私だけが知っていることなんて、随分と限られている。
ただ私は、この時代の人より、『それは、本当に理解できない事象なのだろうか』と、もう一段深く考えることに慣れている。それだけだ――。
「脩子(私)の生還は、きっとエビの煎餅がエビに戻るのと同じくらい、絶望的だったに違いない」
そんな独特な表現を使う専攻・『日本古典文学』な元大学院生は、平安時代に転生していた。
公衆衛生はハードモード、娯楽はくずし字読みづらすぎて漢籍、周囲にはキレッキレの小言を言うばあや的存在な命婦。そして名前なんてあってないような、超ブレブレの個人名の表記。
しかも故人である寵妃の身代わりとして、帝に後宮に上がれと言われる始末。当時の常識と現代の人権意識と倫理観がせめぎ合う中、彼女はここが『源氏物語』の世界であることに気づく。
そして、自分が何者かもわかってしまった。
「ここが『源氏物語』の世界なら、私が〝藤壺の宮〟だということになってしまうじゃないか……」
超重要人物として転生してしまった脩子="藤壺の宮"。
とりあえずフラグを立てないように(そして本人のうっかりで)変人奇人であることをアピール、光る君から「この人が自分の母親と似てるとかないわー」と思われることに成功するが、その上でなぜか彼から懐かれてしまう。
光る君は原作には描かれていないところで、暗殺や陰謀に巻き込まれていたのだ。そんなわけで脩子=藤壺の宮のところに入り浸って、彼女が所有する本を読みまくっていたのである。
こうして「近所の男の子に本を貸す擬似的姉弟」関係になっちゃった脩子=藤壺の宮と光る君。
そんな中、光る君はこう言った。
「狐狸が人に化けて、誰かを殺すだなんてこと、あり得ると思います?」
本人は「現代人の感覚が抜けないから」と思っているが、多分現代でもかなり変人奇人、しかし『源氏物語』ガチ考察勢な脩子=藤壺の宮。
「この時代を否定するつもりは無い。だが、『物の怪のせい』だと真相を有耶無耶にして、犯人を野放しにされては困る」
そんな彼女が推理する真相とは――。
「あなたの物の考え方は、面白いから。いつの間にか、何を見ても聞いても『宮さまなら、どう考えるかな。どんなことを思うだろう。どんな感想をいうのかな』と、思うようになりました。」
独特な感性とセリフ回しに笑いながらも、古典の話がたくさん入った『源氏物語』パロディラブコメ、ぜひ!
『源氏物語』とミステリー。
どちらも好きなので読んでみたお話ですが、大変面白かったです。
だって、『源氏物語』の世界に先帝の女四の宮──つまり「藤壺」として転生してしまった令和の大学院生が、その運命を回避しつつ、当時の考え方では「物の怪」の仕業とされてしまう殺人事件の真相を解き明していくストーリーで、しかも、彼女のもとに事件の話を持ってきて一緒に謎解きするのがなんと、『源氏物語』の主人公・光源氏なんですよ。
クセのあるヒロインとあざとかっこいい (かわいい) 年下男子の掛け合いが楽しく、本来の展開とは異なるルートをたどるふたりの行く末もすごく気になりました。
『源氏物語』をご存知の方は、作中人物の思わぬ登場にハッとするかもしれないですね。
よく知らないという方も、わかりやすい説明がありますから気負わず読んでいただきたいです。
オススメです!
脩子と光る君をはじめ、キャラクター達がとにかくチャーミングですぐにハマりました。
前作のオカルトミステリー『祓い屋令嬢ニコラの困りごと』が面白かったので今回の作品もとても期待していたのですが、平安が舞台の今作は世界観もがらりと変わりまた違う面白さがありますね。日本史に詳しくない私にとってはその時代の風習や日常について知らないことが多く、歴史めっちゃおもろいやんってなりました。
ミステリー要素はもちろん、2人のラブコメ展開にもじわじわ惹かれて気付けば一気に読み進めてしまったので、早く続編!せめて番外編でも!という気持ちです。なんならアニメ化もしてほしい。
トラックにぶつかって……という「お約束」を経て、転生した先は「源氏物語」の世界!?
しかも藤壺の宮として。
「源氏物語」を知る身なら、光源氏を避けたいところですが、やはり奴(光源氏)が藤壺に惹かれるのは運命(?)なのか、ふたりは出会ってしまいます。
しかしここからがこの物語の面白いところで、なんとこの二人はパディとなって、事件の解決に挑むことになります。
古典で見た和歌や物語を随所ににおわせながら、事件を追う。
まさか「源氏物語」の世界にミステリを持ち込み、しかもこのパディでというのが凄い。
現代人が転生したからこそ言えること考えることが、この世界にうまく溶け込んでいるところも凄い。
気づけば、次はまだかまだかと心待ちにしていました^^;
ミステリとしても、凄く面白かったです!
ぜひ、ご一読を。