ひろゆきが賠償金不払いについてプロバイダ責任制限法がなかったことを言い訳にしてるので、論破してみた(with川上量生)
1.問題の発端
先日、ひろゆき氏、「2ちゃんねる」の賠償金“30億円”踏み倒しは「全く悪いと思ってない。悪いのは法律」というとんでもない記事があがりました。
これに対する私の感想はこれです。
ちょっと何言ってるか分からない。
こんなので納得するネット民はおらんだろ、というのが素直な感想でした。
ところがですね、い ま し た !
ひろゆきの言うことならなんでも信じちゃう純粋無垢なひろゆキッズたち、もうそれもうじゃうじゃ。
最近の義務教育って敗北しまくりじゃねってレベルで。
まぁこれだけならほっといたんですけど、この主張にKADOKAWAの川上量生さんまで乗っかっちゃって。
いくらなんでもこの歴史修正主義とも評価できるような主張だけネットに残しておいちゃいかんと思い、ネットのかたすみにちゃんと真実()を残しておくべく、本記事を書きました。
2.法の不備で(プロバイダ責任制限法がないから)賠償義務を負ったなんてことはない、法律の施行後もちゃんと敗訴してます
ひろゆきは、記事で2000年から2005年ころに裁判があって、プロバイダ責任制限法がなかったという主張をしています。
まるでプロバイダー責任制限法ができるまでにさんざん損害賠償義務を負わされて、法律制定でようやく救済されたかのような物言いですね。
んなこたーない
まず、プロバイダ責任制限法は2002年(平成14年)5月27日施行です。
この法律ができた後も、ちゃんとひろゆきは敗訴しています。記事でも、ひろゆき自身「2000年から2005年ころに裁判があって」とプロバイダ責任制限法以降に裁判があったことを明言しています(それなのに、なぜかプロバイダ責任制限法がなかったのが悪いという論調ですが)。
というかそもそも、ひろゆきに対する訴訟が本格化したのはプロバイダ責任制限法ができてからだったという記憶です。
フリージャーナリストでひろゆきの問題を取材してきた清義明氏もこのようにツイートしていますので私の記憶と一致しています。
念のため私もwestlawで判例検索してみましたが、ひろゆきに対する損害賠償請求訴訟は、リーディングケースにもなった動物病院名誉毀損事件(東京地判平成14年6月26日・判例タイムズ1110号92頁、東京高判平成14年12月25日・高民55巻3号15頁)が最も古いものでした。
(もちろん判例データベースは全ての判決がのっているわけではないので、もっと前からたくさん損害賠償請求されてるよという場合にはぜひ教えてください)
このほか、『敗訴連続のひろゆき氏、賠償額累計4億円?』という以下の記事も、プロバイダ責任制限法が施行されて約5年もたった2007年のものです。
法の不備(プロバイダ責任制限法が存在しなかった)が賠償義務を負った原因だとするのは、これだけ見てもちょっと無理がありますね。
3.裁判所「西村くんさぁ、プロバイダ責任制限法を言い訳にしてるけど、あんたの行為はプロバイダ責任制限法の趣旨に照らしても許されない違法な行為だよ(論破)」
そして、前述の動物病院名誉毀損事件では、判決時(2002年12月25日に高裁判決)にはすでにプロバイダ責任制限法が施行されていました。
そこで、ひろゆき側はこの訴訟で、プロバイダー責任制限法が適用されるのでこっちの勝ちだというような主張を展開しました(いまよく使ってる言い訳とあんまかわらないですね)。
これに対して、東京高裁は、「ハハッ、ワロス、プロバイダー責任制限法は本件には直接適用されないよ、施行日見なよ」(意訳)としつつ、ひろゆき側の主張も考慮して、温情的に、プロバイダー責任制限法の趣旨に照らしても、損害賠償責任を負うかどうかを判断してくれました。
その内容は、めちゃくちゃ簡単に解説すると、次のとおりです。
おめえよお、通知書とかで名誉毀損発言が2chに書かれたの知ってたんだから、プロバイダー責任制限法3条1項の趣旨に照らしても、削除しなかったのは違法だよ、イ・ホ・ウ、ドゥー・ユー・アンダスタン?
