みくみくにしてあげる♪【してやんよ】

みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」は、2007年にika_mo(鶴田加茂)が作詞・作曲し、ボーカルに音声合成ソフト「初音ミク」を使用してニコニコ動画YouTubeなどといった動画共有サイトで公開された楽曲。初音ミクを題材としたキャラクターソングでもある。

みくみくにしてあげる♪【してやんよ】
ika_mo(鶴田加茂)の楽曲
リリース2007年9月20日
規格デジタルコンテンツ
ジャンルキャラクターソング
時間1分39秒
作詞者ika_mo(鶴田加茂
作曲者ika_mo(鶴田加茂)
その他収録アルバム
  • ミッヒ (ウマウマできるトランスを作ってみた、EXIT TRANCE BEST #07、EXIT TRANCE × 痛G PRESENTS 痛車トランス、ウマウマできるトランスを作ってみた 3、ウマウマできるトランスを作ってみた COMPLETE BEST)
  • 初音みう (乙女ダンス type:01)
  • ゅい (スーパー★アニメ☆リミックス峠2)
  • ダンディ坂野 (ニコニコ動画ふぃ~ちゃりんぐBEST)
  • Sumijun (Digital Trax presents VOCALO★TRANCE BEST)
  • 転少女(・藤田咲(さいくろん)
  • Pastel*Palettes[丸山彩(前島亜美)]バンドリ! ガールズバンドパーティ!

概要

VOCALOID初音ミクのブーム(詳細は初音ミクを参照)を代表する曲の一つとして知られ、2008年10月に行われたアイシェアによる調査では、初音ミクで作成された楽曲を聴いたことのあると答えた回答者の中で最も多い69.2%が同曲を聴いたことのある曲として挙げている[1]

歌詞は擬人化された初音ミクが自らをパソコンにインストールするよう促す内容となっている。タイトルやサビの歌詞に用いられている「みくみく(みっくみく)」という言葉は、「ボコボコにしてやんよ」という言葉を語源とし、初音ミクに魅せられることを表すスラングとしてファンの間などで用いられているが、この表現は同曲のヒットによって定着したといわれている[2]

元々ショートバージョンとして作られたわけではないが[3]MOSAIC.WAVとの共作でこの曲のロングバージョンとして作られた「みんなみくみくにしてあげる♪」が2009年発売のアルバム『Heartsnative』と、2012年発売の『Heartsnative2』に収録されている。なお、2009年の『Heartsnative』収録のものは初音ミク単独ボーカルではなく、MOSAIC.WAVのみ〜こと初音ミクのダブルボーカルである。鶴田は後にこのロングバージョンについて「私が関わったのはDメロくらいで、あまり関与していませんでした」と述べており、「みくみくにしてあげる♪」のフルバージョンを作るべきか否かで葛藤があったことを明かしている[4]

ニコニコ動画でのヒット

2007年9月20日に初音ミクのブームの舞台となっていた動画投稿サイトニコニコ動画」に同曲の動画が投稿されると、圧倒的な支持を得て、投稿されて8日後までには動画の再生数が50万回を超え[5]、更にはニコニコ動画の中で累計の再生数が最も多い動画[6] となっていた時期もある。2012年8月30日にはVOCALOID楽曲史上初、ニコニコ動画全体では6作目となる通算1000万回再生を達成した。

ニコニコ動画では従来より投稿された動画を再利用して新たな動画を作り投稿するといったことが盛んに行われており[7]、ニコニコ動画上で人気曲となった同曲もまた盛んに派生作品が作られ、3Dのプロモーションビデオをつけたものや、「歌ってみた」と称して人間が歌ったもの、歌詞を鹿児島弁神戸弁広島弁といった方言に変えたものなど、様々な広がりを見せた[8]

商業展開

2007年11月26日にドワンゴより他の初音ミクを用いた楽曲とともに着うた配信が始められた[9] ほか、同年12月3日には初音ミクを用いて有名になった曲としては初めて業務用カラオケでの配信が始められた[10]

2008年7月9日ドワンゴ・エージー・エンタテインメントより発売されたニコニコ動画で人気の楽曲を集めたコンピレーション・アルバムCDで聞いてみて。 〜ニコニコ動画せれくちょん〜」、2009年8月26日に発売された初音ミク ベスト〜impacts〜に収録されている。2009年7月2日セガより発売された初音ミクを主役にした、PlayStation Portable用ゲーム『初音ミク -Project DIVA-』にもゲーム内に使用する楽曲として収録された。また、よこたが製作した『【ドット絵で】みくみくにしてあげる♪』が「初音ミクDVD〜impacts〜」にも収録されている。

