第20話 無邪気な笑み

 騎士団庁舎に到着した俺たちは、黒髪の毛がビッチリ揃っているメガネ君に案内をしてもらっていた。

 身体はかなり細い。銀甲冑じゃなくて白シャツに黒パンで、どこかこう受付っぽい感じの人だ。

 年齢は若そう。名前は教えてもらったけど忘れてしまった。

 とりあえず、メガネクンと呼ぶことにする。


「ベルディでは独自の騎士三段階制を取り入れております! 初めは下級生として候補生の一人となり、試験を合格したものが中級生に上がることができます! 最後の上級生に上がると卒業試験があります! 合格したものだけが、正式な騎士としての誓いを王から頂くことができるのです!」


 メガネクンは早口だけど丁寧な人だ。

 ちなみにエリーナは到着後、書類を提出するので少しだけ待っていてほしいと消えていった。

 その間、案内をしてあげてとわざわざ呼んで来てくれたのだ。


 この人も騎士なのだろうか。いや、さすがに違うか。


 周りを見渡すと棟がいっぱいある。

 ひーふーみーよー、しかも四階建。ここで騎士候補生が寝泊りするとさっき教えてもらった。

 フェルンも驚いているみたいだ。


「本当に凄く広いんですね」

「ハイ! ベルディの騎士庁舎は世界でも類を見ないほどの面積を誇っております! また、それだけでなく数々の成績をも残しております! こちらへどうぞ!」

「はい! 行きます!」

「なんでヤマギシさんも声デカめなんですか」


 冷静なフェルンのツッコミはどこでもあるから安心するな。


 案内してくれた先は庁舎の入り口だ。

 様々な優勝杯が置いてある。

 俺の知らない国での剣術大会とか、国内で行われたやつっぽいのとか。

 金色に輝いててかっけー。俺も出てみたいな。

 優勝は、ヤ、マ、ギ、シー! とか叫ばれたい。


「この大会は魔法ありなんですか?」

「ハイ! 武器はもちろん、能力ギフテッドもありです!」


 フェルンは質問を繰り返している。森を転々としてたって言ってたし、国を見ること自体がおもしろいんだろうな。


 ん、よく見るとこれって――。


「どれも優勝エリーナ・プロスって書いてるけど、もしかしてエリーナ?」


 するとフェルンが俺の腕を強く引っ張りに、耳を貸してとちょんちょん手をこまねいた。

 身長差があるので、身をかがめる。


「ここではエリーナ、さんにしましょう。副団長さんですよ」

「あ、そ、そうだな……」

「大丈夫ですよ! エリーナ副団長から敬称については既にお聞きしておりますので!」


 おお、今の聞こえてたのか。耳、すげえいいな。

 でも、良かった。ありがとうメガネクン。


「そしてお答えします! エリーナ・プロスはもちろん我らがベルディ副団長でございます! 十歳でベルディ剣術大会優勝を飾り、十三歳で貴族学園を飛び級で卒業、その翌年には騎士団長様からのご推薦で特別試験に合格。それから数年で副団長の地位まで上り詰めた天才美少女なのでーす!」

「おーすげえ、パチパチパチパチ」


 俺も拍手をするとメガネクンは嬉しそうだった。エリーナのこと慕ってるんだろうな。

 ちなみにフェルンは少し恥ずかしそうに拍手していた。


 てことはやっぱかなり強いんだな。

 昨日動きも凄く速かったし、戦えるのが楽しみだ。


 あ、そういえば。


「騎士団長はどのくらい強いの? エリーナを推薦したってことはかなり強いってことだよね?」


 するとメガネクンが怯えはじめた。なんかマズい?


「――騎士団長様はとても厳格なお人なので、お噂をしているだけでも怒られてしまいます。なので、声は控えめに」

「合点承知の助」

「ヤマギシさん、ふざけない」

「はい」


 エリーナも同じことを言っていたし、すげえ怖い人なんだろうな。

 剣一筋で五十年だっけ。もはや両手足が剣になってもおかしくなさそうだな。


「騎士団長様は、とてもお強いですお方です。僕が知る限りでは、剣で右に出るものはいないでしょう。エリーナ様ですらまだ有効打を与えたことがありません」


 へえ、凄いな。会いたいー! 会いたいよー!

