『新版 はじめての課長の教科書』(酒井穣著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、2008年2月に出版されて「課長本ブーム」を引き起こすことになったベストセラー『はじめての課長の教科書』をアップデートした新版。大幅に加筆修正され、30%の内容増となっているのだとか。
きょうは第2章「課長の8つの基本スキル」のなかから、いくつかを抜き出してみます。
部下をほめ、方向性を伝える
部下をほめるという行為の意味は、感謝の意を示しつつ部下の進むべき方向を示すこと。ほめるとき部下に「なぜほめられたのか」を正しく伝えられれば、部下も「こういうことを課長から望まれているんだな」ということを身体に刷り込ませることができるというわけです。
ほめるスキルを身につけるために必要なのは、まず部下の正しい行動をほめ、さらに小さいものでも部下が出した成果を、その部下の能力や実積と照らし合わせて評価するという当たり前の態度。そして、なるべく人の集まる場所でほめるようにすべきだといいます。(80ページより)
部下を叱り、変化をうながす
部下の叱り方には、次の4つのフェーズがあるとか。
フェーズ1 事実関係を確認する
どんな問題でも、まず最初にすべきは事実関係の確認。
フェーズ2 問題に至った原因を究明させる
部下の起こした問題が単純なミスではなく、抜本的な対策が必要な場合は、まず「なにが原因で問題が起こったのか」を部下に考えさせる。
フェーズ3 部下が気づかなければ、直接原因を伝えて叱る
時間を与えても部下が自分の問題に気づかない場合は、誠意を示しつつ直接問題の原因に切り込み、どこがおかしかったのかをはっきりと伝える。
フェーズ4 感情のフォローアップをする
叱った直後に次のプロジェクトの話題などを出し、部下への期待をはっきりと示し、その場を明るい雰囲気で閉じる。
(86ページより)
部下の業績が悪くてもなにも言わないということは、課長が部下をその程度の存在にすぎないと考えていることになります。そういう意味でも、叱ることは大切だというわけです。(84ページより)
部下をコーチングし、答えを引き出す
コーチングの前提は「問題の答えは、その人の中にこそ存在する」という発想であり、その答えを引き出すための技術が「質問」。つまりコーチングは「質問をベースにしたコミュニケーションの技術」であり、コーチングの3つの目的は次のとおり。
目的1 潜在能力を引き出す
部下の中に眠っている本来の力を少しでも解放してやれれば、部署の業績を上げることができる。
目的2 思考プロセスを鍛える
問いかけこそが問題を解決する手段であることを、部下が身を持って体験することが重要。そこでコーチングのプロセスでは、質問を繰り返し投げかけて思考プロセスを鍛える。
目的3 モチベーションを高める
部下のモチベーションを高めることは、忘れてはならないコーチングの目的。そして「課長に気にかけてもらっている」と実感させることが、部下のモチベーション管理の本質。(100ページより)
次に、「コーチングの3つの心構え」を見てみましょう。
心構え1 部下の価値を認め、可能性を信じる
大切なのは、部下の価値を認め、可能性を信じ、成功を願うこと。そして、そんな思いを抱いていることを部下にしっかり伝えること。
心構え2 秘密を守り、信頼関係を築く
秘密は秘密として守ることを約束し、その約束を固く守る。守秘の信頼があってこそコーチングは成立する。
心構え3 コーチングですべてが解決できるとは限らない
コーチングは万能ではなく、解決できる問題には限りがある。ときにはアドバイスや指示を与えたり、ほめたり叱ったりすることも必要。
(102ページより)
最後に、コーチングの3つの禁止事項もご紹介しておきます。
禁止事項1 アドバイスや支持、提案は行なわない
コーチングの大前提は、「問題の答えはその人のなかにある」のを信じること。
禁止事項2 YES,NOで答えられる質問は避ける
YES,NOで答えられる質問は誘導尋問になりかねず、コーチングを台なしにする。
禁止事項3 質問するときには非難の意味を込めない
「なぜ?」を使うときには、ネガティブな印象を与えないよう、表情や声のトーンに細心の注意を払う。
(104ページより)
なお、本書のもうひとつのポイントは、今回新たに加えられた第6章「活躍する課長が備えている5つの機能」。質問項目に沿って答えをチェックしていくことにより、成長すべき方向の目安がわかるようになっているので、ぜひ参考にしてみてください。
(印南敦史)