『しゃべらない仕事術』(石田健一著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は内向的な性格で、人とのコミュニケーションが大の苦手だったのだそうです。打ち合わせや会議で思うように話ができず、何度も言い間違えたり、意図が全く伝わらない時期が続いたのだとか。挙句、ストレスから過食気味になり、一時期は体重が15㎏も増えてしまったというのですから完全な悪循環です。
失意のどん底を味わった末に試行錯誤を重ねた結果、行き着いたのは「そんなに喋る必要があるのか?」という思い。いわば逆転の発想で、そこから人生が大きく変わり始めたといいます。矛盾するような話ですが、いかにして「しゃべらないようにするか」を意識することによって、コミュニケーションが劇的に向上したということです。
そんなことが本当に可能なのかと感じずに入られませんが、著者によれば、それは簡単なことなのだとか。
みなさんが元々持っている「気質」「価値観」など、本質的な部分を変える必要はありません。「行動」「考え方」を変えるだけです。
(「はじめに」より)
基本的な考え方が解説されている、序章「コミュニケーションを変える3つの法則とは」を見てみたいと思います。
「しゃべらない技術」もある
コミュニケーション能力を磨くための本が、たくさん出版されています。それらの多くは「どうしたら上手に喋れるようになるか」というもの。しかし、「しゃべる」ことはコミュニケーション手段のひとつであり、すべてではないと著者は言います。「コミュニケーション能力が高い=しゃべるのが上手」と結びつけてしまいがちだけれども、決してそうではないということ。
会話は、話し手と聞き手の双方がいて成り立つもの。みんなが話し手では会話になりませんし、逆の場合もまたしかり。「話す人がいて、聞く人がいる」状態が前提条件であるということです。だとすれば、「話す」だけでなく、「聞く」こともコミュニケーションの大切な手段であるということがわかるはず。たしかに当たり前のようでいて、みんな忘れてしまっていることかもしれません。
だから、しゃべるのが得意でなくとも心配は不要。「聞く」ことを中心にしたり、もしくは文章で伝えてみたり、しゃべることに頼らなくても人と上手にコミュニケーションをとる方法はいくらでもあるわけです。(14ページより)
「しゃべくり名人」への憧れは捨てる
「コミュニケーション能力が高い=しゃべるのが上手」という既成概念は、「誰とでも気軽に雑談ができて、すぐに打ち解けて仲よくなれて、ときには笑いを取れた方がいいんだろうな」というような考えに行き着いてしまいがち。そういう人は華やかにも見えるだけに、「同じようになりたい」と考える気持ちもわからないではありません。
それでも、「しゃべれるようになりたい」という憧れは、思い切ってバッサリと捨ててしまいましょうと著者は記しています。なぜなら、人にはそれぞれ、その人に適したコミュニケーションのとり方があるから。それに「コミュニケーション能力至上主義」の風潮に合わせ、外向型のふりをしている"隠れ内向型"を含めれば、日本人の7~8割は内向型に当てはまると想定されるといいます。また、内向型とは正反対の外向型が多いとされるアメリカでさえ、5割の人が内向型だとか。
「極論すれば、特に日本人の多くはしゃべる技術よりも、しゃべらない技術を磨くべき」だというのが著者の考え方。その方が、自分を無理に変えることなく楽に生きていけるわけです。もちろん、しゃべるのが苦手な人でも、トレーニングを重ねれば話せるようになるかもしれません。しかしそれは隠れ内向型であり、本来の自分ではないはず。弁の立つ自分を演じることで、エネルギーを大量に消費してしまうのでは本末転倒です。(16ページより)
しゃべらないことが武器に変わる3つの法則
しゃべるのが得意な人は、しゃべりが上手なことを武器にしてコミュニケーションをとります。では、しゃべるのが得意ではない人、しゃべらない技術を磨いた方がいい人は、なにを武器にすればいいのでしょうか? それを見極めるために、著者は内向型の人の特徴をマイナスとプラスの双方からまとめています。
[マイナス面]
・プレッシャーに弱い
・アピールが苦手
・リスクに対して慎重すぎる
・パーティーや飲み会などの場が苦手
・口ベタである
・小さなミスをいつまでも引きずる
・大人数の前だとあがってしまう
・エネルギーが枯渇しやすい
・自分に自信が持てない
・行動に移すのが遅い
[プラス面]
・洞察力がある
・真面目である
・ひとりが好き
・持続力、継続力がある
・対人関係に慎重に対処できる
・集中力がある
・人の話をよく聞く
・もの静かな印象で落ち着いている
・周りをよく見ている
・念入りに準備をする
(19ページより)
そして、本来持っているこれらの特徴を活かし、「できる限りしゃべらないで成果を出す」ための法則が次の3つだとか。
1.のシンプルの法則は、物事をシンプルにするだけでコミュニケーションが格段によくなり、伝えたかったことが伝わるようになるということ。 2.のギャップの法則は、繊細でもの静かな人が、営業やプレゼンなどさまざまな場面で意外性を発揮すること。それが人を動かし、成果に繋がっていくからです。 3.観察の法則は、仕事を円滑に進め、良好な人間関係を構築するために、落ち着いて観察する、注意深く見るというアプローチ。1.シンプルの法則
2.ギャップの法則
3.観察の法則
(20ページより)
この3つの法則を利用することで、無理してしゃべらなくても伝えたいことが相手にしっかり伝わり、確実に届くコミュニケーションに変わると著者。ポイントは、自分に無理をさせるのではなく、本来持っている強みを認識しながら「行動」「考え方」「視点」を変え、秘めたる影響力を発揮するための扉を開くこと。次章以降で詳細を学ぶにあたり、まずはこの「基本」を踏まえておくべきだというわけです。(18ページより)
「しゃべるのが苦手」とコンプレックスを抱いている人には、ぜひ手にとっていただきたい一冊です。
(印南敦史)