札幌市 クラスター対策班メンバーが現状「対応能力超える」
新型コロナウイルスの感染が急速に拡大している札幌市に国から派遣されたクラスター対策班のメンバーが、NHKのインタビューに応じ、「保健所の対応能力をはるかに超える数のクラスターが発生している」として、調査と対策が追いついていない現状を明らかにしました。市は、介護施設や病院で起きたクラスターへの対応を優先する一方、学校や企業でのクラスターは対策を後回しにせざるをえなくなっているということです。
NHKのインタビューに応じたのは、国のクラスター対策班のメンバーで、今月7日から札幌市での対策にあたっている、国立感染症研究所の山岸拓也室長です。
山岸室長は、札幌市で新たな感染者が連日100人以上報告されていることを挙げ、「市の保健所の体制をはるかにしのぐような患者とクラスターが発生している」と述べて、感染経路を特定する調査やさらなる拡大を防ぐための対策が追いつかなくなっている現状を明らかにしました。
そのうえで、「重症者を減らすためにより重要なクラスターに資源を集中している」と述べ、高齢者や基礎疾患のある人が多い介護施設や病院で起きたクラスターへの対応を優先し、若い人や軽症者などが多い学校や企業などでのクラスターは、濃厚接触者の特定は進めているものの、感染経路の調査や拡大を防ぐ対策は後回しにせざるをえなくなっていると説明しました。
山岸室長によりますと、札幌市の保健所では、およそ30人態勢で調査や対策にあたり、さらに応援の職員をおよそ100人増員し、濃厚接触者の特定にあたっていますが、先月半ば以降、クラスターの発生件数が対応能力を超えるようになっているということです。
実際、市では先月から発生したクラスターが15日の時点で45件と急増していて、繁華街のススキノの夜の接待を伴う飲食店をはじめ、郵便局や専門学校など多岐にわたっています。
このため保健所では、死者を最小限にし、ススキノの新規感染者をゼロにする、そして保健所の職員や医療従事者を感染させない、という3つの優先事項を定めていて、山岸室長は「重症者や死者を減らすというミッションのもとにやっている。学校や企業の対策もしていくべきだが、今はそのときではない」と述べています。
また、ススキノについて、山岸室長は「道内だけでなく、本州からもサラリーマンや観光客が来ていて、夜のまちの遊びもある。ウイルスはそこに巧みに入り込んだ。ここで感染した人が地元に持ち帰って広げている可能性がある」と話し、ススキノでの対策の強化が全体の感染拡大を抑えるうえでも重要だとしています。
山岸室長は、寒さの影響についても触れ、換気が十分に行われないことが感染拡大の一因である可能性があるとして、「暖かくて居心地のよい空間にみんながいると感染してしまう。暖房と換気のせめぎ合いだが、やはり感染しないことがいちばんで、まずは予防に努めてほしい。そして感染したときは保健所も最大限動いていることを理解していただき、冷静に対応してほしい」と述べ、市民1人1人がこれまで以上に「3密」の回避など予防と対策に徹底して取り組まないと、感染拡大は収まらないとの見方を示しました。
感染拡大続けば 札幌市内の病床が足りなくなる事態も
市によりますと、市内では今月15日の時点で366の病床があり、このうち191床が使用されています。
計算では100床以上空きがあることになりますが、山岸室長は「軽症者や中等症の病床はある程度確保できているが、重症者や介護が必要な人の病床はほとんどない」と明かし、実際は人工呼吸器などでの治療ができる重症者向けの病床はひっ迫していて、特に重症化のリスクが高い介護を必要とする高齢者を受け入れる病床が足りなくなっているということです。
山岸室長は「今のままで対応していくのは限界に近い。このまま感染が続けば、日常の医療も影響を受けて、一般の救急搬送もできなくなるかもしれない」と述べ、現状のままでは新型コロナウイルスの感染者への治療だけでなく、ほかの病気の治療にも支障が出るおそれがあると指摘しました。
そのうえで、若い人で無症状もしくは軽症の人への対応は、特段の事情がないかぎり優先順位が低くなっていることや、このままでは本来助けられる命も救えなくなる事態が現実になりかねないことを、市民1人1人に理解してほしいとしています。
山岸室長は「万が一感染したときは自宅での長期間の待機もありうるし、発症して軽症の場合には入院できないこともある。熱があるのにすぐに入院できないのは悲しいことだが、状況を理解してほしい」と話しています。
そのうえで「市民が一丸となってこの難局を乗り切っていくことが大事だと思う。保健所や病院とともに自分たちも一緒に対策に取り組むという覚悟でやってもらいたい」と述べ、市民1人1人が最大限の予防と対策に取り組む必要があると呼びかけています。
全国のほかの地域でも起こりうる
山岸室長は、感染が急速に拡大している現状について「生きるためには経済を回さなければならない。一方で感染症も予防しなければならない。この大変難しいバランスを探っていった結果、経済活動を開いたときに流行してきてしまった」などと述べ、各地との往来や学校や企業の活動再開などが感染拡大の一因である可能性を挙げました。
特に札幌市の繁華街、ススキノについては「従業員のほか、市内や道内、それに本州からも客が来ており、行動の把握が難しくなっている。その人たちが持ち帰って広げている可能性がある」と述べ、ススキノから感染が広がっていった可能性を指摘しています。
具体的には、先月の時点でススキノにとどまっていた感染の連鎖が今月にかけてほかの場所に広がっていて、感染者が急増する「ホットスポット」と呼ばれる場所は、すでにススキノから医療機関や高齢者施設などに移ったとしています。
繁華街など市中で感染が拡大してから、1週間から2週間ほど遅れて医療機関や高齢者施設にも感染が広がるという傾向は、「第2波」のときも見られたということで、「今後、東京や大阪など全国のほかの地域でも札幌と同じような状況になる可能性がある」としています。
山岸室長は「結果的にはこれが第3波の始まりになってきていることは十分考えられる」と指摘したうえで、「未曽有の事態となっているが、いかに抑え込むかが試されていると思う」と述べ、さらなる感染拡大を食い止められるかどうかの瀬戸際にあるとの認識を示しています。