知事公館
都道府県知事が迎賓施設および住居として利用する施設
知事公館(ちじこうかん)は、都道府県知事が迎賓施設および住居として利用する施設。知事公邸(ちじこうてい)、知事公舎(ちじこうしゃ)とも。
概要
編集多くの場合、都道府県庁舎の近傍に立地している。知事が公務に使う建物と、住居として使う建物を同一敷地に設けていることもある[注釈 1]。公務に使う空間では、都道府県外・国外からの賓客の応接や、表彰など重要な都道府県の行事・催事、会議を行うことがあり[注釈 2]、地域の産品を使用した建材や室内装飾等で地域をアピールすることもある[注釈 3]。
21世紀初頭現在、(自治体が所有する知事専用住居としての)知事公舎を廃止する動きがあり[2]、FNNの調査によれば2019年9月時点で16都府県には知事公舎がない[2][注釈 4](31道県に知事公舎がある。この調査後の10月に北海道が知事公舎を廃止した)。背景としては、多額の建設・維持管理費を要するという財政面の問題[2]、知事と県民の意識が近づき民間で十分立派な住宅供給が行われている[2]中で「特権的」と見なされることへの忌避、通信手段も発展したことにより必ずしも県庁近傍に住む必要がなくなったことなどが挙げられる[2]。2019年8月時点の朝日新聞の調査によれば、23道県で知事が知事公舎に住居しており、5府県では県の幹部職員公舎を利用、4県では民間マンションの一室を借り上げ(借り上げ公舎[7])、残る15都府県では自宅を住居としている[8]。
他方、災害時などの緊急対応のためには都道府県庁舎付近に住居が必要という考え方もあり[7]、大分県は2019年に災害対応機能を高めることを眼目として公舎の移転・新築を行った[9]。
一覧
編集都道府県 | 施設名 | 解説 | 写真 |
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北海道 | 北海道知事公館 | 札幌市中央区北1条西16丁目1-3に所在。1936年建築の旧三井別邸新館(登録有形文化財)。1953年より知事公館として使用[10][11][12]。公館の建物は一般公開されている。敷地は広大で約5万平方メートルに及ぶ。敷地内には知事公邸があるが、老朽化などを理由とした鈴木直道知事の意向で2019年10月に廃止された[13][14]。 | |
青森県 | 青森県知事公舎 | 廃止[2]。 | |
岩手県 | 岩手県知事公館 岩手県知事公舎 |
盛岡市東中野町26-30に所在。現用。同一の敷地に知事公館と知事公舎がある[15]。 | |
旧岩手県知事公舎洋館の応接部(1909年建築)は、1971年に胆沢郡金ケ崎町に払い下げられ[16]。1994年に同町の千田正記念館に移築されている。登録有形文化財(登録名「旧岩手県知事公舎洋館」)[17] | |||
宮城県 | 宮城県知事公館 | 仙台市青葉区広瀬町5-43に所在。賓客接遇施設・ホールとして現用。1921年建築の旧第二師団長官舎。1965年より知事公館として使用[18]。一般公開・貸し出しを行っている。公館正門は仙台城中門(寅門)を移築したもので、県指定有形文化財[19]。 公舎はない[2]。 |
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秋田県 | 秋田県知事公舎 | 秋田市千秋北の丸5-55に所在。現用[20]。 | |
山形県 | 山形県知事公館 山形県知事公舎 |
廃止。公舎・公館があった。2011年に改修を経て東北芸術工科大学やまがた藝術学舎として開館[21]。 | |
福島県 | 福島県知事公館 | 福島市杉妻町5-55に所在。現用[22][23]。1974年建築[22]。 | |
茨城県 | 茨城県公館 茨城県知事公舎 |
水戸市大町2丁目に所在。同一敷地に知事公舎がある。1974年、大江宏設計。老朽化のため、2017年以降使われておらず、2021年解体。2023年に食品卸売会社に売却され、スーパーマーケットが開業予定。 | |
栃木県 | 栃木県公館 | 宇都宮市昭和1-1-38に所在。賓客接遇施設・ホールとして現用[24][6]。 公舎はない[2]。 |
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群馬県 | 群馬県知事公舎 | 廃止。跡地はるなぱあく(前橋市中央児童遊園)の駐車場となっている[2]。 | |
埼玉県 | 埼玉県知事公館 | さいたま市浦和区常盤4-11-8に所在。1967年建設。 | |
千葉県 | 千葉県知事公舎 | 千葉市中央区都町1丁目に所在。現用[25]。 | |
東京都 | 東京都知事公館 | 廃止。初代公館は1947年、渋谷松濤にあった松平恒雄旧邸を購入して使用開始。二代目公館は1997年完成。2014年に住友不動産に売却。 | |
神奈川県 | 神奈川県知事公舎 | 県所有施設としての公舎(住居)はない[2]。2012年の報道によれば、黒岩祐治知事は民間マンションの一室を「知事公舎」として借り上げ、住居としている[7]。 災害時の緊急対応を目的として山手町に知事公舎を建設する計画があり、1997年に用地が取得された(当時の岡崎洋知事は藤沢市の自宅から通勤していた)が、財政問題のために計画は凍結、2012年に中止され、用地は売却された[7]。 |
