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上告

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
上告審から転送)

上告(じょうこく)とは、民事訴訟・刑事訴訟の裁判過程における上訴の一つ。

日本において、

  1. 第二審の終局判決もしくは高等裁判所が第一審としていた終局判決(原判決)に対して不服があるとき
  2. 飛越上告の合意がある場合において第一審のした終局判決に対して不服があるとき

これらの場合に上級の裁判所に対し、原判決の取消し又は変更を求める申し立てをいう。

上告審となる裁判所は、原則として最高裁判所であるが、民事訴訟において第一審の裁判所が簡易裁判所の場合、高等裁判所が審理を行う。

概要

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上告理由は控訴理由と比べ限定されており、刑事訴訟法民事訴訟法によってそれぞれ以下の場合に限られている。

  • 刑事訴訟の場合(刑事訴訟法405条)
    • 判決に憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤りがあること(1号)
    • 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと(2号)
    • 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又は刑事訴訟法施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと(3号)
  • 民事訴訟の場合(民事訴訟法312条
    • 判決に憲法の解釈の誤りがあること、その他憲法の違反があること(1項)
    • 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(2項1号)
    • 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと(同項2号)
    • 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと(同項2号の2)
    • 専属管轄に関する規定に違反したこと(特許権等に関する訴えにつき、民事訴訟法6条1項により定まる東京地方裁判所大阪地方裁判所かの選択を誤った場合を除く)(同項3号)
    • 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと(追認があった場合を除く)(同項4号)
    • 口頭弁論の公開の規定に違反したこと(同項5号)
    • 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること(理由の不備・理由の齟齬)(同項6号)
    • (高等裁判所にする上告の場合)判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があること(3項)

以上のように上告理由が限られているため、上告審では「上告理由に当たらない」として上告が棄却されることがほとんどである。

民事で、上告すべき裁判所が最高裁判所である場合は、上告理由がなくても、上告受理の申立てをすることができる。判例違反やその他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については、最高裁は、上告審として事件を受理することができ、その場合には上告があったものとみなされる(民事訴訟法318条)。

また、刑事訴訟では、上告理由がなくても、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については、上訴権者の申立てにより、自ら上告審としてその事件を受理することができる(刑訴法406条、刑訴規則257条 - 264条)。さらに、刑訴法405条各号に規定する事由がない場合であっても、一定の事由があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる(刑訴法411条。「著反正義による職権破棄」と呼ばれる。)。

このほか、民事訴訟では特別上告(とくべつじょうこく)、刑事訴訟では非常上告(ひじょうじょうこく)という例外的な上告がある。

上告審の性格及び上告審での審理

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上告審の法的性格は法律審であり、原則として上告審では原判決に憲法違反や法律解釈の誤りがあるかを中心に審理される。原則として上告審は、下級審の行った事実認定に拘束されるが(民事訴訟法311条1項)、民事訴訟においては事実認定に経験則違反がある場合、事実認定の理由に食違い(矛盾)がある場合には原判決を破棄することがある。刑事訴訟においても、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときには、原判決を破棄することができる(刑訴法第411条3号)。

上告審が法律審であるとの性格から、原則として証拠調べを行うことはない[注 1]

このこともあり、上告を棄却するときは、口頭弁論を経る必要はないとされており(民事訴訟法319条、刑訴法408条)、実際に上告審で弁論が行われることはほとんどなく、書面での審理に限られるのが普通である。これに対し、原判決を変更する場合には、被上告人にも反論の機会を与える必要があるから、口頭弁論を開催する必要がある(民事訴訟法87条1項本文、刑訴法43条1項)。そのため、上告審で口頭弁論が開かれるということは、原判決を何らかの形で見直すことを事実上意味するといえる。ただ、死刑判決に対する上告事件[注 2]大法廷の審理は原則として公判ないし口頭弁論が開かれる慣行があり、公判ないし口頭弁論が開かれたからといって原判決が見直されるとは限らない。なお、上告審で死刑判決が破棄されたのは2009年9月時点で12例(11件・16人)だけである。

無期懲役判決に対する上告審で口頭弁論が開かれながら、上告棄却の判決が言い渡された事例として、国立市主婦殺害事件(1992年10月20日に発生)がある。同事件では、1999年10月に検察官の上告を受けて最高裁第二小法廷福田博裁判長)が口頭弁論を開いたが[1]、同小法廷は同年11月に上告棄却の判決を言い渡したため、控訴審判決(無期懲役)が確定している[2]

なお、原判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決書に署名押印していることを理由として原判決を破棄し、高等裁判所に事件を差し戻す場合には、口頭弁論を経なくてもよいという判例がある(最高裁平成19年1月16日判決[3])。