おめえの行為は法の不備とかそういう次元越えてンだわ
わかったら一審判決通り400万円支払え
このように、プロバイダ責任制限法さえあれば勝ってた(キリッ)という、ひろゆきの主張は、もうおよそ20年も前から、裁判所から否定されているのです。
4.川上量生の主張について:ひろゆきが踏み倒したとされる賠償金も、裁判に出席しないから負けただけで、ちゃんと裁判をしてればそもそも支払う必要のないお金
ないないそれはない。
前述したとおり、ひろゆきに対する損害賠償のリーディングケースとなったのは、動物病院名誉毀損事件(東京地判平成14年6月26日・判例タイムズ1110号92頁、東京高判平成14年12月25日・高民55巻3号15頁)です。
このころは、西村博之は、ちゃんと弁護士をつけて争っていました。判決文にはひろゆきの代理人弁護士が5人も名前を連ねています。
裁判に出席しなかったから負けたといいますが、川上量生さん、そんなことはありません。
ひろゆきはちゃんと弁護士をつけて高裁まで全力で争って、結果、敗訴しています。
欠席判決で形式的に敗訴したのではなく、ちゃんと争ったけど、裁判所はひろゆきの主張を認めなかったので敗訴しています。
この動物病院事件で敗訴してから、判例検索データベース(westlaw)を見る限り、弁護士に依頼するのはやめたようです。ただの感想ですが、どうせ弁護士をつけても敗けるし、敗けたところでどうせ収入・資産を隠してしまえば回収されないしで弁護士をつけて争うのは無駄だと思ったのではないでしょうか。
ちなみに、その後も弁護士をつけていないだけで自分でちゃんと争っているケースもいくつかあります(東京地判平成15年6月25日・判例時報1869号46頁、東京地判平成15年7月17日・判例時報1869号46頁、東京地判平成17年3月22日等)がちゃんと敗訴しています。
5.結論:法が悪いのではなく、管理体制を整えずにネットの無法地帯を作り出したひろゆきが悪い
以上のように、プロバイダ責任制限法があろうがなかろうがひろゆきは敗訴しています。
西村博之は法の不備が原因だと主張し、川上量生さんもそれに乗っかっていますが、そのようなことはありません。
法の不備ではなく、ネットに無法地帯を作り出した上に、削除もしなかったひろゆきが悪いだけです。
6-1.ひろゆきの何が悪かったのか1:IPアドレスを保存せず、書き込みをした人間に責任追及できないようにしていた
さて、以上のとおり結論が出ましたが、ひろゆきはツイッター社を持ち出して、プロバイダ責任制限法がなかったらツイッター社も損害賠償責任を負うんですよー、という主張をしています。
残念ながらこれでは『違いが分かる男』としてネスカフェのCMに出ることはできませんので、1日1リットル以上ネスカフェ・ゴールドブレンドを飲んでいる私が解説しましょう。
ねーねーおじいちゃん、ひろゆきは悪くないんじゃないの、書き込みをした人間が一番悪いんじゃないの、というクソガキもけっこういます。
うんうん、その通りだねー。
なんで、書き込みをした加害者じゃなくて、掲示板設置してただけのひろゆきに責任追及したんだろうねぇ。
それはねー、2ちゃんねるでは、「気兼ねなく、会社、学校、座敷牢からアクセスできるように、発信元は一切分かりません。お気楽ご気楽に書き込んで下さい。」として、IPアドレスを原則として保存しないことを約束し、書き込みをした人が誰なのか特定することを事実上不可能にしてたからなんじゃよー。
どこの世紀末無法地帯だ、ここは。
ツイッター社は、こんなウェルカム・トゥ・アンダーグラウンドみたいなことは宣言していません。
このように、コンプラってなにそれおいしいの? と、ネット上に無法地帯を作り出し、違法な書き込みを助長するようなことをしたばかりか、加害者に責任追及できないようにしていたため、被害者はひろゆきにしか責任追及をできなかったのです。
このような無法地帯宣言をして加害者への責任追及を妨げていたことは、ひろゆきの賠償義務を肯定する根拠の一つになっています(東京高判平成14年12月25日・高民55巻3号15頁参照)。
なお、2003年の1月になってようやく2ちゃんねるもIPアドレスの保存をはじめましたが、各スレッドの最終書込みから2週間程度が経過したらIPアドレスを含むアクセスログを削除するとんでもないものだったようです(東京地判平成17年3月22日・ウエストロー)。
6-2.ひろゆきの何が悪かったのか2:削除をしない
私のようなオールドファンは、2ちゃんねるの削除人と聞いただけで、震えあがったものです。
削除人はマウント斗羽(ジャイアントデビル)以上の恐怖の存在でした。
削除人は名誉毀損書込みが行われても削除しないのです(削除するかしないかは削除人の胸三寸であり、ひどい書き込みでも削除は原則されない、むしろ削除請求をした人を晒し上げる措置が2ちゃんねるの削除ガイドラインというのが当時のネットユーザーの印象ではないでしょうか)。
前述のように、加害者に責任追及できない被害者は、せめて書込内容を削除してもらうことくらいしかできることはありません。
しかし、削除すらまともに行わなかったのが当時の2ちゃんねるでした。
このようなガイドラインに対して、裁判所も次のように指摘しています。
「削除ガイドラインは、その表現が全体として極めてあいまいで、不明確であり、個人又は法人の名誉を毀損する発言がいかなる場合に削除されるのかを予測することは困難である」(東京高判平成14年12月25日・高民55巻3号15頁)
「削除の要否を的確に判断し得ることが制度的に担保されていない上、削除の要否の判断が独自の基準によるものであるから、他人の社会的評価を低下させるなどの有害な内容を含む発言であっても、削除の対象にならないこともあるという根本的な問題点が存し、かつ、削除依頼板への書込みが要求される結果、インターネットの取扱いに習熟していない者の救済に支障を来すおそれがあった」(東京地判平成15年7月17日・判例時報1869号46頁)
事実、被害者もこのように語っています。
このように、プロバイダ責任制限法は、違法な書き込みがあっても、それ知ったらすぐに削除しとけば免責してあげるーとしていたにもかかわらず、削除すらしなかった(もしくは知った後に削除するまであまりにも放置しすぎた)からこそひろゆきは訴えられて、損害賠償義務を負ったのです。
このように、ネットの無法地帯になっていた2ちゃんねると、ツイッターとを比べるのにはおこがましいと評せざるを得ません。
7.ひろゆきや彼を公共の電波にのせるテレビ局は、2ちゃんねるの被害者に対する配慮があまりにも欠けている
ひろゆきはもちろん、西村博之を重用するテレビ局も、さらにいえば今回の記事を出してしまった川上量生さんも、あまりにも2ちゃんねるの被害者に対する配慮が欠けています。
ひろゆきは、テレビ東京でこのようなことを語っています。
「訴えた側は削除依頼だけでは裁判を起こしにくいため便宜上賠償金を請求していた場合が多かった」
便宜上賠償金を請求していた場合が多かったってソースは?