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新潟県 | 新潟県知事公舎 | 新潟市中央区営所通2番町692に所在。現用。1909年に新潟市営所通に建設された旧新潟県知事公舎は、1988年に新発田市に移築保存され「旧県知事公舎記念館」となっている。この旧公舎は「現存するものの中では国内最古の知事公舎」である[26]。 隣接地には副知事公舎もあったが廃止され、後に改装されレストランとして営業している。 |
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富山県 | 富山県知事公館 | 廃止。2009年に知事により廃止が表明され[2]、改修増築の上、高志の国文学館として整備[2]。 | |
石川県 | 石川県知事公舎 | 金沢市広坂1-8-28に所在。このほか、副知事公舎がある[27]。 | |
福井県 | 福井県知事公舎 | 福井市若杉に所在[2]、隣接して副知事公舎[2][28]・秘書課長公舎[28]がある。2019年に就任した杉本達治知事は公舎に入居しないことを表明[29]。 | |
公舎は平成初期以前は福井市宝永にあり、跡地は福井県国際交流会館となっている。 | |||
山梨県 | 山梨県知事公舎 | 廃止。跡地は山梨大学に研究拠点として貸与[2][30]。 | |
静岡県 | 静岡県知事公舎 | 静岡市葵区安東2丁目19-5に所在。 | |
長野県 | 長野県知事公舎 | 旧公舎は1920年建設[31]、長野市南長野(県町)の県庁付近に所在していた[31][32]。公邸(洋館・和館)・私邸(和館)・収蔵庫(土蔵)からなっていた[31]。1926年には警廃事件に激昂した群衆が公舎を襲撃、投石によりガラスが破壊されたこともあった[33]。2000年に知事に就任した田中康夫は公舎に入らず[32]、2003年には公舎を取り壊して跡地を県庁見学者用観光バスの駐車場にする方針が固められた[32]。これに対し歴史的建築物として保存しようとする機運が高まり、上水内郡小川村が購入して2004年に移築、小川村郷土歴史館として保存されることになった[31]。小川村出身の西沢権一郎が6期21年にわたり長野県知事を務めたことによる[34]。 その後、村井仁は知事公舎が必要であるとして建設が検討されたが、費用問題から見送られた[35]。阿部守一は旧副知事公舎に入居している[35]。 |
(移築後) |
愛知県 | 愛知県公館 愛知県知事公舎 |
名古屋市中区三の丸3丁目に所在。現用。同一敷地に愛知県知事公舎がある[36]。 | |
三重県 | 三重県知事公舎 | 津市観音寺町に所在。1978年(昭和53年)建築[37]。鉄筋コンクリート造、平屋建て、延べ床面積は327平方メートル[37]。私邸部分と公邸部分からなる[37]。 | |
滋賀県 | 滋賀県公館 滋賀県知事公舎 |
大津市京町4丁目に所在。迎賓施設・ホールとして現用[5]。同一敷地に知事公舎がある。 | |
京都府 | 京都府公館 | 京都市上京区烏丸通一条下る龍前町590-1に所在。京都府立府民ホール アルティと併設されている。知事公舎(住居)はない[2]。 | |
大阪府 | 大阪府公館 | 大阪市中央区大手前2丁目に所在。知事公舎(住居)はない[2]。 | |
兵庫県 | 兵庫県公館 | 神戸市中央区下山手通4丁目に所在。1902年竣工の旧兵庫県庁を1985年より公館として使用。登録有形文化財。 知事公舎(住居)は中央区中山手通5丁目に所在していたが、1987年に老朽化を理由に取り壊され現存しない[38]。貝原県政末期に県庁舎北側に新設が検討されたが、井戸県政1期目に財政難を理由に中止された[38]。 |
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奈良県 | 奈良県知事公舎 | 廃止。県庁東側(奈良市登大路町)の奈良公園一角に所在。1922年完成[39][40]。木造平屋建て[39]。1951年11月19日、サンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約の批准書に、巡幸のため滞在していた昭和天皇がサインした「御認証の間」がある[39][41]。公舎としての使用は2017年まで(最後の居住者は荒井正吾)[41][40]。2020年春に観光施設として開業の予定[39][41]。 このほか副知事公舎もあった[42]。 |
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和歌山県 | 和歌山県公館 | 和歌山市和歌浦中3丁目に所在。一般開放も行われる[43]。このほか、知事公舎がある。 | |
鳥取県 | 鳥取県知事公邸 | 鳥取県東町1丁目に所在。事前申し込み制で見学も可能[44]。 | |