 でもいたらエリーナと仕合できなくなっちゃうもんな。


「どんな剣技を使うの?」

「ありとあらゆる流派を独自に練り上げておりますので、例えるならばベルディ流でしょうか」

「おお、かっこいい」


 俺はヤマギシ流になるのかな。これから名乗ってみるか。


「今だ現役で戦うことが大好きなのですが、ベルディにとってなくはならない存在ですので、表舞台に出ることはめったにありません。狂乱のバーサーカーフレンジーのお噂を耳にしたときは単身で向かおうとして、騎士団員総出で止めましたから……あれはもう大変で大変で……」


 噂の狂乱のバーサーカーフレンジーと最強騎士団長の戦いか。

 見てみた過ぎるだろ……。


「でも気持ちもわかるんですよ」

「というと?」

「騎士団長様は強すぎるのです。もはや神の存在です。最後に笑ったは“あの時”が最後というのは有名な話で――」


 そのとき、騎士候補生と思われる人たちがメガネクンの後ろを通った。

 俺たちを見つけて、何やら話している。


「副団長様が命を助けられたってあの二人?」

「……本当なのかな。エリーナ様が命を助けた、の間違いじゃなくて?」

「エリーナ副団長様は御謙遜なさるからなあ」


 命を助けたとは思っていないが、知らない人を警戒しているんだろうな。

 まあでも気持ちはわかる。俺も寝床に虐殺蜘蛛デスクリーチャーが十体ぐらい入ってきたとき、ちょっと嫌な気持ちになったもんな。


「訂正しなさい」


 するとそこで、凛とした強い声が聞こえた。

 候補生たちの前に立ちはだかっていたのは、艶やかな桃色の髪、エリーナだ。


「彼らは私の命の恩人です。それとも私が虚偽の報告をしたとでもお思いですか?」

「と、とんでもないです!?」

「す、すみません!?」

「謝るのならばお二人に」


 駆け足で候補生たちが俺とフェルンのところにきて、頭を下げてきた。

 全然気にしてないんだがな。


「まったく、あなたが注意すべきでしょう」

「すすすす、すみません!?」


 メガネクンが怒られている。なんかごめんよ!


「フェルちゃん、ヤマギシさん申し訳ございませんでした。自分のことで申し訳ないのですが、盲信的な部下が多く、どうも勘違いしている方が多いんです。私より強い人など、世界にはたくさんいらっしゃるというのに」

「気にしてないよ。それよりさっきの話の続き聞きたいんだけど、騎士団長が最後に笑った“あの時”ってのは?」


 エリーナが、話したの? とメガネクンに尋ねていた。ちょっと気まずそう。


「ごめん。言いづらかったら答えなくていいよ」

「いえ構いませんよ。騎士団長は表情を崩さないことで有名なのですが、唯一笑みを浮かべるときがあります。それは自分より強い相手を見たときなんです。私は……残念ながら見たことありません」

「最後に笑みを浮かべたのは、三十年前、七つの国を崩壊させた黒翼竜と対峙したときと言われています! それはもう騎士団長様の武勇伝として語り継がれております! 誰もが絶望する中、たった一人、騎士団長様は笑みを浮かべていたと――」


 メガネクンは、エリーナのことを話すときも騎士団長のことを話すときも嬉しそうだ。

 凄く慕ってるんだろうな。

 いいなあ。俺もベルディならうまくやっていけそうな気がする。

 エリーナも見たことがないってことは、騎士団長からは強いと思われてないってことになるのかな。


「今日って、その騎士団長っているの?」


 あ、イマジナリーフェルンが言葉遣い! と叫んだ。


「……そういえば、本日ベルディの騎士団長はいらっしゃるのでるか?」


 噛んだ。敬語って難しい。

 でもイマジナリーフェルンがギリギリ許しましょうと言ってくれた。優しい。


「王城へ出向いていていらっしゃらないみたいです。お食事を先にと思いましたが、もしかして」

「ああ、こんな沢山の優勝杯を見たら身体が疼いちゃうぜ」

「ふふ、私は昨日から我慢しているのですよ。――すぐそこに騎士訓練所があります。短い時間になりますが」

「おう! っと、その前に」


 俺は、隣のフェルンに視線を向けた。

 イマジナリーじゃない。本物のフェルンだ。


「フェルン、俺はエリーナと少し戦ってみたい。もちろん、傷つけたいからじゃないよ。ただ、ワクワクするんだ。いいかな?」

 

 彼女は目をキョトンとさせていた。

 それから、尋ねてくる。


「どうして私にお聞きするのですか? 事前に良いとお伝えはしていましたけど……」

「フェルンがダメなことはしない。そう決めたんだ。だから、最終判断を聞きたかった」


 俺の言葉にフェルンは微笑んでくれた。

 もちろん、イマジナリーも。

 今、これ言ったら怒られそうだな。


「構いませんよ。――あの、エリーナさんすみません。今からちょっと失礼なこと……言います」

「ふふ、気にしませんよ」


 するとフェルンは、再度俺を見つめた。


「勝ってくださいね」


 直後、エリーナから「推しカプ尊い……推しカプ尊い……推しカプ尊い……」と聞こえ始めた。

 身体能力を向上させてるな。どうやら本気みたいだ。


「――おう! しゃあ、エリーナと対決だああ! やるぜえ!」

「――では静かに移動しましょう。周りにばれるとアレなので」


 その瞬間、エリーナと俺の声が被ってしまった。

 明らかにダメなことを言ったと、ダメな俺でもすぐわかる。


 周りがざわつき始め、訓練所へ到着したころには人がたくさんいた。


「……エリーナ、ごめん」

「いいですよ。今日は騎士候補生のほとんどが外出していて、まだ少ないですから。それに私が勝っても負けても、彼らにはいい刺激になるでしょう」

 