2008年4月16日クエイクホールディングスより発売されたオムニバスアルバム『ウマウマできるトランスを作ってみた』[11] や、2008年11月19日に発売された初音みうによるミニアルバム『乙女ダンス type:01』[12]2009年5月27日ドリーミュージックより発売された『スーパー★アニメ☆リミックス峠2』に本作のカバー曲が収録されている。

2009年10月21日にはダンディ坂野と初音ミクがデュエットするカバー曲「ゲッツゲッツしてあげる♪【してやんよ】」が収録されたコンピレーションアルバム「ニコニコ動画ふぃ~ちゃりんぐBEST」が発売された[13]

同じく2009年10月21日にこの曲のロングバージョン「みんなみくみくにしてあげる♪」(み〜こ&初音ミク)が収録されたアルバム『Heartsnative』がMOSAIC.WAV×鶴田加茂 feat.初音ミク名義で発売。2012年11月7日には初音ミク単独の「みんなみくみくにしてあげる♪」を収録したアルバム『Heartsnative2』が「MOSAIC.TUNE&鶴田加茂 feat.初音ミク」(MOSAIC.TUNEはMOSAIC.WAVがVOCALOIDを用いるときのユニット名)名義で発売された。

2018年にスマートフォン用のソーシャルゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』にこの楽曲のカバー版が収録された[14][15]

JASRAC登録をめぐる騒動

同曲は着うた配信に伴い、著作権使用料を徴収し作者に対価を支払う一連の手続きを円滑に行うことを目的として[16][17]、2007年12月にニコニコ動画を運営するニワンゴの関連企業であるドワンゴ・ミュージックパブリッシングによって日本音楽著作権協会 (JASRAC) への信託が行われたが、その際にファンの反発が起こり大きな騒動に発展している。同曲は幅広い二次利用が行われていたが、管理団体に信託されることでこうした作品について、許諾手続きや利用料の支払いが必要となる懸念に加え、ドワンゴ・ミュージックパブリッシングが初音ミク発売元のクリプトン・フューチャー・メディアの許可を得ずに楽曲のアーティスト名を「初音ミク」として登録していたことが明らかになったためである[18]

ドワンゴ・ミュージックパブリッシングはアーティスト名については連絡不徹底による誤りであるとして謝罪し、修正に応じた。しかしJASRACへの信託に至った経緯や、また前後して浮上した別の曲の着うた配信が作者の許可を得ずに行われた疑惑などについてドワンゴ・ミュージックパブリッシングとクリプトン・フューチャー・メディア双方の見解に隔たりがあり、こうした食い違いにより両社が互いに自社側のウェブサイト上で主張を応酬する事態へと発展した(詳細は初音ミク#初音ミク楽曲のJASRAC信託と着うた配信に関する騒動を参照)[19]

同曲の作者ika_moはこの騒動の中「もうけ主義」との批判を向けられ[20]、「みんなの自由な利用を制限する気は無かった」という旨のコメントを出した後、ブログを閉じることとなった[21]

また、津田大介らによればネット上に存在した、ユーザーが作り上げたコンテンツにおける嫌儲と呼ばれる思想なども影響したと指摘する[22]。 この出来事の場合、消費する側の間にも楽曲を「自分たちが応援して育てたコンテンツ」とみなし、受け手と著作権者は対等であるという感覚が広まり、それが著作権を行使した作曲者への反感という形で発露したのだとする分析もある[22]。 この出来事の後は、しばらくはニコニコ動画で発表されたり『初音ミク』を用いて作られたりした楽曲を著作権管理団体に登録することに対して、批判的な意見が支配的になったが[23]、しかし、ドワンゴ会長の川上量生によると、2008年頃からそれらの楽曲がカラオケで流行の兆しを見せるようになると、彼らが著作権管理団体に楽曲を信託していないために正当な対価を受け取れず、著作権管理団体を利用する音楽家たちとの間に報酬の格差があることに対して、公平ではないという批判が上がるようになったとしている[23]。2011年ごろからは、ドワンゴ、クリプトンなどによって、著作権管理団体への信託と、ネットでの自由な利用を両立するための仕組みづくりも進められた[24]。川上はインターネットから流行が発祥した楽曲を著作権管理団体に信託することは当たり前のことになったとしている[23]

