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商品・ブランドの訴求におけるストーリーの重要性が認識されて久しい。では実際に、その価値を価格に換算するとどうなるのか。そんな興味深い実験を報告する。本誌2014年7月号の特集「良い価格 悪い価格」関連記事、第3回。
「御社の“ストーリー”を分析するために、費用を投じてはどうですか」と企業のCEOに進言しても、おそらく部屋から放り出されるだろう。しかし、「御社の製品すべての価格を引き上げられる、説得力のある知見を提供します」という言い方ならば、CEOは自宅に招いて夕食をご馳走してくれるかもしれない。結局、人々の関心を引くのはカネなのだ。残念ながらほとんどの企業は、ストーリーの力が価格にどう影響を与えるかについてわかっていない。知っていたとしても、ほとんど活用していない。
価格戦略ではたいてい、次の4つのいずれかが用いられる。「ボトムアップ」は製品をつくるのにかかった全コストを計算し、そこに適正なマージンを乗せる。「サイドウェイ・イン」は競合製品の価格を分析し参考にする。「トップダウン」は人口動態や収入における特定の層をターゲットに定め、その価格帯に合わせて製品をつくる。「ダイナミック」はアルゴリズムの力を借りて、複雑なリアルタイムの計算を行い、需要と供給を推測する。
しかし、第5の戦略についてはほとんど知られていない。それは、私が「ストーリー分析」と呼んでいるものだ。人々は、自分の人生に豊かな意義を与えてくれるものを欲している。その深い欲求を製品のストーリーによって満たすのが、ストーリー分析だ。モノがあふれているこの世界では、製品が「どう顧客の役に立つのか」もたしかに問われるが、それよりもはるかに重要なのは、製品が「顧客にとってどんな意義を持つのか」である。それを表す部分、つまり製品のストーリーこそが、価格を決定づける最たる要素となるのだ。
納得がいかないだろうか? では、次の例について考えてもらいたい。
話は2006年の夏にさかのぼる。『ニューヨークタイムズ・マガジン』のコラムニストであるロブ・ウォーカーは、ある商品の価値が他の商品よりも高くなる要因は何だろうかと思案していた。異なるブランドの靴が2足あり、両方とも履き心地、耐久性や保護性といった基本機能は同じだとして、なぜ一方(たとえばジミー・チュウ)がもう一方より高額なのだろうか。なぜ、ある芸術作品が800万ドルで、別の作品は100ドルなのか。あるトースターは20ドルなのに、別のトースターは400ドル近い。両方ともトーストが焼けるのに、なぜ価格の違いが生じるのか。
ウォーカーはこの問題についてあれこれ考え、次のような結論を出した。価値を生み出すのはその商品自体ではなく、そのコンテクスト(背景)や由来である。つまり、価値はその商品自体に含まれているのではなく、その商品が持ち主にもたらすストーリーや意義の中にある――。