黒孩子
黒孩子(黑孩子, 拼音: , ヘイハイツ、ヘイハイズ)または黒戸(黑户, 拼音: , ヘイフー)(英: Black children, ブラックチルドレン)とは、中華人民共和国において、一人っ子政策に反して生まれたために戸籍を持つことができない子供のことである[1]。俗称として闇っ子(やみっこ)という表現があり、一部報道ではこの表現が用いられることもある[2]。
概要
編集この言葉における黒は「闇」という意味で、これは政府の視点による言葉である[3]。その数は数千万から数億人と言われており、実数ははっきりしていない。黒孩子は、一人っ子政策開始直後から認識されており、1982年の人口調査で既に全10億の人口中475万人(人口比0.47%)が把握されていた。2010年に中国国家統計局が行った人口調査では、戸籍を持たない人の数が総人口のおよそ1%にあたる約1300万人に及び、その大半が黒孩子だとみられている[4][5]。黒孩子は戸籍上は存在しないため、国民として認められておらず、学校教育や医療などの行政サービスを受けることができないといった状況にある。
背景には一人っ子政策における賞罰の明確性が挙げられる。一人っ子の時には様々な恩恵が得られるのに対し、二人以上の子どもを持つと「両親ともに昇級・昇進の停止」、「学校への優先入学権の剥奪」、「各種手当ての停止」、「高額な罰金」などの極めて大きな待遇の差が生じる。こうした不利益を避けるために、二人目以降の子供の出生登録をしないという事態が起こっている[6]。特に、労働力を必要とする西部の農村地域ではその傾向が強いと考えられている。農村では一人っ子政策実施以降、男子の誕生を願う傾向が強化され、胎児が女子であることが分かると中絶することも多く、人口統計でも男子の誕生割合が他国に比して極めて高いという結果となって現われている。
また、中国の一部では、子供が生まれてから数時間の間に密輸業者に売られ、その業者が中国国内の富裕層や外国へその子供たちを売り飛ばしていると言われている。例えば、福建省の北部では80年代から90年代にかけて、一万人以上の乳幼児が仲介業者に売られたとされる[7]。
このような無戸籍者の問題解決のため中国政府は2015年対象となる約1300万人に戸籍の付与を行う方針を示した[8]。そして問題の原因となった一人っ子政策も廃止した。
題材として取り上げた作品
編集- バリスティック - 黒孩子が、殺し屋として訓練された役柄を、ルーシー・リューが演じる映画。
- 龍が如く6 命の詩。 - 黒孩子を出自とするマフィア構成員や暴力団幹部が登場。
- ギャングース - 黒孩子を出自とするマフィアが登場。主要人物のユイカも日本生まれの黒孩子。
- 嘘喰い - 帝国タワー ドティ編にて黒孩子の捨隈が敵として登場。
脚注
編集- ^ 福島, 香織 (2007年1月29日). “【北京春秋】闇の子供悲し”. 産経新聞. オリジナルの2007年9月27日時点におけるアーカイブ。 2020年10月26日閲覧。
- ^ “「一人っ子政策」廃止の中国 戸籍ない「闇っ子」対策強化へ”. NEWSポストセブン. (2015年12月5日) 2020年10月26日閲覧。
- ^ 若林敬子、橋本堯、佐治俊彦「ディスカッション(シンポジウム 中国の近代化と人間)」『東西南北』第1997巻、和光大学総合文化研究所、1997年3月、83-87頁、CRID 1050001338313837312。
- ^ Rebecca, Davis (2015年11月5日). “中国1300万人の無戸籍児、一人っ子政策の「負の遺産」”. AFP通信: p. 2 2020年10月26日閲覧。
- ^ Uncovering Children in Marginalization: Explaining Unregistered Children in China ワシントン大学2005年 p3に、1982年、1990年、2000年の人口数と黒孩子数が記載されている。それによると、1990年は11億3000万の人口に対して850万(0.76%)、2000年は12億4000万の人口に対して約800万(0.97%)という推計がなされている。
- ^ “2 アジアの主な国・地域における少子化対策の動向”. 平成17年版 少子化社会白書. 内閣府. 2020年10月26日閲覧。
- ^ “【土・日曜日に書く】上海支局長・河崎真澄 一人っ子政策の犠牲者たち”. 産経新聞: p. 1. (2010年12月19日). オリジナルの2010年12月21日時点におけるアーカイブ。 2020年10月26日閲覧。
- ^ “中国、無戸籍者1300万人に戸籍を付与へ”. ロイター通信. (2015年12月10日) 2020年10月26日閲覧。