うつ病のソースを表示

{{Otheruses|臨床的うつ病 (Clinical depression) |症候|抑うつ|精神障害としての抑うつ障害全般|気分障害}}
{{Infobox medical condition
|DiseasesDB = 3589
|ICD10 = {{ICD10|F|32||f|30}}, {{ICD10|F|33||f|30}}
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{{世界の疾病負荷}}
'''うつ病'''（うつびょう、'''鬱病'''、欝病、{{lang-en|clinical depression}}）または'''大うつ病性障害'''（だいうつびょうせいしょうがい、{{lang-en|major depressive disorder}}）とは{{sfn|アメリカ精神医学会|2014|pp=160-161}}、一般的な[[精神障害]]であり{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Key facts}}、より厳密には精神障害内の[[気分障害]]内の一つ{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Symptoms and patterns}}。

主な[[症状]]として、少なくとも2週間にわたり[[抑うつ]]気分（[[悲しみ]]・[[ストレス_(生体)|苛立ち]]・虚しい感覚）や、[[喜び]]の喪失〔[[気分障害#うつ病性障害|アンヘドニア]]〕や活動的興味の喪失が続く{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Symptoms and patterns}}。他にあり得る症状としては[[集中力]]低下、過剰な[[罪悪感]]、[[自尊心]]の低下、[[将来]]への[[絶望]]、[[死]]や[[自殺]]についての考え、[[不眠症|不安定な睡眠]]、[[食欲]]や[[体重]]の変化、疲労感、[[エネルギー]]低下感など{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Symptoms and patterns}}。[[世界保健機関|WHO]]（世界保健機関）の推計では、全世界の[[成人]]の5%が[[罹患]]している{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Key facts}}。2000～2010年代以降の[[神経精神医学]]では、[[ヒトヘルペスウイルス6]]が[[脳神経細胞]]を部分的に[[細胞死|死滅]]させることでうつ病が発症するという[[メカニズム|仕組み]]が解析されつつある{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|pp=1-2}}{{Sfn|近藤|2014|p=828}}{{Sfn|de Labarthe|Gauthert-Dejean|Bossi|Vernant|2005|p=539}}{{Efn|{{Main|うつ病#ウイルス学的・環境生理学的要因}}}}。

『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』第5版（DSM-5）には、うつ病の診断名と'''大うつ病性障害'''（{{lang-en|major depressive disorder}}）が併記されており、この記事ではおもにこれらについて取り上げる{{sfn|アメリカ精神医学会|2014|pp=160-161}}。これは1日のほとんどや、ほぼ毎日、2 - 3週間は[[抑うつ]]であり、さらに著しい機能の障害を引き起こすほど[[精神障害#重症度|重症]]である場合である{{sfn|アレン・フランセス|2014|pp=53-54}}。1 - 2年続く死別の反応、経済破綻、重い病気への反応は理解可能な正常な反応である場合がある{{sfn|アメリカ精神医学会|2014|pp=160-161}}。

有病者数は世界で3.5億人ほどで一般的であり、世界の[[障害調整生命年]]（DALY）において第3位（4.3パーセント）に位置づけられる<ref name="whofact">{{Cite report |df=ja |publisher=WHO |title=Factsheet - Depression |date=August 2015 |url=http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs369/en/}}</ref><ref name="whodaly" />。しかし多くの国にて治療につながっておらず、[[先進国]]であろうと適切にうつ病と診断されていないことが多い一方、うつ病と誤診されたために間違った抗うつ薬投与がなされているケースもみられる<ref name="whofact" />。[[世界保健機関]]（WHO）はうつ病の未治療率を56.3パーセントと推定し（2004年）<ref>{{cite journal |author=Kohn R, Saxena S, Levav I, Saraceno B |title=The treatment gap in mental health care |journal=Bull. World Health Organ. |publisher=[[世界保健機関]] |volume=82 |issue=11 |pages=858–66 |year=2004 |pmid=15640922 |pmc=2623050 |url=http://www.who.int/bulletin/volumes/82/11/khon1104abstract/en/}}</ref>、mhGAPプログラムにて[[診療ガイドライン]]および[[クリニカルパス]]を公開しており、適切な治療により回復できることを示している（「[[うつ病#治療]]」も参照）{{Sfn|世界保健機関|2010|p=8}}<ref name="whofact" /><ref>{{Cite web|和書|url=https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/44406/9784904561898_jpn.pdf;jsessionid=BF9F637E8FFF82A0720C71C8DF4AC72B?sequence=11|title=mhGAP介入ガイド|accessdate=2020-11-20|publisher=長崎大学}}</ref>。

{{TOC limit|3}}

== 定義 ==
{{See also|精神障害#定義}}
2021年の[[世界保健機関|WHO]]（世界保健機関）によればうつ病の原因とは、[[生物学]]的・[[心理学]]的・[[社会]]的なさまざまな[[要因]]の[[相互作用]]である{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Contributing factors and prevention}}。うつ病と[[身体]]的[[健康]]には相互関係があり、例えば[[心血管疾患]]はうつ病へ、うつ病は心血管疾患へ繋がり得る{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Contributing factors and prevention}}。不利な[[ライフイベント]]（人生の出来事）──例えば[[失業]]・[[死別]]・[[トラウマ]]的出来事など──を経験した人間は、うつ病の[[発症]]確率が高まる{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Contributing factors and prevention}}。一方でうつ病は、さらなる[[ストレス_(生体)|ストレス]]と{{search|"機能障害"|機能障害}}に繋がったり、[[QOL]]（生活の質）とうつ病自体を悪化させたりし得る{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Contributing factors and prevention}}。うつ病予防プログラムは、うつ病を軽減させていると見られる{{Sfn|世界保健機関|2021|loc=Contributing factors and prevention}}。

診断と医学用語とを共通化する目的で操作的診断基準が開発されてきた。それは[[アメリカ精神医学会|APA]]（アメリカ精神医学会）の『精神障害の診断と統計マニュアル（DSM）』や、WHOの『[[ICD-10 第5章:精神と行動の障害|ICD-10 精神と行動の障害]]』といったものである。

日本のうつ病の診療ガイドラインは、'''うつ病'''と、DSM-IVの'''大うつ病性障害'''、また'''単極型（短極性）うつ病'''はほぼ同じ意味であるとしている{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=4}}。第5版のDSM-5の邦訳書では、うつ病の用語は、大うつ病性障害の診断名と、うつ病エピソード（定義されたうつ状態、後述）とを指すために用いることが記されている{{sfn|アメリカ精神医学会|2014|pp=160-161}}。以上の範囲を本記事のおもな対象とする。なお訳語では、major depressive disorderの major が日本語で大と訳されているが、本来これは「主要な」あるいは「中心的な」という意味で用いられているものであり、誤訳であるとする意見もある<ref>[[#村上靖彦、永田俊彦、市橋秀夫、中安信夫 (2005)|村上靖彦、永田俊彦、市橋秀夫、中安信夫 (2005)]] p.148</ref>。

うつ病という用語は、狭い意味ではDSM-IVにおける大うつ病性障害に相当するものを指しているが、広い意味でのうつ病は、一般的には[[抑うつ|抑うつ症状]]が前景にたっている精神医学的障害を含める。そのなかには[[気分変調性障害]]をはじめとするさまざまなカテゴリーが含まれている<ref name="teigi">{{Cite journal|和書 |author=大野豊|title=【特集 うつを治す】うつ病の定義 |volume=15 |issue=10 |date=1997 |journal=Pharma Medica |pages=129-136 }}</ref>。

操作的診断基準による「大うつ病性障害」などの概念と、従来の分類による「内因性うつ病」（後述）などは同じ「うつ病」であっても異なる概念であるが、このことが専門家の間でさえもあまり意識されずに使用されている場合があり、時にはそれを混交して使用しているものも多い。そのため一般社会でも、精神医学会においても、うつ病に対する大きな混乱が生まれている<ref name="norikoeru">[[#村上靖彦、永田俊彦、市橋秀夫、中安信夫 (2005)|村上靖彦、永田俊彦、市橋秀夫、中安信夫 (2005)]] pp.137-151</ref>。つまり、うつ病という言葉の意味が異なっている場合がある。

=== 下位分類 ===
従来は、心因が強く関与している心因性うつ病と、そうではない内因性うつ病を区別し論じられることが一般的であった。

1980年に[[アメリカ精神医学会]]（APA）が出版した『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』第3版（DSM-III）は、内因性というカテゴリーを削除した<ref name="抗うつ薬時代の憂うつ" />。

現在では、DSMのような操作的診断基準によって分類することが一般的であるが、さまざまな経験則によってそうした下位分類も用いられる。細かくは[[#分類]]の項に示す。

=== 診断名のうつ病と抑うつ状態 ===
{{See also|抑うつ|#鑑別診断}}
[[抑うつ]]の症状を呈し、うつ状態であるからといい、うつ病であるとは限らない<ref name="kasuga" />。抑うつ状態は、精神医療においてもっとも頻繁に見られる状態像であり、診療においては「熱が38度ある」程度の情報でしかない<ref name="kasuga">{{Cite |和書|title=病んだ家族、散乱した室内 : 援助者にとっての不全感と困惑について|author=春日武彦 |publisher=医学書院 |date=2001-09 |isbn=978-4-260-33154-8 |pages=113-119}}</ref>。状態像と診断名は1対1で対応するものではなく、抑うつ状態は、うつ病以外にもさまざまな原因によって引き起こされる<ref name="kasuga" />。

『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』において、うつ病（大うつ病性障害）として扱われるのは、1日のほとんどや、ほぼ毎日、2 - 3週間は抑うつであり、さらに著しい機能の障害を引き起こすほど[[精神障害#重症度|重症]]である場合である{{sfn|アレン・フランセス|2014|pp=53-54}}。また、死別、経済破綻、重い病気への反応は理解可能な正常な反応である場合がある{{sfn|アメリカ精神医学会|2014|pp=160-161}}。

== 病態 ==
うつ病は、単一の疾患ではなく症候群であり、さまざまな病因による亜型を含むと考えられる{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010}}。

『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』第5版（DSM-5）の診断基準Aによれば、「ほとんど1日中、ほとんど毎日の」の抑うつ気分、あるいは興味、喜びの著しい減退のほか、「ほとんど毎日の」不眠あるいは過眠、易疲労性、精神の焦燥や制止、無価値感や罪の意識、思考力や集中力の減退、体重の減少や増加、反復的な自殺念慮などがみられ、診断基準Bが[[精神障害#重症度|重症]]であることを要求している。

うつ病と[[不安障害]]は併発しやすい。アメリカでの調査では、大うつ病者の51パーセントに不安障害がともなう<ref>{{cite journal |author=Kessler RC, Nelson C, McGonagle KA |year=1996 |journal=British Journal of Psychiatry |volume=168 |issue=suppl 30 |pages=17–30 |title=Comorbidity of DSM-III-R major depressive disorder in the general population: results from the US National Comorbidity Survey|pmid=8864145}}</ref>。

うつ病の約8割から9割に[[不眠症]]が見られる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf|title=健康づくりのための睡眠指針 2014|accessdate=2016-04-19}}</ref>。

== 分類 ==
前史として、1899年に[[エミール・クレペリン]]は、[[統合失調症]]と[[双極性障害|躁うつ病]]とに大きく分け、うつ病は躁うつ病に含まれた<ref name="うつ病の多様性と力動的理解">{{Cite |和書|author=西園昌久|editor=神庭重信|editor2-last=黒木俊英|chapter=うつ病の多様性と力動的理解|title=現代うつ病の臨床 |publisher=創元社|date=2009|isbn=978-4-422-11423-1|pages=12-28}}</ref>。

=== 古典的分類 ===
{{See also|精神障害#外因・内因・心因}}
古典的な精神病理学は、内因、外因、心因という原因についての考察から分類がなされていた<ref name="抑うつの鑑別を究めるうつ病">{{Cite book|和書|author=堀有伸|editor=野村総一郎|chapter=うつ病性障害|title=抑うつの鑑別を究める|series=精神科臨床エキスパート|publisher=医学書院|date=2014|isbn=978-4-260-01970-5|pages=68-77}}</ref>。内因性うつ病とは、身体である体調の変化から気分が巻き込まれており、典型的には自生的に出現すると考えられた<ref name="抑うつの鑑別を究めるうつ病" />。心因性うつ病とは、葛藤に苦しんでいるなど、環境との相互作用から起こるものである<ref name="抑うつの鑑別を究めるうつ病" />。

内因性うつ病という分類は、抗うつ薬というものが登場したばかりの1958年に、抗うつ作用を発見した{{仮リンク|ローランド・クーン|en|Roland Kuhn}}が、[[イミプラミン]]の適応は内因性うつ病であり、効果が目覚ましいのは重いうつ病であると述べたことから大きく始まる<ref name="抗うつ薬時代の憂うつ">{{Cite book|和書|author=黒木俊秀|editor=神庭重信|editor2-last=黒木俊英|chapter=抗うつ薬時代の憂うつ|title=現代うつ病の臨床|date=2009|publisher=創元社|isbn=978-4-422-11423-1|pages=187-211}}</ref>。この説をキールホルツが支持し、DSM-IIIの登場する1980年代まで定説となる<ref name="抗うつ薬時代の憂うつ" />。

==== メランコリー型 ====
1980年に[[アメリカ精神医学会]]（APA）が出版した『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』第3版（DSM-III）は、DSM-IIの内因性うつ病というカテゴリーを削除し、うつ病のサブタイプに[[メランコリー]]型という分類を追加した<ref name="抗うつ薬時代の憂うつ" />。このメランコリーの特徴は、もっとも重篤な抑うつでまったく何も楽しめず、感じないといった特徴を持ち、最低限の栄養補給を誘導しなくてはならない{{sfn|アレン・フランセス|2014|p=52}}。そして、1987年のDSM-III-Rのメランコリー型の診断基準には、身体的な抗うつ療法にはよく反応したことという一文が加えられ、それを実証した研究がないため議論が起こった<ref name="抗うつ薬時代の憂うつ" />。そのため実験が行われ、メランコリー型はそうでないものに比べて、身体的な抗うつ療法に良好な反応をするという知見は得られず、DSM-IVではこの基準は削除された<ref name="抗うつ薬時代の憂うつ" />。当時は、反応の違いの原因は重症度であり、中等症のうつ病に抗うつ薬が奏功すると考えられた（現在の知見と異なる）<ref name="抗うつ薬時代の憂うつ" />。なおDSM-IVではメランコリー型、DSM-5メランコリーと邦訳されている。

諸外国においても、操作的診断によるうつ病概念の混乱が生じており、[[ハゴップ・アキスカル]]や[[ジャーマン・ベリオス]]、ヒーリーをはじめとした英米圏を代表する学者13名は連名で、DSMを発行している『アメリカ精神医学会誌』において、大うつ病性障害からメランコリーを切り離し、1つの臨床単位として独立させる必要性を提言している<ref name="pmid21131414">{{Cite journal |author=Parker G, Fink M, Shorter E, Taylor MA, Akiskal H,Berrios G, Bolwig T, Brown WA, Carroll B, Healy D, Klein DF., Koukopoulos A, Michels R, Paris J, Rubin RT, Spitzer R, Swartz C |title=Issues for DSM-5: Whither Melancholia? The Case for its Classification as a Distinct Mood Disorder. |journal=American J Psychiatry |volume=167 |issue=7 |year=2010 |pages=745-747 |url= |pmid=21131414 |pmc=3733615 |doi=10.1176/appi.ajp.2010.09101525 | issn=0002-953X }}</ref>。食欲と体重が減少し、[[SSRI]]系抗うつ薬よりも三環系抗うつ薬によく反応し、内因性うつ病や典型的なうつ病と呼ばれてきたものである<ref name="pmid21131414" />。

==== メランコリー親和型性格 ====
メランコリー親和型は内因性うつ病を誘発する病前性格であり、[[フーベルトゥス・テレンバッハ|テレンバッハ]]が提唱した学説である<ref name="抑うつの鑑別を究めるうつ病" />。几帳面、良心的、配慮できるといった特徴を持つうつ病の病前性格であり、自分の所属する「社会や集団での役割」に応えようとするなかで、不調が生じうつ病を発症する<ref name="抑うつの鑑別を究めるうつ病" />。そのため、笠原は1978年にメランコリー親和型の患者への基本方針として、治ると説明し、休息させ、服薬の重要性を説明し、「患者という役割」に同一化させるという原則を提唱した<ref name="抑うつの鑑別を究めるうつ病" />。内因性うつ病の語は現在では用いられないが、病像としては今なお考慮されている<ref name="現代のうつ病論">{{Cite book|和書|author=松浪克文|editor=神庭重信|editor2-last=黒木俊英|chapter=現代のうつ病論|title=現代うつ病の臨床|publisher=創元社|date=2009|isbn=978-4-422-11423-1|pages=75-97}}</ref>。

うつ病の典型は、内因性のうつ病であり、メランコリー親和型が病前性格であると、以前の日本ではとらえられていた<ref name="抑うつの鑑別を究めるうつ病" />。そうして、日本では内因性うつ病と、神経症性うつ病との鑑別が重視された<ref name="宮岡等鑑別">{{Cite book|和書|author=宮岡等|title=うつ病医療の危機|publisher=日本評論社|date=2014|isbn=978-4-535-98411-0|pages=5,13,32}}</ref>。内因性うつ病は、身体疾患の影響や薬物など明らかな外部の影響が不明で、かといって性格も環境も原因ではなく、食欲と体重は低下し、朝に落ち込み、抗うつ薬が有効である<ref name="宮岡等鑑別" />。神経症性うつ病は、そうした特徴がなく不安感を持ち、性格や環境に原因があり、抗うつ薬が効きにくいため環境調整や精神療法が必要である<ref name="宮岡等鑑別" />。

1980年代にはこうした性質が顕著ではなくなっているということが議論されており、現代型うつ病の議論が起こっている<ref name="うつ病の多様性と力動的理解" />。役割への同一化を示さない<ref name="抑うつの鑑別を究めるうつ病" />。

=== 操作的診断基準による分類 ===
1980年に[[アメリカ精神医学会]]（APA）が『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』第3版（''DSM-III''）を発表し、「うつ病性障害」を、ある程度症状の重い「大うつ病（Major Depressive Disorder）」と、軽いうつ状態が長期間にわたって続く「[[気分変調症]]（Dysthymia）」に二分した。原因による分類・定義が現時点では困難であるため、1994年に発表された第4版の''DSM-IV''と、『[[ICD-10 第5章:精神と行動の障害|ICD-10 精神および行動の障害]]』でも、基本的には''DSM-III''の構成が継承されている<ref name="teigi" />。

{| class="wikitable" style="font-size:90%; margin:1em;"
|+ ICDおよびDSMにおける分類
! width="45%"| [[ICD-10 第5章:精神と行動の障害#(F30-F39) 気分（感情）障害|ICD-10 (F30-39)]]
! [[:en:DSM-5 codes|DSM-5]] 抑うつ障害群
|- style="vertical-align:top"
|
* ({{ICD10|F|32}}) うつ病エピソード
* ({{ICD10|F|33}}) 反復性うつ病性障害
* ({{ICD10|F|34}}) 持続性[[気分障害|気分（感情）障害]]
* ({{ICD10|F|39}}) 特定不能の気分（感情）障害
|
* (296.2x) うつ病/大うつ病性障害 (Major Depressive Disorder) - 単一エピソード
* (296.3x) うつ病/大うつ病性障害 - 反復エピソード
* サブタイプ
** 不安性の苦痛を伴う
** 精神病性の特徴を伴う
** メランコリア ([[:en:Melancholic depression]])
** [[非定型うつ病|非定型]] (Atypical)
** [[緊張病]]を伴う (Catatonia)
** 周産期 (peripartum, [[:en:Postpartum depression]])
** [[季節性情動障害|季節型]]
* 持続性抑うつ障害/[[気分変調症]]
* [[月経前不快気分障害]]
* [[重篤気分調節症]]（児童の持続的・反復的な不機嫌）
|}

{{For2|DSMによるうつ病性障害のサブタイプ|気分障害#うつ病性障害}}

==== 病相の回数による分類 ====
ICDでは、うつ病相が1回のみの単一エピソードうつ病に対し、うつ病を繰り返すものを反復性うつ病（Recurrent depressive disorder）という<ref name="ICD" />。DSMでも同様に、296.2x:単一エピソード、296.3x:反復エピソードである。

==== 重症度による分類 ====
{{Main|精神障害#重症度}}
''DSM-5''（5だけでなく以前からも）においては、大うつ病性障害の診断を満たすものについて、296.2x、296.3xの診断コードの末尾x部分に、さらに状態を細分する。

1:軽症（いくつかの愁訴が最低限の基準に該当する）、2:中等症、3:重症（社会的や職業的能力を著しく妨げている）に分類される。エピソード全体の15パーセントを占め、妄想・幻覚など「4:精神病性の特徴を伴うもの」（一般に「精神病性うつ病」とも呼ばれる）。症状が改善して診断基準を満たさなくなったものの、一部の症状が残存している「部分寛解」や、完全寛解などである。

=== 治療反応性による分類 ===
DSM-IVなど操作的[[診断基準]]では定義されておらず、基準は一定したものではないが、研究などでは「少なくとも2つ以上の抗うつ薬を十分な量・長期にわたり投与しても症状が改善しないケース」を{{仮リンク|治療抵抗性うつ病|en|Treatment-resistant depression}}あるいは難治性うつ病ということが多い。

== 原因 ==
うつ病の発病メカニズムは複雑な要素（生物学的要素、心理社会的要素、社会的相互作用など）によるとされ<ref name="whofact" />、さまざまな仮説が提唱されている。現在、動物実験によって、抑うつ状態に特有の神経回路機構が徐々に明らかとなりつつある。

[[ウイルス学]]的・環境[[生理学]]的研究としては、[[ヒトヘルペスウイルス6|ヒトヘルペスウイルス6（HHV-6）]]によって[[脳神経細胞]]（[[嗅球]]細胞）の一部が[[細胞死]]することにより、うつ病や病的[[疲労]]が発生すると考えられている{{Sfn|近藤|2014|p=828}}{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|pp=1-2}}。生物学的仮説としては、薬物の有効性から考え出されたモノアミン仮説、死後脳の解剖結果に基づく仮説<ref>[https://jams.med.or.jp/event/doc/129006.pdf うつ病の脳科学的研究] 山脇成人 第129回日本医学会シンポジウム</ref>、低[[コレステロール]]がうつおよび自殺のリスクを高めるとの調査結果、[[核磁気共鳴画像法|MRI]]などの画像診断所見に基づく仮説などがあり、現在も活発に研究が行われている。

モノアミン仮説のうち、近年は[[SSRI]]とよばれるセロトニンの代謝に関係した抗うつ薬の売り上げ増加にともない、セロトニン仮説がよく語られる。また、[[海馬 (脳)|海馬]]の神経損傷も論じられている。<!--しかしながら、臨床的治療場面を大きく変えるほどの影響力のある生物学的な基礎研究はなく、決定的な結論は得られていない{{要出典|date=2021年9月}}。-->

