第28話 VS冥竜アポピス⑧
――冥竜の目と翼が開き、飛翔
耳まで口を開き、漆黒の光線を吐き出す。着弾地点はタゲを取っている撫子さん中心。他メンバーは射程外。喰らうのは、撫子さんとKY君だけ。
さぁ……どうなるっ!
着弾して、二人のHPが一気に削れる。すぐ回復魔法を――突然、ムービーが始まった。
KY君が、膝をつき、ゼーゼーと、息を吐く。
「うぐっ……な、何て威力だ。でも、分かったぞっ! 〖ナオ〗! こいつは、冥界と繋がってるんだ。それを絶たなきゃ……絶対に倒せないっ! オレが、封じるから、その間に」
「ちっ! そんな事はさせないよ。お前達は、此処で惨たらしく死ぬんだっ! アポピス、こいつらを片付けなっ!!」
開幕直後に姿を隠していた、冥竜の巫女がここで登場。
黒い
巫女は空間から、大鎌を取り出し、ナオとKY君へ襲い掛かってくる――所で、ムービーが切り替わった。
アポピスは、依然として翼を広げている。所謂、暴走モードの劣化版。時間と共に少しずつ強くなっていくんだろう。
つまり……短期決戦あるのみ。
【エヴァさんっ! 倉っ! ナナちゃんっ!】
【分かってる。目標〖冥竜の巫女〗! 出し惜しみは無しにしなさいっ!!】
【任せろ!!!!】
【黒魔及び召喚班、準備OKです】
僕の指示を受け、鎖から解き放たれた餓狼――前衛アタッカー陣が、巫女へ次々と殺到する。先陣争いは、エヴァさんと倉だ。
次々とアビリティのエフェクトが煌めく。半数以上が、1時間に一回しか使えない特殊アビリティと、一戦闘で一回しか使えず、効果時間も極短時間のステータス増強薬と、クリティカル確率upの薬品使用。……余程、鬱憤が溜まってみたいだ。廃神怖い。
ナナちゃん指揮下の、後衛アタッカー陣はそれに比べて静か――な筈もなく。
部隊を半数ずつに分離。
一部隊は、所謂全員魔法を唱えている。
この魔法、実装された当初こそ、その出鱈目な詠唱時間(何せ、リアルタイムで2分近くかかるのだ)と、ほぼ一発で全MP消費の馬鹿々々しさ。そして、派手なエフェクトに似合わない威力の貧弱さから、半ばネタ扱いされていたものの、着弾前に全八属性の魔法と前衛技を当てている場合において、戦局を回天出来る程のダメを叩き出す、という事実をナナちゃんが突き止め、戦略魔法としての地位を確立した経緯があり。
……まぁ、だからといって、使いやすい魔法ではまるでない。
全属性、といっても、それを初級魔法やレベルの低い技で実現すると、それ相応のダメしか出ないのだ。故に、この魔法の威力を最大限に発揮する為には――
【一番槍!】
エヴァさんが、禍々しい大剣を巫女へ降り下ろした。
初手からレベル80で覚える特殊技だ。すぐさま、薬品を使い、再度同じ技を繰り出す。ダメージは……1000台後半×2。うぇぇぇぇ。
廃神達からは楽しそうな叫び。
【えぐい、えぐすぎりゅゅゅゅ】
【こわっ!】
【いきなり!? ハ、ハードルが高いですよぉ】
【ま、負けぬっ! 侍を……某を信じる、あの者の為っ! 某は……某は、負けられぬっ!!】
【負けたら、今度、紹介しろよ。俺はまだ実在を疑ってる】
【あ、俺も】
【僕も!】
【脳内?】
【いい病院、紹介しますよ?】
【き、貴殿等っ!】
【おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!】
倉が、エヴァさんに少し遅れて、真紅の大鎌を振り上げ巫女を切り裂く。
ダメは――やや、負けっ!
【くぅぅぅ】
【ふっふっふっ、まだまだ、ね。ナオ君とのデートは私のものっ!】
【ま、まだまだぁぁぁ】
倉も、薬品を使い再度技を発動。
今度は――はぁぁぁぁ!?
【2000ダメ超え!!!】
【こぇぇぇぇぇ】
【倉先輩、流石っすっ!】
【先輩、抱いてっ!】
【倉さん、高校生って本当なんですか?】
【こ、これが愛の……力っ!】
【はっはっはっー。ナオは俺のもんだぁぁぁぁ】
【ちっ! ま、総ダメ勝負だし?】
【ぁあ? 上等だよ!】
仲良くしようよ……。
この間も、廃神さん達が次々と自分にタゲがくるのも関係なく、全力攻撃している。結果、既に、巫女のHPは半分をきり、みるみる内に削れていく。時折、黒魔からも、上級魔法や召喚獣が繰り出す技が突き刺さり、削りは加速。
巫女は必死に鎌を振り回し全体攻撃を繰り出すも――まぁ、これくらいなら、撫子さんを回復させつつでも。依然、死者は零。
あー皐月さん、雨月さん、リリさん、ほんと上手いや。すっごく楽。
『……今、私だけをディスった気がしました。後で針万本です。盾を支えつつ、アタッカー陣まで完璧に補助するとか、この変態っ!』
……酷い。泣いちゃう。
そうこうしている内に、巫女が何やら言葉を発した。HPは残り三割程。
「くっっ! こ、この……矮小なる人間めぇぇぇぇ!!!!!」
形が変異し、歪な形の竜へ変化。
ただし、HPは増えず。一気に攻撃力が増し、タゲを取っているエヴァさんと倉のHPが赤く染まる。おっと。治癒魔法で一気に回復させる。
アポピスもまた、咆哮。
撫子さんを守護しつつ、画面端の時計を確認。そろそろかな。
【カウントスタート――5】
ナナちゃんの文字が画面上を踊る。
各パーティのHPMPを確認。大丈夫そうだけど、念の為、手持ちの薬品をバザー。
【3】
黒魔パーティー上空に、巨大な魔法陣が浮かび上がっている。
相変わらず派手。でも、こういうのが醍醐味なんだよね。
――発動! 白い光線が、一直線に放たれた。
【着弾、今!!!】
巫女へ直撃。
一気にHPが削れ――またしても、ムービー。
「がはっ! バ、バカな……こ、この私が、こんな下等生物に……ふふ、ふふふふ……だが、アポピスは倒せぬっ! 貴様等は悲惨な死を」
アポピスの前脚が巫女へ降り下ろされ、轟音。
竜を繋ぎとめていた、黒い
再びの大咆哮。
撫子さんが、全体へ檄を飛ばす。
【ここからが、本番ですっ! 必ず倒しますよっ!】
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