構成/FRaUweb
川上未映子さんの表現が大好き
ナタリー・ポートマンが自身のインスタグラムに川上未映子さんの『夏物語(英語タイトル:Breasts and Eggs)』を紹介し、「私は川上未映子さんの表現が大好き!」と伝えたのは2020年12月11日のことだった。
『レオン』でデビュー後、「スターウォーズ」シリーズや『ブラックスワン』などハリウッドを代表する俳優として活躍しながら、ハーバード大学を卒業し、若いころからエイズ撲滅のボランティアに参加し続けているという彼女。2020年のオスカーでは女性監督がひとりもノミネートされなかったことへの抗議をこめ、実力をもちながらもノミネートされなかった女性監督の名前を刺しゅうしたショールを羽織り、授賞式に参列したのも記憶に新しい。
そんな彼女のラブコールにより、川上未映子さんとふたりの対談が実現。2021年3月4日には彼女のインスタグラムで公開された。わずか1日で34万回再生を超えたこの対談は、60分話したごく一部だというが、「女性性」に気づかされるとても刺激的なものだ。
動画のイントロで、ナタリーがこのように川上未映子さんを紹介している。
「今日は『夏物語』の作者である川上未映子さんとお話することになり、とても嬉しいです。『夏物語』は本当に素晴らしい作品で、先月私のブッククラブでも読書会をし、みなと読みました。
未映子さん、今日はお話できて本当に嬉しいです。ようこそ、東京から」
川上さんの了承のもと、お二人の対談の要約をご紹介しよう。直接会ったこともない、異国の地で生まれたふたりが「物語」を通じて心を交わした言葉とは――。
身体が、まるで戦場のように
描かれていることに驚いた
先に紹介した通り、『夏物語』は第二部にわたり、夏子という女性を主人公として女性という性だからこそ起こりうることを浮き彫りにしていく物語だ。胸があり、生理があり、妊娠・出産することもありえる女性の身体。生まれた時から持っているこの身体のことが、『夏物語』では「異性を通したもの」ではなく描かれる。
ナタリー・ポートマン(以下、ナタリー) 身体がこんなにも異質になれるものとして、主体でもあるし風景でもある——まるで戦場のように描かれていることに、すごく驚いたのですが、どのようにして身体に対する様々な見方をするようになったのですか?
川上未映子(以下、未映子) 女性が女性の身体について書こうとするときには、どうしても異性とのセックスだったりとか、そういう恋愛の延長などの関係性のアプローチで書いていくというひとつの型があったと思うんです。でも私は女性の身体を書くときに、ひとりの人間のひとつの側面としての女性を書くことに、こだわってきたところがあります。だからどちらかと言うと、もちろん社会との兼ね合い、性というものは身体も社会も存在も社会とのかかわりのなかで規定されていくものでもあるのですが、ひとりの人間としての女性の身体を書くということに、興味と関心があったんです。
ナタリー 『夏物語』でも書かれていますが、日本で不妊治療はどのように捉えられていますか? 時代と共に変わってきましたか? またその変化は女性解放にどんな影響を与えたと思いますか?
未映子 この『夏物語』には子どもを作る、新しくこの世に誕生させることがいいのかそうでないのかという議論も出てくるのですが、印象的だったのは、ドイツのジャーナリストに、なぜ女性がひとりで、主体的に親になることがこんなに日本では難しいのか理解できないと言われたことです。すごく新鮮だったんです。
今もいろんなニュースをみていると、アメリカでは空前の精子バンクブームであると。みんな一人で、結婚をしたくないしパートナーもいないけれど母親になりたいという女性がたくさんいて、その実現が可能なんですよね。しかし日本では全然ですね。倫理的にもまったく問題にすらならないし、大きな違いを感じます。