=== ウイルス学的・環境生理学的要因 ===
==== ヒトヘルペスウイルス6（HHV-6） ====
2014年に「[[日本心身医学会]]」で近藤一博は、うつ病や疲労の原因に[[ヒトヘルペスウイルス6]]（HHV-6）が影響していること、およびこれを判定する「疲労[[測定]]法」について論文を発表した{{Sfn|近藤|2014|p=828}}。HHV-6はほとんどの人間の体内に[[潜伏感染]]しているが、1週間程度の疲労蓄積によって再活性化する{{Sfn|近藤|2014|p=828}}。特に[[脳神経細胞]]の中でHHV-6が再[[活性化]]すると、このウイルス由来の[[遺伝子#概念|遺伝子タンパク]]「SITH-1」が産生される{{Sfn|近藤|2014|p=828}}。SITH-1の発現は、血中の抗SITH-1[[抗体]]を測定することで検証でき、主にうつ病患者から抗SITH-1抗体が多数検出されることが判明した{{Sfn|近藤|2014|p=828}}。

2020年に近藤らは、『iScience』誌で「ヒトヘルペスウイルス6（HHV-6）の潜伏感染は[[ストレス_(生体)#ストレス反応|ストレス応答]]を亢進させることで、うつ病のリスクを著しく上昇させる」（Human Herpesvirus 6B Greatly Increases Risk of Depression by Activating Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Axis during Latent Phase of Infection）という論文を発表した{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|p=1}}{{Sfn|近藤|2021|p=1}}。HHV-6（厳密にはHHV-6B）が潜伏感染している人体各部位で最も重要な一つは、脳内の[[嗅球]]細胞である{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|p=1}}。嗅球で再活性化したHHV-6がタンパク質SITH-1を産生し、これが嗅球を[[細胞死]]させてうつ病を発症させる{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|pp=1-2}}。

SITH-1抗体が検出された率（[[陽性]]率）は、[[健常者]]では24.4％、うつ病患者は79.8％であり、このことからうつ病患者の持つSITH-1は健常者よりも[[有意]]に多い{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|p=6}}。[[オッズ比]]で計算するとSITH-1陽性者は、うつ病罹患率が健常者の12.2倍に上昇している{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|p=6}}。なお脳[[画像診断]]でも、うつ病患者の嗅球が減少しているとの報告がある{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|p=8}}。近藤らは[[米国特許庁]]に「疲労レベル測定法とその応用」（Methods for Assessing Fatigue Level and Applications Thereof）などの特許を出願している{{Sfn|Ishii|Kobayashi|Kondo|Oka|2020|p=10}}。

;先行研究
2005年のド・ラバースらの研究結果は以下: 
{{Quote|
<ins>HHV-6と精神医学的症候群の因果関係</ins>を裏付けているのは、[[抗ウイルス治療]]中の臨床的な改善および、CSF〔[[脳脊髄液]]〕からのウイルス[[クリアランス_(医学)|排泄〔クリアランス]]〕である。注目すべきは、確認されたHHV-6が[[変異株]]〔バリアント〕Aに相当するのに対し、変異株Bは、主に[[免疫不全]]患者らにおける[[脳炎]]に関連している点である。したがって、<ins>うつ病性障害のような本来的な臨床的諸症状</ins>がある場合でさえも、<ins>HHV-6関連の脳炎は考慮されるべき</ins>である。{{Sfn|de Labarthe|Gauthert-Dejean|Bossi|Vernant|2005|p=539}}{{Efn|原文: "The causal link between HHV-6 and the psychiatric syndrome is supported by a clinical improvement during antiviral therapy, concurrently with the viral clearance from CSF. Of note, HHV-6 identified corresponded to variant A, whereas variant B is mainly associated to encephalitis in immunocompromised patients. Thus, HHV-6 associated encephalitis should be called to mind even in the presence of original clinical manifestations, such as a depressive illness"{{Sfn|de Labarthe|Gauthert-Dejean|Bossi|Vernant|2005|p=539}}. }}
}}

HHV-6B脳炎には抗ウイルス薬が有効ということであるが<ref>[https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2466-related-articles/related-articles-472/8949-472r08.html HHV-6脳炎・脳症(IASR,Vol.40,pp.104-105,2019年6月号)、(国立感染症研究所)]</ref>。

=== 生物学的要因 ===
==== モノアミン仮説 ====
{{See also|化学的不均衡|モノアミン神経伝達物質#モノアミン仮説}}
1956年、抗結核薬である[[イプロニアジド]]、統合失調症薬として開発中であった[[イミプラミン]]が、クラインやクーンにより抗うつ作用も有することが発見された。発見当初は作用機序は明らかにされておらず、ほかの治療に使われる薬物の薬効が偶然発見されたものであった。その後、イプロニアジドから[[モノアミン酸化酵素]]（MAO）阻害作用、イミプラミンにモノアミン類である[[ノルアドレナリン]]・[[セロトニン]]の[[再取り込み]]阻害作用があることが発見された。その後、これらの薬物に類似の作用機序を持つ薬物が多く開発され、抗うつ作用を有することが臨床試験の結果明らかになった。よってモノアミン仮説とは、大うつ病性障害などのうつ状態は、モノアミン類であるノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の低下によって起こるとした仮説である。

とりわけ、日本人はセロトニン再取り込みタンパク質の[[セロトニントランスポーター遺伝子|セロトニントランスポーター]]が少なく、別名『不安遺伝子』とも呼ばれる「S（ショート）」の保有率は80.25%、なかでもその重複型である<ref group="注釈">遺伝子の組み合わせは「L（ロング）」（『楽観遺伝子』とも呼ばれる）と「S」の掛け合いから「LL」「SL」「SS」の3種類があり、割合は人種により異なる</ref>「SS」型保有率は68.2%と世界で最も多い。そのため、日本人は遺伝的に神経終末におけるセロトニン濃度が薄く、不安になりやすいことが判明されている。とくに、北日本の日本海側地域において、その割合は高い。その理由として、天災による被害総額が世界全体のおよそ2割を占める程の厳しい国土のなかで、不安を共有する民族同士が相互扶助し、度重なる災禍をくぐり抜けてきた気質が継承されてきたからではないか、と推測されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.niigatashi-ishikai.or.jp/citizen/cranial/cranial-memo/202210282130.html |title=日本人と不安 |publisher =新潟市医師会　瀬尾弘志 |date=2022-10-28 |accessdate=2023-06-03}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.safetynet.co.jp/column/20230320/ |title=メンタルヘルス ～幸福感と不安遺伝子～ |publisher =株式会社セーフティネット |date=2023-03-20 |accessdate=2023-06-03}}</ref>。

抗うつ薬の販売者は自社製品を宣伝するために、セロトニンの欠乏によってうつ病が引き起こされており、[[選択的セロトニン再取り込み阻害剤]]（SSRI）が、この欠乏を正常化するとして宣伝しているが、これは監督庁による製品情報や査読論文によって裏付けられていない比喩的な説明である<ref name="pmid16848626">{{cite journal|last1=Lacasse|first1=Jeffrey R.|last2=Leo|first2=Jonathan|title=Questionable Advertising of Psychotropic Medications and Disease Mongering|journal=PLoS Medicine|volume=3|issue=7|pages=e321|year=2006|pmid=16848626|pmc=1518694|doi=10.1371/journal.pmed.0030321|url=http://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.0030321}}</ref>。

==== 脳の海馬領域における神経損傷仮説 ====
; 神経損傷仮説
: 近年MRIなどの画像診断の進歩に伴い、うつ病において、脳の海馬領域での神経損傷があるのではないかという仮説が唱えられている<ref name="jma200506">{{cite conference | title = うつ病の脳科学的研究：最近の話題| author = 山脇成人| editor = [[日本医学会]]シンポジウム |page=8-9 | date = 2005-06-16 | url = http://jams.med.or.jp/symposium/129.html | accessdate = 2006-10-12 }}</ref>。そして、このような海馬の神経損傷には、遺伝子レベルでの基礎が存在するとも言われている<ref>学習・記憶、情動に関わるエピジェネティック制御機構</ref>。
; [[心的外傷|心的外傷体験]]が海馬神経損傷の原因となるという仮説
: また、海馬の神経損傷は幼少期の心的外傷体験を持つ症例に認められるとの研究結果から、神経損傷が幼少期の体験によってもたらされ、それがうつ病発病の基礎となっているとの仮説もある。[[コルチゾール]]（cortisol）は[[副腎皮質ホルモン]]であり、[[ストレス (生体)|ストレス]]によっても発散される。分泌される量によっては、[[血圧]]や[[血糖]]レベルを高め、[[免疫]]機能の低下や[[不妊]]をもたらす。また、このコルチゾールは、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の[[海馬 (脳)|海馬]]を萎縮させることが、近年[[心的外傷後ストレス障害]]（PTSD）患者の脳の[[核磁気共鳴画像法|MRI]]などを例として観察されている<ref name="jma200506" />。[[ストレス (生体)|心理的ストレス]]を長期間受け続けると、[[コルチゾール]]の分泌により海馬の[[神経細胞]]が破壊され、海馬が萎縮する。[[心的外傷後ストレス障害]]（PTSD）・うつ病の[[患者]]にはその萎縮が確認される。

====神経炎症（ミクログリア）仮説====
:[[ストレス (生体)|ストレス]]により、[[グリア細胞]]の一種で脳内環境の維持・調整に関与する[[ミクログリア]]細胞より[[インターロイキン-1β]]、[[インターロイキン-6]]、[[TNF-α]]などの炎症性[[サイトカイン]]が分泌され、脳内で炎症を起こし、うつ病を発症するという説である。このプロセスで[[セロトニン]]神経伝達不調、[[HPA]]系の活性化、[[海馬 (脳)|海馬]]における[[脳由来神経栄養因子]]（BDNF）の減少や神経細胞新生の抑制を起こすとされる。1960年代よりモノアミン仮説が有力とされていたが、西暦[[2000年]]ごろより、うつ病患者を含む精神疾患既死者の脳を分析したところ、脳内の[[ミクログリア]]細胞の活性過剰を表す特徴が次々と報告されるようになった。{{日本語版にない記事リンク|マクデブルク大学|de|Hochschule Magdeburg-Stendal}}のヨハン・シュタイナー博士らは、とくに[[自死]]者の脳においてミクログリアの活性が顕著であったと報告している。その後、[[ポジトロン断層法]]技術を用いて、存命者の脳内ミクログリア活性を部分的に評価できるようになったことにより、うつ病患者のミクログリア過剰活性化が報告されている。[[自閉症スペクトラム障害]]や[[統合失調症]]においても、ミクログリアの過剰活性化が国内外で報告されている。ミクログリア過剰活性化によって[[ニューロン]]、[[シナプス]]、[[オリゴデンドロサイト]]、[[神経発生]]に至るまで損傷される結果が[[げっ歯類]]では知られている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nikkei-science.com/201901_032.html |title=精神疾患の新しいモデル　ミクログリア仮説 |publisher =加藤隆弘・神庭重信（九州大学）　日経サイエンス |date=2018-12-01 |accessdate=2023-04-23}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.cocorone-clinic.com/sp/column/utsu_mechanism.html |title=うつ病 発症メカニズム |publisher =高津心音メンタルクリニック |date=2020-04-01 |accessdate=2023-04-23}}</ref>。

=== 心理学的仮説 ===
==== 病前性格論 ====
[[#古典的分類]]に示したように、日本では1980年代まで、うつ病の患者に几帳面な人が多いという定説があり、これは病前性格論におけるメランコリー親和型性格や循環性格を指したものであった<ref name="うつ病の多様性と力動的理解" />。

[[フーベルトゥス・テレンバッハ]]の唱えたメランコリー親和型性格は、几帳面・生真面目・小心な性格を示すメランコリー親和型性格を持つ人が、職場での昇進などをきっかけに仕事の範囲が広がると、責任感から無理を重ね、うつ病を発症するという仮説である。

従来は、メランコリー親和型性格がうつ病の特徴とされ、薬に反応しやすく、休養と服薬で軽快しやすいものであった<ref name="ディスチミア親和型医療" />。

しかし、近年ではうつ病概念の拡大や社会状況の変化に伴い、これらの性格に該当しないディスチミア親和型と呼ばれる一群の患者が増加しているとされる<ref name="dys">{{Cite journal|和書 |author=樽味伸 |title=現代社会が生む “ディスチミア親和型” |volume=34 |issue=05 |year=2005 |month=05 |journal=臨床精神医学 |publisher= |location= |pages=687-694 |url= |ref= }}</ref>。ディスチミア親和型はメランコリー親和型とは異なり、薬への反応は部分的であり、休養と服薬のみではしばしば慢性化する<ref name="naid50000142189" />。そのため、メランコリー親和型に準じた治療では改善がみられない<ref name="ディスチミア親和型医療">{{Cite book|和書|author=松尾信一郎|editor=神庭重信|editor2-last=黒木俊英|chapter=ディスチミア親和型うつ病を通してみる現代うつ病医療|title=現代うつ病の臨床|publisher=創元社|date=2009|isbn=978-4-422-11423-1|pages=123-154}}</ref>。

ディスチミア親和型は、2004年に樽味伸が提唱したもので<ref name="ディスチミア親和型医療" />、以下のような特徴がある<ref name="naid50000142189">{{Cite journal|和書 |author=樽味伸、神庭重信 |title=うつ病の社会文化的試論 —特に「ディスチミア親和型うつ病」について— |volume=13 |issue=03 |year=2005 |month=02 |journal=日本社会精神医学会雑誌 |publisher= |location= |pages=129-136 |naid=50000142189 }} p.134</ref>。若年層に見られ、社会的役割への同一化よりも、自己自身への愛着が優先する。また、成熟した役割意識から生まれる自責的感覚を持ちにくい。ストレスに対しては他責的・他罰的に対処し、抱えきれない課題に対し、時には自傷や大量服薬を行う。幼いころから競争社会で成長した世代が多く、現実で思い通りにならない事態に直面した際に個の尊厳は破れ、自己愛は先鋭化する。回避的な傾向が目立つ。

{| class="wikitable" style="margin:0.3em auto; font-size:90%"
|+ ディスチミア親和型うつ病とメランコリー親和型うつ病の対比（樽味伸、2005<ref name="dys" />）
! !! ディスチミア親和型 !! メランコリー親和型
|-
! 年齢層
| 青年層
| 中高年層
|-
! 関連する気質
| スチューデント・アパシー<br />退却傾向と無気力
| 執着気質<br />メランコリー性格
|-
! 病前性格
| 「自己自身（役割ぬき）への愛着<br />規範に対し、『ストレス』であると抵抗する<br />秩序への否定的感情と万能感<br />もともと仕事熱心ではない
| 社会的役割・規範への愛着<br />規範に対して好意的で同一化<br />秩序を愛し、配慮的で几帳面<br />基本的に仕事熱心
|-
! 症候学的特徴
| 不全感と倦怠<br />回避と他罰的感情（他者への非難）<br />衝動的な自傷、一方で「軽やかな」自殺企図
| 焦燥と抑制<br />疲弊と罪業感（申し訳なさの表明）<br />完遂しかねない「熟慮した」自殺企図
|-
! 薬物への反応
| 多くは部分的効果に留まる（病み終えない）
| 多くは良好（病み終える）
|-
! 認知と行動特性
| どこまでが「生き方」でどこからが「症状経過」か不分明
| 疾病による行動変化が明らか
|-
! 予後と環境変化
| 休養と服薬のみではしばしば慢性化する<br />置かれた場・環境の変化で急速に改善することがある
| 休養と服薬で全般に軽快しやすい<br />場・環境の変化は両価的である（時に自責的となる）
|}

==== 認知心理学 ====
[[認知心理学]]は、人間の思考など認知過程を対象とした学問で1960年代より発展してきた。この認知心理学の学習モデルによれば、人間には思考が反復的に起こっているとされ、偏った思考と気分が関連づけされた場合に、問題が生じるとしている。その心理療法である[[認知行動療法]]は、有効性が科学的に確認されている。

==== ストレス脆弱性モデル ====
[[ストレス脆弱性モデル]]とは、ストレス自体の強さと、個人にはストレスに対する脆弱性があるという発症を説明する理論である。同様のストレスを受けた場合でも、ストレスに対して脆弱な場合に症状が生じるということである。

=== 薬物やアルコールによる影響 ===
{{See also|気分障害#アルコール誘発性気分障害|気分障害#ベンゾジアゼピン誘発性気分障害}}
DSM-IVでは、その原因が「物質の直接的な精神的作用」に起因すると判断される場合は、[[気分障害]]の診断を下すことはできないとしている。うつ病に似た症状が物質乱用や薬物有害反応により、起こされていると判断される場合、それは'''物質誘発性気分障害'''と診断される。

[[アルコール依存症]]または過度のアルコール消費は、うつ病の発症リスクを大幅に増加させる<ref>{{cite journal |author=Fergusson DM, Boden JM, Horwood LJ |title=Tests of causal links between alcohol abuse or dependence and major depression |journal=Arch. Gen. Psychiatry |volume=66 |issue=3 |pages=260-6 |year=2009 |pmid=19255375 |doi=10.1001/archgenpsychiatry.2008.543}}</ref><ref>{{cite journal |author=Falk DE, Yi HY, Hilton ME |title=Age of onset and temporal sequencing of lifetime DSM-IV alcohol use disorders relative to comorbid mood and anxiety disorders |journal=Drug Alcohol Depend |volume=94 |issue=1-3 |pages=234-45 |year=2008 |pmid=18215474 |doi=10.1016/j.drugalcdep.2007.11.022 |pmc=2386955}}</ref><ref>{{cite journal |author=Schuckit MA, Smith TL, Danko GP |title=A comparison of factors associated with substance-induced versus independent depressions |journal=J Stud Alcohol Drugs |volume=68 |issue=6 |pages=805-12 |year=2007 |pmid=17960298}}</ref>。また、逆にうつ病が原因となり、アルコール依存症になる場合もある（誤った自己治療）<ref>[https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-05-003.html アルコールと依存 厚生労働省]</ref>。

[[ベンゾジアゼピン]]は[[不安障害]]や[[不眠症]]の人が服用する薬である{{Sfn|デビッド・D・バーンズ|2004|pp=310-314}}。アルコールと同様に、ベンゾジアゼピンは大うつ病発症リスクを増加させる。この種類の薬は[[不眠]]・[[不安]]・筋肉痙攣に広く使用されている<ref name=ashman /><ref>Pharmacological treatment of depression. Consulting with Dr Oscar  Can Fam Physician  volume 45 page 2663–8 (1999) {{PMID|10587774}}  PMC 2328680 </ref>。このリスク増加はセロトニンとノルアドレナリンの減少など、薬物の神経化学への効果が一因である可能性がある。ベンゾジアゼピン系の慢性使用も抑うつを悪化させ{{Sfn|デビッド・D・バーンズ|2004|pp=310-314}}<ref name="Riss-2008">{{Cite journal|last1 = Riss|first1 = J.|last2 = Cloyd|first2 = J.|last3 = Gates|first3 = J.|last4 = Collins|first4 = S.|title = Benzodiazepines in epilepsy: pharmacology and pharmacokinetics|journal = Acta Neurol Scand|volume = 118|issue = 2|pages = 69-86|year = 2008|doi = 10.1111/j.1600-0404.2008.01004.x|pmid = 18384456|ref = harv}}</ref><ref>{{cite book|last=Semple|first=David|author2=Roger Smyth|author3=Jonathan Burns|author4=Rajan Darjee|author5=Andrew McIntosh|title=Oxford Handbook of Psychiatry|origyear=2005|year=2007|publisher=Oxford University Press|location=United Kingdom|isbn=0-19-852783-7|page=540|chapter=13}}</ref>、うつ症状は[[遷延性離脱症候群]]の1つである可能性がある<ref name=ashman>{{cite|author= Professor Heather Ashton|year= 2002|url= http://www.benzo.org.uk/manual/bzcha03.htm|title= Benzodiazepines: How They Work and How to Withdraw}}</ref><ref>{{cite book |last1=Collier |first1=Judith |last2=Longmore |first2=Murray |editor1-first=Peter |editor1-last=Scally |title=Oxford Handbook of Clinical Specialties |edition=6 |year=2003 |publisher=Oxford University Press |isbn=978-0-19-852518-9 |page=366 |chapter=4}}</ref><ref>{{cite journal|journal = Psychiatric Annals|year = 1995|volume = 25|issue = 3|pages = 174-179|title = Protracted Withdrawal From Benzodiazepines: The Post-Withdrawal Syndrome|author = Ashton CH|publisher = benzo.org.uk|url = http://www.benzo.org.uk/pha-1.htm}}</ref><ref>{{cite | author= Professor Heather Ashton| year= 2004| url=http://www.benzo.org.uk/pws04.htm| title= Protracted Withdrawal Symptoms From Benzodiazepines|publisher= Comprehensive Handbook of Drug & Alcohol Addiction}}</ref>。これらのケースから、ときに[[覚醒剤]]中毒者より克服が困難であるとされる俗に言う「'''[[ベンゾジアゼピン依存症|ベンゾ依存]]'''」として社会問題に発展し<ref>{{Cite web|和書|url=https://president.jp/articles/-/46045?page=2 |title=｢覚せい剤中毒より治療が困難｣普通の人を薬物依存に陥らせる"あるクスリ" |publisher =松本俊彦（国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部部長 兼 薬物依存症治療センターセンター長）プレジデントオンライン |date=2021-05-22 |accessdate=2023-04-23}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://acrobat.adobe.com/link/review?uri=urn:aaid:scds:US:500a3e87-5414-32bc-b23d-ed908d3aa908 |title=ベンゾジアゼピン依存症 |format=PDF |publisher =馬場元（順天堂大学越谷病院メンタルクリニック准教授） |date=2016-08-01 |accessdate=2023-04-23}}</ref>、[[2018年の日本|2018年]]診療報酬改定において「不安、不眠の症状を有する患者に対し、ベンゾジアゼピン系受容体作動薬を1年以上にわたり、同一の成分を同一の1日当たり用量で連続して処方した場合、処方料（42点）が29点、処方箋料（68点）は40点に減算」とし、[[2019年の日本|2019年]]診療分よりベンゾジアゼピンの長期処方は減算となった（ただし『不安または不眠にかかる適切な研修』を修了した医師は減算対象外）<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.osaka.med.or.jp/doctor/doctor-news-detail?no=20190417-2889-7&dir=2019#:~:text=%E5%B9%B3%E6%88%9030%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E8%A8%BA%E7%99%82%E5%A0%B1%E9%85%AC,%E9%80%9A%E7%9F%A5%E3%81%8C%E8%A8%AD%E3%81%91%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%80%82 |title=30年度改定「向精神薬長期処方の減算」始まる |publisher =大阪府医師会 |date=2019-04-17 |accessdate=2023-04-23}}</ref>。

[[メタンフェタミン]]乱用も抑うつを引き起こすとして広く知られている<ref name="pmid20659059">{{cite journal |author=Marshall BD, Werb D |title=Health outcomes associated with methamphetamine use among young people: a systematic review |journal=Addiction |volume=105 |issue=6 |pages=991–1002 |date=June 2010 |pmid=20659059 |doi=10.1111/j.1360-0443.2010.02932.x |url=}}</ref>。

=== 社会的要因 ===
{{Main|抑うつ#人生の出来事}}
貧困と社会的孤立は、一般的に精神的健康の問題のリスク増加と関連している。児童虐待（身体的、感情的、性的、またはネグレクト）も、後年になってうつ病を発症するリスクの増加に関連づけられている。

成人では、[[ストレス (生体)|ストレス]]の多い生活上の出来事が強く大うつ病エピソードの発症に関連づけられている。生活上の[[ストレス (生体)|ストレス]]、社会的支援の欠如がうつ病につながる可能性がある。

