マネーライター、ファイナンシャルプランナー／証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資１年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる！ キャッシュレス決済で絶対得する本 』。

松岡 賢治

<h3><span class="strongInContent">日本のキャッシュレス化が進まない「本当の理由」</span></h3>
<p>「割高」とされてきた国内のクレジットカードの手数料。それが、今、大きく変わろうとしている。数年前から、公取委がたびたび俎上に載せてきたことに加え、キャッシュレス業界のシェア争いの影響で、自ら手数料を引き下げる動きが出ている。こうした動きは、加盟店にはメリットをもたらす一方、ユーザーにとってはサービスの改悪につながり、ひいてはカード会社再編の可能性が出てくると、専門家は指摘する。</p>
<figure id="attachment_398647" aria-describedby="caption-attachment-398647" style="width: 5262px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a6da0054"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/11/9e09ff8a9e3e85929240c22a36a9dfe4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-398647" class="wp-caption-text">三井住友カードは、11月から、中小企業や個人事業主を対象に、VISAとマスターカードの加盟店手数料を引き下げた。そのワケは？</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">５％以上も！？　飲食店でカードが使えないのは「割高な手数料」のせい</span></h3>
<p>10月10日付の日本経済新聞（電子版）で、公正取引委員会がクレジットカードの手数料率について調査に入ると報道された。今回は、手数料がとりわけ割高な飲食業界をおもな対象とするという。</p>
<p>国内のクレカの手数料は、実際、割高といえる。経済産業省のキャッシュレス推進室が’22年３月に公表した報告書によると、手数料の平均は欧州１%台、米国では２%台が多いが、日本は３%を超えているという。しかも、日本は手数料５％以上（！）が加盟店の約１割に上っている模様で、その多くが小規模の飲食店だと推測されている。</p>
<p>飲食業界の利益率は低く、上場企業の平均値でも５％程度。クレカの手数料は大きな利益の圧迫要因になっており、大手外食チェーンを含めて、クレカ利用不可の飲食店はまだまだ多い。キャッシュレス決済を推進する政府としては、さらなる普及のために、手数料率を引き下げて、利用できる店舗を増やしたい意向がある。</p>
<h3><span class="strongInContent">手数料「引き下げ」へ…動くカード会社や決済代行業者も</span></h3>
<p>こうした政府の意向を汲み取るかのように、先んじて手数料を引き下げる動きも目立ってきた。<span class="strongInContent">三井住友カード</span>は、11月から、中小企業や個人事業主を対象に、VISAとマスターカードの加盟店手数料を1.98％に引き下げた（「初めてクレカ決済を導入する」「スマホのタッチ決済に限る」などの条件あり）。</p>
<p>さらに、店舗に端末を設置して決済システムを提供する決済代行業者の動きも顕著で、<span class="strongInContent">Square（スクエア）</span>は、11月からVISAとマスターカードを11月から3.25％→2.5%に、テレビCMでおなじみの<span class="strongInContent">Airペイ</span>は、12月から主要国際ブランドを3.24％→2.48％に、それぞれ引き下げる予定。いずれも中小事業者向けの手数料としている。</p>
<h3><span class="strongInContent">電子マネー⇒コード決済…日常生活で最も身近な「少額決済」市場を巡る競争</span></h3>
<p>カード会社や決済代行業者の手数料引き下げは、もちろん、政府の意向も影響しているだろうが、別の背景もある。「少額決済」市場を巡るシェア争いだ。少額決済とは、明確な定義はないが、数百円から千円前後までの〝少額〟に対応する支払いのこと。コンビニの弁当やカフェでのコーヒーなど、日常生活で最も頻繁に行われる支払いで、現在、この少額決済でより多くのユーザーに使われることを目指して、各陣営が鎬を削っている。</p>
<p>少額決済市場は、長らく<span class="strongInContent">『Suica』</span>をはじめとする<span class="strongInContent">電子マネー</span>勢が覇権を握っていたが、’22年に、QRコードやバーコードを使った<span class="strongInContent">「コード決済」</span>が、その地位に取って代わった。経済産業省が毎年発表しているキャッシュレス決済比率をみると、’23年は、電子マネーの決済額6.4兆円に対し、コード決済は10.9兆円とその差は拡大している（グラフ参照）。</p>
<figure id="attachment_398648" aria-describedby="caption-attachment-398648" style="width: 1299px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="17512896"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/11/73ed3f47c95aa6bee23470faf1c83b30.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-398648" class="wp-caption-text">電子マネーの決済額自体は減少していないが、コード決済の決済額が急増している（「我が国のキャッシュレス決済額及び比率の推移（2023年）」／経済産業省のニュースリリースより）</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">強力なライバル「タッチ決済」…コード決済は「三日天下」で終わる？</span></h3>
