ドラム缶
ドラム缶(ドラムかん、英語:(steel) drum)は、200リットル以上の大型の金属製の缶のこと。特注品でない限り鋼鉄で作られる。ガソリン、灯油のような燃料油や塗料、溶剤、化学薬品、医薬原料などの工業材料とその製品といった液体を入れて運搬・貯蔵に用いられる。
歴史
編集1900年にヨーロッパで金属製の樽が登場し、1902年に米国のスタンダード・オイルがこれを大量生産して使用を始めた。当時は中身が漏れることが多かった。
翌1903年には、同じ米国のコークラン・シーマン夫人によって、現在とほぼ同じ金属容器が発明され、中身の漏れは改善された。これは、胴体部の真っ直ぐな55ガロン(約204リットル)入りのドラム缶であり、これが改良を重ねられて、現在のドラム缶になっている。
日本での最初のドラム缶の製造は、1927年に小倉石油東京製油所と秋田県永井製油所で、アスファルト向けであった。この当時は、日本製の一斗缶以外では、海外からの輸入油の容器としてのドラム缶が、他の用途にも再使用されてはいたが、日本でのドラム缶製造は、これが最初であった。
1929年には、日本石油が米国から製缶機を輸入して、翌年からは山口県下松製油所で大量生産したドラム缶の自社使用を始めた。これが、200リットル入りドラム缶の日本での最初の量産であった[1]。
現代の日本では、ICタグをつけてインターネット・オブ・シングス(IoT)による追跡・管理をしやすくしたドラム缶も開発されている[2]。
構造と特徴
編集一般的なドラム缶には、円筒部の中間に輪帯(りんたい、ビード)と呼ばれる2本の出っ張りがある(上の画像のドラム缶では色の塗り分けの境界部分)。これは構造上の補強の役割を持つと同時に、転がして運搬する際には車輪(出っ張りの部分だけが接地面となる)の役割を果たし、容易に転がせる作用がある。輪帯は、鋼板を筒状に曲げて、つないだ後に、内側から一気に打ち出すように力を加えて成形される。
- 蓋部
ドラム缶には上下に円形で平面の部分があり、上になる方がバンドで締め付けられており、これを外すと大きく開けられるオープンドラム(ペール缶)と、巻き締めてあり切り取らないと開かないタイトヘッドドラムの2種類がある。オープンドラムの蓋は天蓋と称する。また、タイトヘッドドラムには別途螺子付きの注入口や空気穴にセットする小さな蓋が付いていることも多く、これはプラグと称している。プラグは鉄製のプレス成型のものが一般的で、日本では亜鉛ダイカストのものもあったが、2007年に製造中止となった。ほかに、天然樹脂を入れるタイトヘッドドラムには、製品検査に使う丸い穴を天蓋に開け、さらに蓋を取り付けたドラムも存在する。
- サイズ
日本ではJIS規格により大きさや寸法が定められている。大きさは5種類。一般にガソリンスタンドなどで見かけるドラム缶は、その中で最も一般的なもの。容量は200リットル、直径が約0.6m、高さが約0.9mである。業界では18リットル以上200リットル未満のものは中小型缶とよび、200リットル以上のものの呼称であるドラム缶と区別している。海外では200リットルに相当する44ガロン缶の他、220リットルなど別のサイズのものもある。海外では規格も様々であるうえにドラム缶を専門の製缶業者から買わずに、自社で製造して使用する企業もあるため、種類・サイズも多様となりやすい。200リットルドラムは、20フィートの海上コンテナに通常、40本×二段積みの80本積載可能である。
種類
編集認証
編集海上輸送、航空輸送などで危険物を収納して運搬する場合は、国連の危険物輸送専門家委員会による危険物の輸送に関する勧告によって輸送方法や梱包方法が定められており、ドラム缶の場合はUN認証を受け、その旨の表示(UNマーク)がされたドラム缶であることと、内容物に応じた標札の掲示が求められる。固形物と液体を収納する場合では規格が異なるので、使い分けることも必要となる。実際に輸送する際には容器証明書を製造者から取り寄せる必要がある。
リサイクル
編集再使用
編集- 使用サイクル
- 油槽所や給油所から配送されたドラム缶は需要家によって中身が消費された後、同じ配送ルートによって油槽所や給油所へと回収される。回収されたドラム缶は「更生業者」と呼ばれる専門業者へと送られる。