== 予防 ==
* [[対人関係療法]]や[[認知行動療法]]などの[[行動療法]]は、うつ病の新規発症を予防する効果があるとされる<ref name=Munoz2012>{{cite journal | author = Muñoz RF, Beardslee WR, Leykin Y | title = Major depression can be prevented | journal = The American Psychologist | volume = 67 | issue = 4 | pages = 285–95 | date = May–June 2012 | pmid = 22583342 | doi = 10.1037/a0027666 }}</ref><ref name=Cuijpers2012>{{cite conference|author=Cuijpers, P|title=Prevention and early treatment of mental ill-health|place=PSYCHOLOGY FOR HEALTH: Contributions to Policy Making, Brussels| date=2012-09-20}}</ref><ref name=Cuijpers2008>{{cite journal | author = Cuijpers P, van Straten A, Smit F, Mihalopoulos C, Beekman A | title = Preventing the onset of depressive disorders: a meta-analytic review of psychological interventions | journal = Am J Psychiatry | volume = 165 | issue = 10 | pages = 1272–80 | year = 2008 | pmid = 18765483 | doi = 10.1176/appi.ajp.2008.07091422 }}</ref>。これらのセラピーは個人や小人数グループにて施した場合にもっとも効果があるとされるため、インターネットを用いて多くの対象者にリーチすれば効果があるだろうと提案されている<ref>{{cite journal |author=Griffiths, K.M.; Farrer, L.; Christensen, H. |year=2010|volume= 192|issue=11| pages=4–11 | title=The efficacy of internet interventions for depression and anxiety disorders: a review of randomised controlled trials|journal=Medical Journal of Australia | url=https://www.mja.com.au/system/files/issues/192_11_070610/gri10844_fm.pdf| accessdate=2014-11-12}}</ref>。
* [[睡眠]]時に寝室を暗くすることなどを通して入眠しやすい環境を整えることが有効である（「[[睡眠衛生]]」も参照）<ref name="asahi20170821">{{Cite news|title=明るい寝室、眠りの質低下でうつのリスク 朝日新聞デジタル|date=2017-08-21|accessdate=2017-08-22}}</ref>{{Refnest|group="注釈"|寝室が明るいと睡眠の質が下がり、うつのリスクが高まる<ref name="asahi20170821" />。}}。
* うつ病のリスク要因となる抑うつを予防するために、[[抑うつ]]を発症しやすい青年期・思春期・児童期に位置する児童・生徒・学生（小学生・中学生・高校生・大学生など）に向け、抑うつ予防プログラムをカリキュラムの中に位置づけて実施することが有効である<ref>Werner-Seidler, A., Perry, Y., Calear, A. L., Newby, J. M., Christensen, H. (2017). [https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0272735815301409 School-based depression and anxiety prevention programs for young people: A systematic review and meta-analysis]. ''Clinical Psychology Review'', ''51'', 30-47.</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=及川恵, 西河正行, 坂本真士 |title=大規模授業を活用した抑うつ予防のための心理教育プログラムの開発 : 女子大学生を対象とした実践 |journal=東京学芸大学紀要. 総合教育科学系 |issn=1880-4306 |publisher=東京学芸大学学術情報委員会 |year=2014 |month=feb |volume=65 |issue=1 |pages=153-160 |naid=110009691434 |url=https://hdl.handle.net/2309/134610}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=伊藤拓, 及川恵, 西河正行 |title=英国,米国の学生相談機関による集団形式のプログラムの展望 : 日本における精神的不適応予防のための集団形式のプログラム実施のポイントの検討 |journal=明治学院大学心理学紀要 |issn=1880-2494 |publisher=明治学院大学心理学会 |year=2013 |month=mar |issue=23 |pages=123-136 |naid=120005350833 |url=https://hdl.handle.net/10723/1742}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=白石智子, 松下健, 田中乙菜, 島津直実, 近藤育代, 越川房子, 石井康智 |title=大学生を対象とした集団認知行動療法による抑うつ対処・予防プログラム : 効果につながる要因の予備的検討 |journal=宇都宮大学教育学部紀要. 第1部 |issn=0387-1266 |publisher=宇都宮大学 |year=2013 |month=mar |issue=63 |pages=13-19 |naid=110009560256 |url=https://hdl.handle.net/10241/00004521}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=上田敏子, 窪田辰政, 大石哲夫, 塚本博之, 宗像恒次 |title=大学生を対象とした抑うつ予防プログラム : 文献レビュー |journal=静岡産業大学情報学部研究紀要 |publisher=静岡産業大学情報学部 |year=2014 |issue=16 |pages=1-8 |naid=110010043402 |url=http://id.nii.ac.jp/1530/00000309/}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=堀口美智子 |title=子供の不安症、抑うつの予防介入プログラム : "FRIENDS"導入の可能性の検討 |journal=Proceedings : 格差センシティブな人間発達科学の創成 |publisher=お茶の水女子大学グローバルCOEプログラム「格差センシティブな人間発達科学の創成」 |year=2008 |month=aug |issue=03 公募研究成果論文集 |pages=47-55 |naid=120003912042 |url=https://hdl.handle.net/10083/51335}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=曽賀愛未, 境泉洋, 戸ヶ﨑泰子 |title=小学3年生を対象とした抑うつ予防プログラムの効果 : ポジティブな自己陳述の表出促進に焦点をあてて |journal=人間科学研究 |issn=2433-3484 |publisher=徳島大学大学院社会産業理工学研究部 |year=2017 |issue=25 |pages=23-35 |naid=120006460922 |url=https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/111472}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=髙橋高人, 松原耕平, 中野聡之, 佐藤正二 |title=中学生に対する認知行動的抑うつ予防プログラムの効果:―2年間のフォローアップ測定による標準群との比較― |journal=教育心理学研究 |issn=0021-5015 |publisher=日本教育心理学会 |year=2018 |volume=66 |issue=1 |pages=81-94 |naid=130006708400 |doi=10.5926/jjep.66.81 |url=https://doi.org/10.5926/jjep.66.81}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=堤亜美 |title=中学・高校生に対する抑うつ予防心理教育プログラムの効果の検討 |journal=教育心理学研究 |issn=0021-5015 |publisher=日本教育心理学会 |year=2015 |volume=63 |issue=3 |pages=323-337 |naid=130005108236 |doi=10.5926/jjep.63.323 |url=https://doi.org/10.5926/jjep.63.323}}</ref>。
* うつ病の一因となるストレスに対処する方法を教えるストレスマネジメント教育（「[[ストレス管理]]」も参照）や、問題を抱えたときや心身の不調時に援助要請を行えるよう各種専門機関の情報提供をすることも重要である<ref>{{Cite journal|和書 |author=中村菜々子 |title=大学教養授業での心理教育実践--ストレス,うつ病,援助要請スキルの知識増進に焦点をあてて |journal=学校教育学研究 |issn=0915387X |publisher=兵庫教育大学学校教育研究センター |year=2010 |volume=22 |pages=47-53 |naid=120002187880 |url=https://hdl.handle.net/10132/3343}}</ref>。

== 診断 ==
=== 臨床評価 ===
[[File:oecd-mentalhealthconsult.svg|350px|thumb|right|OECD各国のメンタルヘルス問題時の受診先調査{{Sfn|OECD|2014|p=63}}。<br>青は[[総合診療医]]、赤は[[精神科医]]、緑は[[臨床心理士]]。]]

{{See also|:en:Rating scales for depression}}
診断評価は、適切な訓練を受けた総合診療医、精神科医、心理士により、現在の状況、生活歴、現在の症状、家族歴を記録したうえで下される<ref name="NIMHPub">{{cite book |title=Depression|publisher = National Institute of Mental Health(NIMH)|url = https://web.archive.org/web/20110727123744/http://www.nimh.nih.gov/health/publications/depression/nimhdepression.pdf|accessdate = 2008-09-07|format=PDF}}</ref>。広い臨床的な目的は、患者の気分に影響がおよぶ関連する生物学的、心理的、社会的要因を系統立てて診察するためである。評価の際には、アルコールや薬物の使用など（健康な方法も含めて）気分転換の方法を尋ねる場合もある。評価はまた、現在の気分や思考の内容についての心理検査を行うことがあり、それは特に絶望感や悲観、自傷や自殺、肯定的な考えや計画がない場合である<ref name="NIMHPub" />。農村部では精神医療の専門家は少ないため、診断と管理は[[プライマリケア]]医によってなされることが多く<ref>{{cite journal|author=Kaufmann IM |date= 1993-09-01 |title=Rural psychiatric services. A collaborative model |journal=Canadian Family Physician|volume=39|pages=1957–61 |pmc=2379905 |pmid=8219844}}</ref>、特に発展途上国では顕著である<ref>{{cite web |url=http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/492941.stm |title=Call for action over Third World depression |accessdate=2008-10-11|date=1999-11-01 |work=BBC News (Health) |publisher=British Broadcasting Corporation (BBC)}}</ref>。

プライマリケア医や非精神科医は、身体的な症状の診断と治療に訓練されているため、時にはうつ病の診断を下すのが難しいこともある。うつ病は、さまざまな身体的（心身的）症状を引き起こすことがあり、彼らは身体的症状だと判断してその治療をしてしまうからである。非精神科医は3分の2のケースで[[無駄な医療|不必要な加療]]を行ってしまうという<ref name="pmid17968628">{{cite journal |author=Cepoiu M, McCusker J, Cole MG, Sewitch M, Belzile E, Ciampi A |title=Recognition of depression by non-psychiatric physicians—a systematic literature review and meta-analysis |journal=J Gen Intern Med |volume=23 |issue=1 |pages=25–36 |year=2008 |pmid=17968628 |pmc=2173927 |doi=10.1007/s11606-007-0428-5}}</ref><ref name="lancet">{{cite journal |author=Dale J, Sorour E, Milner G |year=2008 |title=Do psychiatrists perform appropriate physical investigations for their patients? A review of current practices in a general psychiatric inpatient and outpatient setting |journal=Journal of Mental Health |volume=17 |issue=3 |pages=293–98|doi=10.1080/09638230701498325}}</ref>。

うつ病の診断を行う前に一般的に医師により、医学的検査と調査が他が原因となっている症状を除外するために行われる。血液の[[甲状腺刺激ホルモン]]（TSH）と[[チロキシン]]測定によって[[甲状腺機能低下症]]を除外したり、基礎電解質と血中[[カルシウム]]測定で代謝障害の除外、全血球算定（[[赤血球沈降速度]]ESRを含む）により全身性疾患や慢性疾患を除外したりする<ref>{{cite journal |author=Dale J, Sorour E, Milner G |year=2008|title=Do psychiatrists perform appropriate physical investigations for their patients? A review of current practices in a general psychiatric inpatient and outpatient setting |journal=Journal of Mental Health |volume=17 |issue=3|pages=293–98|doi=10.1080/09638230701498325}}</ref>。薬物の副作用やアルコール乱用も同様に除外される。男性の抑うつの場合、[[テストステロン]]のレベル測定によって性腺機能低下症も除外される<ref>{{cite journal|author=Orengo C, Fullerton G, Tan R |year=2004|title=Male depression: A review of gender concerns and testosterone therapy| journal=Geriatrics |volume=59|issue=10 |pages=24–30 |pmid=15508552}}</ref>。

自覚的な認知についての訴えが老人の抑うつに現れることがあるが、それは[[アルツハイマー病]]などの[[認知症]]の徴候の可能性がある<ref name="pmid17047326">{{cite journal |author=Reid LM, Maclullich AM |title=Subjective memory complaints and cognitive impairment in older people |journal=Dementia and geriatric cognitive disorders |volume=22 |issue=5–6 |pages=471–85 |year=2006 |pmid=17047326 |doi=10.1159/000096295}}</ref><!--Cross-reference needs to be rephrased as normal prose: (See also [:en:Depression of Alzheimer disease]].)--><ref name="pmid9720486">{{cite journal |author=Katz IR |title=Diagnosis and treatment of depression in patients with Alzheimer's disease and other dementias |journal=The Journal of clinical psychiatry |volume=59 Suppl 9 |pages=38–44 |year=1998 |pmid=9720486}}</ref>。認知検査と脳画像イメージは認知症とうつ病を区別する助けとなる<ref name="pmid18004006">{{cite journal |author=Wright SL, Persad C |title=Distinguishing between depression and dementia in older persons: Neuropsychological and neuropathological correlates |journal=Journal of geriatric psychiatry and neurology |volume=20 |issue=4 |pages=189–98 |year=2007 |pmid=18004006 |doi=10.1177/0891988707308801}}</ref>。CTスキャンは、[[精神病]]症状や、急な発症、または異常な症状をともなう脳病変を除外することができる{{Sfn|Sadock|2002|p=108}}。生物的テストでは大うつ病の診断を行う方法はない{{Sfn|Sadock|2002|p=260}}。一般的に、医学的な兆候がない限りその後検査を繰り返す必要はない。

=== データ的・定量的診断 ===
==== 脳波検査（QEEG検査） ====
[[神経科学|神経]]精神医学では、QEEG検査すなわち[[定量的研究|定量]]的[[脳波]]測定検査により、脳波の評価を行うことで、うつ病・[[不眠症]]・[[発達障害]]・[[認知症]]などを早い段階で発見している<ref>{{cite news |title=うつ、発達障害、認知症の新しい治療法　ニューロフィードバックが本格始動 |url=https://www.data-max.co.jp/article/30910 |date=2019-08-11 |newspaper=[[データ・マックス]] |accessdate=2021-09-09}}</ref>。

==== 血液検査（血漿PEA測定） ====
うつ病の有無を血液で計測する検査法（[[血漿]][[エタノールアミンリン酸|PEA]]測定）を開発し[https://www.g-clinic.net/ketsueki/]、臨床現場でも用いている[[心療内科医]]の川村則行は2019年に
{{Quote|“心”という目に見えないもので語るより、[[体]]の[[病気]]と同じように[[物質]]で解き明かしたほうが理解しやすい。}}
{{Quote|[[精神疾患]]は“[[物質関連障害|物質の病気]]”であり、“[[身体疾患による精神障害|体の病気]]”である。}}
などと述べている<ref name="PEA">{{Cite web|和書
|last       = 佐田
|first      = 節子
|editor     = 黒住紗織（構成）
|year       = 2019
|url        = https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00003/091300031/?P=4
|title      = 血液検査で「うつ病」を診断する時代へ：客観的な診断法としての期待高まる
|publisher  = [[日経BP]]総合研究所
|accessdate = 2020-10-19
|ref        = harv
}}</ref>。川村院長が言うには、ほとんど全ての[[生物]]が持っているPEA（リン酸エタノールアミン）は「[[喜び]]などの感情」に関係する物質であり、これが主に存在する場所は[[脳神経]]細胞の[[軸索]]や[[細胞膜]]で、その他には[[肝臓]]、[[動脈]]、[[心筋]]など<ref name="PEA"/>。脳と血中物質の関係は非常に密接であり、[[PTSD]]患者の場合も「PTSDの原因となる[[トラウマ]]を経験してから10年以上が経っていたにもかかわらず、[[免疫力]]が通常の４分の１にまで低下していた」と院長は言う<ref name="PEA"/>。

[[ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ]]が、うつ病の診断に役立つ生物学的指標を発見したことが報道され、それはエタノールアミンリン酸 (EAP) の含有量を調べる検査であり、2013年に特許を取得しており、2019年には保険適用で検査が行えるようにしたいとしている<ref>＜Eパーソン＞血液でうつ病診断へ - [[河北新報]]、2015年8月6日。</ref>。血液中のエタノールアミンリン酸 (EAP) の含有量を調べることで、うつ病を捕捉する感度は80%以上であり、うつ病ではない人がうつ病と診断されない特異度は95%を超えると報道された<ref>{{cite news |title=社員の「うつ」、血液で見抜く 早期発見へ |url=https://www.nikkei.com/article/DGXNZO69636370Z00C14A4X11000/ |date=2014-04-13 |newspaper=日経産業新聞 |accessdate=2015-09-29}}</ref>。同社のホームページでは、その2013年時点の特許について、うつ病との鑑別が難しい適応障害や不安障害との判別にも利用できると、記載されている<ref>日本におけるうつ病のバイオマーカーによる診断法特許の登録に関するお知らせ - ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ、2013年10月23日。</ref>。

（2011年には、山形県の[[ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ]]および東京の国立精神・神経医療研究センターが血液中の[[エタノールアミンリン酸]] (EAP) で大うつ病を診断できると発表していた。同年、広島大学などの研究グループは、血液中のBDNF遺伝子のメチル化を調べることで大うつ病を診断できる可能性があると発表していた<ref>{{Cite journal |journal=PLoS ONE |title=DNA Methylation Profiles of the Brain-Derived Neurotrophic Factor (BDNF) Gene as a Potent Diagnostic Biomarker in Major Depression author=Manabu Fuchikami, Shigeru Morinobu, Masahiro Segawa, Yasumasa Okamoto, Shigeto Yamawaki, Norio Ozaki, Takeshi Inoue, Ichiro Kusumi, Tsukasa Koyama, Kounosuke Tsuchiyama, Takeshi Terao |date=2011-08-30 |doi=10.1371/journal.pone.0023881}}</ref>。）
{{See also|#診断検査の研究事例}}

=== DSM-IV-TRとICD-10の診断基準 ===
抑うつ状態についてもっとも広く用いられる診断基準は、[[アメリカ精神医学会]]による『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』第4版改訂版（DSM-IV-TR）と、[[世界保健機関]]の『[[疾病及び関連保健問題の国際統計分類]]』第10版（ICD-10）である。前者は米国および非ヨーロッパ諸国で多く用いられ、後者はヨーロッパで多く用いられる{{Sfn|Sadock|2002|p=288}}。2つの著作はお互いを反映するように作業されている{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=xxix}}。

DSM-IV-TRとICD-10は典型的なうつ病の症状を選定している。ICD-10では3つの典型的なうつ病の症状（気分の落ち込み、喜びの喪失、気力の低下）を示し、うち2つがうつ病の診断の確定に必要である<ref name="ICD">{{Cite |publisher=世界保健機関 |title=The ICD-10 classification of mental and behavioral disorders. Clinical description and diagnostic guideline. Geneva |date=1992 |url=http://www.who.int/classifications/apps/icd/icd10online/?gf30.htm+f33 |accessdate=2008-11-08 }}</ref>。DSM-IV-TRでは2つのおもなうつ病の症状、気分の落ち込みと、喜びの喪失のうち、ひとつが大うつ病エピソードの診断に必要である{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a}}。しかし、これらは診断基準の一部であり、すべてではない。

DSM-IV-TRでは大うつ病性障害は[[気分障害]]に分類される{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=345}}。診断は単発か繰り返される大うつ病エピソードに基づく{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=349}}。追加の情報はその他の障害と区別するために用いられている。{{仮リンク|特定不能のうつ病性障害|en|Depressive Disorder Not Otherwise Specified}}は、抑うつ症状のエピソードが、大うつ病エピソードの基準を満たしていない場合に診断される。

ICD-10は、大うつ病性障害という用語を使用していないが、（軽症・中等症・重症）うつ病エピソードの診断のために、非常によく似た基準を一覧にしている。複数のうつ病エピソードが存在し、躁病のないものには反復性うつ病性障害（recurrent depressive disorder）の診断名が用いられる<ref name="ICD" />。

DSMの診断基準は、うつ病を引き起こした個人のほかの側面と社会的な状況を考慮していないという点について、批判の対象となっている<ref name="Wakefield07">{{cite journal |author=Wakefield JC, Schmitz MF, First MB, Horwitz AV |title=Extending the bereavement exclusion for major depression to other losses: Evidence from the National Comorbidity Survey |journal=Archives of General Psychiatry |volume=64 |issue=4 |pages=433–40 |year=2007 |pmid=17404120 |doi=10.1001/archpsyc.64.4.433 |url=http://archpsyc.ama-assn.org/cgi/content/full/64/4/433|laysummary=http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/04/02/AR2007040201693.html |laysource=The Washington Post|laydate=2007-04-03}}</ref>。

==== 大うつ病エピソード(DSM-IV-TR) ====
{{Main|en:Major depressive episode}}
大うつ病エピソードは、2週間以上の[[精神障害#重症度|重症]]の[[抑うつ]]気分の存在を特徴とする{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=349}}<ref name=jjrmc.44.177>長田麻衣子、村岡香織、里宇明元、「[https://doi.org/10.2490/jjrmc.44.177 脳卒中後うつ病(Poststroke depression) －その診断と治療－]」The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine., Vol.44 (2007) No.3 P.177-188, {{DOI|10.2490/jjrmc.44.177}}</ref>。もし[[躁病]]や軽躁病のエピソードが存在すれば、診断は代わりに[[双極性障害]]となる{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=372}}。

大うつ病エピソードの確定には、「気分の落ち込み」と「興味・喜びの喪失」の2つの主要な症状のうちどちらかが必要である。「気分の落ち込み」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどである。「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態である。またこれは大うつ病エピソードの診断基準Aの片方であり、もう片方は5つ以上の症状の存在である。

{{Quotation|
; [[抑うつ]]気分
: 患者は抑うつを訴えたり、周囲から見て抑うつ状態にある<ref name="winthrop">{{cite web |url=http://faculty.winthrop.edu/DaughertyT/dep.htm |title=Criteria for Major Depressive Episode |publisher=faculty.winthrop.edu |work=Winthrop University |archiveurl=https://web.archive.org/web/20051123221447/http://faculty.winthrop.edu/DaughertyT/dep.htm |archivedate=23 November 2005 |accessdate=20 November 2013}}</ref>。ほとんど1日中、ほとんど毎日である<ref name="うつ病エピソード診断基準">DSM-IV-TR §大うつ病エピソード</ref>。
; 興味・喜びの喪失
: 最近のほぼすべての活動において、興味や喜びを喪失している（患者本人や周囲の訴えによる） <ref name="winthrop" />。ほとんど1日中、ほとんど毎日の著しい減退である<ref name="うつ病エピソード診断基準"/>。
; 食事や体重の変化
: [[食事制限]]を行っていないにもかかわらず体重が著しく増減する（月に5パーセント以上程度）、または最近の食欲が著しく増大または減衰している。ほとんど毎日である<ref name="うつ病エピソード診断基準"/>。
; 睡眠
: 最近の睡眠が著しく[[過眠症|過眠]]、もしくは[[不眠]]となる <ref name="winthrop" />。ほとんど毎日<ref name="うつ病エピソード診断基準"/>。
; 活動状態
: 周囲から見て、患者の最近の活動状態には不安を感じたり、のろくなったように思われる<ref name="winthrop" />。ほとんど毎日<ref name="うつ病エピソード診断基準"/>。
; 疲労感
: 最近、著しく疲労感を感じる<ref name="winthrop" />。ほとんど毎日<ref name="うつ病エピソード診断基準"/>。
; 罪悪感
: 最近、患者は根拠のない心配や不適切な罪悪感を感じており、それらは単に抑うつであり、非現実的である<ref name="winthrop" />。ほとんど毎日<ref name="うつ病エピソード診断基準"/>。
: 「どうせ自分なんか価値のない存在だ」と考えるようになるなど、自尊心が低下する。
; 集中力
: 患者本人や周囲の人によれば、最近の日常活動において意思決定がおっくうであり、集中力を欠いている<ref name="winthrop" />。ほとんど毎日<ref name="うつ病エピソード診断基準"/>。
; 自殺念慮・希死念慮
: 患者は、[[希死念慮]]（死へのおそれとは異なる）、自殺（もしくは自殺計画）、自殺未遂を訴えている<ref name="winthrop" />。
|大うつ病エピソード }}

