転置行列

m 行 n 列の行列 A に対して A の (i, j) 要素と (j, i) 要素を入れ替えてできる n 行 m 列の行列

転置行列(てんちぎょうれつ、: transpose [of a matrix], transposed matrix)とは、mn 列の行列 A に対して A(i, j) 要素と (j, i) 要素を入れ替えてできる nm 列の行列のことである[1]。転置行列は tA, AT, A, Atr, A′ などと示される。行列の転置行列を与える操作のことを転置(てんち、: transpose)といい、「A を転置する」などと表現する。

特に正方行列に対しては、転置行列は各成分を対角成分で折り返した行列になる。

定義

編集

m × n行列

 

の転置行列 tA

 

で定義される。このとき tAn × m行列である。

性質

編集

A, B は行列、k, l はスカラーとして各演算が定義できる限りにおいて以下のことが成り立つ。

  • 転置の転置は元の行列を与える[1]対合性):t tA = A
  • 和の転置は転置の和を与える[1](加法性):t(A + B) = tA + tB
  • 行列のスカラー倍の転置は転置行列のスカラー倍を与える[1](斉次性):t(kA) = k tA
    • 斉次性および加法性から線型性が成り立つ:t(kA + lB) = k tA + l tB
  • 積の転置は積の左右を入れ替えた転置の積を与える[1]t(AB) = tB tA
正方行列の性質
  • 逆行列の転置は転置の逆行列を与える[2]t(A−1) = (tA)−1
  • n正方行列 Atr A で表すと tr A = tr tA
  • n 次正方行列 A行列式det A で表すと det A = det tA[3]
  • n正方行列 A, n 次ベクトル x, y に対して、標準内積·, · で表すと、Ax, y = x, tAy

転置行列により定義される行列

編集

転置により定義される特別な行列として以下がある[4]

これらの行列はそれぞれ随伴行列(行列のエルミート共役)に対するエルミート行列歪エルミート行列ユニタリ行列に相当する。

線形写像との関係

編集

m × n 行列 An 次元ベクトル空間 V から m 次元ベクトル空間 W への線形写像 f : VW とみなすとき、A の転置行列 tA には f の転置写像 tf が対応する。これは W双対空間 W* から V の双対空間 V* への線形写像 tf : W*V* で、y*W* に対して

 

によって定義される[5]。この定義は yWy*W* の自然なペアリングを y*(y) = y, y* と表記すれば、xV に対して

 

という関係式によって書き直すこともできる[6]

脚注

編集

出典

編集

参考文献

編集
  • ニコラ・ブルバキ (1998) [1970]. Algebra I. Chapters 1-3. Elements of Mathematics. Springer-Verlag. ISBN 3-540-64243-9. MR1727844. Zbl 0904.00001. https://books.google.co.jp/books?id=STS9aZ6F204C 
  • 斎藤正彦『線形代数学』(第3版)東京図書、2017年4月10日。ISBN 978-4-489-02179-4 

関連項目

編集

外部リンク

編集