概要
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とある屋敷に、自殺を繰り返す虫嫌いの少女がいた。政略結婚のためだけに産んだと云い聞かされて育ち、外にも出されず、白い部屋で着飾って生かされるだけの己の生に絶望した少女は〝死〟に希望を見出し、自殺を繰り返すようになる。
そんな少女の前に一人の男が現れる。彼は少女の兄の奴隷として売り飛ばされてきた男だった。男はたびたび少女の自殺を阻止し、屋敷中の人々に見放された少女の世話を焼く唯一の人間となる。
これは、死と生。「死にたい」
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!夢見し蝶たちの遺言、生と死の狭間で見つけた希望の物語
「死にたい」から「生きたい」へと至る過程を描くこの物語は、私たちが直面する生の苦悩と死の恐怖を見事に描き出している。
物語は、死を望む心の叫びから始まり、生への渇望へと至る。この変遷は、ただ単に生きることの意味を問うだけでなく、人間の内なる葛藤と成長の過程を深く掘り下げている。
この小説は、一見すると虚無感に満ちた人生からの脱出を試みる若い女性の物語に過ぎないように思えるかもしれない。しかし、その背後には、人間の存在そのものの意義と、絶望の中でさえ見出される希望の光が描かれている。
登場人物たちは、自己の存在を否定され、愛されることのない孤独な生を送る。だが、彼らはそれでもなお、生きる…続きを読む - ★★★ Excellent!!!少女は生き様を、男は死に様を蟲と喩えた。脆く鮮明な遺言が導くは——。
褒め言葉の間に縫い付けられる『死にたい』から始まる純文学短編。生と死を儚き虫に喩えつつ、死にたがりの少女と生き急ぐ男の物語が綴られていく、読後感の良い作品です。
ネット小説が普及する昨今『死生観』をテーマに扱う作品は、注目されつつあります。その中で『夢見し蝶の遺言』は、繰り返し読み返すのに適している印象を受けました。純文学は読み手と書き手の感性を研ぎ澄ます分野である為、自由に発信する事が可能な舞台では見逃されがちな傾向があります。しかしこちらは、丁寧なリータビリティで台詞と地の文のバランスが程良く、万人向けに相応しい作りでした。だから当方は三回も読み返したのでしょう。
カクヨムの性質上、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!企画入賞レビュー「地獄の空に今日も蝶が飛ぶ」
哀しくも美しい。蝶のように儚く健気な小説。
これは「死にたい」が口癖のヒロインが、とある出来事を切っ掛けに人生の目標と生きる希望を見出す物語 ――。
そう書くと結末がおめでたいハッピーエンドのように思えるでしょうが、起きた悲劇の傷跡はしっかりとその後の人生にまで深い影響を及ぼしているのです。そこを妥協しなかった点が何よりリアル。
本来なら「死にたい」の対義語として語られるべき祝福の言葉「生きたい」が、この作品ではまったく別の切り口から「重さを伴った呪い」となり主人公の身に返ってきます。その異質さには人生の悲劇的真実ともいうべき、ある種の達観を感じました。
かつては自ら望んだはずの死の救済す…続きを読む