DSM-IVでは大うつ病エピソードの診断基準Eが死別反応ではないことを要求している。

DSM-5においては、死別反応といった強いストレスに伴う抑うつは、治療なく回復する可能性があるため、死別反応に関する注釈が加えられた<ref name="DSM-5はなぜ">{{Cite book|和書|author=大野裕|authorlink=大野裕|title=精神医療・診断の手引き―DSM-IIIはなぜ作られ、DSM-5はなぜ批判されたか|publisher=金剛出版|date=2014|isbn=978-4-7724-1386-2|pages=39-40}}</ref>。DSM-5では「[[精神障害#アメリカ精神医学会|精神障害の定義]]」において、よくあるストレスや喪失による、愛する人との死別といった、予測可能な反応は精神障害ではないとされ、診断基準の注釈においては、死別や経済破綻、災害や重篤な病気などへの反応は、理解可能な、正常な反応である場合もあることが記述され、また死別による抑うつ症状も1-2年続くことがあるため、以前のDSM-IVによる2か月以上続いていればうつ病の可能性があるという基準をなくした{{sfn|アメリカ精神医学会|2014|pp=20、161、801}}。以前のDSM-IV-TRでは、症状が死別によるものである場合はうつ病から除外しているが、しかしその気分が長期化し大うつ病エピソードに特徴付けられる要素がある場合は、死別を原因として抑うつエピソードに入る可能性があるとされていた{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=352}}。

DSM-IVの特定不能のうつ病性障害の項には、抑うつ性の特徴を伴うものが紹介され、関連する診断に、[[気分変調症]]（慢性的だが軽度の気分変調が長く持続する）{{Sfn|Sadock|2002|p=552}}、抑うつを伴う[[適応障害]]（特定可能な出来事やストレッサーによって落ち込みが起きている）があり除外する必要がある{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=355}}。それ以外の場合に特定不能のうつ病性障害が考慮され、大うつ病エピソードが身体疾患や薬物あるいは原因がないのか判別できない場合にこの診断名を用いたり、また共に研究用診断基準案である{{仮リンク|小うつ病性障害|en|minor depressive disorder}}（大うつ病エピソードの症状の幾つかのみが存在する）<ref>{{cite journal |author=Rapaport MH, Judd LL, Schettler PJ |year=2002|title=A descriptive analysis of minor depression |journal=American Journal of Psychiatry |volume=159 |issue=4 |pages=637–43 |pmid=11925303 |doi=10.1176/appi.ajp.159.4.637}}</ref> と{{日本語版にない記事リンク|反復性短期うつ病性障害|en|recurrent brief depression}}(12か月にわたり毎月起きている2週間までのうつ病性のエピソード)が{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=778}}<ref>{{cite journal |date=2003|title=Is recurrent brief depression an expression of mood spectrum disorders in young people? |journal=European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience |volume=253 |issue=3 |pages=149–53 |doi=10.1007/s00406-003-0418-5 |pmid=12904979 |last1=Carta |first1=MG |last2=Altamura |first2=AC |last3=Hardoy |first3=MC |last4=Pinna |first4=F |last5=Medda |first5=S |last6=Dell'osso |first6=L |last7=Carpiniello |first7=B |last8=Angst |first8=J}}</ref>、紹介されている{{Sfn|アメリカ精神医学会|2000a|p=355}}。

=== 鑑別診断 ===
{{See also|抑うつ}}
[[抑うつ]]状態は、次のような原因によって引き起こされる。

正常な落ち込みは生活上の正常な苦痛や苦悩であり、対して、うつ病ではそれが1日のうちほとんど、ほとんど毎日であり「濃く」、機能の障害を起こし[[精神障害#重症度|重症]]である{{sfn|アレン・フランセス|2014|pp=52-55}}。失業、離婚、他の人生の深刻な問題の後に落ち込みが起きていれば、特に軽症の場合には一時的なストレス反応であるかを検討すべきであり、4週間以上観察してもよい{{sfn|アレン・フランセス|2014|pp=52-55}}。

DSM-IVでは大うつ病性障害の診断基準Bが他の精神障害ではないことを要求し、診断基準Cが躁病エピソード、軽躁病エピソード、混合エピソードが存在したことがないことを要求している。

* 特定できるストレスが原因となっている[[適応障害]]、[[急性ストレス障害]]、[[心的外傷後ストレス障害]] (PTSD) など。
* [[パニック障害]]など、他の障害の症状としてのもの。
* [[統合失調症]]では、気分が正常な時に妄想が生じている{{sfn|アレン・フランセス|2014|pp=52-55}}。
* [[双極性障害]]は後述。

DSM-IVでは大うつ病エピソードの診断基準Dが、物質あるいは、身体疾患による症状ではないことを要求している。物質の例には、[[薬物乱用]]、[[アルコール乱用]]、投薬による直接的な生理学的作用としての抑うつが挙げられる{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP1}}。

子どもや思春期では、診断を下すには注意を払い、物質の使用やストレス要因を考慮する{{sfn|アレン・フランセス|2014|pp=52-55}}。高齢者のような発症が遅い場合には、身体疾患や医薬品の副作用が考慮される{{sfn|アレン・フランセス|2014|p=52}}。

DSM-5の物質・医薬品誘発性抑うつ障害では、アルコール、精神刺激薬、ステロイド、L-ドーパ、抗生物質、化学療法などが抑うつを誘発しうるとし、一部は症例報告などが根拠であり因果関係の判定が困難なものがある。

==== 身体疾患による抑うつとの鑑別 ====
{{See also|身体疾患による精神障害}}
身体疾患は、抑うつ症状を呈すものがある。

* 中枢神経系（認知症、脳血管障害、[[パーキンソン病]]、[[慢性疲労症候群]]、[[脳腫瘍]]など）
* 内分泌系（[[副腎]]疾患([[アジソン病]]など)、[[甲状腺]]疾患 ([[橋本病]]など)、[[副甲状腺]]疾患など）
* 炎症性疾患（[[関節リウマチ]]、[[線維筋痛症]]、[[全身性エリテマトーデス]]など）
* 歯科治療用重金属中毒<ref group="注釈">「Solving the Puzzle of Mystert Syndromes」によると、181人のうつ病患者（含自殺願望の患者）の口中から水銀アマルガムの詰め物を取り除いた結果、全員が完治または改善を報告している。</ref>

DSM-5の他の医学的疾患による抑うつ障害では、脳卒中、ハンチントン病、パーキンソン病、外傷性脳傷害では明確な関連があり、解剖学的相関もあるとされ、クッシング病、甲状腺機能低下症、多発性硬化症があげられている。

==== 双極性障害との鑑別 ====
うつ病の診断においては、軽躁とうつを繰り返す双極II型障害を単極性・反復性と[[誤診]]するなど、双極性障害と見分けがつきにくいケースが多い。患者側も、睡眠時間が短くてもすんでしまうなど現代の過酷な社会環境にむしろ適応的であり、ばりばりと働けたなどの充実感などのため、軽躁状態を異常と認識せず、主治医に申告しないこともある。

WHOのガイドラインでは、大うつ病性障害など「うつ病として」受診に来た患者を診断する場合、躁病エピソードの既往症（軽躁エピソードは特に）を確認し、[[双極性障害]]でないかどうか明確に鑑別しておくことが重要であるとしている<ref name="whofact" />{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP1}}。これは、大うつ病性障害などの単極性の気分障害と双極性障害は、治療法が根本的に異なるためである<ref name="whofact" />{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP1}}{{Sfn|神庭重信|2008|pp=71-72}}。

また長期経過の中で、うつ状態に加え、躁状態も生じる場合にも、双極性障害の可能性がある。そのため、躁状態に転じることを常に注意し、素早く対応することが必要であるとも指摘されている{{Sfn|神庭重信|2008|pp=72,176-180}}。

とくに若年者は、[[双極性障害]]のうつ病相や[[統合失調症]]の好発年齢であり留意が必要である{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=12,38}}。

うつ病を繰り返し生じる場合には、反復性うつ病と呼ばれており、これも、遺伝研究などにより、躁うつ病と根本的には同一の障害であるとされている。一方、再発のないうつ病は、単一エピソードうつ病と呼ばれ、躁うつ病とは異なった障害であると考えられている。

====他の精神障害====
[[パーソナリティ障害]]や[[不安障害]]、[[不眠症]]、精神病の合併の有無を確認する{{Sfn|日本うつ病学会|2012|loc=Chapt.1.3}}。大うつ病障害に対して、約15%に[[依存性パーソナリティ障害]]、約10%に[[境界性パーソナリティ障害]]、約9%に[[強迫性パーソナリティ障害]]が確認されるとの研究報告がある{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=10}}。

'''刑事裁判への影響'''

日本の刑事裁判においてはうつ病という精神医学的診断（疾病診断）によって直ちに責任能力の有無が決められるものではなく、更に個々の事例における精神の障害の質や程度を判断し、その精神の障害と行為との関係についての考察に基づいて責任能力が判断されることになっている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.m.chiba-u.ac.jp/class/shakai/jp/housystem/doc/tebiki40_100108.pdf |title=刑事責任能力に関する精神鑑定書作成の手引き |accessdate=2023-08-24|archive-url=https://web.archive.org/web/20230824043721/https://www.m.chiba-u.ac.jp/class/shakai/jp/housystem/doc/tebiki40_100108.pdf |archive-date=2023-08-24 |url-status=dead |url-status-date=2024-09-23}}</ref>。そのため、うつ病と診断されたとしても、それによって直ちに刑責が軽減されるわけではない。

== 診療科・医療機関 ==
{{Main|精神障害#診療科|日本の精神保健}}
米国『[[メルクマニュアル|メルクマニュアル第18版]]』によれば、[[プライマリケア]]の現場（[[総合診療科]]）で[[抑うつ]]を訴える人々の割合は30%だが、大うつ病を有する人々の割合は10%未満である<ref name="MC18200511" />。また、抑うつは、[[甲状腺機能亢進症]]、[[脳腫瘍]]などの身体疾患でも見られる症状である<ref name="MC18200511">{{Cite journal|和書|author=|date=2005-11|title=うつ病性障害|journal=[https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB メルクマニュアル第18版 日本語オンライン版]|publisher=[[メルク・アンド・カンパニー|Merck & Co., Inc.]]|url=https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%e3%83%97%e3%83%ad%e3%83%95%e3%82%a7%e3%83%83%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%8a%e3%83%ab/08-%e7%b2%be%e7%a5%9e%e9%9a%9c%e5%ae%b3/%e6%b0%97%e5%88%86%e9%9a%9c%e5%ae%b3/%e6%8a%91%e3%81%86%e3%81%a4%e9%9a%9c%e5%ae%b3%e7%be%a4?autoredirectid=12854}}</ref>。

精神障害の治療は、[[OECD]]諸国では主に[[総合診療医]]が担っている{{Sfn|OECD|2014|loc=Country press releases - Japan}}。ある調査によれば、日欧米の一般の人々には[[精神科]]受診に対する抵抗感があるという<ref name="TY200404" />。日本では、うつ状態になった人々の最初の受診先は[[内科]]が約60%で、精神科は10%未満という報告もある<ref name="TY200404">{{Citation|和書|author=高橋祥友|date=2004-04|title=書評: 精神科を専門としない医師が患者の悩みを救うために|url=http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=5583 |publisher=医学書院}}</ref>。[[日本精神神経学会]]は、かかりつけの内科医について、患者をよく知っており、的確に治療していることが多いと述べている<ref name="JSPNQA" />。一方、症状によっては精神科への紹介を検討すべきと述べている<ref name="JSPNQA">日本精神神経学会広報委員会|精神科医療機関受診についてQ&A|日本精神神経学会|2015-01-17（原典は {{Cite journal|和書|author=細田眞司|date=2010-06-25|title=精神科医療機関の上手な利用の仕方|journal=こころの科学|volume=2010年|issue=7月号（通巻152号）|publisher=[[日本評論社]]|isbn=978-4-535-14052-3}}）</ref>。

日本では、精神障害を適切に診断・治療する診療科は'''[[精神科]]、[[精神科|神経精神科]]（精神神経科）、[[心療内科]]'''である<ref name="mhlwguide" />。なお、神経内科は神経専門の診療科なのでうつ病は扱わない<ref name="mhlwguide" />。各自治体の[[保健所]]や[[精神保健福祉センター]]では、無料かつ匿名で「心の変調」や[[メンタルヘルス]]の相談に応じ、医療機関も紹介してもらえる<ref name="mhlwguide">{{Cite |title=こころの健康サポートガイド |publisher=厚生労働省 |url=https://www.mhlw.go.jp/kokoro/docs/supportguide.pdf}}</ref>。意外に思われるかもしれないが、保健所の業務の6割は[[精神保健]]に関するものである。

精神障害は早期発見が重要なファクターだが、「心の変調」に自分（または周囲）が気づいた場合でも、どの医療機関を受診すればよいのかわからず、近所の内科などにかかることも少なくなく、症状を進行させてしまう場合がある。2014年にOECDは日本に対し、日本の[[プライマリケア]]制度の整備は発展途上であるため、地域医療を担う医療関係者がみな[[精神保健]]の技能を身につけるよう勧告している{{Sfn|OECD|2014|loc=Country press releases - Japan}}。

== 治療 ==
{{更新|date=2022年10月|section=1|1=APAガイドライン（2000、2004）やNICEガイドライン（2004、2009）など}}
{{For2|提案されているあらゆる治療法の一覧|うつ病の治療}}

ここでは'''各種[[診療ガイドライン]]にて勧告された治療法'''のみを掲載する。全ての一覧は'''[[うつ病の治療]]'''を参照されたい。

[[英国国立医療技術評価機構]] (NICE) の2009年ガイドラインでは以下のような評価と手順を持つ。NICEは、うつ病サブタイプや患者の個性に基づいて治療を変えることへの根拠は乏しいため、様々な治療戦略を取っ換え引っ換えし続けることのないよう述べている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.6}}{{Efn|なお、[[アメリカ精神医学会]]（APA）<!--American Psychiatric Association-->はAPA診療ガイドラインの内、出版時から5年を越えたものを「APA診療ガイドライン遺産集」の一部として掲載している{{Sfn|アメリカ精神医学会|2022|loc=APA Practice Guidelines Legacy Collection (PDF)}}。APAいわく、上記ガイドラインは現行のものだとは見なされない{{Sfn|アメリカ精神医学会|2022|loc=APA Practice Guidelines Legacy Collection (PDF)}}。<br>

以下は学会声明からの引用{{Sfn|アメリカ精神医学会|2022|loc=APA Practice Guidelines Legacy Collection (PDF)}}。{{Quotation|
APA診療ガイドライン遺産集<br> … <br>これらのガイドラインは5年を越えた古さであり、現行の知見と診療〔実践〕を反映していることを保証する更新は、まだ行われていない。[[標準化|国家標準集]]──医療研究品質機構国家ガイドライン[[レフェラルサービス|情報局]]〔[https://kotobank.jp/word/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9-252463 クリアリングハウス]〕の国家標準を含む──に従い、もはやこれらのガイドラインが現行であると見なされることはあり得ない。<br><br>

（原文：APA Practice Guidelines Legacy Collection<br> ... <br>These guidelines are more than 5 years old and have not yet been updated to ensure that they reflect current knowledge and [[:en:medicine#clinical_practice|practice]]. In accordance with national standards, including those of the Agency for Healthcare Research and Quality's National Guideline Clearinghouse, these guidelines can no longer be assumed to be current.{{Sfn|アメリカ精神医学会|2022|loc=APA Practice Guidelines Legacy Collection (PDF)}}）}}}}。

* '''継続する軽症から中等症の症状'''：
治療介入なしに回復しそうであるか、介入を拒否する場合には、積極的に観察する{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.4.1.3}}。治療介入としては弱い心理的介入であり、[[認知行動療法]]に基づく[[セルフヘルプ]]、コンピュータによる認知行動療法 (CBT)、構造化されたグループでの[[運動療法]]、この中から患者好みのものを選択{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.4.2.1}}。危険性が利益を上回るため抗うつ薬は使用してはならないが、[[セント・ジョーンズ・ワート]]には利益があるか可能性があるという証拠が存在する{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.4.4}}。
: 上の初期治療が効果を示さない場合：抗うつ薬、もしくは認知行動療法 (CBT)、[[対人関係療法]](IPT)、[[行動活性化]]、行動カップル療法などの強い心理的介入{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.1}}。
NICEのうつ病2015年ガイダンスでは「うつ病への[[反復経頭蓋磁気刺激療法]]〔rTMS〕」が定義され、「人によって効果は異なるが、[[国立医療サービス]]で使用するのに十分な[[安全性]]と[[効果]]を備えている」と掲載されている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2015|loc=Information for the public}}。[[日本うつ病学会]]の2019年の見解では、諸外国のガイドラインがrTMSをうつ病治療の一つとして位置づけている{{Sfn|日本うつ病学会|2019}}。

* '''中等症から重症の症状'''：
[[抗うつ薬]]および、強い心理的介入（CBTもしくはIPT）との併用{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.1}}。なお患者が[[不安障害]]を併発している場合、まずうつ病の治療を第一に行わなければならない{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.4.11}}。

世界保健機関は、妊娠期および周産期のうつに対して、第一選択は心理療法でなければらず、抗うつ薬は可能な限り避けなければならないとし、根拠に基づいた心理療法の手引き書''The Thinking Healthy''を公開している{{Sfn|世界保健機関|2015|p=10}}。

また、不眠の症状がある場合、[[睡眠衛生]]や[[不眠症#認知行動療法|認知行動療法]]、[[不眠症#薬物療法|薬物療法]]を通して患者をサポートする<ref>{{Cite book|和書|title=うつ病治療ガイドライン 第2版|year=2017|publisher=医学書院|pages=98-105}}</ref>。
<!--要ページ番号:2017年12月
ただし、一通りうつ病の治療が行われた後は、不安→うつ状態→不安という悪循環を断ち切るため、うつ病の治療と並行して不安障害の治療を行っていくことが求められる<ref name=":0" />。不安障害の治療については、「[[不安障害#治療]]」をご参照いただきたい。-->

=== 援助の方針 ===
{{Seealso|精神科の治療#ケアの基本}}
NICE (2009) でも示されているように、治療の前提として、治療者は、患者と信頼関係を結び、治療の基本的原則についてしっかりと説明を行い、患者が納得して治療に取り組めるようにすることが必要である{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.1.1}}。患者もわからないことは質問していくことが必要である（[[患者教育]]）。こうした医師と患者のコミュニケーションが治療の成功には不可欠である{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.1.1}}。治療の基本的原則の説明の例としては、以下のようなものがある。

* うつ病の症状の一つに、将来を悲観してしまうことがある{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP2}}。これはあくまで症状であり、うつ病が軽快するにつれ希望を持てるようになる。
* 以前に興味を持てたり楽しめたりした活動については、おっくうであっても、それを放棄せず可能な限り継続すべきである{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP2}}。
* 可能な限り、定期的な運動を継続すべきである{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP2}}。
* 地域活動への参加などについて、通常の範囲で可能な限り続けるべきである{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP2}}。
* 患者には利用可能な[[自助グループ]]、支援グループ、行政サービスなどの情報を伝えるべきである{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=GPC}}{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.1.1}}。
* うつ病になったのは、決して患者自身のせいではない<ref>Jesse H. Wright, Douglas Turkington, David G. Kingdon, Monica Ramirez Basco 著、古川壽亮 監訳、木下善弘・木下久慈 訳 『認知行動療法トレーニングブック：統合失調症・双極性障害・難治性うつ病編』医学書院、2010年、85頁。</ref>。
* 辛い[[自動思考]]（頭に浮かぶネガティブな思いやイメージ）はうつ病の症状であり、決してその人自身でもなければ事実でもない。治療は、そのような自動思考からの解放をサポートすることができる<ref name=":2">ウィリアムズ, M., ティーズディール, J., シーガル, G., & カバットジン, J.  越川 房子・黒澤 麻美（訳） (2012)．うつのためのマインドフルネス実践――慢性的な不幸感からの解放―― 星和書店，221-226頁．</ref>。
* 元気が出ないことも、なまけによるものではなくうつ病によるものであるため、自分を責めなくて良い。うつ病は、治療によって必ず治るので、再び元の状態に戻ることができる<ref>{{Cite book|和書|title=こころの病気を知る事典  新版|year=2007|publisher=弘文堂|page=58|editor=大塚俊男・上林靖子・福井進・丸山晋}}</ref>。

日本では、[[#古典的分類]]節に書いたように、かつての分類である内因性うつ病に対しての、うつ病は治る、薬が効き、励ましてはいけないという説明を一般化した弊害が言われている<ref name="うつ病の多様性と力動的理解" />。これについては宮岡等が『うつ病医療の危機』にて取り上げている。

また、個人を取り巻く「環境」は心理に大きな影響を与えるため、所属する環境を変えられるよう支援したり、本人を適切にサポートする人や機関とのつながりを増やしたり、ストレスを与える対人関係を改善したり、支援者がより良い環境を作ったりすることを通して、本人が肯定され安心できる環境を整備する環境調整も重要である<ref name=":0" /><ref>{{Cite book|和書|title=事例で学ぶ認知行動療法|year=2008|publisher=誠信書房|page=33|author=伊藤絵美}}</ref>。

なお、励ましたり叱ったりすることは、「このままではだめ」というメッセージを暗に伝えることになるため、[[自己肯定感]]を失わせ気分を落ち込ませてしまう。家族や周囲の人を含めた支援者は、本人が休養できる環境を作ったり、本人の話に共感的に耳を傾けたりしながら、温かく寄り添ってサポートしていくことが大切である<ref>{{Cite book|和書|title=女性のうつ病|year=2018|publisher=主婦の友社|pages=159-160|author=野田順子}}</ref>。

=== 心理療法 ===
'''[[心理療法]]'''（精神療法）は、精神福祉の専門家が、個人やグループ・家族に対して行い、[[作業療法士]]、[[理学療法士]]、[[精神科医]]、[[公認心理師]]、[[ソーシャルワーカー]]、[[カウンセラー]]、訓練を受けた[[精神保健福祉士]]が実施する<ref>{{cite journal|author=Thase, ME|title=When are psychotherapy and pharmacotherapy combinations the treatment of choice for major depressive disorder?|journal= Psychiatric Quarterly |volume=70|issue=4|pages= 333–46|year=1999|pmid = 10587988|doi = 10.1023/A:1022042316895}}</ref><ref name=Cordes>{{cite encyclopedia| last1 = Cordes | first1 = J. | title = Encyclopedia of Sciences and Religions | pages = 610 | year = 2013 | doi = 10.1007/978-1-4020-8265-8_301 | chapter = Depression | isbn = 978-1-4020-8264-1 }}</ref>。認知行動療法や対人関係療法など様々な有効な心理療法があり、どの心理療法においても、温かな共感と理解をしながら信頼関係を築き一緒に回復を目指していく<ref name=":0">{{Cite book|title=子どものうつがわかる本―早く気づき、しっかり治す―|year=2020|publisher=主婦の友社|author=下山晴彦}}</ref>。

貧困、失業、大切な人との離別などがうつを引き起こすこともあるが、社会的、状況的原因を薬で解決することはできない<ref name="IK2009177" />。この場合、心理療法の認知行動療法 (CBT) や読書療法などが有効である<ref name="IK2009177">{{harvnb|Irving Kirsch|2009|p=177}} （翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|p=240}}）</ref>。また、心理療法は薬物療法に比べてうつが再発する可能性が低い<ref>{{harvnb|Irving Kirsch|2009|p=160}} （翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|p=218}}）</ref><ref name="AF201208">精神医学 DSM-5をめぐって─Dr. Allen Francesに聞く 医学書院2012年8月（54巻8号）</ref>。

