4月8日の任期満了を前に、賃金を巡る日銀の黒田東彦 総裁の発言が変節している。就任当初は「物価が上がれば賃金も上がる」としていたが、昨年からは物価が急騰しているのに「賃金の上昇が伴っていない」にすり替わった。物価上昇に伴って賃金も自然に増えるとした「経済の好循環」を実現できなかったと事実上認めた形で、10年に及ぶ金融緩和策の挫折を象徴している。(渥美龍太、原田晋也、畑間香織)
◆「普通起こらない」ことが現実に起きている
黒田氏は物価が急騰した昨年前半から「賃金の上昇を伴う形で2%の物価安定の目標を実現していない」などと話す場面が目立つ。
日銀は巨額のお金を流す異次元緩和により、消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比が2%を上回る目標を掲げ、昨年12月に4%に達した。黒田氏の発言は、賃金が上がらない現状は好循環を伴う「良い物価上昇」ではないとの説明だ。
緩和を始めたころの主張は違った。「賃金が上昇せずに物価だけ上昇することは普通起こらない」。緩和開始から1年近くたった2014年3月、黒田氏は講演でこう強調した。緩和で物価が上昇さえすれば、日本経済が好転するとしていた。
だが、円安への誘導で輸出企業を中心に収益は改善したものの、成長期待が乏しい日本での賃上げに積極的ではなかった。賃金上昇が円安や消費税増税の物価上昇に追いつかず、物価の影響を反映させた実質賃金は14年に前年比2.8%下落した。
15年以降も、物価が緩やかに上がる中で実質賃金の下落の傾向が止まらず、ロシア...
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