老眼は他人事じゃない。AIを使った遠近両用メガネで世界が変わった話

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  • author 三浦一紀
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老眼は他人事じゃない。AIを使った遠近両用メガネで世界が変わった話
Photo: amito

なんだかスマホの文字が見づらいなー」なんて感じたこと、ありませんか? それ、老眼かもしれません。

老眼(老視)とは、年齢とともに目の機能が衰えることで近くのものにピントが合わなくなる生理現象。この老眼、人間であれば誰にでもいつか必ずやってきます。他人事ではありません

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本はこのくらい離さないとピントが合わない。これでは文字が小さくて読みづらい。

僕も45歳を過ぎたあたりから本やスマホやPCの文字が見づらくなり、今では仕事をするときだけ老眼鏡をかける生活をしています。PCの画面や手元はよく見えて快適です。ただ、面倒くさいことも。

それは「着けっぱなしで生活できない」こと。老眼鏡は近くのものを見る専門のメガネ。クルマの運転や野球観戦といった、遠くを見る用途では視界がぼやけてしまって使えません。

そのため、PCの前を離れるときはメガネを外す必要があります。この着け外しが結構なストレスに。

そんなメガネ問題に思い悩んでいたところ、メガネレンズメーカーのニコン・エシロール世界初のAIを活用した遠近両用レンズを発売するという情報をキャッチ。レビュー用にご提供いただけるとのことで、さっそく作りに行って参りました。

AIというからにはさぞ簡単にメガネが作れてしまうのかと思ったのですが、いい意味で裏切られる結果に。いやー、高品質なメガネは奥が深い。遠近両用レンズは職人技とテクノロジーの結晶であることがよくわかりました。メガネ完成までの流れと完成品のレビューをどうぞ。

遠近両用レンズって何?

遠近両用レンズとは、手元から遠くまで一枚のレンズだけで見えるように設計された製品です。一般的には、レンズの下のほうが手元用、上のほうが遠くを見る用となっています。

一昔前までは、遠近両用レンズは手元用と遠距離用のレンズを中央で2分割し、それを1枚に貼り合わせたものが使われていました。つまり、レンズに境目があったのです。この境目が気になって、遠近両用レンズを敬遠する人もいたのだとか。

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現在の遠近両用レンズは、1枚のレンズ内に複数の度数を配置することで、境目のない快適な視界を実現しています。「累進レンズ」なんて呼ばれることもあります。

手元から遠くまで快適に見えるメガネ。それが現代の遠近両用レンズです。

最新テクノロジーと職人技で作る極上のメガネ

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やってきたのは、東京のニコンメガネ南青山店。非常にラグジュアリーな雰囲気が漂います。

簡単なヒアリングのあと、まずは視力測定から。はじめに機械が自動的に測定をしてくれる「他覚検査」を受けます。

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この機械、日本ではこの店舗にだけに置いてあります。ほかは研究所などにあるとのこと。いやー、テンション上がる!

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僕は気球や花火の画像を見つめるだけ、特に受け答えはありません。

他覚検査の結果、僕は左目の乱視がかなりひどいとのこと。自覚症状ないんですけどね。

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他覚検査で得られたおおよその情報をもとに、今度は自覚検査の機械で測定します。こちらも日本に数台しかない機器。液体レンズを使って見え方を調整します。通常のテスト用の視度調整レンズは0.25度単位ですが、この機器では液体レンズを使うことで0.01度単位で調整ができます。

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また、目とレンズの距離もミリ単位でカメラで測定しています。最適な見え方を実現するには、目とレンズの距離が重要。この距離を測定することで、フレーム選びおよび調整の参考にするわけです。細かい。

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この機器では、大きさの違う数字を見てどこまで見えているのかを自己申告したり、赤と緑の文字を見てどっちが見やすいかを答えたりと、自分の見え方を技師の方に伝えます

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この技師さんのカウンセリングが職人技なんですよ。僕が「ちょっと見えづらいですね」と答えると、ササッと見えやすい度数に変えてくれます。測定が進むにつれて、老視と乱視が入り乱れる僕の視界をどんどん理解していってくれる安心感がすごい。

視力検査はおよそ40分ほどでしたが、かなり念入りに行なっていただきました。こんなに視力検査したの、生まれて初めてかもしれません。大きな機械で自分の視力を測るの、なんかワクワクしました。

店内で実生活をシミュレーション

今回作るのは、ニコン・エシロールのAIを活用したVarilux(バリラックス)XRシリーズのうち、「Varilux XR Pro」という最上位グレードレンズ。バリラックスは、遠近両用レンズ専門ブランドで、近くから遠くまでバッチリ見えるレンズです。

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視力測定で導き出した度数のテストレンズを使って、実際の見え方を店内でシミュレーションします。店内には書斎やダイニングなどを模したスペースがあるので、実際に生活している状況で、テストレンズを試すことができます。

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僕は1日の大半をノートPCの前で過ごしているので、オフィスデスクを模したスペースに座って見え方をチェック。遠近両用レンズの下のほうが手元にピントが合いやすくなっているので、多少ノートPCを見下ろす感じになりますね。

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外に出て遠くを見るテストもしました。いやー、よく見えるんですよ。僕の手ごわい乱視の矯正もバッチリってことです。