NICEのガイドラインは心理療法の重要性を認めており、6 - 8回の[[認知行動療法]] (CBT)、または他の[[根拠に基づく医療|根拠に基づいた]]心理療法を推奨している{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.1}}。[[英国]]政府は[[臨床試験]]で効果が証明された認知行動療法をはじめとする根拠に基づいた心理療法の拡充を開始し成果を上げているとOECDは述べている{{Sfn|OECD|2014|loc=Country press releases - UK}}（[[心理療法アクセス改善]]）。

1998年、{{仮リンク|世界精神医学会|en|World Psychiatric Association}}の「WPA/PTD うつ病性障害教育プログラム{{refnest|group="注釈"|原題: “WPA/PTD Educational Program on Depressive Disorders” <ref>「[http://www.wpanet.org/detail.php?section_id=8&content_id=118 WPA/PTD Educational Program on Depressive Disorders]」世界精神医学会、2013年10月28日閲覧。</ref><ref name="JCPTDH30" />}}」は、高齢者への[[精神療法]]の適用について、「精神療法のみ」「精神療法と[[抗うつ薬]]の併用」の二つを挙げている。「多様な治療法がある」「再発を予防するために、投薬は継続しなければならない。治療の成功は社会心理的支援がかかせない」としている<ref name="JCPTDH30">「[http://www.jcptd.jp/medical/jcptd_history_30.pdf JCPTD30年の歴史]」一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会 (JCPTD)、96頁、2013年10月28日閲覧。</ref><ref name="wpaptd">「[http://www.jcptd.jp/medical/wpa_slide.pdf WPA/PTD うつ病性障害教育プログラム]」一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会 (JCPTD)、2013年10月28日閲覧。</ref>。

2009年、[[プラセボ効果]]を研究する[[ハル大学]]の[[アービング・カーシュ]]博士は「心理療法のみの場合と、心理療法と[[抗うつ薬]]を併用する場合の効果の大きさは同じなのだから、なぜ、わざわざ抗うつ薬を持ち込む必要があるのだろうか{{refnest|group="注釈"|原文: “the effect of psychotherapy alone is as great as the combined effect of psychotherapy and antidepressants, why bother with the drugs?” <ref name="IK2009162163" />}}」と述べている<ref name="IK2009162163" />。両方を併用すれば、抗うつ薬だけを服用するより効果があるが、心理療法を単独で行う以上の効果はない<ref name="IK2009162163">{{harvnb|Irving Kirsch|2009|pp=162-163}} （翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|p=220}}）</ref>。

2012年、[[DSM-IV]]の[[アレン・フランセス]]編纂委員長は「精神科の軽度、中度の症状には、[[精神療法]]が少なくとも薬物療法と同じくらい効果があり、精神療法のほうが持続効果は長く、副作用は少ないのです。非常に多くの人が必要のない薬物療法を受け、回復に大きく役立つであろう精神療法を受けていないというのは、理不尽であり、経済的動機がそうさせているのだと思います」と述べている<ref name="AF201208" />。

2015年、OECDはうつ病や不安障害については、会話療法（心理療法）は薬物療法と同じぐらい効果があり、また患者にも好まれるとしており<ref name="OECDhqjp" />、またコストの面からも、うつ病治療の第一選択肢としては書籍ベースまたはコンピュータによる[[セルフヘルプ]]とするよう提案している<ref name="OECDhqjp">{{Cite report |df=ja |publisher=OECD |date=November 2014 |title=OECD Series on Health Care Quality Reviews - Japan |at=Chapt.4 |doi=10.1787/9789264225817-en }}</ref>。

==== 認知行動療法 ====
[[File:Becks Negative Cognitive Triad.svg|thumb|350px|right|[[自己スキーマ|ベックのネガティブ認知トライアングル]]]]
'''[[認知行動療法]]''' (CBT) とは、外界の認識の仕方で、[[感情]]や気分をコントロールしようという治療法。抑うつの背後にある[[認知のゆがみ]]を自覚させ、合理的で自己擁護的な認知へと導くことを目的とする。考え方のバランスを取り、[[ストレス (生体)|ストレス]]に上手に対応できるこころの状態をつくっていく（「[[ストレス (生体)#ストレス対処|ストレス#対処]]」・「[[ストレス管理]]」も参照）<ref name="ninchi2010">{{Cite report |df=ja |url=http://jact.umin.jp/pdf/cognitive_medical.pdf |title=うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル（厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業） |publisher=日本認知療法学会 |date=January 2010}}</ref>。さらに、[[薬物療法]]が併用されることで、より治療効果が高まる<ref>加藤 忠史 (2014)．うつ病治療の基礎知識 筑摩書房</ref>。

心理療法の中では、CBTには、子供と青年のうつ病に対する有効性の証拠が多く存在する。CBTと[[対人関係療法]] (IPT) は思春期のうつ病に対して勧められる。NICEでは、18歳未満に対して薬物治療を行う場合はCBT、ICT、家族療法などといった心理療法を併用しなければならないとしている<ref>[https://www.nice.org.uk/guidance/cg28/ NICE ガイドライン CG28(2005)]</ref>。

* NICEは、CBTを実施する場合、16-20セッションの治療を3-4ヶ月かけて行い、また重症では最初の2-3週間は週2回セッションで検討するとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.3.2}}。
* [[アメリカ精神医学会]]のガイドラインでは、認知行動療法など心理療法は患者の初期治療の選択肢として推奨されている{{Sfn|アメリカ精神医学会|2010|loc=part A}}。
* [[日本うつ病学会]]のガイドラインでは、認知行動療法の有効性は中等症以上に証拠があるとしているが、軽症の場合に選択肢に入れている{{Sfn|日本うつ病学会|2012|pp=18, 23}}。

認知行動療法は、[[医療心理師|心理職が国家資格化]]されている国々では、[[精神科]]（精神科医、薬物療法中心）、心理療法科（心理士、心理療法中心）に分かれることがあり、薬物療法と同時並行的に行われるとは限らない<ref>{{harvnb|Irving Kirsch|2009|p=1}} （翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|pp=13-14}}）</ref>。

日本では2010年に[[診療報酬]]が点数化され、外来患者について、認知療法・認知行動療法に習熟した医師が一連の治療に関する計画を作成し、患者に説明を行った上で、1回あたり30分以上の認知療法・認知行動療法を行った場合について、16回を上限として算定できる<ref>{{Cite press release|和書|title=診療報酬の算定方法の一部を改正する件（平成22年厚生労働省告示第69号）|publisher=厚生労働省 |date=2012-03-05 |url=https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken12/index.html |loc=第8部 精神科専門療法}}</ref>。

認知行動療法では、認知と行動の両面に働きかけることで、認知の変容（[[認知の歪み|認知のゆがみ]]を修正し、合理的で自己擁護的・自己肯定的な認知へと導くことなど）と行動の変容（日常生活の中で楽しみや達成感を感じる活動を増やしていくことを通じ、活動性を取り戻すことなど）を図る<ref name=":03">{{Cite journal|和書 |author=新宮尚人 |title=うつとリハビリテーション |journal=バイオメカニズム学会誌 |issn=02850885 |publisher=バイオメカニズム学会 |year=2011 |month=feb |volume=35 |issue=1 |pages=9-14 |naid=10027414865 |doi=10.3951/sobim.35.9 |url=https://doi.org/10.3951/sobim.35.9}}</ref><ref>{{Cite report |和書 |url=http://jact.umin.jp/pdf/cognitive_patient.pdf|title=うつ病の認知療法・認知行動療法患者さんのための資料（厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業）|publisher=日本認知療法学会|date=2010-01}}</ref>。

認知の変容をサポートする認知的技法には、次のようなものがある<ref name="ninchi2010" />。

* 自動思考の特定（頭に浮かぶネガティブな思いや考え方、つまり自動思考に気づくことをサポートする。そのうえで、自動思考は事実ではないことや、自らの本来の思考ではないことを理解しながら、少しずつ自動思考から距離を置いていくことを支援する<ref name=":2" /><ref name=":3">{{Cite book|和書|title=事例で学ぶ認知行動療法|year=2008|publisher=誠信書房|pages=20-28|author=伊藤絵美}}</ref>）
* 認知再構成法（否定的なとらえ方と異なる事実や根拠を見出したり、自動思考の反証となる事実や根拠を紹介したりした後、物事の良い側面をとらえる考え方・自らを責めない肯定的な考え方などを治療者が提示したり患者と一緒に模索したりすることにより、新たな考え方を形成できるようサポートする。その上で、新たな機能的な考え方を実際の生活の中で使ってみて、気分がどう変わったか検証することを支援する<ref name=":3" />）
* 認知のゆがみの修正（拡大視・縮小視：自分自身や状況を評価する際に悪い面を大きくとらえて良い面を軽視する、破局視：様々な可能性を考慮せず否定的な未来を予想する、全か無か思考：状況を完璧か最悪かという2つのカテゴリーでとらえる、個人化：否定的な事柄を自分のせいだと思い込む、「べき」思考：厳密な要求を自らに課しそれができないことを責める、など様々な種類の[[認知の歪み|認知のゆがみ]]がある<ref>ジュディス・S・ベック 伊藤 絵美・神村 栄一・藤澤 大介（訳）(2015). 認知行動療法実践ガイド――基礎から応用まで―― 第2版 星和書店, 250-251頁.</ref>。それらを把握した後、患者自身を否定せず、認知そのものを扱い治療者が新たな考え方を提示し、患者が新たな認知を身につけられるようサポートする）
* 自己教示法（習得したい考え方や行動を自分自身に言い聞かせること。具体的なイメージとともに言い聞かせることや、実際に考え方や行動に変化が生じたらすぐに自分自身に報酬や賞賛を与えて、考え方や行動の変化への動機づけをさらに高めることが推奨される）
* [[ロールプレイ]]

同時に、行動の変容をサポートする行動的技法には、次のようなものがある<ref name="ninchi2010" />。

* [[行動活性化]]（日々の生活の中で楽しい活動や達成感を少しでも感じる活動を増やしていくことなどを通じ、行動を活性化させていくことをサポートする技法。このような活動には気分を改善する脳内物質を増やす働きがあるほか、繰り返し生じる否定的な思考（自動思考）に気を取られにくくする効果、気晴らし効果もある<ref name=":1">デニス・グリーンバーガー，クリスティーン・A. パデスキー 大野 裕（監訳）(2001). うつと不安の認知療法練習帳 創元社, 192-195頁.</ref>。活動記録表を用いて、日々の活動と気分を記録し、活動と気分との関係を把握したり気分がよくなる活動を増やしたりすることもできる<ref name=":1" />）
* 行動実験（行動実験にもさまざまな種類があるが、うつ病の治療に用いられる行動実験は、実際に新たな考え方に基づいて行動し、そのメリットを体感することで、新たな行動の定着とその行動への動機づけの向上を図るものである）
* 問題解決法（現在の気持ちを引き起こしている問題を特定し、患者と支援者が協働でその問題を解決するための様々な解決策を模索し、それらの解決策を実行することを通して、問題を解決しストレスの原因を除去することをサポートする技法<ref>{{Cite book|title=認知行動療法トレーニングブック|year=2018|publisher=医学書院|author=Jesse H. Wright, Gregory K. Brown, Michael E. Thase, Monica Ramirez Basco|translator=大野裕・奥山真司}}</ref>）
* [[リラクゼーション (心理学)|リラクゼーション]]
* [[ソーシャルスキルトレーニング]]

さらに、認知的技法と行動的技法の双方を活用するものとして、ストレスコーピングがある。ストレスコーピングとは、うつ病の原因となるストレスに対する、意図的な対処方略（＝コーピング）を意味する。ストレスを引き起こす事柄のとらえ方を変えていくなどの認知的コーピングと、ストレスを和らげる行動（好きなことや気分転換など）を実践するなどの行動的コーピングに分類される。ストレスコーピングには様々なものがあり（「[[ストレス管理#技法]]」も参照）、自らに合ったものを自由に考案・活用することができる。ストレスコーピングのレパートリーを多く持っておくことで、多様なストレスに対処しやすくなることから、患者は治療者との話合いを通して案を出し合いながら、様々なコーピングを身につけられるようサポートされる<ref>{{Cite journal|author=伊藤絵美|year=2006|title=ストレスコーピング|journal=看護診断|volume=11|issue=1|page=113-115}}</ref><ref>{{Cite book|和書|title=ケアする人も楽になる認知行動療法入門 BOOK1|year=2011|publisher=医学書院|pages=72-87,150-155}}</ref>。

また、否定的な側面への注目により抑うつ的な自動思考が生じている場合があることから、あまり気づくことのなかった自分自身の良い側面に注意を向けることができるよう患者をサポートする注意変容の技法も有効である<ref>ホフマン, S. G. 伊藤正哉、堀越勝（訳）(2012). 現代の認知行動療法――CBTモデルの臨床実践―― 診断と治療社, 129頁.</ref>。さらに、活動を通じて否定的思考の循環を止めるため、生活の中で楽しめる活動や気分転換を徐々に増やしていけるよう、サポートすることも重要である<ref>リー, D. 竹本毅（訳）(2016). 10分でできる認知行動療法入門 日経BP社, 164頁・168頁.</ref>。
<!--要ページ番号：2017年12月
さらに、患者は好ましくない出来事・事柄や症状を自分自身（能力や人格など）に問題があるからだと考える傾向にある。治療者・支援者は、患者のその気持ちを受容しつつ、実際には本人の問題・責任ではなく本人を取り巻く環境・状況の影響が大きいということや、本人の存在自体がかけがえのないものであることなどを説明し、自責感の緩和（帰属スタイルの変更）と環境変更（患者が所属する環境や状況の変更）・環境改善（患者が所属している環境や状況の改善）への希望の形成を認知行動療法の一環として行っていくことが必要である<ref name=":0">ステファン・G・ホフマン 伊藤 正哉・堀越 勝（訳） (2012)．現代の認知行動療法――CBTモデルの臨床実践―― 診断と治療社, ISBN 9784787819758</ref>。また、治療者・支援者が患者と協働し、本人の良い点やあまり気づかれていない生活上の良い側面に注意を向けていくことをサポートする、注意変容の技法も有益である<ref name=":0" />。-->

不安やうつ病の人は、正しい決断を下すのに苦労することがよくある。研究によれば、全般性不安障害不安やうつ病の人は、間違いではなく過去の成功に焦点を合わせれば、判断は改善される可能性がある。うつ病や不安、またはいずれかの一般的な症状を持っている人々は、変化に追いつくのに苦労しており、したがって、より間違った選択をしたことを発見した。うつ病や不安のある人は自分が間違ったことに集中し、別の間違いをすることを心配するのに対し、障害のない人は過去の選択をより良いものにするためのガイダンスとして使用した。研究者たちは、認知行動療法のような治療は、不安やうつ病のある人、そして意思決定に苦労している人は、失敗ではなく過去の成功に集中することを学ぶことで、より自信を得るのに役立つ可能性があると指摘した。過度の心配や将来について気分が悪いなどの不安やうつ病の症状を示したが、臨床的に診断されなかった人々でも、過去の成功に焦点を当てることで、より良い意思決定を行うことができる<ref>{{Cite web|title=Focusing on past successes can help you make better decisions|url=https://www.health.harvard.edu/mind-and-mood/focusing-on-past-successes-can-help-you-make-better-decisions|website=Harvard Health|date=2021-04-01|accessdate=2021-07-08|language=en}}</ref>。

==== 読書療法 ====
{{See also|認知行動療法#セルフヘルプ|読書療法}}
[[プラセボ効果]]を研究する[[アービング・カーシュ]]博士は、認知行動療法 (CBT) を受けなくても、そのメリットの多くを得ることができる方法として認知行動療法の読書療法を薦めており、臨床試験で良い結果が得られたものの中から2冊を紹介している<ref name="IK2009173174" />。『うつのセルフ・コントロール』（熊谷久代訳、創元社、1993年）、『いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法』（デビッド・D・バーンズ、星和書店、2004年）はいずれも認知行動テクニックに関する本である<ref name="IK2009173174" />{{Sfn|デビッド・D・バーンズ|2004}}。『いやな気分よ、さようなら』の臨床試験では、短期的には、標準的なCBTを実際に受けた人のほうが改善の度合いが高かったが、3ヶ月後には同等になった<ref name="IK2009173174" />。3年間の追跡調査から効果が持続的であることも示唆されている<ref name="IK2009173174" />{{Sfn|デビッド・D・バーンズ|2004|loc=序章}}。注意点は、読書療法の臨床試験は中程度のうつ病のみを対象として行われたことである<ref name="IK2009173174" />。軽症から中等症のうつ病であれば、代替法として妥当だが、重度のうつ病にはどのような効果を発揮するのか分かっていない<ref name="IK2009173174">{{harvnb|Irving Kirsch|2009|pp=173-174}} （翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|pp=233-235}}）</ref>。

==== 対人関係療法 ====
'''[[対人関係療法]]''' (IPT) は、対人関係のあり方が抑うつ症状に影響を及ぼすという知見に基づき、重要な他者（本人にとって重要な意味を持つ他者）との対人関係問題に焦点を当て、その問題への適切な対処を温かく支援することで症状の緩和を図るものである。本人の困り感に沿って下記の4つの領域の中から対人関係問題を選択し、本人を責めることなく対人関係上の問題解決をサポートしていく<ref>{{Cite book|和書|title=うつ病のすべて：早期発見から治療まで（改訂第2版）|year=2009|publisher=永井書店|pages=107-109|editor=鹿島 晴雄・宮岡 など}}</ref><ref>{{Cite book|和書|title=気分障害治療ガイドライン（第2版）|year=2010|publisher=医学書院|pages=130-132|editor=上島 国利・樋口 輝彦・野村 総一郎}}</ref>。

# 悲哀（重要な他者の喪失により心理的ダメージを受けている状態）
# 対人関係上の役割をめぐる不和（相互に期待する役割にずれが生まれ、対人関係上の葛藤が生じている状態）
# 役割の変化（妊娠・出産などによる生物学的な役割の変化や、入学・卒業・就職・退職・結婚・離婚などによる社会的な役割の変化が起こり、新たな役割への適応の困難感が生じている状態）
# 対人関係の欠如（満足できる対人関係を持てなかったり、他者とのつながりがなかったり、孤独感が生じている状態）

特にNICEはIPTを実施する場合、16-20セッションの治療を3-4か月かけて行わなければならない、また重度の場合は最初の2-3週間を週2回セッションで検討するとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.3.4}}。アメリカ精神医学会の治療ガイドラインでも治療の有効性が確認されている。

=== 薬物療法 ===
NICEのガイドラインでは、抗うつ薬は、軽症から中等症では初期治療が効果を示さない場合において選択肢の一つであり、中等症から重症では、抗うつ薬および心理療法（CBTまたはIPT）の併用を推奨している{{efn|”Step 3: persistent subthreshold depressive symptoms or mild to moderate depression with inadequate response to initial interventions, and moderate and severe depression - For people with moderate or severe depression, provide a combination of antidepressant medication and a high-intensity psychological intervention (CBT or IPT).” {{Harv|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.1.2}}}}。

2012年の[[日本うつ病学会]]のうつ病の治療ガイドラインによれば、軽症うつ病の場合、安易な薬物療法は避けるべきであり、中程症以上のうつ病では薬物療法は軽症に比べてより積極的に行う{{Sfn|日本うつ病学会|2012}}。希死念慮の強い急性期、重症患者には薬物療法と[[精神療法]]、とりわけ薬物療法が重要である。薬物療法では効果がない場合、mECTを検討する<ref name="kishi">[http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/suicide/pdf/medication_suicide_prevention.pdf 自殺予防のために薬物療法によってできることは何か 渡邊衡一郎]</ref>。

WHOのうつ病ガイドラインでは、12歳以下では抗うつ薬の投与は禁止であり、また12歳以上の青年では抗うつ薬の投与は第一選択肢としては禁止であり、まず心理療法を行うべきだとしている{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP1}}。NIHは、高齢者の場合、再発防止のため薬物療法の併用が有効であるとしている<ref>[http://www.nimh.nih.gov/health/topics/depression/index.shtml What Is Depression?] National Institutes of Mental Health</ref>。

薬物療法に対する不安がみられる場合は、薬は本人の性格や本質を変えるものではなく、症状を緩和し気持ちを楽にするためのものであることを共有し、不安感を取り除けるようサポートする<ref>{{Cite book|和書|title=女性のうつ病|year=2018|publisher=主婦の友社|page=99|author=野田順子}}</ref>。また、抗うつ薬にも様々な種類があるため、医師は服用後の感想を丁寧に聞き取り、一人一人に合った効果的な薬を処方していく<ref>{{Cite book|和書|title=女性のうつ病|year=2018|publisher=主婦の友社|pages=99-100|author=野田順子}}</ref>。

治療者と患者との関係が良好であると、早期の治療中断・服薬中断が少なくなり回復に近づくことから、共感的に耳を傾けつつ患者の気持ちに丁寧に寄り添うことが重要である<ref>{{Cite journal|author=澤田 法英|year=2017|title=うつ病の適切な治療とアドヒアランス|journal=うつ病治療の新たなストラテジー|volume=7|issue=3|page=1-5}}</ref>。

==== 抗うつ薬による治療 ====
[[抗うつ薬]]の効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1週間ないし3週間の継続的服用が必要である{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.2}}。NICEは処方に際し、患者と[[離脱症状]]（[[SSRI離脱症候群]]など）も含めて副作用について話し合わなければならないとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.2}}。

抗うつ薬のうち、従来より用いられてきた[[三環系抗うつ薬]]あるいは[[四環系抗うつ薬]]は、口渇・便秘・尿閉などの[[抗コリン作用]]や眠気などの[[抗ヒスタミン作用]]といった[[副作用]]が比較的多い。これに対して近年開発された、[[セロトニン]]系に選択的に作用する薬剤[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬|SSRI]]や、セロトニンと[[ノルアドレナリン]]に選択的に作用する薬剤[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬|SNRI]]、NaSSAなどは副作用は比較的少ないとされるが、臨床的効果は三環系抗うつ薬より弱いとされる{{efn|なお、非定型うつ病については、欧米では[[モノアミン酸化酵素阻害薬]]（MAO阻害剤）が第一選択として活用されているが、その激しい副作用と厳しい食事制限のため、2012年現在日本で認可されているものはない。NICEはMAOIの処方は精神医療専門家のみが行われなければならないしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.2}}。}}。
{{Main|抗うつ薬#抗うつ薬の種類|抗うつ薬#副作用}}

NICEは薬剤の選択について、他の抗うつ薬より危険性と利益の比率が良好であるため、一般的にSSRIを選ばなければならない (should normally be) としている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.2}}。さらにNICEは、[[フルオキセチン]]、[[フルボキサミン]]、[[パロキセチン]]は他のSSRIより薬物相互作用が起きやすく、またパロキセチンは他のSSRIより離脱症状の報告率が高く、三環系抗うつ薬は{{仮リンク|ロフェプラミン|en|Lofepramine}}を除いて[[過剰摂取]]のリスクが高率 (greatest risk) であるとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.2}}。

{{Main|抗うつ薬#効果の限界と方策}}
服薬から4週間後に患者の抑うつ症状が改善されていれば、さらに2-4週間の投与を続ける{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.2}}。効果を示さないとか、副作用が生じる、あるいは患者の申出があれば、他の薬に切り替える{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.2}}。