- 更生業者
- ドラム缶の更生業者では、届けられたドラム缶を、変形や破損の程度の大きなものはスクラップとして処分するものと、更生して再使用するものとに分ける。
- 以下に更生処理の手順を示す。
- 大栓をはずして内部の残油を廃油槽へ出す。
- チャイムに歪みがあれば、手動機械で修正する。
- 天地の縁を油圧機械で一度で真円になるように修正する。
- 油圧機械で天板と地板を押さえ、大栓から高圧空気を吹き込む。この状態でドラム缶を回転させながらローラーで胴板の歪みを直す。
- 外部洗浄を行う。
- 逆さにして、洗剤、塩酸、苛性ソーダや水を順番に噴霧し内部洗浄を行う。
- 水槽に沈めて漏れがないか、気密テストを行う。
- 真空ポンプで内部の水を抜き取り、内部にランプを入れて錆や油脂などを探す。
- 必要なら錆びや油脂の洗浄を行う。
- 高温の乾燥炉に入れて内部を乾燥させる。
- 冷風を吹き入れて冷やす。
- 内部検査を行う。
- プラグを付ける。
- 必要に応じて以下の再塗装を行う。
- ショットブラストによって外部研磨を行う。
- 自動塗装機で外部を塗装する
- 乾燥機で乾燥させる。
- 更生作業を終えて、使用者の元へと送られる。
- 使用されたドラム缶はこうして何度も再使用され3年程度の寿命を持つ。洗浄と再塗装費に1キロリットル当り3,000-4,000円程度かかるので、タンクローリーによる配送方法に比べれば、コスト負担は大きい[1]。
再利用
編集使用後の缶は解体してリサイクルするほか、 半分に切って固形物の容器にする、産業廃棄物等を詰めて保管したりゴミ箱にしたりする、五右衛門風呂を模して浴槽にする(ドラム缶風呂)、運動会で応援団が太鼓として用いる、燻製作りの窯やバーベキューの炉、簡易焼却炉にするなど、二次的な利用が幅広く行われる。日本では家具に加工して販売する店もある[5]。海外では、胴板を平らに伸ばしてトタン板代わりにして建築に使う例もある。
トリニダード・トバゴ発祥の打楽器・スティールパン(スティールドラム)は、1930年代に廃ドラム缶の底面を太鼓に見立てて使用したのが始まりとされ、底面に大小のくぼみをつけて、音階が出るように加工されている。現在は必ずしもドラム缶から作られるとは限らない。米ヘビーメタルバンドのスリップノットはドラム缶をパーカッションとして用いることがあり、金属バットで叩くことで楽曲の一部としている。
シリアやヨルダンの遊牧民であるベドウィンは、ドラム缶を土中に埋めて伝統的な羊肉の蒸し焼き料理であるザルブを作る[6]。
叩くと大きな音が出ることから、変わった所では三里塚闘争(成田空港問題)の反対運動ではドラム缶を叩くことで連絡用に使用した。
2016年にガンビアで行われた大統領選挙では、ビー玉(投票用紙に代わるもの)をドラム缶(投票箱に代わるもの)に入れる手法で投票が行われた[7]。
立ち飲み等の低価格の居酒屋の一部では、雰囲気を出すためや食卓購入費を浮かすために、ドラム缶を食卓代わりに使う店がある。
脚注
編集- ^ a b c 『知っていますか石油の話』化学工業日報社(著者名表記なし)1997年2月14日改訂第5版発行 ISBN 4-87326-235-6
- ^ 「ドラム缶にもIoT JFE系、ICタグで管理」日本経済新聞電子版(2016年10月16日)2019年12月28日閲覧
- ^ a b “危険物の規制に関する規則(昭和三十四年総理府令第五十五号)”. e-Gov (2019年8月27日). 2019年12月28日閲覧。 “2019年8月27日施行分”
- ^ 関西元気会社近畿財務局
- ^ 小林宏之、二村俊太郎「ドラム缶、非日常感、快感♪風呂缶、開放感 通行人も参観/空間、アメリカン 至福の時間、圧巻」]『日経MJ』2019年12月16日(トレンド面)
- ^ “遊牧民の伝統食「ザルブ」…地中で蒸し焼き、「おもてなし」が詰まっています”. 読売新聞ONLINE (2023年2月7日). 2024年11月14日閲覧。
- ^ ガンビア大統領選、野党連合候補勝利 22年間のジャメ体制に終止符(2016年12月3日)