行列ノルム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/16 13:50 UTC 版)
線型代数学における行列ノルム(ぎょうれつノルム、英: matrix norm)は、ベクトルのノルムを行列に対し自然に一般化したものである。
性質
以下では体 K を実数体 R または複素数体 C のいずれかを指すものとして用いる。また、Km×n を、K の元を成分に持つ m 行 n 列の矩形行列の全体が、通常の和とスカラー倍に関してなすベクトル空間とする。Km×n 上の行列のノルムはベクトルとしてのノルムである。すなわち、行列 A のノルムを ‖ A ‖ で表せば
- 正定値性:‖ A ‖ ≥ 0 かつ等号成立は A = O と同値
- 斉次性:α ∈ K, A ∈ Km×n ならば ‖ αA ‖ = |α|‖ A ‖
- 劣加法性:A, B ∈ Km×n ならば ‖ A + B ‖ ≤ ‖ A ‖ + ‖ B ‖
が全て満たされる。
正方行列 (m = n) に関して、以下に挙げる条件を課す場合がある。
- 劣乗法性: ‖ AB ‖ ≤ ‖ A ‖‖ B ‖
- ∗-性: ‖ A ‖ = ‖ A∗ ‖
ここで A∗ は複素行列 A の随伴を表す。A が実である場合、その随伴は A∗ は転置 A⊤ に一致する。
劣乗法性を持つノルムを劣乗法的ノルム (sub-multiplicative norm) と呼ぶ[注 1]。劣乗法的ノルムを備えた n 次の正方行列全体の成す集合はバナッハ代数の一例である。
誘導されたノルム
2つのベクトル空間 Km, Kn におけるベクトルのノルムが与えられているとき、それらに対応して m × n 行列の空間 Km×n 上の行列ノルムを与えることができる。
(樊と土偏に畿、U+302C0)と書くが、表示できる環境が少ないため畿の字を代用する。中国系アメリカ人数学者 Ky Fan にちなんだ呼称
出典
- ^ Golub & Van Loan 1996, pp. 56–57.
- ^ Horn & Johnson 1985, Chapter 5.
参考文献
- Golub, Gene; Van Loan, Charles F. (1996). Matrix Computations (3rd ed.). Baltimore: The Johns Hopkins University Press. ISBN 0-8018-5413-X
- Horn, Roger; Johnson, Charles (1985). Matrix Analysis. Cambridge University Press. ISBN 0-521-38632-2
- Demmel, James W. (1997). “1.7”. Applied Numerical Linear Algebra. Society for Industrial and Applied Mathematics (SIAM). ISBN 0-89871-389-7
- Meyer, Carl D. (2000). Matrix Analysis and Applied Linear Algebra. Society for Industrial and Applied Mathematics (SIAM)
- Watrous, John (2008), “2.4 Norms of operators”, Theory of Quantum Information, University of Waterloo 2016年5月28日閲覧。
関連項目
外部リンク
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