[[抗うつ薬]]の有効性および安全性については議論がある。うつ病は、治療を行わなくても長期的には自然回復することが多く<ref name="RW2013" /><ref name="RW2009" /><ref name="JC1964">Jonathan Cole, "[http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1165179 Therapeutic efficacy of antidepressant drugs]," [[ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション|Journal of the American Medical Association]], 1964, pp. 448-55, 190(5).</ref><ref name="DS1974">Dean Schuyler, ''The Depressive Spectrum'', New York: [[:en:Jason Aronson|Jason Aronson]], 1974, p. 47. ISBN 978-0-87668-187-9.</ref>、数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい<ref name="RW2009" /><ref name="DS1974" />。{{仮リンク|アメリカ国立精神衛生研究所|en|National Institute of Mental Health|}} (NIMH) の専門家たちは、抗うつ薬が回復までの時間短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たないと考えている<ref name="RW2013">[[:en:Robert Whitaker (author)|Robert Whitaker]], "[http://robertwhitaker.org/robertwhitaker.org/Depression.html Antidepressants/Depression]," ''[[:en:Anatomy of an Epidemic|Anatomy of an Epidemic]] Documents''. Retrieved June 11 2013.</ref><ref name="RW2009">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=152-153}} （翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=224-225}}）</ref><ref name="DS1974" />。[[SSRI]]は[[プラセボ]]程度の効果しかないとの見解もある<ref name="Moncrieff2005">{{cite journal|last1=Moncrieff|first1=J.|title=Efficacy of antidepressants in adults|journal=BMJ|volume=331|issue=7509|year=2005|pages=155–157|issn=0959-8138|doi=10.1136/bmj.331.7509.155}}</ref>。

* NICEの2009年のガイドラインは、軽症以下の抑うつでは、危険性/利益の比率が悪いため抗うつ薬を継続的に使用してはいけないとしている<ref group="注釈">”Do not use antidepressants routinely to treat persistent subthreshold depressive symptoms or mild depression because the risk–benefit ratio is poor,”{{Harv|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.4.4}}</ref>。初期治療が効果を示さない場合、軽症から中等症では選択肢の一つであり{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.1}}、重症では心理療法と組み合わせて使用するとされる{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.5.2}}。
* 日本うつ病学会のガイドラインによれば、中等症・重症うつ病に対しては、1種類の[[抗うつ薬]]の使用を基本とし、十分な量の抗うつ薬を十分な期間に渡って投与すべきである{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=26}}、また寛解維持期には十分な継続・維持療法を行い、抗うつ薬の投与の終結を急ぐべきではないとしている{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=26}}。一方で軽症うつ病に対しては、薬物療法もしくは体系化された精神療法を、単独もしくは組み合わせて用いることを推奨しており、軽症うつ病への薬物療法の是非は議論が分かれるとしている{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=22}}。
{{Main|抗うつ薬#議論}}

抗うつ薬の投与は、抑うつ症状が見られなくなってから9-12ヶ月経過し、かつ日常生活を行うことができる状態であれば、投与中断を検討する{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP3}}。減薬に際しては離脱症状が起こりえるため、4週間以上の時間をかけて行う{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP3}}。重度の離脱症状の場合は投与を再開し、さらに時間をかけて減薬する{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP3}}。

==== その他の薬物療法 ====
{{See also|多剤大量処方}}
抗うつ薬の治療反応に乏しい場合、別の種類の[[抗うつ薬]]への変薬や追加（併用）のほか、[[炭酸リチウム]]、[[甲状腺ホルモン]]、[[抗てんかん薬]]、[[非定型抗精神病薬]]の追加（増強療法）、(米国などでは)[[アンフェタミン]]、[[メチルフェニデート]]などが試みられる。

[[漢方薬]]では、[[柴胡加竜骨牡蛎湯]]・[[半夏厚朴湯]]・[[加味逍遙散]]が主に用いられる<ref name="JMA">{{Cite |和書|author=日本医師会 |title=漢方治療のABC |date=1992 |publisher=医学書院 |isbn=4260175076 |series=日本医師会生涯教育シリーズ |pages=118,125-126}}</ref>。治療有効例では約2週間ほどで効果を示すことが多いが、効果のない場合でも4-6週間の経過を見た方がよい場合もある<ref name="JMA" />。西洋薬から漢方薬への切り替えは困難なことが多く、少なくとも急激な断薬はしてはならない<ref name="JMA" />。

米国や日本では[[アリピプラゾール]]も既存治療で十分な効果が認められない場合に限って認可されている<ref>[https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/medley-medicine/prescriptionpdf/180078_1179045B1021_1_33.pdf エビリファイ添付文書]</ref>。抗うつ薬の多剤投与、抗不安薬の多剤投与を合理性なく行ってはならない{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=37}}。

不安障害を併発している場合などは[[抗不安薬]]を、不眠が強い場合は[[睡眠薬]]を併用することも多い{{Sfn|デビッド・D・バーンズ|2004|pp=310-314}}。抗不安薬・睡眠薬として[[ベンゾジアゼピン系]]がしばしば用いられるが、これらは[[ベンゾジアゼピン依存症]]・[[ベンゾジアゼピン離脱症候群]]をまねき、うつ病を悪化させる{{Sfn|デビッド・D・バーンズ|2004|pp=310-314}}。

* 各国政府は[[ベンゾジアゼピン薬物乱用|ベンゾジアゼピンの処方を最大でも数週間]]に限るよう勧告している。
* NICEでは、ベンゾジアゼピン系の使用は、慢性的な不安症状がある場合を除き、依存の形成を防止するために2週間以上の投与はすべきではないとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009|loc=Chapt.1.5.2.8}}。
* うつ病の予防・治療日本委員会 (JCPTD) によると、薬物治療急性期には抗うつ効果発現までのベンゾジアゼピン系薬物処方は有用であるが、依存性のため長期投与は推奨していない{{Sfn|一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会|2008}}。

日本うつ病学会ガイドラインでは、中等症・重症のエピソード急性期において、ベンゾジアゼピン単剤、スルピリド単剤、非定型抗精神病薬単剤による治療は推奨していない{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=37}}。

[[中枢神経刺激薬]]、[[バルビツール酸系]]の使用は推奨されない{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=37}}{{Sfn|デビッド・D・バーンズ|2004|p=314}}。

==== 薬物療法と自殺 ====
{{Main|抗うつ薬#副作用}}
抗うつ薬による治療開始直後には、年齢に関わりなく自殺企図の危険が増加する危険性があると[[アメリカ食品医薬品局|アメリカ食品医薬品局 (FDA)]] から警告が発せられ{{Sfn|米国国立メンタルヘルス機構|2011|loc=FDA warning on antidepressants}}、日本でもすべての[[SSRI]]および[[SNRI]]の抗うつ薬の添付文書に自殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された<ref name="mhlw-safety261" />。

FDAは、子供・青年・18-24歳の若年者に対しては、SSRI治療は自殺念慮と自殺企図について高いリスクが存在すると報告している<ref name=FDA2>{{Cite report |df=ja |title=Clinical review: relationship between antidepressant drugs and suicidality in adults |author = Stone MB, Jones ML|date = 2006-11-17|work = Overview for December 13 Meeting of Psychopharmacologic Drugs Advisory Committee (PDAC)|publisher = FDA| pages = 11–74}}{{accessdate|2007-09-22}}</ref><ref name=FDA3>{{Cite report |df=ja |title=Statistical Evaluation of Suicidality in Adults Treated with Antidepressants |author = Levenson M, Holland C|date = 2006-11-17 |work =Overview for December 13 Meeting of Psychopharmacologic Drugs Advisory Committee (PDAC)|publisher = FDA| pages = 75–140}}{{accessdate|2007-09-22}}</ref><ref name="Olfson">{{cite journal |author=Olfson M, Marcus SC, Shaffer D |title=Antidepressant drug therapy and suicide in severely depressed children and adults: A case-control study |journal=Archives of General Psychiatry |volume=63 |issue=8 |pages=865–72 |year=2006 |pmid=16894062 |doi=10.1001/archpsyc.63.8.865}}</ref><ref name=FDA>Review and evaluation of clinical data. Relationship between psychiatric drugs and pediatric suicidality.|accessdate = 2008-05-29|author = Hammad TA|date = 2004-08-16|publisher = FDA| pages = 42; 115</ref><ref name="Hetrick S, Merry S, McKenzie J, Sindahl P, Proctor M 2007 CD004851">{{cite journal |author=Hetrick S, Merry S, McKenzie J, Sindahl P, Proctor M |title=Selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) for depressive disorders in children and adolescents |journal=Cochrane Database Syst Rev |issue=3 |pages=CD004851 |year=2007 |pmid=17636776 |doi=10.1002/14651858.CD004851.pub2 }}</ref>。
成人についてはSSRIと自殺リスクの関係は明確ではない<ref name="Hetrick S, Merry S, McKenzie J, Sindahl P, Proctor M 2007 CD004851" />。あるレビューでは関係性が認められておらず<ref>{{cite journal |author=Gunnell D, Saperia J, Ashby D |title=Selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) and suicide in adults: meta-analysis of drug company data from placebo controlled, randomised controlled trials submitted to the MHRA's safety review |journal=BMJ |volume=330 |issue=7488 |pages=385 |year=2005 |pmid=15718537 |pmc=549105 |doi=10.1136/bmj.330.7488.385 }}</ref>、別のレビューではリスクが増加すると報告され<ref>{{cite journal |author=Fergusson D, Doucette S, Glass KC, ''et al.'' |title=Association between suicide attempts and selective serotonin reuptake inhibitors: systematic review of randomised controlled trials |journal=BMJ |volume=330 |issue=7488 |pages=396 |year=2005 |pmid=15718539 |pmc=549110 |doi=10.1136/bmj.330.7488.396 }}</ref>、第三のレビューでは25-65歳ではリスクはなく65歳以上では低リスクと報告している<ref>{{cite journal|last=Stone|first=M|author2=Laughren, T|author3=Jones, ML|author4=Levenson, M|author5=Holland, PC|author6=Hughes, A|author7=Hammad, TA|author8=Temple, R|author9=Rochester, G|title=Risk of suicidality in clinical trials of antidepressants in adults: analysis of proprietary data submitted to US Food and Drug Administration|journal=BMJ (Clinical research ed.)|date=2009-08-11|volume=339|pages=b2880|pmid=19671933|doi=10.1136/bmj.b2880|pmc=2725270}}</ref>。
疾病データ上では、新しいSSRI時代の抗うつ薬の普及により伝統的に自殺リスクの高い国で自殺率の大幅な低下をもたらしていると分かった<ref>{{cite journal |author=Rihmer Z, Akiskal H |title=Do antidepressants t(h)reat(en) depressives? Toward a clinically judicious formulation of the antidepressant-suicidality FDA advisory in light of declining national suicide statistics from many countries |journal=J Affect Disord |volume=94 |issue=1–3 |pages=3–13 |year=2006 |pmid=16712945 |doi=10.1016/j.jad.2006.04.003 }}</ref> が、因果関係は確定されていない<ref>{{cite journal|last=Sakinofsky|first=I|title=Treating suicidality in depressive illness. Part I: current controversies|journal=Canadian Journal of Psychiatry|date=2007 Jun|volume=52|issue=6 Suppl 1|pages=71S–84S|pmid=17824354}}</ref>。

米国では2007年に、SSRIとその他の抗うつ薬について24歳以下の若年者では自殺リスクを増加させる可能性があるという黒枠警告がなされた<ref>Proposes New Warnings About Suicidal Thinking, Behavior in Young Adults Who Take Antidepressant Medications|date=2007-05-02 |publisher=[[アメリカ食品医薬品局|FDA]] |accessdate=2008-05-29</ref>。同様の警告は日本の厚生労働省からもされている<ref name="mhlw-safety261">{{Cite report |和書 |author=厚生労働省医薬食品局 |authorlink=厚生労働省 |date=2009-09 |title=医薬品・医療機器等安全性情報 No.261 |url=https://www.pmda.go.jp/files/000144409.pdf#page=8 |series=261 }}</ref>。米国ではFDAの警告以降に若年者の自殺死者数が増加している。FDA警告の結果、若年者の抗うつ薬治療が少なくなり、結果として自殺者が増えたとすれば問題である<ref>野村総一郎（日本うつ病学会理事長）[http://www.pmda.go.jp/files/000144232.pdf 抗うつ薬で自殺が増加するか？]</ref>。

* 英国『モーズレイ処方ガイドライン第10版{{refnest|group="注釈"|David Taylor（チーフ[[薬剤師]]、[[精神薬理学]]教授）、Carol Paton（チーフ薬剤師、[[名誉研究員]]）、Shitij Kapur（[[:en:Institute of Psychiatry|精神医学研究所]]学部長・教授）らによって著された[[向精神薬]]の処方マニュアルである<ref>{{Citation |和書 |author1=David Taylor |author2=Carol Paton |author3=Shitij Kapur |others=内田裕之・鈴木健文・渡邊衡一郎監訳 |date=2011-01 |title=モーズレイ処方ガイドライン第10版 |publisher=[[アルタ出版]] |pages=1-7 |isbn=978-4-901694-45-2}}</ref>。}}』（2009年）では、うつ病の治療が希死念慮および自殺企図を防ぐ最も効果的な方法であり、ほとんどの場合、[[抗うつ薬]]による治療が最も効果的な方法であるとしている<ref name="kishi" />。
* NICEガイドライン（2009）によると、2005年4月にヨーロッパ医薬品評価委員会はSSRIとSNRIについて、子供と青年には処方すべきではない(承認適応症を除くがこれは通常の抑うつは含まない)としている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009|loc=Chapt.1}}。
* APAガイドライン（2004）では、[[抗うつ薬]]は自殺リスクを減らすエビデンスは小さい、しかしうつ症状の軽減に必要だとしている<ref group="注釈">"Surprisingly, there is limited evidence that antidepressants reduce suicide risk. Because depression is one of the most significant risk factors for suicide, however, antidepressants may be essential in the treatment of suicidal patients for depressive-symptom reduction." {{Harv|アメリカ精神医学会|2004|pp=378-379}}</ref>。

=== 運動療法 ===
貧困、失業、大切な人との離別などが抑うつを引き起こすこともあるが、社会的、状況的原因を薬で解決することはできない<ref name="IK2009177" />。この場合、運動などが有効である<ref name="IK2009177" />。また、運動療法は薬物療法に比べてうつが再発する可能性が低い<ref>{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=345-346}} （翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=515-516}}</ref><ref>{{harvnb|Irving Kirsch|2009|pp=170-171}} （翻訳書は {{harvnb|アービング・カーシュ|2010|p=230}}）</ref>。

WHOのガイドラインにおいては、提供可能な場合の補助療法として提案されている{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=DEP1}}。NICEのガイドラインでは、軽症から中等度のうつ病に対してはCBTと並んで、[[運動療法]] (a structured group physical activity programme) を選択肢の一つとして推奨している{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.4.2.1}}。患者が運動療法を選択した場合は、訓練を受けたコーチの下でグループ単位で行わなければならない、また1回あたり45分-1時間、週3回を10-14週間程度としなければならないとしている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.4.2.4}}。

2004年、[[英国国立医療技術評価機構]] (NICE) は「[[抗うつ薬]]はリスク便益比の観点から、軽症のうつの初期治療には推奨できない{{refnest|group="注釈"|原文: “antidepressants are not recommended for the initial treatment of mild depression, because the risk-benefits ratio is poor.” <ref name="RW2009345" />}}」としている。寧ろ、医師は薬物以外の代替法を試し、「軽症のうつ病患者には年齢を問わず、構造化された指導付き運動プログラムのメリット{{refnest|group="注釈"|原文: “patients of all ages with mild depression of the benefits of following a structured and supervised exercise programme.” <ref name="RW2009345" />}}」を推奨すべきだとしている<ref name="RW2009345">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|p=345}} （翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=514-515}}）</ref>。

2007年のNICEのガイドラインでは、[[フィジカルトレーニング]]は軽症のうつ病治療に推奨された<ref name="nice2007">{{cite report |df=ja |url= http://www.nice.org.uk/nicemedia/pdf/CG023fullguideline.pdf |title=CG23 : Management of depression in primary and secondary care |publisher=[[英国国立医療技術評価機構]] |date=2007 |page=99}}</ref>。

2009年、イギリスの[[総合診療医]] (GP) の20%以上（2004年の4倍）が抑うつ症状の患者にしばしば運動療法を「処方」している。短期的には、6週間以内に著しい改善があり、効果は大きく、抑うつ症状のある患者の70%が運動プログラムに反応したという研究報告がある。長期的にも多くの副効果（心臓血管機能・認知機能・性的機能・筋力・社会性の向上、高血圧・睡眠の改善）がある<ref>{{harvnb|Robert Whitaker|2009|pp=345-347}} （翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|pp=515-517}}）</ref>。

2012年、[[日本うつ病学会]]のガイドラインは「本来軽症に限った治療法ではない」と断った上で、軽症のうつ病への適用について、「運動を行うことが可能な患者の場合、うつ病の運動療法に精通した担当者のもとで、実施マニュアルに基づいた運動療法が用いられることがある。一方で運動の効果については否定的な報告もあり、まだ確立された治療法とは言えない」と述べている{{Sfn|日本うつ病学会|2012}}。

2013年、[[コクラン・ライブラリ]]の[[システマティック・レビュー]]によれば、運動の効果は心理療法や薬物療法と同程度である<ref>{{cite journal |author=Cooney GM, Dwan K, Greig CA, Lawlor DA, Rimer J, Waugh FR, McMurdo M, Mead GE |title=Exercise for depression |journal=Cochrane Database of Systematic Reviews |date=2013 |issue=9 |pages=CD004366 |doi=10.1002/14651858.CD004366.pub6}}</ref>。

2012年の[[ランダム化比較試験]]は、運動はうつ病の症状を改善させない、通常の治療と比較して抗うつ薬の使用を減少させない、身体活動を増加させることはうつ病からの回復の機会を増加させないとしている。多くの研究は身体活動のプラス効果を報告しているが、現在の証拠のほとんどは、医療現場で非実用的な介入をした、小さな非臨床サンプルに由来する<ref>{{cite web|url=http://www.bmj.com/content/344/bmj.e2758|accessdate=2012-03-22|title=Facilitated physical activity as a treatment for depressed adults: randomised controlled trial}}</ref>。多くの証拠を精査したガイドラインやシステマティックレビューではないことに注意が必要である。

なお、[[ヨーガ]]を活用した運動療法を薬物療法と併用することで、うつ症状が軽減するケースがあるとされる<ref>{{Cite journal|author=小口江美子・岡崎雅子・石野徳子・越川裕樹|year=2016|title=薬物療法中のうつ病患者に対してヨーガによる運動療法が奏功した1例|journal=昭和学士会雑誌|volume=76|issue=4|page=505-513}}</ref>。2024年の[[メタ解析]]で、ウォーキングやジョギング、ヨーガ、そして筋肉トレーニングは、他の運動療法と比べて抑うつの治療に有効であると報告された。ヨーガと筋肉トレーニングは、他の治療法と比較して忍容性が高かった
<ref>{{cite journal | vauthors = Michael Noetel, Taren Sanders, Daniel Gallardo-Gómez, Paul Taylor, Borja Del Pozo Cruz, Daniel van den Hoek, Jordan J Smith, John Mahoney, Jemima Spathis, Mark Moresi, Rebecca Pagano, Lisa Pagano, Roberta Vasconcellos, Hugh Arnott, Benjamin Varley, Philip Parker, Stuart Biddle, Chris Lonsdale | title = Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials | journal = BMJ. | volume = 14 | issue = 384 | pages = e075847. | date = Febrary 2024 | pmid = 38355154 | pmc = PMC10870815 | doi = 10.1136/bmj-2023-075847. }}</ref>。

=== その他ガイドラインに基づく治療法 ===
その他のガイドラインにて提案されている治療法には、以下のようなものが挙げられる。

; [[電気けいれん療法|電気痙攣療法]] (ECT)
: 頭皮の上から電流を通電し、人工的に痙攣を起こすことで治療を行う。薬物療法が無効な場合や自殺の危険が切迫している場合などに行う。最近は全身麻酔を使用した苦痛のない方法がとられることがほとんどである（そのため入院も可能な大病院でしかできない）<ref>志水彰ほか『精神医学への招待』改訂2版,南山堂、2005年。100、188頁</ref>。安全管理も慎重に行われるようになった<ref name="ida">井田逸朗 他「修正型電気刺激療法」『気分障害の診療学』中山書店、371 - 379頁</ref>。前述の場合に有効性が高い治療法であると考える臨床家も多く<ref name="ida" />、保険診療でも認められている。
: APA(2010) では治療抵抗性うつ病に対して、ECTが最も効果的（most effective）な治療法としている{{Sfn|アメリカ精神医学会|2010|loc=A Quick Reference Guide;p23}}。NICEのガイドラインでは、重症のうつ病のみに用いられるべき (should only be used)、標準的なうつ病に対しては繰り返しECTを行ってはならないが複数の薬物治療と心理療法に効果を示さない場合は検討できる、予防目的のECTを行ってはならないとしている<ref>{{Cite report |df=ja |publisher=[[英国国立医療技術評価機構]] |date=April 2003 |title=TA59 : Guidance on the use of electroconvulsive therapy |url=http://www.nice.org.uk/Guidance/TA59 }}</ref>{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=Chapt.1.2}}。
; [[反復経頭蓋磁気刺激療法]] (rTMS)
: 2021年『北欧精神医学会誌』<!--Nordic Journal of Psychiatry-->でスタイン・ビェルム・メラーの精神療法研究班らは、うつ病治療に関するガイドラインを論文上で策定した{{Sfn|Moeller|Gbyl|Hjorthøj|Andreasen|2021|p=177}}。同ガイドラインにおいて大うつ病性障害（MDD）患者へのrTMSは、NICEとRANZCP（王立オーストラリア・ニュージーランド精神医学会）の両ガイドラインに沿って推奨されている{{Sfn|Moeller|Gbyl|Hjorthøj|Andreasen|2021|p=185}}。米国精神医学会（APA）はrTMSを、大うつ病性障害患者の治療法として挙げている一方、難治性うつ病患者の選択肢として言及してはいない{{Sfn|Moeller|Gbyl|Hjorthøj|Andreasen|2021|p=185}}。ただしAPAガイドラインの由来は2009年であり、「DTD〔難治性うつ病〕におけるrTMSの新しいエビデンスが過去10年間に現われている」と研究班らのガイドラインは述べている{{Sfn|Moeller|Gbyl|Hjorthøj|Andreasen|2021|p=185}}{{Efn|以下はガイドラインからの引用{{Sfn|Moeller|Gbyl|Hjorthøj|Andreasen|2021|p=185}}。{{Quotation|われわれのDTD〔難治性うつ病　Difficult-to-Treat Depression〕患者へのrTMS推奨は、英国国立医療技術評価機構（NICE）と王立オーストラリア・ニュージーランド精神医学会（RANZCP）の大うつ病性障害（MDD）の治療についてのガイドラインに沿っている。これに対し米国精神医学会（APA）は、rTMSをMDDの治療法として記載しているが、DTD患者への選択肢として言及してはいない。ただし、このAPAガイドラインは2009年に案内されたものである。すなわち、DTDにおけるrTMSの新しいエビデンスが過去10年間に現われている。<br><br>

