常微分方程式

未知関数とその導関数からなる等式で定義される方程式である微分方程式の一種で、未知関数が本質的にただ一つの変数を持つものである場合

常微分方程式(じょうびぶんほうていしき、: ordinary differential equation, O.D.E.)とは、微分方程式の一種で、未知関数が本質的にただ一つの変数を持つものである場合をいう。すなわち、変数 t の未知関数 x(t) に対して、(既知の)関数 F を用いて

という形にできるような関数方程式を常微分方程式と呼ぶ。x(k)(t) は未知関数 x(t)k 階の導関数である。未知関数が単独でない場合には、関数の組をベクトルの記法を用いて表せば次のようになる。

ここで F, x

を表す。この方程式系はしばしば連立常微分方程式と呼ばれる。

また、多くの n 階常微分方程式は次のような形に書くことができる。

常微分方程式の理論およびその研究を微分方程式論という。あるいはまた関数方程式論の名で微分方程式論を指すこともある。

線型常微分方程式

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常微分方程式が

 

の形に表されるとき線型であるという。ただし、ak(t) および b(t)t を変数とする既知の関数である。b(t) = 0 の方程式は特に斉次 (homogeneous) な方程式と呼ばれ、そうでない方程式は非斉次 (inhomogeneous) な方程式と呼ばれる。

非線型常微分方程式

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線型でない常微分方程式は非線型であると言われる。非線型方程式の解は一般に、線型方程式のそれに比べて複雑な様相を呈する。そのような例として、ローレンツ方程式パンルヴェ方程式などがある。一方、求積法で解ける形の非線型方程式も数多く知られている[1][2][3]。 以下に例を挙げておく [1][3][4]

1階非線型常微分方程式[1][3]

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ここに、n は実数であり、f(·) は既知関数である。

   m, n は実数,ただし,m ≠ 0f は既知関数。
   A(x)F は既知関数。
   A(x )B(x )F は,いずれも既知関数。

2階非線型常微分方程式[1][3][4]

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上記の P(x)f(·) は既知関数とする。

   n は実数,ただし,n ≠ 2f は既知関数。
   f(y) は既知関数。
   α, γ, n は実数.ただし,n ≠ −1
   f (·) は既知関数。  は実数.ただし, 

連立常微分方程式

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連立常微分方程式(simultaneous ordinary differential equations)は、 1 つの独立変数 t と複数の未知関数 x1(t),..., xn(t) およびその導関数により構成される複数の方程式の組である。例えば、比較的簡単な例として、t の 2 つの未知関数を x1(t), x2(t) とする。それらの一階の導関数を x'1(t), x'2(t) として、

 
 

は一つの連立常微分方程式である。ただし、F, G既知関数である。

一般の連立常微分方程式は、1 つの独立変数と m 個の未知関数およびその n 階の導関数を含み、複数個の常微分方程式の組になる。

 

ここで xi(j)(t) は、未知関数 xi(t)j 階の導関数である (i = 0, 1,..., m; j = 0, 1,..., n)。 なお、連立常微分方程式を常微分方程式系(system of ordinary differential equations)と呼ぶこともある。 これら r 個の常微分方程式すべてを満足する関数の組 x1(t),..., xm(t) をそのという。

具体的な例を一つ示す。独立変数 x の未知関数を y, z とし、a, b, c, d を定数とすると、

 
 

は、一階の連立常微分方程式の例である。一般的な連立常微分方程式は、求積法で解くのは困難であるが、一般性を含む連立常微分方程式の例として、求積法で解ける連立常微分方程式が多少知られている[1][2][3]。 一例を挙げておく[3][5]

 

x は独立変数であり、y, z, wx を変数とする未知関数である。また、F, G, H を既知関数とする[5]

出典

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  1. ^ a b c d e 長島 隆廣 『常微分方程式80余例とその厳密解』 近代文芸社、2005年 ISBN 4-7733-7282-6. 国立国会図書館蔵書, 請求記号:MA117-H55(東京 本館書庫)。
  2. ^ a b 長島 隆廣[常微分方程式134例とその解]丸善出版サービスセンター,1982年5月発行,国立国会図書館・請求記号 MA117-111,全国書誌番号 82049441
  3. ^ a b c d e f 長島 隆廣『常微分方程式80余例と求積法による解法』2018年12月 researchmap で公開,全編PDF: https://researchmap.jp/T_Nagashima または, https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/263160/16f8fddfba5ab789f6475ac2962bfd31?frame_id=539358
  4. ^ a b 長島 隆廣 『数学セミナー』,日本評論社,1986年5月号,第25巻,第5号,通巻294号,pp.94-95。
  5. ^ a b 長島 隆廣 『数学セミナー』,日本評論社,1988年3月号,第27巻,第3号,通巻316号,p.98。

関連文献

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和書

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  • 藤原松三郎:「常微分方程式論」、岩波書店 (1930年).
  • 吉江琢児:「微分方程式論」、共立出版 (1947年).
  • フォーサイス(著)、粟野保、末岡清市、石津武彦(共訳):「微分方程式」上巻、朝倉書店 (1947年).
  • 福原満州雄:「微分方程式 上」、朝倉書店 (初版:1951年3月10日)。復刊版はISBN 4-254-11691-8 (2004年12月1日)。
  • 福原満州雄:「微分方程式 下」、朝倉書店(初版:1952年6月25日)。復刊版はISBN 4-254-11692-6 (2004年12月1日)。
  • 占部実:「微分方程式」、共立出版 (基礎数学講座8) (1955年11月20日).
  • 齋藤利弥:「常微分方程式論」、朝倉書店(近代数学講座5) (1967年8月25日).
  • コーエン、高野一夫(訳):「コーエンの微分方程式:リー群論の応用」、森北出版(1971年5月15日)。POD版はAISBN 4-62707079-9 (2011年).
  • 吉田耕作:「微分方程式の解法 第2版」、岩波書店(岩波全書189)(1978年2月23日)。初版は1954年4月28日。
  • 福原満洲雄:「常微分方程式 第2版」、岩波書店(岩波全書 116) (1980年5月23日).
  • レフ・セミョーノヴィチ・ポントリャーギン、千葉克裕(訳):「常微分方程式 新版」、共立出版 (1981年2月).
  • 高野恭一:「常微分方程式」、朝倉書店ISBN 978-4-25411436-2 (初版1994年2月20日). 復刊版はISBN 978-4-254-11844-5 (2019年12月).
  • 伊藤秀一:「常微分方程式と解析力学」、共立出版(共立講座 21世紀の数学 第11巻)、ISBN 978-4-320-01563-0, (1998年1月).
  • J.J.グレイ:「リーマンからポアンカレにいたる 線型微分方程式と群論」、シュプリンガ-フェアラーク東京、ISBN 4-431-70938-X(2002年12月10日).
  • 柴田正和:「常微分方程式の局所漸近解析」、森北出版 (2010年8月).
  • 大谷光春:「常微分方程式論」、サイエンス社 (2011年).
  • 坂井秀隆:「常微分方程式」、東京大学出版会ISBN 978-4-13-062960-7(2015年8月24日).
  • 岩見真吾、佐藤佳、竹内康博 :「ウイルス感染と常微分方程式」、共立出版(シリーズ: 現象を解明する数学 / 三村昌泰, 竹内康博, 森田善久 編集)(2017年4月).

洋書

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関連項目

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方程式

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数値計算

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