<p>だが、順調にシェアを拡大していたコード決済に、早くも昨年頃から強力なライバルが台頭する。クレカの<span class="strongInContent">「タッチ決済」</span>だ。タッチ決済の決済額はクレカに含まれるので、タッチ決済だけのシェアは不明だが、最近の各種調査では、クレカ利用者の約半数は日常的にタッチ決済を利用している模様で、すでに少額決済市場でのコード決済のシェアを上回っている可能性がある。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="やっと開示された手数料の中身とは"></div>
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<p>コード決済が少額決済市場のトップに立った原動力は、割安な手数料だ。最大手の<span class="strongInContent">PayPay</span>の加盟店の基本手数料は1.98％。一方、<span class="strongInContent">Suica</span>の手数料は３～４％とされ、クレカの手数料よりは割安ではあるが、PayPayと比較すると明らかに割高だった。そこへ、今度は、電子マネーと同等の使いやすさを有するクレカのタッチ決済が、PayPay並みの水準にまで手数料を引き下げて、シェアを奪いにきたというわけだ。</p>
<p>なお、少額決済市場の攻防は、公共交通機関にまで及んでいる。地方だけでなく、首都圏や関西圏の乗降客の多い私鉄や地下鉄でも、自動改札機がタッチ決済やコード決済に対応するところが増えており、Suicaの牙城を切り崩そうとしている（防戦一方のSuicaは、『JRE BANK』などの金融事業に活路を見出そうとしているがジリ貧が続いている……）。</p>
<figure id="attachment_398649" aria-describedby="caption-attachment-398649" style="width: 5472px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bc370c59"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/11/cee9cfcb371f0f97732a459a50f17b66.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-398649" class="wp-caption-text">コード決済は「三日天下」で終わる？</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">やっと開示された手数料の詳細…公取委が問題視する「イシュア手数料」とは？</span></h3>
<p>以上のことから、手数料引き下げの当面のゴールは、「２％前後」といえるだろう。現状の水準からは、わずか１％強の引き下げ幅だが、この影響は小さくはない。</p>
<p>冒頭で紹介した公取委の調査は、実は、数年前から何度も実施されている。その度に、VISAやマスターカードといった国際ブランドに対して、手数料の開示を促してきた。この手数料は「イシュア手数料」と呼ばれるもので、加盟店が契約しているカード会社（アクワイアラ）が、ユーザーが契約しているカード会社（イシュア）に支払う手数料である。</p>
<p>クレカが使われたとき、そのカードがブラックリストに該当していないか、利用限度額を超えていないか、といったことを確認するために、国際ブランドの認証システムを利用する。その際、アクワイアラはイシュアに手数料を支払うのである。</p>
<p>このイシュア手数料は、加盟店がカード会社に支払う手数料の大半を占める。公取委は、これが国内のクレカの手数料が割高となっている主因として問題視し、国際ブランドに開示を求めてきた。海外では公表しているにもかかわらず、長年、国内では公表してこなかったのだ。</p>
<p>その結果、VISA、マスターカード、中国銀聯は、それぞれの手数料率を’22年11月に開示した。ただし、それ以降、手数料の引き下げが進まなかったことから、今回の再調査の実施に至ったとみられる。</p>
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<h3><span class="strongInContent">サービス改悪、そして業界再編…クレカのユーザーには「デメリット」になる可能性大</span></h3>
<p>イシュア手数料の引き下げは、加盟店には大きなメリットをもたらすが、クレカのユーザーにはデメリットになる可能性が高い。イシュア手数料は、ポイント還元などの会員サービスや販促費用の原資そのものだからだ。</p>
<p>この部分が減ると、ポイント還元の原資も減ることになる。したがって、このところ多発しているクレカのサービス内容の改悪傾向は、まだまだ続くことになるだろう。各社、ユーザー離れに直結するポイント還元率の改悪は避けるとみられるが、それ以外はすべて改悪の対象になっても不思議ではない。</p>
<p>カード事業単体のビジネスモデルは限界に近づき、カード会社間の吸収・合併といった業界再編につながるかもしれない。手数料収入に依存しない、総合的な〝経済圏〟でのサービスを提供する共通ポイントの寡占化が、一段と進むだろう。</p>


松岡賢治

アフロ

「割高」とされてきた国内クレジットカードの手数料が、大きく変わろうとしている。数年前から、公取委がたびたび俎上に上げてきたことに加え、キャッシュレス業界のシェア争いで手数料を引き下げる動きが出ている。

さらなる「改悪」も…公取委の再調査で淘汰が始まる「クレカ業界」の生き残り作戦と勢力図

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