「アバター?そんな言葉は私の生活の中にはないぞ!」と読者諸賢がご立腹なさるのももっともである。「アバター」なる言葉は、この世ではなくあの世の生活に関係する言葉だからである。しかし、あの世といっても死後の世界ではなく、インターネットやゲームなどの「仮想世界」のことである。その仮想世界で、この現実世界の「私」の分身をつとめるキャラクターを「アバター」と呼ぶのである。細田守監督のアニメ『サマーウォーズ』で描かれていたのをご存じの方もおられるであろう。小説でも、たとえば『吾輩は猫である』の苦沙弥先生と猫も作者・漱石の「アバター」と言ってもよいであろう。 この「アバター」(avatar)はサンスクリット語のavatāraを語源とする。仏教漢語の「権化」「化身」に対応する語である。つまり、真の世界の存在が仮の人間界に現れる姿をアヴァターラと呼び、ヒンドゥー教では、この世に現れたゴータマ・ブッダもヴィシ