（原文：Our recommendation of rTMS for patients with DTD is in line with both the National Institute for Health and Care Excellence (NICE) and the Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists (RANZCP) guidelines for the treatment of Major Depressive Disorder (MDD). In contrast, the American Psychiatric Association (APA) lists rTMS as a treatment of MDD but does not mention it as an option for patients with DTD. However, the APA guidelines were conducted in 2009; new evidence for rTMS in DTD has emerged in the past decade. {{Sfn|Moeller|Gbyl|Hjorthøj|Andreasen|2021|p=185}}）}}}}。
: NICE (2015) において、rTMSは[[安全性]]に関し大きな懸念は無く、「短期間での有効性に関する[[エビデンス (医学)|エビデンス]]は十分だが、臨床的な反応はさまざまである」とされている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2015|loc=1 Recommendations 1.1}}。rTMSの使用が検討される患者は通常、[[抗うつ薬]]が効果を示さないか不適切であるうつ病患者である{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2015|loc=3 The procedure 3.1}}。[[脳]]の特定部位を狙う際に、[[画像診断]]が使われることもある{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2015|loc=3 The procedure 3.1}}。日本うつ病学会の理事会の見解（2019）では「諸外国のうつ病ガイドラインにおいても、rTMS療法は、1剤目の抗うつ薬が有効でなかった場合の治療の選択肢の1つに位置づけられている」とされている{{Sfn|日本うつ病学会|2019}}{{Efn|APA (2010) においては、大うつ病性障害の初期治療においてのTMS使用を支持する根拠は現在不十分であるとしている{{Sfn|アメリカ精神医学会|2010|loc=B.Acute Phase}}。TMSはECTと比較したランダム化試験において、ECTより効果が低いか、あるいはECTと同等の効果であるとしている{{Sfn|アメリカ精神医学会|2010|loc=b. Transcranial magnetic stimulation}}。APAは治療抵抗性うつ病に対しては、ECTよりも支持根拠は少ないが、選択肢の一つとしてTMSを検討するとしている{{Sfn|アメリカ精神医学会|2010|loc=A Quick Reference Guide;p23}}。}}。{{関連記事|うつ病の治療#経頭蓋磁気刺激法}}
; [[光療法]]
: 強い光（太陽光あるいは人工光）を浴びる治療法。過食や過眠のあることが多い、冬型の「[[季節性情動障害|季節性うつ病]]」（高緯度地方に多い冬季にうつになるタイプ）に効果が認められている。最新ではない2002年のガイドラインでは、冬季うつ病の第一義的な治療法は光療法とされ、抗うつ薬よりも有効性が高いことが確認されている<ref>{{Cite journal |和書|author=市村麻衣、山田尚登|date=2002-10|title=高照度光療法|journal=精神科治療学|volume=27|issue=増刊号:気分障害の治療ガイドライン|pages=}}</ref><ref>{{Cite book|和書|author=睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会|chapter=4.高照度光療法|title=睡眠障害の対応と治療ガイドライン|publisher=じほう|date=2002|isbn=4-8407-3015-6|pages=}}</ref>。
: また、光療法が非季節性のうつ病の治療に有効であることが実証され<ref name="うつ病の時間生物学的治療">越前屋勝「{{PDFlink|[http://portal.lighttherapy.jp/images/paper_echizenya.pdf 8.うつ病の時間生物学的治療]}}」 『睡眠医療』第2巻1号、2007年。</ref>、光療法がうつ病に効果があるかどうかは古くから検討されてきたものの、有効、無効の両方の報告があり、有効であることの決定的な証拠はなかったが、2004年と2005年のメタアナリシスによりその有効性が報告されていると、論文にて報告されている<ref name="うつ病の時間生物学的治療" />。（ガイドラインではない）
: 2012年の日本うつ病学会によるガイドラインは、季節性うつ病の場合は[[双極性障害]]の可能性を念頭に置かねばならないとしている{{Sfn|日本うつ病学会|2012}}。
; ハーブの利用
: [[ハーブ]]として利用されている[[セント・ジョーンズ・ワート]]は、ドイツをはじめいくつかの国では軽症のうつに対して従来の[[抗うつ薬]]より広く処方されている<ref name="pmid16553540">{{cite journal|title=Antidepressant use in children and adolescents in Germany|journal=J. Child Adolesc. Psychopharmacol.|volume=16|issue=1-2|pages=197–206|year=2006|pmid=16553540|doi=10.1089/cap.2006.16.197|author=Fegert JM, Kölch M, Zito JM, Glaeske G, Janhsen K}}</ref>。日本ではサプリメントとして市販されている。副作用があり、日本での治療エビデンスは希薄である{{Sfn|日本うつ病学会|2012}}。臨床研究の結果は成否さまざまで、軽症から中等症のうつに対して有効でかつ従来の抗うつ薬よりも副作用が少ないとする研究がある一方で、[[偽薬|プラセボ]]以上の効果は見られないとする研究もある。[[コクラン・コラボレーション|コクランレビュー]]による2008年の報告<ref name="pmid18843608">{{cite journal|journal=Cochrane Database Syst. Rev.|year= 2008|volume=4|pages=CD000448|title=St John's wort for major depression|author=Linde K, Berner MM, Kriston L|pmid=18843608| doi = 10.1002/14651858.CD000448.pub3}}</ref> によると、これまでのエビデンスからプラセボ群より優れた効果を示し、標準的な抗うつ薬と同等に効果があるが副作用は小さいことが示唆されるという。ただし重度の抑うつには効果が弱いとされるほか、同時に服用した他の薬の効果に干渉することがあるため注意が必要とされる<ref>{{Cite book|和書|last=シン|first=サイモン|author2=エルンスト, エツァート|authorlink=サイモン・シン|title=[[代替医療のトリック]]|year=2010|origyear=2008|publisher=[[新潮社]]|translator=[[青木薫]]|isbn=978-4-10-539305-2|pages=264-266,279-280}}</ref>。
: セント・ジョーンズ・ワートにおいても[[セロトニン症候群]]の可能性があるので、注意が必要である<ref>{{Cite report |和書 |url=https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm1003003.pdf |title=重篤副作用疾患別対応マニュアル セロトニン症候群 |date=2010-03 |publisher=厚生労働省}}</ref>。

=== 日本におけるうつ病治療の現状 ===
{{See also|日本の精神保健}}
2012年の日本うつ病学会のガイドラインには、薬を飲んで休んでいればいいというような説明では、患者側の積極的な治療への参加が放棄されることもあり、生活上の工夫やリハビリについての説明も必要であるとされる{{Sfn|日本うつ病学会|2012|pp=15-16}}。

心因が強く影響していると考えられるうつ病の場合、環境のストレスが大きい場合は調整可能かどうかを検討し、対応する<ref name="kutsu" />。

厚生労働省老人保健課の『介護予防マニュアル』の「うつ予防・支援マニュアル」には、「休んで、薬をうまく利用する」ことである<ref name="mhlw200905dpman">{{Cite report |和書 |author=「うつ予防・支援マニュアル」分担研究班 |date=2009-05 |title=うつ予防・支援マニュアル（改訂版）|url=https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html |publisher=[[厚生労働省]]老健局老人保健課 }}</ref>。

2010年の[[日本うつ病学会]]の提言では「薬物療法などの生物学的治療法と、精神療法などの心理学的治療法は車の両輪であり、両者がそろって初めて最適な治療となることは論を俟たない」と述べられている{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010}}。

2014年の[[OECD]]による日本の医療の質についてのレビューでは、日本は「専門家及び地域社会双方による精神保健医療福祉サービスにおいて、不適切な薬剤使用（行き過ぎた[[多剤大量処方|多剤投与]]）を削減し、診療報酬を通じて代替的治療法が適切に評価されるようにするために、一層の努力が必要である」と勧告されている<ref name="OECDhqjp" />。そのためOECDは日本に対し、軽中程度の患者に対しては[[心理療法]]（[[認知行動療法]]など）を中心とした治療を提供できるよう、[[根拠に基づく医療|根拠に基づいた]]治療プログラムの整備を進めるよう勧告し<ref name="OECDhqjp" />、その参考例としてイギリスの[[心理療法アクセス改善]] (IAPT) プログラムを挙げている<ref name="OECDhqjp" />。

独立行政法人[[高齢・障害・求職者雇用支援機構]]では、リワーク支援（[[職業リハビリテーション]]）を実施している。ストレスへの対処法（認知行動療法の一部）、リハビリ出勤、会社との調整など実施している<ref name=":kiko-rework-pamphlet">{{Cite web|和書|url=https://www.jeed.go.jp/disability/person/om5ru800000008j6-att/om5ru800000008my.pdf |title=職場復帰支援（リワーク支援） |website=高齢・障害・求職者雇用支援機構|publisher=独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 |accessdate=2021-11-02|format=PDF}}</ref><!--
--><ref name=":kiko-kyusyokushien-leaflet">{{Cite web|和書|url=https://www.jeed.go.jp/disability/person/om5ru800000008j6-att/om5ru800000008n4.pdf |title=うつ病などで休職しており、職場復帰をお考えの方へ（リーフレット） |website=高齢・障害・求職者雇用支援機構|publisher=独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 |accessdate=2021-11-02|format=PDF}}</ref>。

== 予後 ==
家庭内の[[感情表出]]のレベルが高い（批判的、敵意、過度の感情的巻き込まれ）と、うつ病や統合失調症や認知症などの[[精神障害|精神疾患]]を有するクライアントの[[予後]]が悪化する可能性が高まる<ref>{{Cite journal|year=2009|title=Exploring the relevance of expressed emotion to the treatment of social anxiety disorder in adolescence|url=https://www.academia.edu/210406|journal=Journal of Adolescence|volume=32|issue=6|pages=1371–1376|doi=10.1016/j.adolescence.2009.08.001|pmid=19762073}}</ref><ref>{{Cite journal|date=December 2001|title=Is expressed emotion a specific risk factor for depression or a nonspecific correlate of psychopathology?|journal=J Abnorm Child Psychol|volume=29|issue=6|pages=573–83|doi=10.1023/A:1012237411007|pmid=11761289}}</ref>。

=== 回復率 ===
大うつ病は、治療の有無に関わらず時間が解決することが多い。うつの外来患者リストの10 - 15パーセントは数か月以内に減少し、約20パーセントはもはやうつ病基準を完全には満たさない<ref>{{cite journal |author=Posternak MA, Miller I |year=2001|title=Untreated short-term course of major depression: A meta-analysis of outcomes from studies using wait-list control groups |journal=Journal of Affective Disorders |volume=66 |issue=2-3 |pages=139-46 |pmid=11578666 |doi=10.1016/S0165-0327(00)00304-9}}</ref>。エピソードの中央値は23週と推定されており、最初の3ヶ月間で回復する率が最も高い<ref>{{cite journal |author=Posternak MA, Solomon DA, Leon AC |year=2006 |title=The naturalistic course of unipolar major depression in the absence of somatic therapy |journal=Journal of Nervous and Mental Disease |volume=194 |issue=5 |pages=324-29 |pmid=16699380 |doi=10.1097/01.nmd.0000217820.33841.53}}</ref>。

日本での研究では、6か月程度の治療で回復する症例が、50パーセント程度であるとされ<ref>疫学・保健医療統計学 獨協医科大学名誉教授 中江公裕</ref>、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復する。しかし、一方では20パーセント程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではない。また、一旦回復した後にも、再発しない症例がある一方、うつ病を繰り返す症例もある。

非投薬時の[[予後]]は良い<ref name="RW2009CH8" />。[[抗うつ薬]]は長期的な予後を悪化（再発率増大、慢性化）させるが、[[薬物療法]]を前提とし、投薬時の予後をうつ病の予後として説明することがある<ref name="RW2009CH8">{{harvnb|Robert Whitaker|2009|loc=ch. 8}} （翻訳書は {{harvnb|ロバート・ウィタカー|2010|loc=ch. 8}}）</ref>。
{{See also|抗うつ薬#長期間の使用}}

=== 残遺症状 ===
ある程度、緩和した後でも次のような症状が残るケースが多く、これらのケースが放置されると再発率が高くなる<ref name=np>[https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/403964/120900027/ 第39回　うつ病の足を引っ張る睡眠問題](日経BP)</ref>。（初発のうつ病患者128名を対象にした残遺症状の調査）
* [[睡眠障害]]（不眠、過眠、リズム異常）：65.4％
* 仕事や活動上の問題（意欲・集中力・記憶の低下、思考の空回り）：43.4％
* 一般身体症状（頭痛、体力低下、[[倦怠感]]）：39.4％
* 抑うつ気分：34.6％
他、食欲低下、精神的・肉体的不安など

一度発症してしまうと、これらの症状と長く付き合うことになる。これらの残遺症状がある限り生活の質がなかなか高まらず復職や復学が出来ずに療養生活を余儀なくされることが少なくない<ref name=np/>。

=== 再発率 ===
研究では、初めて大うつ病を経験した人の80%が一生で1回以上の再発を経験し<ref name="pmid17144786">{{cite journal| author=Fava GA, Park SK, Sonino N |title=Treatment of recurrent depression. |journal=Expert Review of Neurotherapeutics |volume=6 |issue=11 |pages=1735–1740 |year=2006 |pmid=17144786 |doi=10.1586/14737175.6.11.1735}}</ref>、その平均は4回であった<ref name="pmid17555914">{{cite journal| author=Limosin F, Mekaoui L, Hautecouverture S |title=Stratégies thérapeutiques prophylactiques dans la dépression unipolaire [Prophylactic treatment for recurrent major depression] |journal=La Presse Médicale |volume=36 |issue=11-C2 |pages=1627–1633 |year=2007 |pmid=17555914 |doi=10.1016/j.lpm.2007.03.032}}</ref>。他の一般的な調査では、約半数が治療を行ったかどうかに関わらず回復しているが、残りの半数は最低1回は再発し、およそ15%は慢性的な再発を繰り返す<ref name="pmid18458203">{{cite journal |author=Eaton WW, Shao H, Nestadt G |title=Population-based study of first onset and chronicity in major depressive disorder |journal=Archives of General Psychiatry |volume=65 |issue=5 |pages=513–20 |year=2008 |pmid=18458203 |doi=10.1001/archpsyc.65.5.513 |pmc=2761826}}</ref>。

再発率は、うつを繰り返すたびに高くなる傾向にあり、初発の場合の次回再発率は50パーセント、2回目の場合75パーセント、3回目の場合は90パーセントにものぼる{{Sfn|一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会|2008}}。

== 疫学・統計 ==
[[File:Unipolar depressive disorders world map - DALY - WHO2004.svg|thumb|250px|2004年の100,000人あたりの単極性うつ病の[[障害調整生命年]] (DALY)<ref>{{Cite report|df=ja|title=The scope and concerns of public health|work=Oxford University Press: OUP.COM|date=2009-03-05}}{{accessdate|2010-12-03}}</ref>{{legend|#b3b3b3|データなし}}
{{legend|#ffff65|700未満}}
{{legend|#fff200|700から775}}
{{legend|#ffdc00|775から850}}
{{legend|#ffc600|850から925}}
{{legend|#ffb000|925から1,000}}
{{legend|#ff9a00|1,000から1,075}}
{{legend|#ff8400|1,075から1,150}}
{{legend|#ff6e00|1,150から1,225}}
{{legend|#ff5800|1,225から1,300}}
{{legend|#ff4200|1,300から1,375}}
{{legend|#ff2c00|1,375から1,450}}
{{legend|#cb0000|1,450を超える}}]]
{{See also|メンタルヘルス#各国の精神保健}}
{{For2|各国におけるうつ病の[[障害調整生命年]](DALY)|[[Major Depressive DALY Rates]]}}
WHOは2004年、単極性うつ病は世界の[[障害調整生命年]](DALY)の第3位（4.3%）を占め、これはさらに2030年にはDALYの第1位（6.2%）に成長すると推測している<ref name="whodaly">{{Cite report |df=ja |publisher=世界保健機関 |title=The global burden of disease: 2004 update |url=http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/2004_report_update/en/ |isbn=9241563710 |page=43,51 }}</ref>

12カ月[[有病率]]（過去12カ月に経験した者の割合）は、世界では1 - 8%、オーストラリアでは4.1%（男性3.1%、女性5.1%、2007年）<ref name="AuHealth">{{Cite report |df=ja |title=The mental health of Australians 2 |publisher=オーストラリア保健省 |date=2007 |at=Chapt.4.1 |url=http://www.health.gov.au/internet/publications/publishing.nsf/Content/mental-pubs-m-mhaust2-toc~mental-pubs-m-mhaust2-4~mental-pubs-m-mhaust2-4-1 }}</ref>、日本では1 - 2%（厚生労働省）<ref name="kutsu">[https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_depressive.html うつ病 厚生労働省]</ref>、3.1%（水野らによる）<ref>{{Cite journal|和書|author=水野創一 |author2=宮岡剛 |author3=稲垣卓司 |author4=堀口淳 |title=Prevalence of restless legs syndrome in non-institutionalized Japanese elderly |date=2005-08-01 |journal=Psychiatry and clinical neurosciences |volume=59 |number=4 |naid=10018029436 |pages=461-465 |ref=harv}}</ref> とされている。

また生涯有病率は、世界では3-16%（川上による）<ref name="kutsu" />、日本では6.7%（川上{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010|p=157}}<ref>{{Cite journal|和書|author=川上憲人 |title=世界のうつ病,日本のうつ病--疫学研究の現在 (第5土曜特集 うつ病のすべて) -- (疫学) |date=2006-12-30 |publisher=医歯薬出版 |journal=医学のあゆみ |volume=219 |number=13 |naid=40015165979 |pages=925-929 |ref=harv}}</ref>）とされている。

これらの研究結果から、ある時点ではだいたい50人から35人に1人、生涯の間には15人から7人に1人がうつ病にかかると考えられている。

うつ病による経済損失は、米国では5兆円（生産性低下53%、医療費28%、自殺17%）{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010}}、[[日本の精神保健|日本]]では110億米ドル（うち69.1億米ドルは職場でのコスト）{{Sfn|OECD|2014|loc=Country press releases - Japan}}とされている。

=== 健常者との差異 ===
日本の高齢者を対象とした調査ではうつ状態の患者は健常者とは身体的特徴や栄養摂取などに違いが見られる<ref>{{cite journal|title=Relationship between Vitamin Intake and Depressive Symptoms in Elderly Japanese Individuals: Differences with Gender and Body Mass Index|journal=Nutrients|volume=9|issue=12|year=2017|pmid=29207502|pmc=5748769|doi=10.3390/nu9121319}}</ref>。

=== 性差 ===
男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいとされている<ref>[[厚生労働省]] [https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/dl/s0126-5a.doc うつ病対策推進方策マニュアル(doc)]</ref>。

[[閉経]]や子どもの自立による喪失体験、[[月経前症候群|PMS]]によるストレス、男性より寿命が長いことによる配偶者との死別などによる部分も少なくはないと思われ、社会生活によるストレスが多い男性にも普通に見られる。

女性の発症率の高さについては、妊娠・出産期・閉経期・月経前（PMS、[[PMDD]]、[[セロトニン]]の減少）の女性ホルモン、[[セロトニン]]の激減がマタニティブルーや[[産後うつ]]に関与している可能性がある。産後うつは乳児の育児時の[[睡眠]]不足もある<ref>[https://www.jcptd.jp/ 女性のうつ病 JCPTD]</ref>。日本ではうつ病が増加傾向にあるが、女性の高齢化による自然増もある{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010}}。

=== 患者数とその推移 ===
日本の患者数の少なさについては、受診率の低さが原因としてあげられる{{Sfn|一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会|2008}}<ref>うつ病、不安障害..「経験」25%、受診は3割未満 川上 熊本日日新聞2008年3月8日付朝刊</ref>。

日本の患者数の年度ごとの増加傾向{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010}}には、高齢化やうつ病についての啓発活動による受診率の増加が原因としてあげられる<ref>[https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/ippan/qa.html うつ病の患者さんは増加しているのでしょうか？ 日本うつ病学会]</ref>。

うつ病の患者数が20世紀になって増加していることについて、SSRIの導入後6年間で2倍に増えるという経験則があり、製薬会社のキャンペーンが影響している、とした説もある<ref>なぜうつ病の人が増えたのか 冨高辰一郎 ISBN 4-7790-0453-5</ref>。「副作用の少ない」抗うつ薬の普及に伴い、うつ病と診断される患者数が増加している側面がある{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010}}。

=== 子どものうつ病 ===
{{Main|:en:Depression in childhood and adolescence}}
{{See also|児童精神医学|メンタルヘルス#児童・青年}}
子どもでもうつになる場合があり、日本の子どもの大うつ病の時点有病率は児童期で0.1-2.6%、青年期で0.7-4.7%とされている<ref>佐藤寛ほか『一般中学生におけるうつ病の有病率』 精神医学 第50巻、[[2008年]]</ref>。カナダの12-19歳人口においては、おおよそ男性で5%、女性で12%が大うつ病エピソードを経験し、その経済的コストは3.2億加ドルとされている<ref>{{Cite web|title=Fast Facts about Mental Illness |publisher=Canadian Mental Health Association |url=http://www.cmha.ca/media/fast-facts-about-mental-illness/ |accessdate=2015-05-16}}</ref>。

=== 自殺企図者とうつ病の統計 ===
{{See also|自殺#メンタルヘルス問題|日本における自殺}}
WHOの自殺予防マニュアルによれば、自殺既遂者の90%が精神障害を持ち、また60%がその際に抑うつ状態であったと推定している{{Sfn|世界保健機関|2006|p=10}}。日本においては、重大な自殺を図った者の75%に精神障害があり、その46%はうつ病である{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010}}。

=== 喫煙との関連 ===
{{Main|ニコチン依存症}}
製薬会社の[[ファイザー]]が[[2009年]]6月に10年以上の喫煙歴がある40 - 90歳の男女計600人を対象にインターネットで行った調査によると、ニコチン依存症の人の16.8パーセントにはうつ病やうつ状態の疑いがあり、ニコチン依存症でない人でのその割合は6.3パーセントのため、ニコチン依存症の人ほど、うつ病・うつ状態の可能性が高いと報告している<ref>製薬会社ファイザーの調査　2009年7月27日広報</ref>。また、典型的な抗うつ薬である[[トフラニール|イミプラミン]]について、喫煙者は効果が半減するとの指摘がなされている<ref>ビタミンショック－暴かれた害と効用－, ハンス・ウルリッヒ グリム/著 イェルク・ツィットラウ/著 佐々木建/監訳 花房恵子/訳</ref>。

ただし、喫煙者であって重症のうつ病の間の禁煙は医師との相談が必要である<ref name="srf">{{Cite journal|和書|journal=喫煙科学研究の歩み－1996年から2005年－ |date=2007 |url=http://www.srf.or.jp/20nen/pdfs/20nen-data48.pdf |title=喫煙と精神機能・行動 ニコチンとうつ病－その光と陰－ |author= 仙波純一 |publisher=公益財団法人喫煙科学研究財団}}</ref><ref>[http://sugu-kinen.jp/patient/befoattent.html チャンピックスを服用するにあたっての注意]</ref>。ニコチン離脱時にうつ病が再燃しやすいのである<ref name="srf" />。

=== うつ病によりリスクの高まる身体疾患 ===
* 2型糖尿病{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010|p=157}}
* 糖尿病患者の死亡率{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010|p=157}}
* 動脈硬化{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010|p=157}}
* 冠動脈虚血性疾患{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010|p=157}}
* 心筋梗塞発症後1年間の心血管死，心筋梗塞再発など{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010|p=157}}
* 脳梗塞{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010|p=157}}
* 乳がん患者のがん死亡率{{Sfn|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010|p=157}}