まるでスーツのオーダーメイド

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この後、フレームのフィッティングをします。今回フレーム選びもお店の方にお願いしたのですが、このクリアのフレームが着け心地もよいし、みなさんから「似合っている!」と大絶賛されたので、これに決定です。

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フレームを選んだら、専用の機械でフレームのデータを保存します。顔を上下左右に傾けてから正面を向いたり、顔を横に向けたまま目線だけ正面に向けたりと、ちょっとモデルさんっぽい動きをしました。

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この機械で正確なデータを取得することで、目とレンズの距離を算出し適切な度数に調整するとのこと。目とレンズの距離が変わってしまうと、せっかく合わせた最適な度数のレンズでも見えづらくなってしまうのです。

AIが自分に合った最適なレンズを導き出す

今回作成するVarilux XR Proは、AIを活用した最新のレンズ。

人間の目は1日10万回以上動くと言われています。場所によって度数が変わる遠近両用レンズでは、この視線の動きを考慮することでより鮮明な視界を実現できるわけですが、そこにAIが力を発揮します。

ここまで測定してきた度数や目の大きさなどのデータをバリラックスの持つ100万件以上のデータと照らし合わせ、その人の視線移動のクセを推測することで最適な度数分布を導き出してくれるのです。

さらに精度を高い度数分布を導き出すために、追加でiPadによるテストも行ないます。

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画面に表示される青いドットを目で追っていくだけなのですが、これで僕の目線の動きや顔の動き、目の寄り方などをチェックすることができました。このデータも含め、途方もない組み合わせの度数分布の中から最適なものをAIが推測してくれるのです。

そんなこんなで、バリラックスのレンズを使った僕だけのメガネをオーダーしました。仕上がりまでは約2週間とのことです。

フレーム調整が神業

…2週間後。

先日オーダーしたバリラックスの遠近両用レンズで作ったメガネを受け取りにきました。

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お店で受け取る際には、再度フレームのフィッティング。実はこのフィッティング技術がめちゃくちゃすごい。スッと掛けられるだけでなく、ずれ落ちにくい。2回くらい調整してもらったら、まるで自分の顔に吸い付くような仕上がりになりました。

実はニコンメガネのスタッフさんは、眼鏡作製技能士という国家資格を持っているので、視力検査からフレームの調整まで、かなりハイレベルなんです。

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このメガネ、一生使うかも。

世界はこんなにもクリアだったんだ

さて、バリラックスの最新レンズ「Varilux XR Pro」で作ったメガネ、実際に掛けて2週間ほど生活してみました。

まず思ったのが、「世界ってこんなにクリアだったんだ!」ということ。老視はもちろん、乱視の矯正をバッチリしているため、これまで以上に世界がクッキリハッキリ見えます。これまで、ぼやけた世界にいたんですね、僕。

PCの画面、ミラーレス一眼の背面液晶、スマホ、腕時計、雑誌。これまで見づらかったものが、とてもクリアに見えます。この感覚、画像でお伝えできないのが悔しい。快適そのものです。

何と言ったらいいのでしょう。とても質の良い一眼レフカメラのファインダーで世界を見ているような、そんな感じです。

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ノートPCにピントが合っている状態。

遠近両用レンズの使い勝手は、慣れてしまえば何の違和感もありません。

最初の数日は、やや目線を下にして手元を見ることに慣れていなかったのですが、慣れてしまえば手元を見るときに自然と目線だけ下げるようになりました。

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この角度ではノートPCの画面にピントが合わない。

ただ、老眼が進むと手元が快適に見えるポイントが狭くなるらしく、僕の場合は長時間のPC作業では首を固定しなければならず、ちょっと疲れることも。一日中PC作業をするのであれば遠近両用レンズである必要はないので、その日の予定に応じて老眼鏡と使い分けるのもアリです。

それにしてもPCの前から移動するときにわざわざメガネを外す必要がなくなったのは大きなメリット。お風呂に入るときと寝るときと顔洗うとき以外、ずっと着けっぱなしです。メガネをこまめに着け外しするの、結構ストレスだったんですよね。

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バリラックス掛けてないとスマホを見るときこれくらい離さないと見えない。
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バリラックス掛けたらこのくらいの距離でスマホが見られる。ちなみに今までスマホの文字を大きくしていたが、標準に戻した。

これまで、一日中メガネを掛けて生活することがなかった僕ですが、遠近両用レンズを作ってからはすっかりメガネっ子になってしまいました。メガネ掛けてないとちょっと不安になるくらいです。

「Varilux XR シリーズ」は、レンズのみで9万円からとなかなかお高いレンズなんですが、その価格以上の価値があると思います。

メインのメガネはいいものにしようと思った

メガネチェーン店でお手軽に買えるメガネも気軽に使えていいものですが、メインとなるメガネはしっかりしたものを作ったほうがいいと感じました。

本当に自分の目に合うメガネは、目のデータをしっかり測定できる職人技と最先端のテクノロジーで成り立っています。相応に時間はかかりましたが、良いメガネで世界の解像度が上がれば普段の暮らしが楽しくなりますし、ストレスもかなり軽減されますよ。

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本も読める!(老眼だと文字が拡大できる電子書籍オンリーになりがち)

Source: ニコン・エシロール

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