モーリス・ドッブ
モーリス・ハーバート・ドッブ(Maurice Herbert Dobb、1900年9月3日 - 1976年8月17日)は、イギリスの経済学者。主な活動分野は、マルクス経済学、社会主義経済、開発途上国の研究であった。
略歴
編集研究・主張
編集- イギリス共産党に入党し、スターリン時代のソビエト連邦で行われていた中央集権的な計画経済を支持していたが、必ずしも教条的なマルクス主義に囚われることなくハンガリー動乱やポズナン暴動についてはソ連の強圧的政策に批判的な態度を取った。また、資本主義発達史の研究において、ポール・スウィージーらとも論争している。
- 一方で、古典派経済学や近代経済学にも批判を加え、ジョーン・ロビンソンやピエロ・スラッファにマルクス主義的立場から示唆を与えている。
- 経済学に対する彼の見解は次のようなものである。すなわち、真の経済学はリカードから始まる。また、経済学の歴史全体は2系統に分けられる。一つは、「経済的剰余」の決定に関するリカード-マルクス-スラッファといった分析の系統であり、もう一つは、価格決定の一般均衡分析というスミス-ワルラス-アロー-ドゥブリューといった系統である。絶筆となった『価値と分配の理論』(1973年)は、この見解を文書で証明しようとしたものである。しかしながら、異論も多い。
- ケンブリッジ大学での教え子にアマルティア・センがいる。
- キム・フィルビーにウィーンにあったドイツ共産党の亡命者支援組織を紹介し、その後フィルビーがソ連の諜報機関に関わる切っ掛けを作った。一説にはフィルビーから「共産主義の大義に生涯を捧げる」にはどうすればよいかと聞かれたドッブが、コミンテルンの工作員にオーストリアの地下組織との接触を指示したとも言われている。
著書
編集- 『賃金論入門』、氏原正治郎訳、新評論社、1954年
- 『ソヴェート経済史――1917年以後のソヴェート経済の発展』(上)、野々村一雄訳、日本評論社、1956年
- 『後進国の経済発展と経済機構』(京都大学総合経済研究所研究叢書2)、小野一一郎訳、有斐閣、1956年
- 『ドッブ経済学教程』、塚谷晃弘・鈴木宗太郎共訳、関書院出版、1957年
- 『資本主義――昨日と今日』(合同新書)、玉井竜象訳、合同出版社、1959年
- 『賃金論』(改訂版)、氏原正治郎訳、新評論、1962年
- 『経済成長と経済計画』、石川滋・宮本義男共訳、岩波書店、1965年
- 『現代経済体制論――経済発展と計画経済』、玉井竜象]・藤田整共訳、新評論、1970年
- 『七十年代の資本主義――国際シンポジウム』、中村達也・永井進・渡会勝義共訳、新評論、1972年
- 『厚生経済学と社会主義経済学――常識的な批判』、中村達也訳、岩波書店、1973年
- 『価値と分配の理論』、岸本重陳訳、新評論、1976年
【原書】