== 診断検査の研究事例 ==
<!--学会などの合意がないもの、特にニュース速報は、大言壮語とならないように客観的に記述してください-->
研究レベルでは、うつ病などの精神障害を客観的に診断できる指標を探索するために、健常者および患者の血液を用いて、[[プロテオミクス]]あるいは[[メタボロミクス]]が積極的に行なわれると考えられる。社会的に普及するかどうかは医療保険適応か先進医療かなどの費用の程度が大きな問題である。100%やそれに近い精度では診断できないため、慎重な運用が求められる<ref>日野なおみ「うつ病の血液診断」の光と陰」（日経ビジネス、2011年9月16日）</ref>。

=== 光トポグラフィー検査 ===
[[光トポグラフィー]]検査 (NIRS) により、[[抑うつ]]症状の鑑別診断の補助に用いる<ref name="医学のあゆみ2009" />。近赤外光により、大脳皮質の血液量変化を推定することにより、約7 - 8割の精度で、その抑うつ症状が、うつ病のものか、双極性障害あるいは統合失調症のものかを判別するため、鑑別診断の補助検査として用いることができる<ref name="医学のあゆみ2009">{{Cite journal |和書|author=滝沢龍、福田正人|date=2009-12-05|title=精神疾患の臨床検査としての光トポグラフィー検査 (NIRS) —先進医療「うつ症状の鑑別診断補助」|url=http://www.hitachi-medical.co.jp/tech/medix/pdf/vol53/P30-35.pdf|format=pdf|journal=医学のあゆみ|volume=231|issue=10|pages=30-35}}</ref>。2014年4月には、診療報酬として「抑うつ症状の鑑別診断の補助に使用するもの」が適用された。

=== MRI ===
国立精神・神経医療研究センター神経研究所は、[[核磁気共鳴画像法]] (MRI) によって、50人の女性のうつ病と統合失調症患者とを約8割の精度で鑑別したことを報告した<ref>{{Cite press release|和書|title=MRI画像を用いた統合失調症とうつ病の鑑別方法を開発|publisher=国立精神・神経医療研究センター|date=2013-07-16|url=http://www.ncnp.go.jp/press/press_release130716.html|accessdate=2015-09-29}} 論文は{{doi|10.1016/j.jpsychires.2013.06.010}}</ref>。

=== 脳画像 ===
アメリカの医学博士の[[ダニエル・エイメン]]によれば、脳画像の[[単一光子放射断層撮影]] (SPECT) により、7タイプに分類でき、それぞれのタイプによる治療法、投薬すべき薬、緩和に効果のあるサプリメントが異なるとしており、[[精神障害]]は脳の疾患であり、脳画像を用いて診断を行うことでより正確な治療が行える<ref>ダニエル・G. エイメン『脳画像でみる「うつ」と「不安」の仕組み』2004年。</ref>。<!--確立された治療法また分類法ではないので詳述を避けました-->

== 仮面うつ病 ==
{{Main|仮面うつ病}}

== 新型うつ病（現代型うつ病） ==
{{Main|新型うつ病}}
[[新型うつ病]]、あるいは、現代型うつ病とは、従前からの典型的なうつ病とは異なる特徴を持つものの総称であり、正式な用語でもないが意味が独り歩きし、専門家の間でも一致した見解が得られていない<ref>[https://kokoro.mhlw.go.jp/glossarycat/mentalhealth/#mentalhealth-ka/　用語解説]『こころの耳』 厚生労働省</ref><ref>[https://www.nhk.or.jp/special/detail/20120429.html 職場を襲う "新型うつ"]、[[NHKスペシャル]]、2012年4月29日放送</ref>。従来のメランコリー親和型の性格標識を持たない患者を指すことが多い<ref name="gakkai_q4">{{PDFlink|[https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/ippan/qa.htmlQ.4 新型うつ病が増えていると聞きます。新型うつ病とはどのようなものでしょうか？]}} 日本うつ病学会</ref>。

日本うつ病学会は、新型うつ病は専門用語ではないとし、現代型うつ病、ディスチミア親和型などの他に提唱されている名称に言及している<ref name="gakkai_q4" />。また[[非定型うつ病]]は正式な医学用語であるが、医学用語としての本来の意味と離れ、日本の[[マスメディア]]などによってここでいう新型うつ病と同義に用いられている<ref name="gakkai_q4" />。

こうして様々に類型される、考察や仮説の段階にある若年者の軽症の抑うつ状態に対する研究から、マスメディアが一側面だけを切り取り、新型あるいは現代型うつ病などと呼ばれているが、医学的に明確な根拠なく広まりを見せ混乱が生じている{{Sfn|日本うつ病学会|2012|pp=3-4}}。そのため日本うつ病学会による診療ガイドラインにおいても、深い考察も治療の証拠もないためとりあげないとしている{{Sfn|日本うつ病学会|2012|p=3}}。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist|30em}}
=== 出典 ===
{{Reflist|30em}}

== 参考文献 ==
=== 臨床ガイドライン ===
* {{Cite report |df=ja |publisher=世界保健機関 |title=mhGAP Intervention Guide for mental, neurological and substance use disorders in non-specialized health settings |date=2010 |isbn=978-92-4-154806-9 |url=http://www.who.int/mental_health/publications/mhGAP_intervention_guide/en/ |ref={{SfnRef|世界保健機関|2010}}|url-status=dead|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220122192003/http://www.who.int/mental_health/publications/mhGAP_intervention_guide/en/|archivedate=2022-01-22}}
* {{Cite journal2 |df=ja |journal=Psychiatr Ann | author=アメリカ精神医学会 |authorlink=アメリカ精神医学会 |title=APA Practice Guideline Provides Recommendations for Assessing and Treating Patients With Suicidal Behaviors |volume=34 |issue=5 |date=April 2004 |ref={{SfnRef|アメリカ精神医学会|2004}} }}
* {{cite book |title=Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fourth Edition, Text Revision: DSM-IV-TR |author=アメリカ精神医学会 |publisher=American Psychiatric Publishing, Inc. |location=Washington, DC |year=2000|isbn=0-89042-025-4 |ref={{SfnRef|アメリカ精神医学会|2000a}} }}
* {{Cite report |df=ja |date=October 2010 |author=アメリカ精神医学会 |title=Practice Guideline for the Treatment of Patients With Major Depressive Disorder |edition=3 |doi=10.1176/appi.books.9780890423387.654001 |ref={{SfnRef|アメリカ精神医学会|2010}} }}
* {{Citation|和書|author=アメリカ精神医学会 |others=[[日本精神神経学会]]日本語版用語監修・高橋三郎・[[大野裕]]監訳・染矢俊幸・神庭重信・尾崎紀夫・三村將・[[村井俊哉]]訳|date=2014-06-30|origdate=2013 |title=DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4-260-01907-1|ref={{SfnRef|アメリカ精神医学会|2014}} }}
* {{Cite report |df=ja |author=米国国立メンタルヘルス機構 |authorlink=:en:National Institute of Mental Health |title=Depression |url=http://www.nimh.nih.gov/health/publications/depression/complete-index.shtml |year=2011 |ref={{SfnRef|米国国立メンタルヘルス機構|2011}} }}
* {{Cite report |df=ja |author=英国国立医療技術評価機構|authorlink=英国国立医療技術評価機構 |date=August 2009 |title=CG91: Depression with a chronic physical health problem |url=http://www.nice.org.uk/CG91 |ref={{SfnRef|英国国立医療技術評価機構|2009}} }} - 慢性的身体症状を伴う成人の抑うつ
* {{Cite report |df=ja |author=英国国立医療技術評価機構 |date=August 2009 |title=CG90: Depression in adults |url=http://www.nice.org.uk/CG90 |ref={{SfnRef|英国国立医療技術評価機構|2009b}} }}
* {{cite report |df=ja |author=英国国立医療技術評価機構 |title=CG28: Depression in children and young people |location=London |year=2005 |url=http://www.nice.org.uk/CG28 |ref={{SfnRef|英国国立医療技術評価機構|2005}} }} - 子供と青年の抑うつ
* {{Cite report |df=ja |author=英国国立医療技術評価機構 |date=2015-12-16 |title=IPG542: Repetitive transcranial magnetic stimulation for depression |url=https://www.nice.org.uk/guidance/ipg542 |ref={{SfnRef|英国国立医療技術評価機構|2015}} }} - うつ病への反復経頭蓋磁気刺激療法
* {{Cite report　|和書 |title=日本うつ病学会治療ガイドライン |author=日本うつ病学会 |authorlink=日本うつ病学会 |author2=気分障害のガイドライン作成委員会 |edition=2012 Ver.1|date=2012-07-26|ref={{SfnRef|日本うつ病学会|2012}}}}

=== 学会声明 ===
* {{Cite journal ja |author=日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|title=うつ病対策の総合的提言|journal=日本生物学的精神医学会誌 |volume=21 |issue=3 |date=2010 |publisher=日本生物学的医学会 |ncid=AA12468060 |pages=155-182 |ref={{SfnRef|日本生物学的精神医学会、日本うつ病学会、日本心身医学会|2010}} }}
* {{Cite report ja |author=日本うつ病学会 |authorlink=日本うつ病学会 |date=February 2019 |title=理事会見解：わが国の保険医療におけるrTMS療法の適切な導入に向けて |url=https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/gakkai/teigen/data/rijikenkai_rTMS_20190201.pdf |ref={{SfnRef|日本うつ病学会|2019}}}}
* {{Cite report |df=ja |year=2022 |author=アメリカ精神医学会 |title=Practice Guidelines |url=https://psychiatryonline.org/guidelines#:~:text=APA%20Practice%20Guidelines%20Legacy%20Collection%20(PDF) |ref={{SfnRef|アメリカ精神医学会|2022}} }}

=== 概況報告書（ファクトシート） ===
* {{Cite report |df=ja |author=世界保健機関 |title=Fact sheets / Detail / Depression |date=2021-09-13 |url=https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/depression |publisher=世界保健機関 |ref={{SfnRef|世界保健機関|2021}} }}

=== 国際機関 ===
* {{Cite report |df=ja |author= Mental and Behavioural Disorders Department of Mental Health |title=Preventing suicide : a resource for counsellors |date=2006| publisher =[[世界保健機関]] |url=http://www.who.int/mental_health/resources/preventingsuicide/en/ |ref={{Sfnref|世界保健機関|2006}} }}
* {{Cite |title=Thinking Healthy - A manual for psychological management of perinatal depression |publisher=世界保健機関 |url=http://www.who.int/mental_health/maternal-child/thinking_healthy/en/ |date=2015 |id=WHO/MSD/MER/15.1 |ref={{SfnRef|世界保健機関|2015}} }} - 産後うつに対しての心理療法マニュアル
* {{Cite report |df=ja |title=Making Mental Health Count - The Social and Economic Costs of Neglecting Mental Health Care |publisher=OECD |date=July 2014 |doi=10.1787/9789264208445-en |ref={{SfnRef|OECD|2014}} }}

=== 医学論文 ===
* {{Cite journal |和書
 |author     = 近藤一博
 |authorlink = 近藤一博
 |title      = 心身相関の源流にある「疲労」を科学する（2013年，第54回日本心身医学会総会ならびに学術講演会〔横浜〕）
 |journal    = 心身医学
 |volume     = 54
 |issue      = 9
 |publisher  = 一般社団法人 日本心身医学会
 |date       = 2014
 |pages      = 828-833
 |doi        = 10.15064/jjpm.54.9_828
 |ref        = harv}}
* Belmaker RH, Agam G. "Major depressive disorder." ''[[ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン|NEJM]].'' 2008 Jan 3;358(1):55-68. {{PMID|18172175}}
* {{Cite journal |
 |last1     = de Labarthe
 |first1    = Adrienne
 |last2     = Gauthert-Dejean
 |first2    = Agnes
 |last3     = Bossi
 |first3    = Philippe
 |last4     = Vernant
 |first4    = Jean-Paul
 |last5     = Dhedin
 |first5    = Nathalie
 |title     = HHV-6 Variant A Meningoencephalitis after Allogeneic Hematopoietic Stem Cell Transplantation Diagnosed by Quantitative Real-Time Polymerase Chain Reaction
 |journal   = Transplantation
 |volume    = 80
 |issue     = 4
 |publisher = [[ヴォルタース・クルーワー|Wolters Kluwer]] Health, Inc.
 |date      = 2005-08-27
 |pages     = 539
 |doi       = 10.1097/01.tp.0000168339.08246.73
 |ref       = harv}}
* {{Cite journal |
 |last1     = Ishii
 |first1    = Azusa
 |last2     = Kobayashi
 |first2    = Nobuyuki
 |last3     = Kondo
 |first3    = Kazuhiro (Lead Contact)
 |last4     = Oka
 |first4    = Naomi
 |last5     = Shigeta
 |first5    = Masahiro
 |last6     = Shimada
 |first6    = Kazuya
 |last7     = Takahashi
 |first7    = Mayumi
 |last8     = Tatebayashi
 |first8    = Yoshitaka
 |last9     = Yanagisawa
 |first9    = Hiroyuki
 |title     = Human Herpesvirus 6B Greatly Increases Risk of Depression by Activating Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Axis during Latent Phase of Infection
 |journal   = iScience
 |volume    = 23
 |issue     = 6
 |publisher = [[Cell Press]]
 |date      = 2020-06-26
 |pages     = 1-10 (1-10, 1-25)
 |doi       = 10.1016/j.isci.2020.101187
 |ref       = harv}}
* {{Cite journal |
 |last1 = Moeller
 |first1 = Stine Bjerrum
 |last2 = Gbyl
 |first2 = Krzysztof
 |last3 = Hjorthøj
 |first3 = Carsten
 |last4 = Andreasen
 |first4 = Maike
 |last5 = Austin
 |first5 = Stephen F. 
 |last6 = Buchholtz
 |first6 = Poul Erik
 |last7 = Fønss
 |first7 = Line
 |last8 = Hjerrild
 |first8 = Simon
 |last9 = Hogervorst
 |first9 = Lise
 |last10 = Jørgensen
 |first10 = Martin Balslev
 |last11 = Ladegaard
 |first11 = Nicolai
 |last12 = Martiny
 |first12 = Klaus
 |last13 = Meile
 |first13 = Jonas
 |last14 = Packness
 |first14 = Aake
 |last15 = Sigaard
 |first15 = Karen Rodriguez
 |last16 = Straarup
 |first16 = Krista
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 |first17 = Sune P. V. 
 |last18 = Soerensen
 |first18 = Claus Havregaard
 |last19 = Welcher
 |first19 = Birgitte 
 |last20 = Videbech
 |first20 = Poul
 |title = Treatment of Difficult-to-Treat Depression: Clinical Guideline for Selected Interventions
 |journal = Nordic Journal of Psychiatry
 |volume = 76
 |issue = 3
 |publisher = [[テイラーアンドフランシス|Taylor & Francis]]
 |date = 2021-08-28
 |pages =  177-188
 |doi = 10.1080/08039488.2021.1952303
 |quote = われわれはデンマークにおいて、DTD〔難治性うつ病〕に対し確立されていない6つの治療介入を扱う、エビデンスに基づくガイドラインを策定した。（原文：We formulated an evidence-based guideline concerning six interventions not well-established for DTD in Denmark. (p. 177)）
 |ref = harv}}

=== 医学書 ===
* {{cite book|author=Sadock, Virginia A.; Sadock, Benjamin J.; Kaplan, Harold I. |title=Kaplan & Sadock's synopsis of psychiatry: behavioral sciences/clinical psychiatry |publisher=Lippincott Williams & Wilkins |location=Philadelphia |year=2003 |isbn= 0-7817-3183-6| ref={{Sfnref|Sadock|2002}} }}
* {{cite book |author=Hadzi-Pavlovic, Dusan; Parker, Gordon |title=Melancholia: a disorder of movement and mood: a phenomenological and neurobiological review |publisher=Cambridge University Press |location=Cambridge, UK |year=1996 |isbn=0-521-47275-X|ref={{Sfnref|Parker|1996}} }}
* {{Cite book|和書|author=アレン・フランセス|authorlink=アレン・フランセス|translator=[[大野裕]]、中川敦夫、柳沢圭子|title=精神疾患診断のエッセンス―DSM-5の上手な使い方|publisher=金剛出版|date=2014-03|isbn=978-4-7724-1352-7|ref=harv}}
* 志水彰ほか『精神医学への招待』改訂2版, 南山堂、[[2005年]], ISBN 4-525-38352-6
* {{Cite book |和書 |author=村上靖彦、永田俊彦、市橋秀夫、中安信夫 |year=2005 |month=4 |title=座談精神科臨床の考え方―危機を乗り越えるべく |publisher=メディカルレビュー社 |isbn=978-4-89600-826-5 |ref=村上靖彦、永田俊彦、市橋秀夫、中安信夫 (2005)}}
* {{Cite |和書|editor=神庭重信 |title=気分障害の診療学 - 世紀の精神科治療（新装版）第2巻 |publisher=中山書店 |date=2008 |isbn= 978-4-521-73049-3 |ref=harv}}
* {{Citation|author=Robert Whitaker|date=January 1, 2009|year=2009|title=[[:en:Anatomy of an Epidemic|Anatomy of an Epidemic: Magic Bullets, Psychiatric Drugs, and the Astonishing Rise of Mental Illness in America]]|publisher=[[:en:Crown Publishing Group|Crown Publishing Group]]|place=New York|asin=B004RU7U5C}}.（翻訳書は {{Citation|和書|author=ロバート・ウィタカー|others=小野善郎監訳、門脇陽子・森田由美訳|date=2010-9-19|title=心の病の「流行」と精神科治療薬の真実|publisher=福村出版|isbn=978-4-571-50009-1}}）
* {{Citation|author=Irving Kirsch|date=October 19, 2009|year=2009|title=The Emperor's New Drugs: Exploding the Antidepressant Myth|publisher=The Bodley Head|isbn=978-1-84792-083-6}}.（翻訳書は {{Citation|和書|author=[[アービング・カーシュ]]|others=石黒千秋訳|date=2010-1-25|title=抗うつ薬は本当に効くのか|publisher=エクスナレッジ|isbn=978-4-7678-0954-0}}）
* {{Cite book|和書|title=いやな気分よ、さようなら : 自分で学ぶ「抑うつ」克服法 |author=デビッド・D・バーンズ |publisher=星和書店 |date=2004-04 |edition=2 |isbn=978-4-7911-0206-8|ref=harv}}

=== 一般書 ===
* {{Cite book |和書 |author=笠原嘉 |year=1988 |month=05 |title=退却神経症 —無気力・無関心・無快楽の克服|series=講談社現代新書 |publisher=講談社 |isbn=978-4-06-148901-1 |ref=笠原嘉 (1988) }}
* {{Citation|author=[[:en:Ethan Watters|Ethan Watters]]|date=January, 2010|year=2010|title=Crazy Like Us: The Globalization of the American Psyche|publisher=Free Press|isbn=978-1-4165-8708-8}}.（翻訳書は {{Citation|和書|author=イーサン・ウォッターズ|others=阿部宏美訳|date=2013-07|year=2013|title=クレイジー・ライク・アメリカ: 心の病はいかに輸出されたか|publisher=紀伊国屋書店|isbn=978-4-314-01103-7}}）

=== その他の医学的資料 ===
* [[日本医学会]]：[http://jams.med.or.jp/symposium/129.html 第129回日本医学会シンポジウム記録集「うつ病」]
* {{Cite report |和書 |last=一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会 |title=うつ病診療の要点-10 |url=http://www.jcptd.jp/medical/point_10.pdf |year=2008 |ref=harv}}
* {{Cite report |和書 |author=「うつ予防・支援マニュアル」分担研究班 |date=2009-05 |chapter=第8章 うつ予防・支援マニュアル|title=介護予防マニュアル（改訂版）|url=https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html |publisher=[[厚生労働省]]老健局老人保健課 |ref={{Sfnref|厚生労働省|2009}} }}<!--診療ガイドラインではない-->
* {{Cite web|和書
|last       = 近藤
|first      = 一博
|year       = 2021
|url        = https://jikeivirus.jp/wp-content/uploads/2020/06/2b5442c6724af0b997f15463558a52c9.pdf
|title      = うつ病の原因遺伝子の発見 －ヒトヘルペスウイルス 6(HHV-6)の潜伏感染はストレス応答を亢進させることで、うつ病のリスクを著しく上昇させる－
|publisher  = [[東京慈恵会医科大学]]・ウイルス学講座
|accessdate = 2021-10-09
|ref        = harv
}}

== 関連項目 ==
{{Wiktionary|鬱病}}
* [[精神疾患]]&#xFF0F;精神障害{{Ndash}}[[心身症]]
** 脳神経疾患{{Ndash}}[[ウイルス性脳炎]]
* [[メンタルヘルス]]&#xFF0F;精神衛生
** [[精神医学]]{{Ndash}}[[心身医学]]&#xFF0F;心療内科学{{Ndash}}[http://184.73.219.23/shinkei/index.htm 神経精神医学]
* [[心理療法の一覧]]
* [[精神保健及び精神障害者福祉に関する法律|精神保健福祉法]]
* [[精神病院の用語の整理等のための関係法律の一部を改正する法律|精神病院の用語整理法]]
* [[非自発入院]]{{Ndash}}[[措置入院]]{{Ndash}}[[緊急措置入院]]{{Ndash}}[[医療保護入院]]{{Ndash}}[[応急入院]]
* [[任意入院]]
* [[うつ病を患った人物の一覧]]
* [[気分障害]]
** [[双極性障害]]&#xFF0F;躁うつ病
** [[死にたい]]
** [[希死念慮]]
* [[退却神経症]]
* [[メランコリー]]
* [[セロトニントランスポーター遺伝子]]
* [[ストレス脆弱性モデル]]
* {{ill2|The Lowdown|en|The Lowdown}} - ニュージーランド保健省が2007年12月3日に開設したうつ病患者へのサポート情報を周知するためのサイト。

== 外部リンク ==
* [https://www.who.int/health-topics/depression Depression] - 世界保健機関 {{en icon}}
* [https://www.nimh.nih.gov/health/publications/depression Depression] - アメリカ国立精神衛生研究所 {{en icon}}
* [https://www.nhs.uk/mental-health/conditions/depression-in-adults/ Depression in adults] - イギリス国民保健サービス {{en icon}}
* [https://www.nice.org.uk/guidance/conditions-and-diseases/mental-health-behavioural-and-neurodevelopmental-conditions/depression Depression] - NICE Pathways {{en icon}}
* [https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL うつ病] - 国立精神・神経医療研究センター
* [https://kokoro.mhlw.go.jp/depression/ うつ病に関してまとめたページ] - 厚生労働省
* {{脳科学辞典|記事名=うつ病}}
* [https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/ 日本うつ病学会]
* [https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/10-心の健康問題/気分障害/うつ病 うつ病] - [[MSDマニュアル]]
* {{Kotobank}}
* [https://seishinhoken.jp/ 公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会]
* [https://www.comhbo.net/ NPO法人 地域精神保健福祉機構]
* [https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20240930-OYTET50006/ 「うつ病になったことがある人とない人　食生活はどう違う？」（読売新聞、2024年10月14日）]

{{精神と行動の障害}}
{{Normdaten}}

{{DEFAULTSORT:うつひよう}}
[[Category:脳神経疾患]]
[[Category:気分障害]]
[[Category:神経症性・ストレス関連及び身体表現性障害]]
[[Category:感染症]]
[[Category:ウイルス感染症]]
[[Category:心身医学]]
[[Category:神経科学]]
[[Category:精神医学的診断]]