脚注

  1. ^ 鴨沢浅葱 (2008年10月20日). “「初音ミク」の20~30代ネットユーザー認知度は6割超、アイシェア調査”. 日経トレンディネット (日経BP). http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/news/20081020/1020158/ 2009年2月10日閲覧。 
  2. ^ 『初音ミクMIXING BOX』講談社、2008年、初音ミク スペシャルファンブック3頁頁。ISBN 978-4-06-358260-4 
  3. ^ 「MOSAIC.WAV×鶴田加茂×初音ミク」『DTM magazine』(通号 190) 2009.11、寺島情報企画、15頁。 
  4. ^ “「初音ミクに出逢う人生だった」〜奇跡の3カ月(3)メガヒット「みくみくにしてあげる♪」誕生とその後の物語”. 論座. (2021年6月19日). https://webronza.asahi.com/culture/articles/2021061300001.html?page=2 2021年6月27日閲覧。 
  5. ^ 岡田有花 (2007年9月28日). “DTMブーム再来!? 「初音ミク」が掘り起こす“名なしの才能””. ITmedia News (ITmedia). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/28/news066.html 2009年2月14日閲覧。 
  6. ^ 「特集 VOCALOID」『DTM magazine』(通号 173) 2008.8、寺島情報企画、27頁。 
  7. ^ 吉川日出行 (2007年10月19日). “短期連載:企業にとってのニコニコ動画 第1回:「初音ミク」に注目すべき理由を考えてみた”. ITpro (日経BP). https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20071018/284847/ 2009年2月14日閲覧。 
  8. ^ 岡田有花 (2008年3月18日). “初音ミク作品の“出口”は 「表現」と「ビジネス」の狭間で”. ITmedia News (ITmedia). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/18/news074.html 2009年2月14日閲覧。 
  9. ^ “「みくみく」「恋スルVOC@LOID」 初音ミク曲が着うたに”. ITmedia News (ITmedia). (2007年11月26日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/26/news045.html 2009年2月11日閲覧。 
  10. ^ “「みっくみく」「恋スルVOC@LOID」がカラオケに”. ITmedia News (ITmedia). (2007年12月3日). http://www.itmedia.co.jp/news/articles0712/03/news087.html 2009年2月11日閲覧。 
  11. ^ EXIT TRANCE SPEED アニメトランス BEST/ウマウマできるトランスを作ってみた
  12. ^ '08年Post Perfume〜モデル編 初音みう」 All About、2008年12月29日。
  13. ^ ダンディが「ゲッツゲッツにしてあげる♪」でミクと競演”. 2019年5月5日閲覧。
  14. ^ MUSIC バンドリ! ガールズバンドパーティ!, 閲覧日:2018/08/18
  15. ^ Pastel*Palettes『みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』(難易度:EXPERT)プレイ動画, YouTube, 閲覧日:2018/08/18
  16. ^ “「みくみく」JASRAC登録で「手違い」 ドワンゴ・ミュージックが謝罪”. ITmedia News (ITmedia). (2007年12月19日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/19/news126.html 2009年5月29日閲覧。 
  17. ^ 永井美智子 (2007年12月20日). “「みくみく」楽曲のJASRAC信託は著作権支払い手続き円滑のため--ドワンゴが釈明”. CNET Japan (CNET). https://japan.cnet.com/article/20363695/ 2009年5月29日閲覧。 
  18. ^ “みくみくにしてあげる♪「着うた」配信でひと悶着、ドワンゴ子会社が謝罪”. Ascii.jp (アスキー・メディアワークス). (2007年12月20日). https://ascii.jp/elem/000/000/094/94608/ 2009年2月14日閲覧。 
  19. ^ “みくみく~着うた問題、ドワンゴ子会社とクリプトンそれぞれの見解”. Ascii.jp (アスキー・メディアワークス). (2007年12月21日). https://ascii.jp/elem/000/000/094/94963/ 2009年3月3日閲覧。 
  20. ^ 岡田有花 (2008年2月26日). “クリプトン・フューチャー・メディアに聞く(4) 最終回:JASRACモデルの限界を超えて――「初音ミク」という“創作の実験””. ITmedia News (ITmedia). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/26/news029.html 2009年2月11日閲覧。 
  21. ^ 井上理「「仮想歌姫」が謳った課題 問われるネット時代の著作権処理」『日経ビジネス』(1424) [2008.1.14]、日経BP、12頁、ISSN 0029-0491。 
  22. ^ a b “座談会 UGCの可能性を考える(前編):「ニコ動作家はもうけちゃダメ?」「才能、無駄遣いしていいの?」”. ITmedia News (ITmedia). (2008年7月18日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0807/18/news048.html 2009年2月11日閲覧。 
  23. ^ a b c 川上量生; 加藤貞顕(インタビュー)「「アップル、アマゾンはクリエーターの天国にはなれない」 川上量生氏が語った、コンテンツビジネスの未来」『logmi』、2015年3月6日https://logmi.jp/business/articles/394072015年3月22日閲覧 
  24. ^ “ネットでの利用制限は論外――音楽出版3社に聞いた著作権管理の行方”. 日経トレンディネット (日経BP社). (2011年3月8日). http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110304/1034733/?tdi 2015年5月26日閲覧。 

関連項目

外部リンク