第一戒律の責務
『第一戒律の責務』(独:Die Schuldigkeit des ersten Gebots)K.35は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した最初期の舞台作品である。『宗教的ジングシュピール』と呼ばれ、また「オラトリオ」に分類される場合もある。
概要
[編集]1767年にザルツブルクで作曲された最初期の音楽劇だが、作曲当時のモーツァルトはわずか11歳であった。詳細な作曲の経緯については不明だが、唯一知られることは、ザルツブルクの大司教シュラッテンバッハが、同地で活動していた作曲家たちを集め、その中からミヒャエル・ハイドンとアントン・カーイェターン・アードルガッサー(en:Anton Cajetan Adlgasser)の2人と、11歳のモーツァルトが選ばれ、3人に対してドイツ語による宗教劇の共作を命じたことによる。モーツァルトは第1部の作曲を、第2部はミヒャエル・ハイドン、第3部はアードルガッサーが担当する。
初演は同年の3月12日に大司教宮殿の騎士の間にて行われ、成功を収めたと伝えられる。この成功に報酬として12ドゥカーテンの金メダルがそれぞれ贈呈されている。
なお、この作品の第2部と第3部の楽譜は、パート譜と総譜がともに紛失しており、その所在も不明である。唯一現存するモーツァルトが担当した第1部の自筆譜(及び総譜)は、ヨハン・アントン・アンドレという人物が保管し、その後他者が買い取った末に、現在はウィンザー城の王立図書館に所蔵されている。しかし上演に使用されたパート譜は消息不明である。
台本
[編集]台本の作者は長年に亘って議論されてきたが、1957年に文筆家のイグナーツ・アントン・ヴァイザー[1](Ignaz Anton Weiser,1701-1785)という人物であることが判明した。
楽器編成
[編集]登場人物
[編集]人物名 | 声域 | 初演時のキャスト (1767年3月12日) |
---|---|---|
正義 | ソプラノ | マリア・アンナ・ブラウンホーファー (en:Maria Anna Braunhofer) |
慈愛 | ソプラノ | マリア・マグダレーナ・リップ (Maria Magdalena Lipp) |
世俗の霊 | ソプラノ | マリア・アンナ・フェーゼマイヤー (Maria Anna Fesemayer) |
キリスト信徒の霊 | テノール | アントン・フランツ・シュピッツェーダー (Anton Franz Spitzeder) |
キリスト信徒 | テノール | ヨゼフ・マイスナー (Joseph Meissner) |
構成
[編集]序曲と8曲のナンバーから構成される。怠惰なキリスト信徒が様々な体験を通し、重ねながら信仰に目覚めて行くというもの。
- 序曲(またはシンフォニア。アレグロ ハ長調,4分の4拍子,ソナタ形式)
- 第1曲 アリア「悲しみつつ私は眺めねばならぬ」(キリスト信徒の霊、Mit Jammer muß ich schauen)
- 第2曲 アリア「怒り狂った獅子は咆哮し」(慈悲、Ein ergrimmter Löwe brüllet)
- 第3曲 アリア「目覚めよ、怠け者の奴隷よ」(正義、Erwache, fauler Knecht)
- 第4曲 アリア「創造主がこの命を」(世俗の霊、Hat der Schöpfer dieses Lebens)
- 第5曲 アリア「あの雷のような叱咤の言葉の力が」(キリスト信徒、Jener Donnerworte Kraft)
- 第6曲 アリア「哲人をひとり描いてみたまえ」(世俗の霊、Schildre einen Philosophen)
- 第7曲 アリア「病の多くは、時折は」(キリスト信徒の霊、Manches Übel will zuweilen)
- 第8曲 三重唱「あなた方の恩寵の輝きが」(キリスト信徒の霊、慈悲、正義、Laßt mich eurer Gnade Schein)
脚注
[編集]参考資料
[編集]- モーツァルト名盤大全(音楽之友社)
- モーツァルト:『劇音楽全集』(ネヴィル・マリナー指揮,シュトゥットガルト放送交響楽団,フィリップス)他
外部リンク
[編集]- 第一戒律の責務の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト