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「試し酒」の版間の差分

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{{出典の明記|date=2013年10月}}
'''試し酒(ためしざけ)'''は、[[古典落語]]の演目の一つ。落語研究家・今村信雄の新作落語で、昭和初期に創作された。
'''試し酒'''(ためしざけ)は、[[落語]]の演目のひとつ。


== 概要 ==
主な演者として、[[三笑亭可楽#7代目|7代目三笑亭可楽]]や[[柳家小さん (5代目)|5代目柳家小さん]]。上方の[[桂米朝 (3代目)|3代目桂米朝]]などがいる。
落語[[速記#日本語の速記|速記者]]・研究家の[[今村信雄]]([[1894年]] - [[1959年]])が[[昭和]]初期に作った[[新作落語]]。時代設定や世界観などは[[古典落語]]を模している。下敷きとなる原話が存在するとされ、[[快楽亭ブラック (初代)|初代快楽亭ブラック]]が[[1891年]]([[明治]]24年)3月に記した『百花園』中の一編、中国の笑い話など、複数の説がある。


== 主な演者 ==
{{ネタバレ}}
=== 物故者 ===
* [[三笑亭可楽 (7代目)|七代目三笑亭可楽]]
* [[春風亭柳橋 (6代目)|六代目春風亭柳橋]]
* [[古今亭志ん朝]]
* [[柳家小さん (5代目)|五代目柳家小さん]]
* [[三遊亭金翁 (2代目)|二代目三遊亭金翁]]
* [[桂米朝 (3代目)|三代目桂米朝]]
=== 現役 ===
* [[三遊亭歌笑#3代目|三代目三遊亭歌笑]]
* [[柳家権太楼 (3代目)|三代目柳家権太楼]]
* [[柳家さん生]]
* [[柳亭市馬 (4代目)|四代目柳亭市馬]]
* [[初音家左橋]]
* [[三遊亭楽松]]
* [[橘家文蔵 (3代目)|三代目橘家文蔵]]
* [[柳家一琴]]
* [[桂りょうば]]


== あらすじ ==
== あらすじ ==
商家・尾張屋の主人のもとに、商売なじみの近江屋の主人が[[下人#江戸時代|下男]]の久蔵をしたがえ、上等な酒を持ってやって来る。近江屋が「うちの久蔵は大酒飲みで、5[[升]]は飲み干せる」と自慢するので、尾張屋は近江屋に対し、久蔵が本当に5升飲み干せるかどうかの賭けを持ちかけ、「わたしが賭けに負けたら、温泉宿(東京では[[湯河原温泉]]、上方では[[有馬温泉]])で遊ぶ費用をわたしが肩代わりする」と言い放つ。外で待つ久蔵は呼ばれて招き入れられ、賭けに乗るよう持ちかけられるが、気乗りがしない。ところが尾張屋が「賭けを受けなければ近江屋の負けだ」と告げるので、「少し考えるので待っていてほしい」と言い残して表に出て行く。
大店・近江屋のところに馴染みの旦那が下男の久蔵を連れてやってくる。


しばらくあと、久蔵は戻ってくるなり、賭けに乗ることを宣言し、大きな[[可杯]](べくはい)で、5升の酒を1升ずつ飲み干してみせる(※このとき演者は、少しずつ酔っていきながら主人・近江屋の愚痴を言ったり、身の上を嘆いたりする演技を見せる)。賭けに負けた尾張屋が驚きあきれて、「どうしてそんなに酒が飲めるのか。さっき出て行った時に、酒に酔わない薬でも飲んだのか。それとも何か[[呪術|まじない]]でも受けたのか」とたずねると、久蔵は、
旦那がすぐ帰るというのを引き留め、しばらく話をしているうちに、いつしか話題は酒飲み談義へ。


「酒を5升も飲んだことがなかったので、表の酒屋で試しに5升飲んできた」
旦那が『久蔵は大酒のみで、一度に軽く五升は飲み干せる』と云うので、面白くなった近江屋は久蔵を呼び込んで実際に五升飲ませてみようと提案した。


{{落語の演目 (主人公別)}}
「もし、久蔵さんが五升飲み干せたら彼にはお小遣いを。旦那さんには[[熱海]]あたりへ一泊ご招待いたしましょう」


{{DEFAULTSORT:ためしさけ}}
反対に、旦那が負けたら近江屋をどこかへ招待する…ということで、いよいよ久蔵を呼び込んで勝負を開始。
[[Category:新作落語の演目]]

[[Category:酒を題材とした作品]]
やってきた久蔵は、無骨な田舎者でいかにも酒に強そう。近江屋、少し驚いたが、なんとか気を取り直して久蔵に話を持ちかけた。