島根県 | 島根県知事公舎 | 松江市北堀町に所在。1986年建築[45]。2019年に就任した丸山達也知事は公舎に入居しないことを表明、一部を短期的なイベントのために貸し出す方針[45]。 | |
岡山県 | 岡山県知事公舎 | 廃止。岡山市中区住吉町に所在していた。1953年に建築されて4人の知事が居住したが、老朽化が指摘され、2012年就任の伊原木隆太知事は入居せず、2014年に廃止と売却が決定された[46][47]。 | |
広島県 | 広島県知事公舎 | 広島市中区上幟町に所在。 | |
山口県 | 山口県知事公舎 | 廃止。知事は幹部公舎に住む[48]。 | |
徳島県 | 徳島県知事公舎 | 徳島市南仲之町に所在。 | |
香川県 | 香川県知事公舎 | 高松市中央町に所在していたが売却。 | |
愛媛県 | 愛媛県知事公舎 | かつては松山市北持田町に所在していたが売却。 | |
高知県 | 高知県知事公邸 | 高知市鷹匠町2丁目に所在。現用。1963年竣工、村野藤吾設計[3]。 | |
福岡県 | 福岡県知事公舎 | 福岡市中央区白金2丁目に所在。現用。事前申請により見学可[49]。1981年、亀井光知事が約6億円をかけて建設したが、高額費用が問題視された[50]。 | |
佐賀県 | 佐賀県知事公舎 | 佐賀市中の小路に所在。旧副知事公舎を改修増築。同じく中の小路の旧公舎は1891年落成、増築補修の上古川康知事まで使用していたが、2014年山口祥義知事は老朽化を理由に当時の副知事公舎に入居。一時は保存の必要なしとされたが、民間利用できる迎賓館として再整備し2020年から定期的に一般公開[51][52][53]。 | |
長崎県 | 長崎県知事公舎 | 廃止。跡地には2005年に長崎歴史文化博物館が開設された[48]。 | |
熊本県 | 熊本県知事公舎 | 熊本市中央区水前寺2丁目に所在。現用[54]。 | |
大分県 | 大分県知事公舎 | 現用。2019年、大分市荷揚町(大分県立荷揚町体育館跡地[55])に移転新築[9]。旧公舎は1949年の建築で、耐震性が考慮されず、津波対策もなされていなかったため[9]。 | |
宮崎県 | 宮崎県知事公舎 | 宮崎市下北方町横小路に所在。2003年に完成、「公邸」と「私邸」からなる[1]。公舎(「公邸」部分)については有料貸出を行っている[1]。 | |
鹿児島県 | 鹿児島県知事公舎 | 鹿児島市荒田2丁目に所在。 | |
沖縄県 | 沖縄県知事公舎 | 那覇市寄宮1丁目に所在。現用[56]。1955年に琉球政府行政主席公舎として建設されたのがはじまり。建物は1998年に新築された。 |
脚注
編集注釈
編集- ^ 宮崎県の場合、施設全体を「知事公舎」と総称し、公務に使用する空間を「公邸」、住居を「私邸」と呼ぶ[1](福井県[2]も同様)。高知県の場合は施設全体を「知事公邸」と呼び、公務に使用する空間を「公邸」、住居部分を「私邸」と呼ぶ[3]。岩手県の場合は、公務に使用する空間を「知事公館」、住居を「知事公舎」と呼び、施設全体を指す場合には「岩手県知事公館及び公舎」と併称される[4]。
- ^ 滋賀県の場合、滋賀県公館を「滋賀県を訪れる国内外の賓客をお迎えしたり、 表彰式等の県の重要な行催事を行うための施設」と紹介している[5]。栃木県の場合、栃木県公館を「皇室及び賓客の接遇、叙勲、ほう賞の伝達、市町村長会議などに使用されている」と紹介している[6]。
- ^ 鳥取県の場合、知事公邸について「県産品を活用し鳥取県の特色を表現している」と紹介している[5]。栃木県は、栃木県公館について「会議室の壁面に大谷石や益子焼など県産品を多用している」と紹介する[6]。
- ^ FNNは「知事公舎は知事が住むための建物」としており、「知事公舎がない」都府県として以下を図示する。青森・宮城・山形・栃木・群馬・東京・神奈川・富山・山梨・京都・大阪・兵庫・奈良・岡山・山口・長崎[2]。
出典
編集- ^ a b c “知事公舎の有料貸出”. 宮崎県. 2020年3月26日閲覧。
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- ^ a b c “新知事公舎 地震、津波に強く 大分市荷揚町に移転・新築 職員と緊急会議も可能”. 西日本新聞. (2019年4月30日) 2020年3月26日閲覧。
- ^ “知事公館の由来”. 北海道. 2019年9月27日閲覧。
- ^ “北海道知事公館のご案内2”. 北海道. 2019年9月27日閲覧。
- ^ “三井のスポット 北海道知事公館 北の大地に佇む三井ゆかりの昭和レトロな洋館”. 三井広報委員会. 2019年9月27日閲覧。
- ^ 道知事、公邸を廃止し転居 年1000万円削減 - 日本経済新聞、2019年9月10日配信、2019年9月28日閲覧。
- ^ 鈴木知事、公邸からマンションに転居 - 北海道新聞、2019年10月15日配信、2019年11月3日閲覧。
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