、組織も自分自身も成長しているのかもしれません。まあ何事も遅すぎることはないので、今からでも常に全力でやっていけばいいと言い聞かせてやっていくことにします。

これからの1年、自分も家族も使っているウォレットアプリをめちゃくちゃよくしていきたいですね。それができるような事業のベースをこの1年で整えられてきたのは本当によかったです。計画は今プロダクトマネージャーや事業部長とともに練っているところです。7年前に入社した時に自分が強くやりたいと思っていた送金や 今も便利に使っている共有口座の磨き込みなどもやっていきたいですね。今でもKyashの送金は便利で使いやすいと思っています。好みや身内のよしみも入りますが、他の送金サービスの中で一番好きです。自分の好きなサービスを自分の手で磨き込んでいけるのは toC サービスを開発する醍醐味ですね。

事業会社なので事業を成り立たせることが大事なんですが、開発自体も楽しめる組織にしていきたいですね。思えば、7年前に入社したくらいの時には「クリスマスと正月に特別な送金アニメーションほしくない?」「ほしい、入れるぞ」みたいな感じで、事業上必要な開発はやりつつもノリでエイヤと作ってリリースしていました。今はプロダクトの規模も複雑度も変わってきてはいますが、そういう動き方がまたできるような攻守両方取りした組織を1年かけて積み上げて作っていこうと思います。具体的な課題や目指す組織体制については、Advent Calendar の他の記事で紹介していきます。

Mobile / Serverside / SRE / Data のポジションをオープンします*4。道半ばどころか始まりくらいなので、もし興味ある/一緒にやっていきたいという方がいたら、ぜひ気軽に連絡をください。最高のプロダクトと組織を作っていくぞ。よろしくお願いします。

では、最後はいつものようにこれを置いておきます。Let's Kyash!

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