上告審における裁判

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民事訴訟において、上告が不適法である場合には決定で上告を却下することができる(民事訴訟法317条1項)。上告理由が、上告が許される事由に明らかに該当しない場合は決定で上告を棄却することができる(同条2項)。上告に理由がない場合には判決で上告を棄却する(同法319条)。

最高裁判所が上告審の場合については、最高裁判所平成11年(1999年)3月9日第三小法廷決定・集民第192号99頁によると、上告の理由の実質が明らかに民事訴訟法312条1項及び2項に規定する事由に該当しない上告であっても、上告裁判所である最高裁判所が決定で棄却することができるにとどまり(民事訴訟法317条2項)、原裁判所又は上告裁判所が民事訴訟法316条1項又は317条1項によって却下することはできない。

刑事訴訟においては上告が不適法である場合には決定で上告を棄却する(刑事訴訟法414条、385条、395条)。上告に理由がない場合には判決で上告を棄却する(刑事訴訟法408条)。

上告が却下又は棄却された場合には、原判決が確定する。

上告に理由がある場合又は最高裁判所の職権調査で原判決を維持できないことが判明した場合には、原判決を破棄する。法律審としての建前からは、原判決を破棄する場合、原裁判所(控訴審が行なわれた裁判所。高等裁判所が第一審の場合にはその高等裁判所)に差し戻して審理させることが普通である(民事訴訟法325条。刑事訴訟法413条本文)。このことを破棄差戻しという。これは、民事事件の上告審では法律審であるため事実調べができず、刑事事件でも事実認定が不十分な場合は事実審である下級審で再度必要な審理をさせる必要があるからである。これに対して、判決を確定させないことによって、当事者の双方に主張を述べさせる機会を与えるためである、あるいは、上告審は書面審理が原則のため、書面審理のみで判決を確定させるのは問題があるためであるという見解もある。差戻し後の判決にさらに上告することも可能であり、上告→差戻し→上告→差戻し、と繰り返し、裁判が長期化した例もある。

また、管轄違い等により原判決を取り消し、原審とは別の裁判所に移送すること(民事訴訟法第325条第2項、刑事訴訟法第412-413条)を破棄移送という。

原裁判所に差し戻さず、原判決を破棄して最高裁判所が自ら判決し、上告審で判決を確定させることを破棄自判という。これは、

  • 裁判が長期化することにより不利益がある場合
  • 民事事件において下級審の認定した事実だけで原審と違う判決が下せる場合
  • 刑事裁判において被告人に有利な方向に判断を変更する場合で、これ以上審理する必要がない場合

などに行われることがある(民事訴訟法326条、刑事訴訟法413条ただし書)。

上告審の例

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死刑判決に対する上告審で死刑判決が破棄された例

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死刑判決の上告審で死刑判決が破棄された例
最高裁破棄判決日 被告人 事件 最高裁判決内容 発生日 二審死刑判決日 最終判決
種類 事由
1953年6月4日 1人 競輪殺人事件 破棄自判 量刑不当 1951年9月11日 1952年9月29日 無期懲役
1953年7月10日 1人 京都八坂老女将強盗殺人事件 破棄差戻 法令違反 1949年10月18日 1950年8月9日 無期懲役
1953年11月27日 1人 二俣事件 破棄差戻 事実誤認 1950年1月6日 1951年9月29日 無罪
1957年2月14日 3人 幸浦事件 破棄差戻 事実誤認 1948年11月29日 1951年5月8日 無罪
1957年10月15日 1人 八海事件 破棄差戻 事実誤認 1951年1月25日 1953年9月18日 無罪
1959年8月10日 4人 松川事件 破棄差戻 事実誤認 1949年8月17日 1953年12月22日 無罪
1968年10月25日 1人 八海事件 破棄自判 事実誤認 1951年1月25日 1965年8月30日 無罪
1970年7月31日 1人 仁保事件 破棄差戻 事実誤認 1954年10月24日 1968年2月14日 懲役6ヶ月[注 3]
1978年3月24日 1人 大方町7人殺傷事件[注 4][8] 破棄差戻[5] 事実誤認[5] 1969年1月4日[5] 1975年4月30日[5] 無期懲役[8]
1989年6月22日 1人 山中事件 破棄差戻 事実誤認 1972年5月14日 1982年1月19日 懲役8年[注 3]
1996年9月20日 1人 日建土木事件 破棄自判 量刑不当 1977年1月7日 1988年3月11日 無期懲役
2010年4月27日 1人 平野母子殺害事件 破棄差戻 事実誤認 2002年4月14日 2006年12月15日 無罪