「負けたらウチの旦那が、近江屋の旦那を招待…? 旦那の面目が台無しになるなぁ」

久蔵、少し考えると言って表へ。

「しかし、忠義な下男ですよねぇ。口は悪いけど、旦那様が恥をかくと言ったとたんに目の色が変わりましたよ。しかし、遅いですなぁ…」

[[武蔵野台地|武蔵野]]の遠景を[[蒔絵]]で描いた(野が見つくせない→「飲みつくせない」という洒落)大杯を用意し、久蔵を待つこと数刻。

いよいよ旦那が負けか…と思われたときに、やっと久蔵が帰ってきた。

「では、頂戴しますべえ」

『武蔵野』の大杯で息もつかずに五杯。あっという間に飲み干してしまった。

近江屋が驚いて「お小遣いは上げます。その代わり、どうやったらそんなにお酒が飲めるか教えてくれませんか?」

さっき、表に出た時に何かおまじないでもしたのか…と思ったら、帰ってきた返事は?

「なんでもねえだよ。五升なんて酒ェのんだことがねえだから、'''表の酒屋へ行って、試しに五升のんできただ'''」

== 原話は"藪の中"? ==
冒頭には『今村信雄の新作』と書いたが、実はこのほかにも諸説があり、この落語の本当の原話は「[[藪の中]]」となっている。

一説によると、原話は[[快楽亭ブラック_(初代)|初代快楽亭ブラック]]が明治24年3月に記した「百花園」中の一編であるというし、またある説によると中国笑い話の中にあるという。

いずれにせよ、ウィットのある人が一度は思いつきそうなネタであるという事は間違いない。

== 概要 ==
久蔵がお酒を飲むハイライトは音声のみだと無音となってしまうが、大杯をあおる場面の息の継ぎ方を工夫すれば本編中最大の山場となる。

ちなみに、この噺を初演したのは7代目可楽で、そこから引きついで演じた5代目小さんは原作者である今村氏からも絶賛された。

== 酒・酒乱の出てくる落語 ==
この噺のほかにも、酒を扱った噺が落語の中には頻繁に登場する。
<br>また、この話に出てくる久蔵はどんなに飲んでも酔わない『ウワバミ』だが、中には大暴れをしてしまう酒乱もいたりして…。

*『[[富久]]』:酒が原因で、廃業寸前まで陥った[[幇間]]が主人公。
*『[[親子酒]]』:親子で禁酒を決意するが、結局とんでもない結果に。
*『[[棒鱈 (落語)|棒鱈]]』:酒に酔った江戸ッ子が、五月蠅い田舎侍のいる隣室に暴れ込む。

[[Category:落語の演目|ためしさけ]]

2024年2月26日 (月) 09:06時点における最新版

試し酒(ためしざけ)は、落語の演目のひとつ。

概要

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落語速記者・研究家の今村信雄1894年 - 1959年)が昭和初期に作った新作落語。時代設定や世界観などは古典落語を模している。下敷きとなる原話が存在するとされ、初代快楽亭ブラック1891年明治24年)3月に記した『百花園』中の一編、中国の笑い話など、複数の説がある。

主な演者

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物故者

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現役

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あらすじ

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商家・尾張屋の主人のもとに、商売なじみの近江屋の主人が下男の久蔵をしたがえ、上等な酒を持ってやって来る。近江屋が「うちの久蔵は大酒飲みで、5は飲み干せる」と自慢するので、尾張屋は近江屋に対し、久蔵が本当に5升飲み干せるかどうかの賭けを持ちかけ、「わたしが賭けに負けたら、温泉宿(東京では湯河原温泉、上方では有馬温泉)で遊ぶ費用をわたしが肩代わりする」と言い放つ。外で待つ久蔵は呼ばれて招き入れられ、賭けに乗るよう持ちかけられるが、気乗りがしない。ところが尾張屋が「賭けを受けなければ近江屋の負けだ」と告げるので、「少し考えるので待っていてほしい」と言い残して表に出て行く。

しばらくあと、久蔵は戻ってくるなり、賭けに乗ることを宣言し、大きな可杯(べくはい)で、5升の酒を1升ずつ飲み干してみせる(※このとき演者は、少しずつ酔っていきながら主人・近江屋の愚痴を言ったり、身の上を嘆いたりする演技を見せる)。賭けに負けた尾張屋が驚きあきれて、「どうしてそんなに酒が飲めるのか。さっき出て行った時に、酒に酔わない薬でも飲んだのか。それとも何かまじないでも受けたのか」とたずねると、久蔵は、

「酒を5升も飲んだことがなかったので、表の酒屋で試しに5升飲んできた」