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◆ 第二章 お飾りの妃は補佐官として奮闘する(8)

「えっ? アルフレッド殿下?」


  艶やかな金髪に、こちらを見つめる瞳は紫。身長はベアトリスより一回り高い。ラフな貴族服を着ても隠しきれない高貴なオーラを放ったその人は、紛れもなく王太子であるアルフレッドだった。


「中に入れてくれないのか?」


 びっくりして固まるベアトリスを見おろし、アルフレッドは小首をかしげた。


「あ、はい。どうぞ」


 王太子が訪ねてきて、扉の前で追い返すことなどできない。

 ベアトリスは反射的に一歩身を引き、アルフレッドを部屋に入れる。


 アルフレッドは部屋に入ると、片隅に置かれている応接セットのソファーに座った。ベアトリスはその向かいに座る。


「こんなお時間にどうされたのですか?」


 ベアトリスは驚きつつも、用件を尋ねる。


「妃を訪ねるのに何か理由がいるのか?」

「いえ、そういうことでは……」


 ベアトリスは頬をひくつかせる。


「実は、俺の可愛い婚約者が、俺が訪ねてこないと職場で拗ねていると聞いてな」


 アルフレッドはにやりと口の端を上げてベアトリスを見る。


(ジャン団長の仕業ね!)


 なんて余計なことを言うのか。明日、しっかりと文句を言ってやらないと。 


「拗ねてはおりません。 全然いらっしゃらないなと思っただけです」

「それを、世の中では拗ねているという」

「全然違うと思います」


 ベアトリスはぴしゃりと否定する。


「そうかそうか」


 アルフレッドは楽しそうに肩を揺らした。


(この人、わたくしの話を聞いているのかしら?)


 軽くあしらわれていて、ベアトリスは遠い目をする。はあっとため息をつき、気を取り直してアルフレッドを見た。


「殿下があまりにも錦鷹団にいらっしゃらないので、心配していたのです。ジャン団長は確かに優秀な方ですが、指揮系統のトップが 全く姿を現さないというのはいかがなものかと思いまして」

「なるほど。俺の心配をしていたのだな?」


 アルフレッドはうなずく。


(あなたの心配というより、錦鷹団の団結に関する心配をしたのよ?)


 びっくりするほどポジティブな考え方の人だと、ベアトリスは苦笑する。

 アルフレッドはそんなべアトリスが考えていることにすぐに気づいたようだ。


「心配するな。錦鷹団の奴らには、定期的に会っている」

「ジャン団長以外にも?」

「もちろん」

「定期的に?」

「ああ。ほぼ毎日」


 ベアトリスは眉根を寄せる。


(ほぼ毎日ですって?)


 ベアトリスが錦鷹団に所属して約二か月が経つ。その間、アルフレッドが訪ねてきたのを見かけたことは一度もないし、ベアトリス自身に会いに来たことももちろん一度もない。


「嘘」

「本当だ。嘘だと思うなら明日聞いてみろ」


 自信満々にアルフレッドは言う。


(わたくしだけ殿下に会っていないの? だから、今日の昼に愚痴を漏らした際、みんなの反応が悪かったのね)


 ひとりだけのけ者にされていたような気がして、少し傷ついた。


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