ないならこれ、ただのひろゆきの感想ですよね。
便宜上慰謝料を請求しただけかどうかなんてのは損害賠償請求をした人しかわかりません。
それを当事者以外の第三者が無責任に「便宜上賠償金を請求しただけでしょ」と言い放つのならまだしも、賠償義務者であり、加害者であるひろゆき本人が言い放つのは、あまりにも無反省、かつ、被害者をバカにした発言と言わざるを得ません。
そして何よりも、こんな単純な突っ込み(「便宜上賠償金を請求しただけってソースあるんですか?ないならあなたの感想ですよね、しかも加害者あるあなたの」)すらできないテレビ局、ヤバいですね。
しかも、ひろゆきは賠償金を支払えないのではなく、賠償金を余裕で支払える収入があったものの支払わなかっただけでした。
「サラリーマンの生涯年収を年で稼ぐくらいでしたね」
と、賠償金なんて余裕で支払えるほどの収入があったことを明かしています。
このように被害者を小ばかにした発言を何の疑問もなく公共の電波にのせたテレビ東京はちょっと倫理について考えたほうがよいのではないでしょうか。
また、以下の川上量生さんの記事にも大いに疑問があります。
「訴訟する方は簡単だ。本人訴訟ならほとんど切手代と最寄りの裁判所への交通費で済む」と、立場のある人が、被害者の神経を逆なでするようなことを書いているのには驚きました。
まず、訴訟をするというのは非常に大変な作業です。
だからこそ、専門職である弁護士がいるのであり、簡単だなどというのであれば、これからKADOKAWAは訴訟時に弁護士に頼るのをやめたらいかがでしょうか。
次に、訴訟は被害者の苦しみの叫びです。
誰もやりたくてやってなんていません。
自信の名誉を傷つけられ、加害者本人の身元(IP)を隠されて責任追及もできない、そして2chは削除請求にすら応じず自身の名誉を傷つける書込みが未来永劫ネットに残り続ける。
だからこそ訴訟となったというのは、想像力を働かせれば簡単に想像がつくでしょう。
それを「訴訟する方は簡単だ」などと評するのには、ちょっと私もカチンときました。
8.川上量生の功績?
これまで川上量生さんの批判を行ってきましたが、川上量生さんは良いこともやってくれたようです。
川上量生さんは、コンプライアンスにかなり気を配る性格で、弁護士をたてて裁判に出てほしいと頼んだと前述の記事に書いてあります。
そして、おそらくですが、これを機にひろゆきが情報開示にも応じるようになったようです。
弁護士を立てるようになったからというのは川上量生さんの思い違いではないかと指摘されていますし、たしかにそうかなとは思います。
しかしながら、これを機に、ひろゆきもちゃんとしだしたようで、その点で川上量生さんの果たした役割は大きく評価できます。
(どうでも良いことですが、私は川上量生さんのことは嫌いではありません。いつも、金持ってそうだから高い酒でもおごってくれないかなこの人くらいに思っています。ひろゆきの言ってることをうのみしたような記事をあげる前に、ちゃんと裁判所の認定などを調査してくれてればこんな風に間違いを指摘せず、手放しでほめられたのですが)。
9.まとめ
・ひろゆきは法の不備を言い訳にしてるがそんなことはない、プロバイダ責任制限法ができた後も訴訟に負け続けている
・ひろゆきが損害賠償義務を負ったのは、(1)IPアドレスを保存せず加害者への責任追及が不可能にしていたにもかかわらず、(2)違法書込みの削除すらなかなかしなかったから。法の不備ではない
・ひろゆきは当初弁護士に依頼をしていたがこのため敗訴し、その後弁護士すらつけなくなった
・訴訟のやり方がまずかったというより、違法の原因は2ちゃんねるの管理体制そのものにあったので、ちゃんと応訴すれば勝てていたというものではない
・ひろゆきがニコニコ(ニワンゴ)の役員になったあたりから開示請求にも応じるように改めて、訴訟も減った