死刑を求めた検察官の上告を認容した判決

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過去に最高裁が死刑判決を求めた上告を認容して原判決を破棄にした例は3例(永山則夫連続射殺事件福山市独居老婦人殺害事件光市母子殺害事件)あるが、全て控訴審の無期懲役判決を破棄差し戻しとしており、その後いずれも差し戻し控訴審で下された死刑判決が第二次上告審で確定している。刑訴法上は最高裁が破棄自判によって死刑を言い渡すことも可能である[9]

脚注

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注釈

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  1. ^ もっとも、刑事事件について証拠の顕出という形で原判決の事実認定の当否を判断する資料に供することはできる(最高裁昭和34年8月10日大法廷判決)。また、職権調査事項については上告裁判所が事実を認定し得る(民訴法322条)。
  2. ^ 死刑判決の上告審で必ず口頭弁論が開かれる慣例は三鷹事件の上告審において1955年(昭和30年)6月22日に口頭弁論を開かないまま上告を棄却して死刑判決が確定して以降のこととなっている。
  3. ^ a b 死刑求刑事案では無罪。
  4. ^ 高知県幡多郡大方町(現:幡多郡黒潮町)で1969年1月4日、女性(中学時代の友人の妹)に結婚を申し込んで断られたことを逆恨みした男が、友人の姉(当時33歳)やその長女(同7歳)、次女(同5歳)、近隣住民の男性(当時52歳)とその息子(同20歳)を次々と約80 cmの鉄棒で撲殺、他の2人にも重傷を負わせた事件[4]。公判で弁護人は、被告人の男が犯行の約1年前から精神分裂病に罹患しており、事件当時は心神喪失か心神耗弱状態だったと主張していたが[4]、第一審の高知地裁は1970年4月24日、完全責任能力を認定して被告人に死刑判決を宣告、控訴審の高松高裁も1975年4月30日に控訴棄却の判決を宣告していた[5]。最高裁第二小法廷(本林譲裁判長)は1978年3月24日、犯行時の被告人は心神耗弱状態だった疑いがあるとして原判決を破棄し、審理を高松高裁に差し戻す判決を言い渡した[5]。その後、高松高裁刑事第3部(金山丈一裁判長)は1983年11月2日の差し戻し審判決公判で、被告人は犯行時心神耗弱状態だったと認定、原判決を破棄自判して被告人を無期懲役とする判決を言い渡した[6]。被告人側は犯行時心神喪失だったとして無罪を主張し、上告したが、最高裁第三小法廷(伊藤正己裁判長)は1984年7月5日までに上告棄却の決定を出したため、犯行から15年半ぶりに被告人の無期懲役が確定した[7]

出典

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  1. ^ 産経新聞』1999年10月30日東京朝刊第二社会面「死刑適用 新たな基準示すか 国立の主婦強盗殺人上告審、結審」(産経新聞東京本社 記者:井口文彦)
  2. ^ 『産経新聞』1999年11月29日東京夕刊総合一面「国立主婦殺人 検察の「死刑要求」棄却 O被告の無期確定 最高裁判決」(産経新聞東京本社)
  3. ^ 最三判平成19年1月16日集民223号1頁最高裁判例情報 2014年8月20日閲覧
  4. ^ a b 朝日新聞』1978年3月24日東京夕刊第3版15頁「最高裁 殺人犯の責任能力めぐり 異例の差し戻し 「精神状態で事実誤認」 二審の死刑を破棄」(朝日新聞東京本社) - 縮刷版825頁。
  5. ^ a b c d e f 読売新聞』1978年3月24日東京夕刊第4版10頁「高知の5人殺しで最高裁 「死刑」を破棄、差し戻し」(読売新聞東京本社
  6. ^ 『読売新聞』1983年11月2日東京夕刊第4版15頁「【高松】7人殺傷の元自衛隊員 差し戻し審で無期」(読売新聞東京本社)
  7. ^ 『読売新聞』1984年7月6日東京朝刊第14版22頁「結婚断られ5人殺しの元自衛官 15年ぶり無期確定 最高裁」心神耗弱で高裁支持(読売新聞東京本社)
  8. ^ a b 高知新聞』1984年7月6日朝刊23頁「大方町の7人殺傷事件 元自衛隊員の無期確定 最高裁 差し戻し審の減刑支持」(高知新聞社)
  9. ^ 産経新聞』2006年6月29日東京朝刊オピニオン面「【正論】白鷗大学法科大学院教授・土本武司 画期的意義もつ光市母子殺害判決 厳罰化の量刑傾向を決定づける 《量刑不当での上告は異例》」(産経新聞東京本社

関連項目

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