ハロン (halon) は、炭化水素水素原子(一部または全て)がハロゲン原子で置換されたハロゲン化炭化水素(ハロカーボン)のうち、臭素を含むものである[1][2][3]

ハロゲン化炭化水素 (halogenated hydrocarbon) が語源で、アメリカ陸軍工兵司令部 (USACE) が1948年に命名した[4]ハロン類 (halons)、ハロン化合物 (halon compounds) ともいう。

ハロンに対し、臭素を含まず、ハロゲンがフッ素塩素のみの化合物を、フロン(クロロフルオロカーボン)と呼ぶ(ハロンをフロンに含めることもある[5])。ただし、フロンが日本特有の語である[3][5]のに対し、ハロンは国際的に通用する名である。

ハロン命名法

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ハロン命名法は、アメリカ陸軍工兵司令部 (USACE) が定めたハロンの命名法で、「ハロン」のあとに2~5桁の数字を続ける。

  1. 炭素原子の数
  2. フッ素原子の数
  3. 塩素原子の数
  4. 臭素原子の数
  5. ヨウ素原子の数[4]

最後が0(または0の連続)の場合は省略する[4]。したがって、通常のハロンであれば4桁となり、2~3桁で表されるのはフロンである。

この数字は、「フロン」のあとに続ける2~5桁の数字とは一般に異なる。

水素原子の数は明示されず、「H = C×2+2-F-Cl-Br-I」で計算される。

異性体は区別できない。異性体がある場合、慣習的に、異性体の1つを表す。

例外として、ハロン11(命名法どおりならハロン113)、ハロン2600(命名法どおりならばハロン26)が慣用される。

ハロンの一覧

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ハロン名を持つ化合物の一覧。これら以外にもハロン名で呼ぶことが可能な化合物は多いが、実際に呼ばれることは希である。

臭素を含む(数字が4桁で4桁目が0でない)ものが、厳密な意味でのハロンとなる。

ハロン名 フロン名 体系名 その他の名 化学式 分子量 特定 用途
ハロン11 フロン11 フルオロトリクロロメタン CCl3F 137.368 特定フロン
ハロン14 フロン14 テトラフルオロメタン 四フッ化炭素 CF4 088.004
ハロン104 フロン10 テトラクロロメタン 四塩化炭素 CCl4 153.82
ハロン112 フロン21 ジクロロフルオロメタン CHCl2F 102.92
ハロン122 フロン12 ジクロロジフルオロメタン CCl2F2 120.91 特定フロン
ハロン242 フロン114 ジクロロテトラフルオロエタン CClF2-CClF2 170.92 特定フロン
ハロン1001 ブロモメタン 臭化メチル CH3Br 094.939
ハロン1011 ブロモクロロメタン CH2ClBr 129.384
ハロン1103 トリブロモフルオロメタン CBr3F 270.72
ハロン1201 ブロモジフルオロメタン CHBrF2 130.92
ハロン1202 ジブロモジフルオロメタン CBr2F2 209.815
ハロン1211 ブロモクロロジフルオロメタン CClBrF2 165.364 特定ハロン 消火剤
ハロン1301 ブロモトリフルオロメタン CBrF3 148.909 特定ハロン 消火剤
ハロン2001 ブロモエタン 臭化エチル CBrH2-CH3 108.966
ハロン2302 ジブロモトリフルオロエタン CBrF2-CHBrF 241.832
ハロン2312 クロロジブロモトリフルオロエタン CClBr2-CF3 276.277
ハロン2402 ジブロモテトラフルオロエタン CBrF2-CBrF2 259.822 特定ハロン 消火剤
ハロン2600 フロン116 ヘキサフルオロエタン 六フッ化二炭素 CF3-CF3 138.01
ハロン10001 ヨードメタン ヨウ化メチル CH3I 141.939

規制

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ハロン1211・ハロン1301・ハロン2402は、モントリオール議定書オゾン層破壊物質として特定ハロンに指定されており、1994年1月1日から議定書第5条非適用国(先進国)では製造等が全廃されている。

利用

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ハロゲン化物消火設備消火剤に使われる。これは、酸素を遮断する効果に加え、ハロンの熱分解で生じたハロゲン原子が燃焼により発生する高活性の水素原子と水酸基を取り除く触媒作用

X + H → HX
HX + OH → X + H2O

を利用するものである[6]

ハロン消火剤は、1950~1960年ごろにアメリカで商品化された[7]。もともと航空機搭載用に開発されたもので、液体燃料の火災に効果的である[7]。主に使われるのはハロン1301である。

しかしハロン1301は特定フロンであり、消火用ハロンの製造は、先進国では1993年末で、全世界でも2009年末で廃止された。そのため、現在使われるのは全てリサイクルハロンで、航空・軍事・石油採掘・穀物サイロ・製紙工場など特殊分野が主体である[7]

日本の消防法でも、ハロン1301・ハロン2402・ハロン1211(いずれも特定ハロン)がハロゲン化物消火設備の消火剤として認められているが、2001年、オゾン層を破壊しない2剤(HFC-227eaHFC-23)が追加された[6]

出典

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  1. ^ Daintith, John (2008). Oxford Dictionary of Chemistry. Oxford University Press. ISBN 0199204632 
  2. ^ ハロカーボン類 - 気象庁
  3. ^ a b 岡本博司 (2002), “3.2 フロンガス”, 環境科学の基礎, 東京電機大学出版局, p. 38 
  4. ^ a b c Eclipse Aviation Corporation (2006), White Paper: The Eclipse 500 Fire Suppression System Using the PhostrExTM Agent: Pioneering the World’s First Commercially-Viable Halon Replacement, http://eclipseaerospace.net/files/pdf/PhostrEx_White_Paper.pdf 
  5. ^ a b 平成13年度放送大学面接授業(新潟学習センター)「大気化学」成層圏 2 - 山﨑勝義
  6. ^ a b 一般社団法人東京防災設備保守協会 (2006), ハロゲン化物消火設備, http://www.hosyu-kyokai.or.jp/Fire-fighting%20equipment%20maintenance%20center/Firefighting%20equipment/Halogenation%20thing%20firefighting%20equipment.html 
  7. ^ a b c 柴田弘幸 (2011), “ハロン消火剤のリサイクルとバンクシステム”, 防災システム 34 (2), http://www.bosai-system.jp/images/vol3402.pdf