 そういう割には自信満々に笑みを浮かべている。


 地面は土だ。小さな闘技場みたいな感じ。

 木剣が手渡されると、久しぶりに実体のある武器に違和感を覚える。


 ひんやりとした氷剣、俺の中でかなりしっくりきてるんだよな。


 とはいえ巨剣、ちゃんと迎えに行くから怒らないでくれよ。


「あの人がエリーナ様の命を助けたって? そうは見えないな」

「人は見かけによらないよ。エリーナ様がそうだろ」

「どんな動きするんだろう。さすがにエリーナ様が勝つだろうけど」


 フェルンは後ろで見守ってくれている。

 俺は今まで自分のためだけに戦ってきた。

 でもなんか、今日はちょっとだけ、フェルンのために勝ちたい気分だ。


「本来、ベルディ騎士団の模擬戦に寸止めはありません。しかし今日はお互いに致命傷を負わせると判断したら止めて頂けますか」

「はーい! あ、ちなみに魔法や能力ギフテッドありでいいよー!」


 それに対し、エリーナが微笑む。その表情はいつにもまして嬉しそうだ。

 あ、八重歯みっけ。


「もちろんそのつもりです。――ちなみに私は“曇らせ”も好きなんですよ。ここであなたに勝つことで、フェルちゃんが病むという、推しカプの更なるルートを開拓させてもらいますよ」


 なんか新しい単語が出てきた。俺が負けると“曇らせ”になるのか?

 どういうことだろう。よくわからないが、油断せずいこう。


「では、デュアロス。カウントをお願いします」

「畏まりました! では、カウントします!」


 あ、メガネクン、デュアロスっていうんだ。


 名前カッケー。


 ◇


 ベルディ騎士団庁舎。

 入り口に立っていたのは、長い黒髪、女性みたいな艶やかな“カツラ”

 目から口にかけて斜めの傷。ゆったりとした和装を着こんでいる。


 ――ボーリー・コリン。


「……なんだ? 騒がしいな」


 騎士候補生たちの歓声が聞こえる。

 同時に頭部から声がした。


(いいか驚くな。決して驚くなよ)


 ふうと冷静になったボーリーは、騎士訓練所まで足を運んだ。

 誰かと誰かが模擬戦をしているのか。それを見ようと思ったとき、まさかの人物を見つける。

 無骨で厳格な白髪交じりの男性、ベルディの騎士団長だ。


 視線の先は、闘技場である。


「騎士団長――」


 声をかけようとしたとき、すぐに声が詰まってしまう。

 髪からの啓示で告知されていたにもかかわらず、ありえないことが起きていた。



 今まで一度見たことがない光景が、目の前で起きている。



「……こんなの、驚くに決まってんだろうが」


 ボーリーが、声を震わせながら呟く。



 横顔からでもわかる。



 騎士団長が、笑みを浮かべていた。



 ――――――――――――――――

 まだ総合日間1位です! 嬉しい。

 週間1位にもなりたいです!

 星がほしいです! よろしくお願いいたしますm(_ _)m


 プロ作家部門、1位のままぐんぐんあがっています!

 これからもよろしくお願いします。


 現在進行形の出来事。


 *イマジナリーフェルンが大活躍。

 *メガネクンの名前は、デュアロス

 *ヤマギシとエリーナが木剣で仕合を始めた。

 *騎士団長が鬼強いらしい。


 *ベドウィンは行方不明。


 *アルネ、後輩、マンビキはトラバ砂漠を横断中。


 *ボーリー・コリンが合流。


 *騎士団長が、笑みを浮かべていた。



 扉絵的な同時進行。


 *アルネ、後輩、マンビキがまだトラバ砂漠を歩いている。


「……これ、方角合ってるよな?」

「太陽にむかってれっつごーしてますから、きっと合ってますよー。がんがんいきましょー」

「……お前の勘があてになるのは知っているが、ちょっと方角を確認しよう」


 アルネの不安に対し、マンビキが声を上げる。


「合ってるよ。さっきトラバトカゲを見たからな」

「……トカゲ? それがどう、方角と関係するんだ?」

「トラバトカゲは熱帯雨林に生息するんだ。今の時期は巣をつくるため、南へ横断する。ワタリドリみたいなものだな。方向を逆算すると、こっちがベルディ側だ」

「……もしかして昆虫博士なのか?」

「いや、子供のころに本で見たんだ。一度見たことは、あんまり忘れない性質でな」


 その言葉に、後輩が「すごぉーい、すごぉーい」と拍手した。




 これからも、ちょっと変なヤマギシと百合騎士に守られたフェルンをよろしくお願いいたします。


 そしてて是非、フォロー&☆☆☆でぜひ応援をお願いします!


 コメントも!!! ほしいです……!(; ・`д・´)

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